プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
700 / 799
15章 あなたとわたし

第700話 はかられごと⑬聖力と神力

しおりを挟む
 アイラも座り込んでいた。魔力の圧に押されているのが見て取れる。
 わたしの視線に気づくと、彼女は姿勢を正す。少しもこたえていないように。その心意気はあっぱれだ。

 陛下と王子のバトルだ。光が飛んでいって炸裂する。
 それが何度か繰り返され、陛下が膝をついた。

「あっけないな。自分の攻撃をって言いたかったの?」

 陛下に強烈な嫌味だ。
 神官長が陛下に祝福を始めた。……でも起き上がれないようだった。

 騎士たちが続いて攻撃したけど、すぐに膝をついた。

「あーあ、本当に弱いなー。興醒めだ。私は攻撃を防いでいるだけなのに、これで殺してしまったら、私が諸悪の根元と言われるんだよなー」

 ふうと息をついている。

「私は強すぎるみたいだ。束になってかかられても、天と地ほどの差がある」

 ポツンと呟く。その声音に喜びはなかった。

「面倒だ。……ただ悪者になるのも面白くないから、しばらく気を失ってもらうよ」

 どこか気落ちしているように見える。

 え?
 王子が振り返ってこちらに歩いてきた。そして、ええ? わたしを守っていたもふさまをみんなの方へと放《ほお》った。

「もふさま!」

 いとも簡単にトラサイズのもふさまを投げた!
 もふさまが抵抗できないくらいの早技だったことが窺える。

 わたしとアイラを背にし、その他の人たちに向かって片手をあげる。
 何を? と瞬きをして目を開ければ、風景が違っていた。
 花壇跡が丸ごとなくなっていて、みんな地に伏していた。
 ……嘘……。

「いやっ、もふさま! みんな!」

「気を失っているだけだ。鍛えている奴らだから、半日もすれば元のように動き回れる」

 !

 半分ほっとする。諸悪の根源と言われるのは嫌で、それは本心みたいだ。
 言っていることと行動が、今のところ一致しているので、少しだけ安堵する。
 でも、みんな気を失っている。……わたししか残っていない。
 このメンバーで一番弱くて、そして魔力の尽きた、わたししか。

 わたしの腕を持って立たせようとした。わたしは振り払った。

「触らないで!」

 王子は拒んだわたしから、手を引っ込めた。

「魔力が残り少なくて、フラフラしてるだろ? そんな状態で私に逆らうの? 私が君に危害は加えないと思ってる? 必要とあらば、私は傷つけられるよ。生きてさえいればいいんだから」

 それはそうなんだと思う。助けも期待できない。
 わたしは魔力もなくて、動くのもままならない状態だ。
 でも、ただ言うなりになんてならない。
 せめて、一矢報いたい。
 覚悟を決めて口を開く。

「魔力がなくても戦えるわ」

 わたしの声は少しだけ震えていた。
 王子はちょっと楽しそうな顔をした。

「魔力もなく、フラフラで、座り込んでいるのに。どうやって?」

「こうやって!」

 わたしは収納ポケットから雪の塊を王子の上に落とした。
 雪山で王子が見えなくなる。
 四つん這いのまま、みんなの方へ行こうとする。
 音がした。振り返れば、雪山がパカンと割れた。
 王子だ。ダメージを受けてない。
 王子はおかしそうに笑った。

「収納袋か……、君、本当に面白いね。母上の人選に感謝したくなった」

 一歩近寄ってくるから、わたしは次に海水を王子の上から落とした。
 一瞬ずぶ濡れになったけど、すぐに自分を乾かす。

「そうだね、嫌がらせにはなっているよ。水じゃなくて海水か? ベタベタする」

 わたしにまた一歩近づいてくる。
 今度は聖水をお見舞いだ!

「今度は水、かな?」

 王子はまた自分を乾かした。
 と、急にガクッとして膝をついた。

「な、何をした?」

 鋭く叫ぶ。
 え、何をしたって? 聖水を上から落としただけだけど。
 答えられずにいるわたしを注視している。

「……聖水……? 聖獣……聖なる方属性か……やってくれたな、リディア」

 ええ? 何が??
 聖水が効いてるの? 
 そういえば、聖水に魔力はのりやすく、魔物は力ある者に聖水を投げつけられたら火傷を負うかもといっていたけど、王子は魔物じゃないし。

「その顔はわかってないのか……」

 王子はため息を落として、地面にあぐらをかいた。
 なんかかなりダメージを受けているのは見て取れた。
 それが座り込むほどのダメージだと。
 この場面でそんなことになっても、あっさりと座り込んで……。
 といっても、今こんな状態でも意識があるのはわたしだけ。
 だからなんだろうけど。
 
「私を唯一倒せるのが君なんて、皮肉だね」

 え? 倒せる? わたしが?
 聖水がそんなダメージを?
 でも聖水がオハコといえば神殿だ。わたしなんかの出る幕なんかないだろう。
 神官長も気を失っているから?
 唯一倒せる相手と言っておいて、それなのに、無防備にわたしの前で座り込むのはどういうわけ?

 意味がわからなかったが、王子がそんな状態だからだろうか? 拍子抜けといったら違うのかもしれないけど、わたしはここにきて落ち着いてしまった。
 国の力ある人たちが、聖獣が、ドラゴンが、高位の魔物が。束になっても叶わなかった人。
 残酷なことを平気で思いつく人。
 ウチに酷いことをしてきた人。
 そう昂っていた気持ちが、フラットになっていくのを感じる。怖くてたまらなかったはずなのが冷静になれた。

「聖獣にそれだけ懐かれているんだ、お互いに心地いい聖なる属性なんだろう。王族は神属性。君は魔力がそうなくても、私の動きを止めたいと思っていた。収納袋の中のあった聖水ではあるが、その願いを叶えたんだろう」

 あ、本当は収納ポケット、わたしの空間内だから、わたしの気持ちが入りやすいのかも。だって、ほとんどない魔力は減ってないもの。
 聖水は飲むための分しか、もう残ってない。

 そういえばと思い出す。もふさまが先代の森の護り手が神獣と戦うときに聖酒で攻撃したって聞いたんだよな。それで聖水も神属性に打撃を与えることも聞いて、聖水入りのお風呂に神獣ノックスさまが入っちゃって焦ったっけ。

 あれ、神殿こそ聖水を使う。あそここそ神ってつくんだから神属性なんじゃ?
 それに王族と神殿は結びつきが強い。それに神官長も王子には敵わないって言ってたし……。

「なに? 何か聞きたいの?」

「神殿は神属性じゃないの? 聖水を使うでしょ?」

 王子はニヤリとした。

「神属性だよ。いいとこに気づくね。あいつらは聖水を使って牽制してるんだ」

「牽制?」

「そう。神属性の自分たちが聖なる属性にやられないための鍛錬でもあるのかな? 聖水を扱えるようになって初めて一人前とみなされる」

「博識なのね」

「時間だけはいっぱいあったからね」

 王子は一瞬、沈黙する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる

未知香
恋愛
 フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。  ……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。  婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。  ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。  ……ああ、はめられた。  断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...