プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第704話 はかられごと⑰Remember me

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「駄目ーーーーーーーーーーっ」

 叫んだけど、間に合わなかった。
 起き上がった人たちが一斉に王子を攻撃して、王子は一身に受けて、後ろへとそのまま倒れた。
 その呆気なさに、皆驚いている。四つん這いで王子に近づく。

「ちょっと、悪いことしたんだから、最後まで悪い人でいなさいよ。なんでわたしを助けたの? 悪い人らしく、罪を償いなさいよ」

「ちゃんと……計算してる……んだ。悪い奴だから……、最後に……爪痕……残した。息子を自分の手で……傷になる。
 毒にやられて3年……父上が顔を見にきたのは3回。アダムが一番……多かった。馬鹿真面目に……報告って言って……つまんないこと話してさ。
 父上は……死にそうとわかってから……ではなく、もっと早く……話して欲しかった……」

 それは、傷を残してでも覚えていて欲しい、と同義語だ。そう言っていいのに。
 やっと腑に落ちる。それが本当に、彼がやりたかったこと。
 身体のことを気にしないで、恐ろしいまでの魔力を使えるとなった時、なんでも叶えられる彼が選んだこと。
 破綻する反逆。全てでなくても乗っ取りの情報は漏れてやりにくくなるだろう。
 それでも強行して、やりたかったこと。……乗っ取ってから陛下に伝えるつもりだったのが、こうなったのかはわからないけど。自分の人生を取り戻したい……だけではなく、陛下に痛みをぶつけたかったんだ。
 反逆は起こる前に収拾された。計画を書き換えることになっても、彼の目指したことはひとつだ。
 陛下に痛みを残すこと。心の傷に触れるたびに、自分を思い出すように。
 光魔法でどれだけできるかわからないけど、と伸ばした手を強く捕まえられる。

「……そんなに……絆されやすいと、これからが……心配だ。グレナンの生き残りと……ガゴチには気をつけろ。将軍はカザエルと……」

 目が閉じていく。
 お願い! 彼をこのまま逝かせないで!
 温かい色の光が王子を覆う。

「……馬鹿だな、こんな手遅れに……魔力を使って。……お人好しすぎて、本当に君が……心配……」

 あ、指先から体が冷えていく。自分の体なのに、ピクリとも動かせない。ただ倒れるしかなく……。

 空が明るい。夜が明けるの?
 いや、火のような強烈な光……。

 薄暗い中、ぼんやりとみんなに覗き込まれているのが見えた。
 気を失いかけたけど、持ち直した?

『リディア大丈夫か?』

 もふさま!

『リディア』

 レオ!

『リー!』

 アリ。

『リー!』

 クイ。

『リディア目覚めたな』

 ノックスさま?

 どういう状況?
 身体を起こす。
 陛下が王子を抱きしめ、静かに泣いていた。
 間に合わなかった? わたしの喉が鳴った。

『リディア、魔力を全回復させたぞ』

 え?

「ありがとうございます、ノックスさま!」

 魔力が戻っている。だからわたしは気がついたんだ。
 胸の前で手を組んで祈る。
 光魔法! 傷ついたみんなの全回復を!
 小さな光の塊が目の前のみんなの中にも吸い込まれるように入っていく。
 王子の中にも入っていった。まだ息がある!
 アイラには入っていかなかった。
 やがてみんなが半身を起こす。
 一体何がという顔だ。

「ノックスさま、どうしてここに?」

『激しい魔力のぶつかり合いを感知した。聖力と神力もだ』

 それで様子を見にきたところ、見知った森の守護者が倒れている。よく見れば、わたしも倒れていた。魔力切れで生命を削りそうな勢いだったので、ノックスさまの特別な力で、わたしを助けてくれたようだ。それで魔力も満タンになったらしい。けれど、また使っちゃったんだけど。

 あ、ロサも目を覚ました。
 アダムも、兄さまも。……よかった。
 アイラの目が閉じられていた。誰かが閉じさせてくれたのだろう。きれいごとでしか、ないけど、冥福を祈った。わたしにできることはそれしかなかったから。

 空が少しずつ明るくなってきている。夜明けだ。

 ふと我に返る。
 わたし、光魔法使ったな。……そこに後悔はないけど。
 わたし今、トラサイズのもふさま、象サイズのノックスさま。馬サイズのドラゴン。ベアのアリとクイと戯れてるね。

 騎士たちはわたしから距離を取ってる。
 王子が運ばれていく。

 これ、みんなが気を失っていた間のことだけではなく、いろいろ聞かれる流れだね。なんか気を失いたくなってきた。っていうか、眠い。そりゃそうだ。徹夜しちゃったんだもの。

『リディア?』

『リディア、どうした?』

 魔力を使い切り、補充されてまた使った。
 限界がきていたのだと思う……。
 場所はどこでもいい。もう、眠りたい。
 そう思ったのを最後に、わたしは眠ったようだった。



 目が覚めると夕方だった。
 お城の一室で、小さくなったみんなと、アダム、ロサ、兄さまがわたしを見守っていた。みんな全回復して元気だった。心の痛手は、計りしれないけれど。
 わたしはまず、王子が生きているのかを尋ねた……。

 王子は生きていたけれど、意識はないそうだ。
 余命3ヶ月と言っていたのは、3年前の推測の話。
 毒の作用で魔力を際限なく使えるようになった。リミットが外れた状態で魔力を使えば、体はもって1、2週間と宣告をされたばかりだったそうだ。
 アイラからの傷はわたしの光魔法で治っていたが。
 その1、2週間というのも、魔力を使わず安静にしていてのこと。あんな大技をドンパチやって損傷が激しくなり、5日もつかどうかだと。
 取り調べをするためにまず生かすという名目で治療に当たったが、そのまま目覚めていない。

 意識はないが、これが最期になるかもしれないと、わたしは王子に会わせてもらった。
 目を閉じ、穏やかに寝ているところを見れば、感情は動かなかった。
 ただ、意識のあったときの最期を知る者として、覚えているからと手に手を重ねた。……王子のことも、アイラのことも……。きっと彼らには彼らだけの絆があり、いろんなことがあっただろう。それは知り得ないし、知ろうとも思わない。でも、最期に願った感情だけ、見えたことだけは、覚えておく。

 わたしと違うあなたを覚えておく、それがわたしの役割だと思うから。
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