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15章 あなたとわたし
第701話 はかられごと⑭唯一の人
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「なぜ?」
「え? 何がだい?」
「本当は、何がしたかったの?」
きょとんとした顔をする。
「……乗り移る器と、君が欲しかった」
「本当にアダムに乗り移るつもりなの?」
「そうじゃないって思いたいの?」
「うん、そうみたい」
「……アダムと同じで純粋だね。フランツをあきらめさせるために、君に手をかけさせようとしたんだよ、わかってる? 歪んでいる私に何を求めてるの?」
呆れ口調で王子は言った。
「歪んでいるってわたしも思うけど、本当に歪んでいる人は、自分で歪んでいるって言わないわ。
それに、なぜ、アダムの気を失わせて、彼は向こう側にいるの?」
「……後で回収しようと思ったよ。意識があると面倒だからね」
………………………………。
「国で一番の魔力持ちと言われる陛下よりも、高位の魔物よりも、聖獣よりも。そのみんなが束になっても叶わないぐらいの強い力を持っているのに、どうして逃げることだけに、その力を使うの?」
「どういう意味?」
王子が目を細めた。
「誰よりも強いなら、それこそなんでもできて、なんでも叶えられたでしょ? 反逆でも乗っ取りでも、それこそ完璧な計画も立てられただろうし、その絶大なる力で全てを思い通りにもできた。それなのにペトリス公たちの穴だらけの計画に乗るだけだったのはなぜ? だって、乗っ取り計画も潰れるということよ?」
ああ、それかという顔をする。
「みんなに乗っ取りを推奨したいわけじゃない。私が器を手に入れられればいいわけだからね。言ったろ、王位が欲しいわけじゃないって。器を手に入れ、静かにアダムになり代わって、幽閉でもなんでも静かに暮らしたよ。君と婚約も交わしていたしね。あとは情勢を見て、危険がないよう生きていけばいい。国を持つなんて面倒ごとはしないさ」
王子はクスッと笑った。
「君は面白いね。それらを知ろうとしてどうするの? 私を許したくて、事情を飲み込もうとしているの?」
「あなたはわたしの家族、わたしの大切な人たちに牙を向いた。いくら同情すべきところがあっても、わたしは決してあなたを許さない」
「じゃあ、どうして、根掘り葉掘り、知ろうとするんだい?」
「意味が通ってないと、落ち着かないの」
驚いた顔はアダムと似ていないと思った。
「残念だ。私に興味を持ったのかと思ったのに」
王子の目が揺れた。わたしの前で迷いを見せるように。
「……私は自分が不利になる情報を君に渡した。こんなこと初めてだ。君とは対等に暮らしていきたいから。いや、対等じゃないか。世界で唯一、君は私に傷を負わせることができる人だ」
聖水はほとんど残ってない。あんな大盤振る舞いするんじゃなかった。
「……なるべく君の願いは叶える。ねぇ、私と一緒に暮らしてくれない? 私を許さなくていいから」
は?
一瞬にしていろいろな考えが巡った。いや、それは嘘かもしれない。
わたしはみんなの命を盾に取って一緒に来いと言われた、さっきよりは譲歩されている提案を訝しんだだけで、いろいろ考えたのは後からだったかもしれない。
聖水の威力がわかっても、続けて攻撃しなかったことで、もう手持ちがないってことはバレているだろう。でも聖水を手に入れれば、わたしは王子を倒せる人になる。
それもわかっているのに、わたしといたがるのはどうして?
小さい頃の刷り込みで、わたしに執着してるだけ?
ああ、そうか。もし本当に唯一倒せるのがわたしだとして、そのわたしを近くにおいて何もできないようにすれば、脅威はなくなる。そういうことかもしれない。
今までの罪を問い詰めるのは、わたしがすることじゃない。
わたしにできるかもしれないことは、これから起こる悲劇を止めること……。
今、命が繋ぎ止められているここにいるみんなを、生かすこと。
お腹に力を入れる。
「……わたしは人の身体に乗り移るということは、どんな理由があるにせよ、いいとは思えない。そんな考えの人と一緒にいたくない」
王子を真っ直ぐに見る。
「そうしないと、私は死ぬのに?」
わたしの喉が鳴る。
「あなたが生きられても、乗り移られる人は死んじゃうわ」
「相手がいいといえばいい?」
「それも違うと思う」
「それじゃあ、乗り移らないと言ったら……後3ヶ月、一緒にいてくれる?」
恐々と王子は言う。
わたしはまた唾を飲み込んだ。
わたしがその間一緒にいれば、アダムに乗り移らないということ?
「……寝首をかかれたいの?」
「いいよ。君になら、やられてあげる」
「嘘だと思ってる? あなたがウチを巻き込んだせいで、辛い思いをした人がいる! わたしは大切な人を守るためなら、酷いことだってする。わたしはあなたを許せない!」
「それはそうだろうけど、私は問題をでっちあげたりしていないよ? すべてはあの時じゃなかったとしても、いずれ起こったことだ」
グッと言葉に詰まる。確かにそうなのだ。
何かあると、その時に問題が巻き起こり、その暴露されることになった発端さえなければ何事もなかったはずと思いがちだ。そういうこともあるだろうけど、ほとんどのことは、その時に何かが起こったのではなくて、ずっと起こっていたことが、その時に露呈しただけにすぎない。ただ露出していなくて、それに気づかれてなかっただけなのだ。
「でも君に酷いことをしたのは確かだ。私を許せなくていい。寝首をかいていい。だから、一緒にいて欲しい。私の命が尽きるまでの3ヶ月の間だけ」
「……わたしに何をさせたいの?」
「一緒にいてくれるだけでいい。こうやって話して」
「そうする謂れも、義理もないわ」
「……その通りだ」
……わかってんじゃない。
「え? 何がだい?」
「本当は、何がしたかったの?」
きょとんとした顔をする。
「……乗り移る器と、君が欲しかった」
「本当にアダムに乗り移るつもりなの?」
「そうじゃないって思いたいの?」
「うん、そうみたい」
「……アダムと同じで純粋だね。フランツをあきらめさせるために、君に手をかけさせようとしたんだよ、わかってる? 歪んでいる私に何を求めてるの?」
呆れ口調で王子は言った。
「歪んでいるってわたしも思うけど、本当に歪んでいる人は、自分で歪んでいるって言わないわ。
それに、なぜ、アダムの気を失わせて、彼は向こう側にいるの?」
「……後で回収しようと思ったよ。意識があると面倒だからね」
………………………………。
「国で一番の魔力持ちと言われる陛下よりも、高位の魔物よりも、聖獣よりも。そのみんなが束になっても叶わないぐらいの強い力を持っているのに、どうして逃げることだけに、その力を使うの?」
「どういう意味?」
王子が目を細めた。
「誰よりも強いなら、それこそなんでもできて、なんでも叶えられたでしょ? 反逆でも乗っ取りでも、それこそ完璧な計画も立てられただろうし、その絶大なる力で全てを思い通りにもできた。それなのにペトリス公たちの穴だらけの計画に乗るだけだったのはなぜ? だって、乗っ取り計画も潰れるということよ?」
ああ、それかという顔をする。
「みんなに乗っ取りを推奨したいわけじゃない。私が器を手に入れられればいいわけだからね。言ったろ、王位が欲しいわけじゃないって。器を手に入れ、静かにアダムになり代わって、幽閉でもなんでも静かに暮らしたよ。君と婚約も交わしていたしね。あとは情勢を見て、危険がないよう生きていけばいい。国を持つなんて面倒ごとはしないさ」
王子はクスッと笑った。
「君は面白いね。それらを知ろうとしてどうするの? 私を許したくて、事情を飲み込もうとしているの?」
「あなたはわたしの家族、わたしの大切な人たちに牙を向いた。いくら同情すべきところがあっても、わたしは決してあなたを許さない」
「じゃあ、どうして、根掘り葉掘り、知ろうとするんだい?」
「意味が通ってないと、落ち着かないの」
驚いた顔はアダムと似ていないと思った。
「残念だ。私に興味を持ったのかと思ったのに」
王子の目が揺れた。わたしの前で迷いを見せるように。
「……私は自分が不利になる情報を君に渡した。こんなこと初めてだ。君とは対等に暮らしていきたいから。いや、対等じゃないか。世界で唯一、君は私に傷を負わせることができる人だ」
聖水はほとんど残ってない。あんな大盤振る舞いするんじゃなかった。
「……なるべく君の願いは叶える。ねぇ、私と一緒に暮らしてくれない? 私を許さなくていいから」
は?
一瞬にしていろいろな考えが巡った。いや、それは嘘かもしれない。
わたしはみんなの命を盾に取って一緒に来いと言われた、さっきよりは譲歩されている提案を訝しんだだけで、いろいろ考えたのは後からだったかもしれない。
聖水の威力がわかっても、続けて攻撃しなかったことで、もう手持ちがないってことはバレているだろう。でも聖水を手に入れれば、わたしは王子を倒せる人になる。
それもわかっているのに、わたしといたがるのはどうして?
小さい頃の刷り込みで、わたしに執着してるだけ?
ああ、そうか。もし本当に唯一倒せるのがわたしだとして、そのわたしを近くにおいて何もできないようにすれば、脅威はなくなる。そういうことかもしれない。
今までの罪を問い詰めるのは、わたしがすることじゃない。
わたしにできるかもしれないことは、これから起こる悲劇を止めること……。
今、命が繋ぎ止められているここにいるみんなを、生かすこと。
お腹に力を入れる。
「……わたしは人の身体に乗り移るということは、どんな理由があるにせよ、いいとは思えない。そんな考えの人と一緒にいたくない」
王子を真っ直ぐに見る。
「そうしないと、私は死ぬのに?」
わたしの喉が鳴る。
「あなたが生きられても、乗り移られる人は死んじゃうわ」
「相手がいいといえばいい?」
「それも違うと思う」
「それじゃあ、乗り移らないと言ったら……後3ヶ月、一緒にいてくれる?」
恐々と王子は言う。
わたしはまた唾を飲み込んだ。
わたしがその間一緒にいれば、アダムに乗り移らないということ?
「……寝首をかかれたいの?」
「いいよ。君になら、やられてあげる」
「嘘だと思ってる? あなたがウチを巻き込んだせいで、辛い思いをした人がいる! わたしは大切な人を守るためなら、酷いことだってする。わたしはあなたを許せない!」
「それはそうだろうけど、私は問題をでっちあげたりしていないよ? すべてはあの時じゃなかったとしても、いずれ起こったことだ」
グッと言葉に詰まる。確かにそうなのだ。
何かあると、その時に問題が巻き起こり、その暴露されることになった発端さえなければ何事もなかったはずと思いがちだ。そういうこともあるだろうけど、ほとんどのことは、その時に何かが起こったのではなくて、ずっと起こっていたことが、その時に露呈しただけにすぎない。ただ露出していなくて、それに気づかれてなかっただけなのだ。
「でも君に酷いことをしたのは確かだ。私を許せなくていい。寝首をかいていい。だから、一緒にいて欲しい。私の命が尽きるまでの3ヶ月の間だけ」
「……わたしに何をさせたいの?」
「一緒にいてくれるだけでいい。こうやって話して」
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「……その通りだ」
……わかってんじゃない。
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