プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第691話 はかられごと④心配してる?

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「ロサ殿下と一緒ではなかったのですか?」

 てっきりふたりで神殿に向かうと思っていた。それがアイラとふたりで、アイラを自由にさせている。騎士もつけず、ひとりで行動するなんて危険すぎる。

「……ロサ? それなら、アンドレ」

「は?」

「ブレドをロサと呼ぶのなら、私のことはアンドレと呼ばないと」

 何言ってんの? 今、言うこと? そんな余計な話をして、煙に巻こうとしている?

「なぜ、牢から出ているんです、その者は?」

「呪術師たちと引き合わせるんだ。そちらの調査を言いつかってね」

「手枷も外してですか?」

「呪術は封じているし、私が彼女に負けたり、逃したりすると思う? 騎士を増やしても面倒になるだけだし、担いだりなんだりも嫌だから自分で歩かせている。何か心配なら、一緒に来る?」

「……一緒に行くわ。けど、呪術師のところに行くなら、せめてトルマリンさんを連れて行った方がいいんじゃない?」

「ああ、もちろん先に行ってもらってるよ」

 なんだ、そうなの? じゃあわたしが行く必要もなさそうだけど。
 一度行くって言ってしまったので、ついて行くか。
 アイラと一緒に行動するのは、それだけでストレスだけど。

 裏門を守っていた騎士たちに門を開けさせると、辻馬車が用意されていた。
 アイラを先に入れ、わたしを次に乗せてくれる。
 遠いのかな。この馬車で、わたしのお尻がもつか心配だ。

「この馬車に長く乗るの?」

「1時間ぐらいかな」

 絶望的だ。
 行くなんて言わなければ良かった。

 わたしの隣に、アダムは長い足を組んで座った。
 わたしは膝にもふさまを乗せた。もふさまのリュックは、アリとクイとレオがぬいぐるみの姿で入っているはず。みっつの膨らみを上からそっと触って確かめる。ベアはサマリン伯についていて、アオはルシオについている。

「その犬、しっかり抱えててくださいよ」

 アイラが鼻を鳴らす。犬じゃない。
 もふさまもじっとアイラを見ている。

「場所はどこなの?」

「言ってもわからないだろ?」

 アダムはにっこり笑う。
 それはそうだけど。

 馬車が動き出した。すごい揺れ。

「そちらは何人ぐらいいるの? それに対してひとりじゃ危険でしょ? あ、トルマリンさん以外にも応援がいるの?」

「……ひょっとして、私を心配してる?」

「あんた、わたしが氷の像かなんかだと思ってるの?」

 心配するに決まってるでしょうが。

「リディアさま、殿下に、その言葉遣いはないんじゃないですか?」

 アイラがまともなことを言う。

「アイリーンが気にすることではない。不快なら私が言う」

 アダムがピシャッとはねつけると、アイラは視線をそらした。
 アダムは横のわたしに微笑む。愛想が良くて気味が悪い。

『リディア、何か変だぞ』

 もふさまが体をよじってわたしを見上げる。
 あ、青い点に囲まれている。馬車が速度を落とした。
 急な揺れに対応できないでいると、アダムが支えてくれた。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう。囲まれたんじゃない?」

 アダムは一瞬驚いた顔をした。

「ああ、そのようだ」

 馬車が完全に止まる。

「君はここにいるんだ」

 アダムはドアを開け、アイラを引っ立てるようにして降りる。

「アンドレさま、気をつけて」

 わたしが声をかけると、振り返って微笑んだ。
 ドアが閉まってから、わたしはもふさまに言った。

「点は赤くないんだけど、……何かわかる?」

『いいや。リディア、皆を起こしておけ』

 もふさまの背中のリュックを揺する。

「みんな、城から出ているから防御を解いていいわ。何か変なの。起きて!」

 再びドアが勢いよく開いた。
 え? 何か拳サイズのものが中に投げ込まれた。
 シューッと何かが吹き出すような音が聞こえた気がして、そこでブラックアウトした。



 目を開けると、あたりは薄暗い。
 ぼんやりとした視界にピントが合ってきて、目の前にアダムのドアップがあった。
 金髪に紫の瞳。王子さま仕様のアダムだ。
 驚いて起き上がる。くらっとした。

「急に起き上がるから……大丈夫かい?」

 宿屋の一室のような部屋だった。シンプルなベッドに転がされていたようだ、アダムと一緒に。
 もう夜みたい。月明かりで、部屋の中は暗闇ではなかったけれど。

「何がどうなって?」

「私もついさっき目が覚めたばかりだ。……馬車から降りたら、私兵たちに囲まれた。顔に何か吹きつけられて、気付いたら、このベッドに君と転がされていた」

「で、起きて、あんたは何してたの?」

「君の寝顔を見てた」

 あまりに、そのままの答えだったので怯む。

「ね、寝顔を見るなんて失礼よ!」

「ああ、そうなの? 可愛かったから、眺めてたんだ」

「何それ、新たな嫌がらせ?」

 わたしはベッドから降りた。あ、足首に足輪がついてる。

「魔力を封じられた」

 もう試したんだろう。アダムも魔力を封じられたようだ。

「もふさまたちのこと知らない?」

 アダムが口ごもる。

「何?」

「眠らされる前にちょっと見えたんだけど、ぐったりしたお遣いさまが、道端に投げ捨てられていた」

 もふさまが?
 わたしがドアに走ろうとすると、手を引っ張られる。

「鍵がかかってる。やるにしてもそっとやりなよ。魔力も封じられているんだ、慎重に行動して」

 まっとうな意見なんだけど、口がとんがる。
 ぐったりしたもふさまって、どういうことだろう?
 思うにあの拳大のものは、眠らせる何かだったのだろう。それで、もふさまも眠らされちゃったのかな? 聖獣であるもふさまが?

「ごめん。慎重に行動する」

 アダムに謝れば、彼は頷いた。
 そっとドアノブを回そうとしたけれど、アダムの言うように鍵がかかっているみたいで開かなかった。

「アイラは? どの勢力に捕まったんだろう、わたしたち」

「さあ、わからない。でも君には傷ひとつつけさせないから安心して」

 一緒に捕まった奴が何を言う!

「魔力も封じられているのにどうするのよ?」

 ちょっと、つっけんどんになってしまった。

「そりゃ、魔力が使えないなら、力技になるだろうね?」

 アダムは窓に近づいていき、窓を開けた。
 とっくに日が沈んだ暗がりから、冷たい風が入ってくる。

「あ、開くね。2階だし降りられそうだよ」

 わたしも窓に行ってみたけど、どこが降りられそうなの? 月明かりがあると言っても、地面まではよく見えないし。

「む、無理でしょ」

 って言うか、アダムができてもわたしには無理だ。

「それじゃあ、逃げ出そうか、お姫さま」

 失礼と言ってアダムはわたしをお姫さま抱っこをし、窓から飛び降りた。
 かろうじて、悲鳴を飲み込んだ。
 こいつ、わたしを抱えたまま、2階から飛び降りやがった。
 魔力も使えないのに、なんて身体能力だ。

 アダムはそのまま早歩きで街を歩く。人とは出くわさなかった。
 家や店があるけれど、どこも明かりを落としている。
 少ししてから、アダムはわたしを下ろした。
 地面に足をつけやっと安心できたのか、鳥肌立っていたのが、なんとか落ち着いた。

「あ、ありがとう」

 お礼を言えば、アダムは微笑む。
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