プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第695話 はかられごと⑧第5庭園

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「少し離れていたぐらいで、僕の顔もわからなくなったの? それになんで外に出てる? 君は危険が好きだね」

 呆れ顔で冷たく言われる。本人だ!

「アダムそっくりな影が現れた。アイラと繋がっていて、兄さまが邪魔だから消すって。もふさまが今、先に行ってる」

「僕にそっくり?」

 アダムは息を呑んだ。

「ブレドはリディア嬢を頼む!」

 そして、お城を目指し、馬を全速力で走らせる。
 ロサはすぐに行動した。
 わたしを馬に乗せ、その後ろに自分が乗りこむ。

「走るよ」

 と後ろから声が聞こえるから頷く。
 速すぎ!
 すっごく怖かったが、そんなことを言ってる場合じゃない。
 景色が後ろに飛ぶ。景色というか、所々にある灯りが効果線のように走っていく。
 ロサはいろいろわたしに尋ねたいだろうに、馬を走らせることに集中している。

 アダムの馬が城門をそのまま通過した。ロサもその後を追いかける。
 わたしはお城に入るからぬいぐるみになってと、抱え込んでいるリュックの中のみんなにお願いした。
 地下基地のある西側の通路に入っていく。
 離れの前に馬をつけ、飛び降りている。

『主人さまは向こうだ』

 レオの声がした。リュックから飛び出した頭は、いつもよりさらに小さい。

「ロサ、アダム、もふさまはあっちだって」

 ロサが馬からおろしてくれる。

「あっちは……第5庭園か」

 アダムが方向転換をして走り出した。
 ロサに手を引っ張られて、後ろをついていく。
 ロサが失礼と言って、わたしを抱えて走り出した。

 庭園といっても何もないような場所だ。すべての明かりが灯されているわけではないから薄暗い。光った!
 あっちで魔法が使われている?

 誰かの背中と大きくなったもふさま、そしてもふさまに守られるようにして蹲った兄さま。

「もふさま! 兄さま!」

 思わず声をあげると、アダムそっくりの影が振り返る。
 アダムや私たちに気づいた。

「リディアは言いつけを守れないだね。お仕置きしなくちゃ。やぁ、、久しぶり」

「殿下……」

「義兄上……」

 ロサはそっくりなふたりを見比べている。
 ……殿下って言った。アダムが殿下って言った。
 全身に鳥肌が立った。

『リディア、息をしろ』

「リディア嬢!」

 ロサに抱えられ、頬を叩かれていた。

「リディア、リディア嬢、大丈夫か?」

 リュックからみんなも飛び出し、わたしの名を呼んでいた。

「目を覚まされていたんですね」

 アダムが殿に声をかけていた。

「会ってあげなかったから拗ねてるの?」

 殿下はクスッとアダムに笑いかける。

「お目覚めになり、よかったです」

 わたしは大丈夫だとロサの手を掴んだ。
 そっと起き上がらせてくれる。
 みんないつもよりさらに小さくなっている。これくらいまで小さくなれば魔力が感知されないのかもしれない。

『リディアよ、逃げろ。この者は強い。我でも敵わないかもしれない』

 !!!!!!!!
 もふさまが、苦しそうだ。

「殿下はペトリス公の起こした一連の出来事に、関与されていたのですか?」

 尋ねるアダムの声音が暗い。

「そうだよ。必要なことだったんだ」

 何も悪びれることなく、本物の第1王子、ゴット・アンドレ・エルター・ハン・ユオブリアは言った。

「どんなに必要でも、犯罪に加担したのなら、殿下は犯罪者です。罪を償わねばなりません」

「私を毒殺しようとした者は罰を受けていないのに? 私だけ、毒を受けた代償を払い、そして罪も償えと? あ、君も私を守りきれなかった罰を受けてないね?」

 殿下は笑った。

「義兄上ですか? お初にお目にかかります。義弟のブレドです」

  ロサ、わかったんだ。目の前に現れた新たな人が、自分の本当の義理の兄だと。

「アダムから報告は受けていたから初めて会う気はしないけど、確かに初めましてだね。よくわかったね、初めてだと」

 〝影〟としか言ってないけど、それだけで理解したんだ。

「勘でしたが。コーデリア嬢にも義兄上は会っていなかったのですね?」

「うーーん、コーデリアはブレドのことしか見えてなかったからな。あ、いや、その前はクラウスのことだけだったっけ」

 わたしの喉が鳴る。

「リディア、動くな」

 殿下が鋭い声を出した。

「お遣いさまと話せるんだったね。お遣いさまも、フランツもまだ決定的な損傷はないよ。動くと攻撃しちゃうから、動かないでくれ」

『リディア、大きくなるか?』

 わたしはレオに小さく首を横に振る。
 今の発言はもふさまがということだ。
 人が聖獣を傷つけるなんて可能なの?
 でももし、それを殿下ができたのだとしたら、この中で殿下に勝てる人はいない……。

「……毒を受けた代償、とは?」

 アダムが尋ねる。

「今、こうして動いているけれど、毒での損傷が激しくてね。目が覚めた時、3年はなんとかもたすって言われた。だから残りは後3ヶ月ぐらい、かな? それに1日に動ける時間も7時間ほどなんだ。制約が多くて嫌になるよ。もともと器に対して魔力が多すぎて、動き回れなかったというのにさ。毒で器がバカになったから、魔を最大限に使えるし、聖獣と戦えるっていう利点はあるんだけどね」

 アダムとロサが揃ってわたしを見た。
 もふさまが聖獣とわかるって、本当に殿下は並大抵じゃない。
 あれ、殿下が影だと思っていたから、眠り続ける殿下になり代わりたいのだと思った。けれど、殿下ならなり代わる必要はない。
 ああ、そうか。毒に犯され、身体が持つのが後3ヶ月ほど。
 ……殿下は誰の身体を乗っ取るつもりなの?

「アダム、今までよくやってくれたね。君は私の腹心だ。君は魔力も影の中で一番多かったし、優秀だ。君の器を使ってあげる。だからそれまで大事にしてくれよ、身体を」

 なんかめまいがしてくる。
 影のことをなんだと思っているんだ。親子で人の命をなんだと思っているんだ。

「私を攻撃するのは、殿下の元婚約者、コーデリア嬢に思われていたからですか?」

 兄さま! 声に苦痛が含まれている。

「君を消す理由かい? コーデリアがそう思うのも無理はなかったしね。私も同じようなものだから気にしてないよ。過去は関係ない。
 問題は現在とこれからだ。君が生きていると、リディアが希望を持ってしまうみたいだから。君には何も思うところはないけれど、ただ邪魔なだけ」

 第1王子殿下は、残酷な発言をしながら、優しい笑みを兄さまに向けた。
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