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16章 ゴールデン・ロード
第716話 デビュタント④出陣
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今日のわたしは気合が入っている。
なんてったって、わたしはRの店の新商品〝化粧品〟の広告塔なのだ。
ラインナップはファンデーション、パウダー、アイシャドー、アイライナー、チーク、リップ。マスカラはまだ売り出さない。改良に改良していった、やっとできた納得のいくもの。従来品より、肌へのダメージは軽減されるはずだし、色味も充実させた。ノビを重視し、皮脂や汗でテカリにくくした。一度でも使ってもらえば良さはわかると思う。
素晴らしい商品も宣伝しなくちゃ存在には気付いてもらえない。ってことで、今回のわたしは頑張ったのだ。
前日から始まった肌をきれいに見せるための試練に耐えた。ウエストを絞るのを見越して、ご飯も控えた。死にそうになる長風呂も、鼻が曲がりそうになる香油漬けも我慢した。頭の天辺から、足の爪の先まで磨き上げた!
みんなわたしの容姿のレベルを知っている。だけど、今日のわたしはめちゃくちゃキレイでかわいい! マジで。
だってセズに顔を描いてもらっているんだもの。
ウチの化粧品なら、それも可能なの!
系統としては母さまの血をひいているので、母さま系のかわいい美人に寄せてもらっている。母さまを少女にした感じを目指した。
元々目は大きいから、鼻筋を立ててもらい、睫毛をビシバシにして、口もすこーし大きく整えてもらったら、誰、この美少女になった!
ハリーさんは涙を流した。絶対売れますって!
家族からはキレイにしすぎだと、行っちゃダメだと謎の妨害が入ったけれど、なんとか許しをもらって、馬車へと乗り込む。
今日エスコートしてくれるのは兄さまだ。
兄さまはお祝いの言葉をいの一番にくれた。
デビュタントのエスコートが家族でもなく、婚約者でもないわけだけど。そこは察してほしいところだ。兄さまへの婚約の打診がすごいのも耳に入ってくるので、これが防波堤になればいいなと思う。
「とてもキレイに支度をしたね。でも私はいつものリディーの方が好きだな」
と、兄さまは満点の言葉をくれる。
「化粧品が売れるかどうかがかかっているから、セズが頑張ってくれたの」
化粧品が売れる→Rの店の名が今よりもっと認知される→誰の店?→経営者がわたしとわかる→シュタイン家の真ん中もやるじゃんか!と見直される。
もうわたしだけ、スペックがないとか、落ちこぼれとか言わせないんだから!
学園ではD組(試験の成績が悪かったことを意味する)だし、経歴的に婚約破棄されている。
あの反逆未遂事件の協力者として、わたしの評判はグッと上がった。ホーキンスさんの劇団で上演された劇の効果と相まってね。でもなぜかいい噂っていうのは流れるのが早い。そして悪い方っていうのは、心に残りやすいみたいだ。
半年ぐらいでわたしの周りは静かになった。シュタイン家と仲良くなりたい人は湧いて出てきたけれど、かかわるならわたし以外の人を望むから、未だにわたしの落ちこぼれ感が消えない。いいんだけどさっ。
でもRの店の新商品が成功すれば、わたしは落ちこぼれではなくなると思うのだ!
この時のわたしは本気でそう思っていた。家族やら周りが常にアンテナを張って、他者からのアプローチを、わたしが気づく前にシャットアウトしていることを知らなかった。
ノエルに転移で運んでもらったことにして、王都の家から出てきた。王宮に行くならとクジャクのおじいさまが馬車を用意してくださったので、4頭立ての白馬のすごい馬車で、中も広い。父さまと上の双子、そして兄さまとわたしが乗っている。
王宮での催しなのでみんな素敵な衣装。父さまはデビュタントの娘がいるので正装。サシェをしている。今年の流行りだとかいう耳飾りをつけていた。端正な顔の父さまにそれはとても似合っている。
兄さまは何を着てもかっこいいけど、今日は王子さまコンセプトみたいだ。これは母さま、エリン、セズのチョイスだ。わたしが初めて舞踏会に行くお姫さまのイメージなので、それに合わせたんだろう。
ティアラを模した髪飾りはシルバー。前半分の型だとしても、王女以外にティアラが許されるのはデビュタントの年だけだ。真っ白のドレスはノースリーブでウエストをギュッと絞り、スカートは夢見るようにまあるく膨らんでいる。ドレープにも裾にも繊細なレース。肩を開け腕にかかるよう施されたレースが一番存在感を出しているかな。背は低いし、色気なんてもんはどこにも芽生えてないけれど、ノースリーブ、けれど腕のところのレースで、はしたなくもなく、上品になっている。舞踏会に憧れるリトルプリンセス仕様だ。
兄さまも片耳にわたしのティアラと同じ模様のシルバーの飾りをつけている。それが揺れて、余計に目を奪われた。
アラ兄とロビ兄は、青と白を基調とした服で、その割合が正反対になったものを着ている。母さまの趣味だね。前髪を半分だけ後ろに流していて、大人の色気が出てきている。
「リー、緊張してない?」
わたしはアラ兄に答える。
「今のところ大丈夫」
王宮のデビュタントでは毎年2、3人緊張で倒れる子が出るそうだ。
でも絶対、緊張でというより、ウエストを絞めすぎて、ちょっとした呼吸困難で倒れているんじゃないかとわたしは思っている。
デビュタントは女の子のお祭りみたいなものだから、女の子の方がより気合が入る。兄さま、ロビ兄、アラ兄の時は、父さまがつきそい、その後、家族でお祝いしたぐらいだったもんなー。まあ今回わたしも広告塔にならなければそうでもなかっただろうし、親戚の方々が力を入れてくださるってのも大きいかもしれない。
親戚の方々は伝手を使ってパーティへの招待状を手に入れたと言っていた。皆さまと踊ることになるのかなー。
馬車で混雑することはわかっていたので、相当早く出たけれど、馬車を降りた時は日が暮れ始めていた。ちょうどいい時間かな。
「さて、お姫さま、行きましょうか?」
兄さまに手を出され、わたしはその手に手をおいた。
なんてったって、わたしはRの店の新商品〝化粧品〟の広告塔なのだ。
ラインナップはファンデーション、パウダー、アイシャドー、アイライナー、チーク、リップ。マスカラはまだ売り出さない。改良に改良していった、やっとできた納得のいくもの。従来品より、肌へのダメージは軽減されるはずだし、色味も充実させた。ノビを重視し、皮脂や汗でテカリにくくした。一度でも使ってもらえば良さはわかると思う。
素晴らしい商品も宣伝しなくちゃ存在には気付いてもらえない。ってことで、今回のわたしは頑張ったのだ。
前日から始まった肌をきれいに見せるための試練に耐えた。ウエストを絞るのを見越して、ご飯も控えた。死にそうになる長風呂も、鼻が曲がりそうになる香油漬けも我慢した。頭の天辺から、足の爪の先まで磨き上げた!
みんなわたしの容姿のレベルを知っている。だけど、今日のわたしはめちゃくちゃキレイでかわいい! マジで。
だってセズに顔を描いてもらっているんだもの。
ウチの化粧品なら、それも可能なの!
系統としては母さまの血をひいているので、母さま系のかわいい美人に寄せてもらっている。母さまを少女にした感じを目指した。
元々目は大きいから、鼻筋を立ててもらい、睫毛をビシバシにして、口もすこーし大きく整えてもらったら、誰、この美少女になった!
ハリーさんは涙を流した。絶対売れますって!
家族からはキレイにしすぎだと、行っちゃダメだと謎の妨害が入ったけれど、なんとか許しをもらって、馬車へと乗り込む。
今日エスコートしてくれるのは兄さまだ。
兄さまはお祝いの言葉をいの一番にくれた。
デビュタントのエスコートが家族でもなく、婚約者でもないわけだけど。そこは察してほしいところだ。兄さまへの婚約の打診がすごいのも耳に入ってくるので、これが防波堤になればいいなと思う。
「とてもキレイに支度をしたね。でも私はいつものリディーの方が好きだな」
と、兄さまは満点の言葉をくれる。
「化粧品が売れるかどうかがかかっているから、セズが頑張ってくれたの」
化粧品が売れる→Rの店の名が今よりもっと認知される→誰の店?→経営者がわたしとわかる→シュタイン家の真ん中もやるじゃんか!と見直される。
もうわたしだけ、スペックがないとか、落ちこぼれとか言わせないんだから!
学園ではD組(試験の成績が悪かったことを意味する)だし、経歴的に婚約破棄されている。
あの反逆未遂事件の協力者として、わたしの評判はグッと上がった。ホーキンスさんの劇団で上演された劇の効果と相まってね。でもなぜかいい噂っていうのは流れるのが早い。そして悪い方っていうのは、心に残りやすいみたいだ。
半年ぐらいでわたしの周りは静かになった。シュタイン家と仲良くなりたい人は湧いて出てきたけれど、かかわるならわたし以外の人を望むから、未だにわたしの落ちこぼれ感が消えない。いいんだけどさっ。
でもRの店の新商品が成功すれば、わたしは落ちこぼれではなくなると思うのだ!
この時のわたしは本気でそう思っていた。家族やら周りが常にアンテナを張って、他者からのアプローチを、わたしが気づく前にシャットアウトしていることを知らなかった。
ノエルに転移で運んでもらったことにして、王都の家から出てきた。王宮に行くならとクジャクのおじいさまが馬車を用意してくださったので、4頭立ての白馬のすごい馬車で、中も広い。父さまと上の双子、そして兄さまとわたしが乗っている。
王宮での催しなのでみんな素敵な衣装。父さまはデビュタントの娘がいるので正装。サシェをしている。今年の流行りだとかいう耳飾りをつけていた。端正な顔の父さまにそれはとても似合っている。
兄さまは何を着てもかっこいいけど、今日は王子さまコンセプトみたいだ。これは母さま、エリン、セズのチョイスだ。わたしが初めて舞踏会に行くお姫さまのイメージなので、それに合わせたんだろう。
ティアラを模した髪飾りはシルバー。前半分の型だとしても、王女以外にティアラが許されるのはデビュタントの年だけだ。真っ白のドレスはノースリーブでウエストをギュッと絞り、スカートは夢見るようにまあるく膨らんでいる。ドレープにも裾にも繊細なレース。肩を開け腕にかかるよう施されたレースが一番存在感を出しているかな。背は低いし、色気なんてもんはどこにも芽生えてないけれど、ノースリーブ、けれど腕のところのレースで、はしたなくもなく、上品になっている。舞踏会に憧れるリトルプリンセス仕様だ。
兄さまも片耳にわたしのティアラと同じ模様のシルバーの飾りをつけている。それが揺れて、余計に目を奪われた。
アラ兄とロビ兄は、青と白を基調とした服で、その割合が正反対になったものを着ている。母さまの趣味だね。前髪を半分だけ後ろに流していて、大人の色気が出てきている。
「リー、緊張してない?」
わたしはアラ兄に答える。
「今のところ大丈夫」
王宮のデビュタントでは毎年2、3人緊張で倒れる子が出るそうだ。
でも絶対、緊張でというより、ウエストを絞めすぎて、ちょっとした呼吸困難で倒れているんじゃないかとわたしは思っている。
デビュタントは女の子のお祭りみたいなものだから、女の子の方がより気合が入る。兄さま、ロビ兄、アラ兄の時は、父さまがつきそい、その後、家族でお祝いしたぐらいだったもんなー。まあ今回わたしも広告塔にならなければそうでもなかっただろうし、親戚の方々が力を入れてくださるってのも大きいかもしれない。
親戚の方々は伝手を使ってパーティへの招待状を手に入れたと言っていた。皆さまと踊ることになるのかなー。
馬車で混雑することはわかっていたので、相当早く出たけれど、馬車を降りた時は日が暮れ始めていた。ちょうどいい時間かな。
「さて、お姫さま、行きましょうか?」
兄さまに手を出され、わたしはその手に手をおいた。
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