プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第694話 はかられごと⑦幸せをあきらめない

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「ハッ!」

 アイラは怒りを含んだ声をあげた。

「馬鹿ね。同等、もしくはそれ以上の立場の者しか、取り引きってのは持ちかけられないのよ。あたくしからの取り引きならまだしも、あんたに何ができるって言うの?」

 表情が驚くほど歪んでいる。

「ほんっと、何か持ってそうに見せる才だけはあるんでしょうね。あの方も、みんなあんたに騙されてる!」

「そうね、あなたにだけ見えない才能が、わたしにはあるのよ」

 そうにっこり笑えば、アイラは激昂だ。
 棒をわたし目掛けて振り下ろしてきたから、その手をいなして、後ろ側に回る。
 わたしより体が大きいから、長い時間をかけてのバトルになったら負ける。

「兄さまが危険なの。わたしを助けるわけじゃないわ。あなた、兄さまのこと昔好きだったでしょう?」

 油を注いでみる。

「あんたの足で追いつける? それに止められやしないわ。でも覚えておくといいわ。あんたのせいでフランツさまは命を落とすのよ」

 振り返って仕掛けてきた、攻撃をかわす。

「フランツさまもお気の毒だわ。でもあんたみたいのに惚れたのが悪いのよ、自業自得だわ」

 わたしはアイラの右手首をつかみ、後ろに回って捻じ上げた。
 アイラの顔が苦痛に歪む。
 わたし、体力ないけど、魔法戦も成績〝5〟だから!
 棒を落とし、左右の手首をタオルで縛る。

「ちょっと、解きなさいよ!」

「って言われて解くと思う?」

 彼女を突き飛ばして床に転がす。その間に隣の部屋に行き。
 おお、紐があった。
 部屋に戻って、アイラを椅子に座らせ、紐で椅子と一緒にグルグル巻きつける。

「リディアのくせに! あんたが今から駆けつけたって、絶対に間に合わないわ」

「あなたとわたしの決定的な違いを証明してあげる。わたしは幸せをあきらめない」

 わたしはアイラに言い捨てて、家の外に出た。誰もいないみたいだ。
 アイラが信用されているのか……。

「もふさま?」

 わたしは小さな声で呼んだ。
 茂みがガザッと揺れて……もふさまだ。
 ちっちゃなみんなもいる。

「無事でよかった」

 わたしはみんなを抱きしめた。
 もふさまがあんな奴らにやられるとは思えなかった。それにみんなも起こしたあとだったし。
 様子を見るのに、眠らせられたふりをして、きっとついてきて近くにいてくれると思ってた。

『あの小童はどうしたんだ? 魔力が急に増えた。変だったぞ?』

 もふさまが直前に言った〝変〟は囲まれたことじゃなくて、偽アダムのことだったんだ。

「アダムじゃないの。影のひとりなんだと思う。乗っ取り案を考えたのはあの影で、自分たちの願いを通すのに、ペトリス……ぺしゃんこ公の企てに所々便乗していたみたい」

『あいつは乗っ取り派か?』

「多分そう」

 わたしはみんなにすがる。

「兄さまが危ないの。お願い助けて!」

『フランツが危ないとはどういうこと?』

「あの影が兄さまが邪魔者で、消すって」

 みんなが目を合わせる。

『私が!』

 レオを引き止める。

「兄さまは城の中。レオたちはダメ。もふさまが行ってくれる? レオたちはわたしをお城に運んで欲しい」

『リディアのことは任せたぞ』

 もふさまがそう告げて、虎サイズになり、空を駆け出した。
 レオも大きくなった。

「お城の近くまでお願い」

 そこからは、みんなはまたぬいぐるみになってもらわないとだ。
 レオに乗り込む。しっかり捕まる。ツルツルの皮膚はちょっと怖い。
 でも落ちたこともないから、もふさま同様、魔法で落ちないようにしてくれているはず。

『でもどうして、フランツが邪魔なの?』

 クイから言われる。
 あーーーー、それね。

「影が変なの。わたしを生まれた時から愛してたとか言って。兄さまが邪魔だって」

『リーのつがいなのか?』

『兄さまが番いじゃないの?』

「番いって結婚する相手という意味じゃない?」

 ニュアンス的にちょっと違和感があり、ふたりに尋ねる。

『番いは魂の引き合う相手だよ。生涯寄り添う』

 そういう意味か。

「人族は番いっていう括りはないかな。……でもそうね、あの影は運命的なそういう意味で、わたしを必要としてそうだった」

 自分で言って鳥肌が立つ。
 あの時はアドレナリンが出てて、何を言われているか深く考えられなかったけど、思い起こすとずいぶん怖いこと言ってなかった?

 空に上がれば、お城はすぐそこだった。他の地区と違って、明かりが夜遅くてもいっぱいついているからわかりやすい。4区の王都から一番外れぐらいにいたっぽいね。4区外れからお城までは馬で2時間ぐらい。魔法戦試験の時のあのアダムのスキル。高速で動くあれを影が持っていなければ、もふさまは間に合う。
 辻馬車を囲んだ青い点。あの人たちも影についていったのかな、アイラの方にはついていなかったものね。呪術師ではなく、私兵、かな?
 アダムが地下基地に帰ってきてればいいけど、そうじゃなかったら……。

 地下基地に迷いなく入っていく影。結界のあるところで兄さまに声をかける。そして外に連れ出す、そんな映像が思い浮かぶ。

『リーから魔力が臭わない』

 魔力って匂いなの?

「あ、魔力封じをされてるの」

『壊す魔具を作っただろう?』

「それがアガサ王女に渡してから、多分陛下に渡っていて、返してもらってなかったのと、どんな封じられ方をしたのかわからないんだけど、収納袋もポケットも呼び出せないの」

 アリとクイから明るい表情が消える。

『カゲとかいうやつは、凄い魔の使い手だな』

『うん、空間に干渉できるのは、並の魔力じゃない。リー気をつけるんだ』

 急降下。

『人がいっぱいいる。飛べるのはここまでだ』

 レオが裏路地でおろしてくれた。
 1区だ。お城までちょっと距離がある。それにお城の門から地下基地までの道のりも遠い。

 走るしかない。みんなを入れたリュックを肩にかけて走り出す。
 こんな夜更けに馬の足音がした。わたしは端に寄りつつ、走り続ける。
 馬がスピードを上げ、少し前まで行ったところで止まり、人が降りた。

「リディア嬢?」

 ロサ?

 わたしを認めて目が大きくなる。

「こんなところで何やってるんだ?」

 わたしは荒い息を整える。

「ロサ、ち、地下基地、に、急いで。兄さま危ない」

「フランツが危ないって?」

 後ろから来た、もう一頭の馬がいなないた。
 アダムだ。

「本物?」

 わたしは尋ねる。彼は目を細めた。
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