プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第692話 はかられごと⑤嘘でしょ?

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「ここ、どこだろうね?」

 暗いのも手伝って、街並みを見ても、どこに連れてこられたのかわからない。
 探索マップを出してみたけど、やっぱり今歩いてきたところが表示されるだけだし、それも長く記録されていない。王都のどこかだとは思うけど、これでは特定できない。

「どこだろうねぇ?」

 アダムはクスッと笑う。
 捕らえられたというアダムらしくない失態をしたからか、様子がちょっと変。
 何がおかしいのか??
 でもそれほどテンパっているのかも。

「……大丈夫だよ、なかなかアダムが来なかったら、トルマリンさんが不思議に思って王宮に問い合わせるだろうし、裏門の騎士たちがわたしたちを覚えているだろうから、すぐに見つけてもらえる」

 そう言うと、アダムは穏やかに微笑んだ。

「それより、戻らなくて、兄さまが心配しているだろうな」

「……フランツが?」

 ん? 幾分、過剰反応のような気がしたが、わたしは頷く。

「……ああ、そういうことか。秘事は睫……」

 アダムの顔から表情が消えていく。

「あ」

 唐突に思い出して、声をあげれば、アダムが驚く。

「え?」

「クラッシャーくん、呼び出すね」

「……クラッシャーくん?」

「あれ、話してなかったっけ? 今日も魔封じの腕輪の魔具壊したでしょ」

 そこまで言って、わたしは大変なことを思い出した。
 アガサ王女から恐らく陛下に渡っただろうクラッシャーくん、返してもらってなかった!

「ああ、収納袋か……」

 アダムがひとりごちる。

「あああああー、陛下から返してもらってないや」

 魔力封じられているの、すっごく困るんだけど。

「持ってても収納袋も呼び出せないし、この魔遮断は生半可なことじゃ壊せないから、落ち込まないで」

 アダムから変なフォローが入る。
 え? 収納袋を引き寄せられない?
 え、本当だ。魔力が封じられようが、収納袋は所有権によって引き寄せることができるだけだから、関係ないはずなのに。
 収納ポケットもダメだ。

「な、なんで?」

「さぁ。所有権のある袋を呼び寄せられない、そういう遮断する方法もあるみたいだね。高度な魔具だ」

 アダムは大したことじゃないように、サラリと言った。
 収納袋や収納ポケットが呼び出せないって、めちゃくちゃ不安だ。
 魔力も封じられ、収納袋からアイテムも取り出せない。本当に身ひとつの状態なんだ……。

「君、そんな魔具持ってたんだね」

「ほら、わたし、魔力を逃していないと、死んじゃうから。魔を封じられるより、封じられて逃せないことの方が怖いの。だから必需品なんだ。1日ぐらいなら平気だけど、まずいな」

 早いところお城に戻りたい。

「アダム、どうやってお城に帰る? 明るくなるまで待つ?」

「……君との逃亡劇を楽しもうかと思ったんだけど、気になることができちゃったな」

「気になること?」

 アダムが立ち止まる。

「君は私との婚約を解消するつもり?」

 アダムは首を傾げる。

「そりゃ、元々この件が解決するまでのことだったし」

「私は君を伴侶としたい。君の望むものはなんでも手に入れると約束する。君が王妃になりたいと言うのなら、王にもなろう」

「ちょっとどうしちゃったの、アダム。何言ってんの? アダムはわたしを好きじゃないでしょ?」

「私は生まれた時から君を好きだった。愛してる」

 真面目な顔つきだ。
 ちょっと、どうしちゃったの、アダムってば。
 生まれた時からってそれ早すぎ。会ってないじゃん。なんかの冗談?

「嘘、でしょ?」

「ブレドが好きなの? それともまだフランツを?」

 わたしの顔を見ながら、そこまで聞いて眉を寄せた。

「……やっぱり、フランツは邪魔だな」

 え?

「ちょっと、アダム?」

「君の望みをなんでも叶えてあげる。でも君は私の隣にいないと。他の場所は危険だからね」

 両腕を掴まれる。なぜか、ゾッとした。

「何言ってるの? アダム変だよ?」

「変なのは君だよ。自由にさせすぎた。自由な君を見るのは楽しかったけれど、やっぱり独占したくなった」

「な、何の話?」

 なんだか恐ろしくなってきて、わたしはあとずさった。
 グッと引き寄せられる。
 え?
 今、唇が合わさった?

 目の前の人は極上に微笑んだ。

「どんぐりまなこ、だね。ロマンチックなのは、また今度。今は、魔力を吹き込ませてもらったよ」

 え?
 パニックだ。口が合わさったのもびっくりだけど、魔力を吹き込んだって何? なんで魔封じの魔具をつけられているのに、魔力を出せるの?

 ぐるぐると思考が巡る。
 ひとつ、何かおかしいと思えば、追随して思い出されてくる。

 ……眠らされ捕まり、魔力は封じられていたけれど、自由に動けたのはなぜ? 手足が自由だったのは……。それは目の前のこの人が、アイラ側の人間だから。
 たびたびあった違和感。
 アダムじゃない。

「……あなた、影ね?」

 見分けがつかないぐらいアダムそっくりだけど、目の前の人はわたしの知ってるアダムじゃない。傍若無人ではあるけれど、アダムは人の気持ちを無視するような人じゃないもの。

「アイリーン」

 アダムに似た誰かがアイラを呼ぶ。
 アイラと偽アダムは繋がっていた。

「ここにおります」

 暗がりの中からアイラが現れる。

「リディアを部屋に。そしてそこから出すな。決して傷つけるでないぞ? 髪一本でも傷つけたら命はないと思え」

「承知いたしました」

「ちょっと、あんた何する気?」

「邪魔者は消しておかないと」

 え……。

「ちょっと待って。邪魔者って」

「そう、君の大切な人、フランツだよ。あれも、しぶといね。いずれ出生の件で消えるから放っておこうと思ったけど、君の表情みたら我慢ならなくなった。大人しくここで待ってて」

「出生の件って、あんたがやったの? あんたがキリアン伯を唆したり、変な噂をばらまいたの? けしかけたの?」

「君、その短絡思考は直した方がいいよ。私はあんな杜撰な計画を立てたりしない。やるなら一分の隙もなく完璧にやるよ。あまりにも決定打にいつも欠けてるから、私はちょっと補ってあげただけ」

 偽アダムがニヤッと笑った。
 本気だ。引き止めなきゃ。
 影のひとりなら、アダムと同様、魔力がとんでもなく高いだろう。

「アハハ」

 影が突然笑い声をあげた。

「引き止めようと、必死に考えている顔だ。報告にあったように、本当に全て顔に出るんだね」

 影は曲げた人差し指の背を口にあて、少し考える。

「やっぱり、フランツは消しておこう。君、変なこと考えそうだから」

 そう身を翻す。

「待って!」

 影を止めようとしたら、手を持って邪魔される。アイラだ。

「離して」

「リディアさまじゃ追いつけないし、止められませんよ。暴れるなら、眠らせます」

 ポケットから魔具みたいのを取り出した。眠らせることのできる、何かなのだろう。眠らされたら、何もできない。わたしは唇をかみしめた。
 アイラに引っ張られて、民家に入る。中は明かりがついていたけど、誰もいなかった。

「アイラはあの影の勢力なのね?」
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