プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第687話 彼女のはかりごと㉒求めたもの

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「その魔物を倒すと、真っ赤な魔石が取れる」

 誰かの喉が鳴る。

「……その魔石が使えるようでして……伝心もその使えることのひとつだったようです。
 それでその〝瘴木〟を改良していった。けれど、魔素の十分でない土地では、樹は育たなかった」

 アダムはひと息つく。

「それではツワイシプ大陸ではどうなのか? エレイブ大陸では?と、大陸ごえをした者たちがいました。グレナンは滅びましたが、そうやって土地を渡ったものが今も息づいています」

 あ、それがシンシアダンジョンにいた、アビサから来たと言った傭兵のことかもしれない。

「グレナンが滅びたのはおよそ200年前。2代から4代前の先祖たちの頃です。滅びた時にほとんどの書物が焼けてしまいましたが、ユオブリアにもグレナンが滅びたことについて調べた者がいて、その著書がありました。ただ、滅びる前にユオブリアに移住してきたグレナン民が記したのでしょう。グレナン語で書かれていたため、読むことができずに書庫の奥に追いやられていた。ですが、グレナン語を取得している方がいらして読んでもらえたんです」

 あ、キートン夫人!
 保護するって、おじいさまの転移の力を借りるとかして、キートン夫人を呼び寄せたのかもしれないね。それで一気にグレナンに関係することが進展した!

「改良した樹も、やはり魔素が多いところでないと育ちにくかった。ツワイシプ大陸では育つかと思ったけれど、そういうわけでもなかった。エレイブ大陸の神聖国なら多少は育ったそうです。けれどそれが魔物を呼び込み、衰退の原因も作ってしまったようだ……記録はそこまででした。
 その後も研究は進められてきました。神聖国跡地で。魔物を通さなくても瘴気と魔素を融合させた魔を結晶化させる技術を。ただそうして抽出した結晶は魔石とは違った」

 アダムは小瓶をみんなの前に掲げた。

「これがその瘴気を含んだ魔を結晶化させた魔石を砕いたもの。その術師がリディア嬢に食べさせようとしていたものです。これが体内に入ると思考が低下して、人のいうことを聞きやすくなるようです」

 アイラは自分のポケットを微かに気にしながら。

「出たらめを!」

 と目を剥く。

「君が持っていると、危険だから取り替えさせてもらったよ。そんなはずないって? 〝核〟を入れてみようか? そうすれば本物かどうか一発でわかる」

 瞬時にアイラの顔が青くなった。
 核を入れると言えば、劇団が運び屋をやっていたあの赤い石。核を入れれば本来の魔石となるっていってたやつ?
 え、えっ?
 シンシアダンジョンにあった、瘴木。あれで魔を得た魔物が凶暴化し、そこから取れた魔石は不気味な赤だった。
 それと同じ色した石は、劇団が運び屋として運ばされていた。
 だけどあっちの石はまだただの石で、核を入れると魔石になるとかなんとか、ということまでわかっていたはず。

「こちらに核を入れると、本来の魔石になります」

 すっごい、いつの間にかそんなことまでわかっていたんだ。

「魔石には他の魔石にない力があった。だからグレナンでは瘴木の研究が進められていたし、その魔石のことは秘密裏にしていた。それが知られたらどんな騒動が起こるかわからないからでしょうね」

「我らは魔石など知らん! そんな昔話が我らとなんの関係がある?」

「もちろんあるから話しているんですよ。もう少し黙って聞いてください」

 アダムは続ける。

「その魔石は人の魂と器を切り離し、入れ替えることができた」

 わたしより年下の王子たちも息を呑む。

「ただ、魔石を得るために凶暴化した魔物と闘うのは骨が折れる。そこで瘴木から魔石が直接抽出できないかの研究が進められた。抽出はできたが、それは不完全だった。それには核が足らなかった」

 つまり、グレナン発祥の伝心やら何やらいろいろなことに〝使える〟魔石は、瘴木から魔を受け凶暴化した魔物を倒すか、結晶化した赤い石に核をいれるという2つの方法で手に入れる事ができるってことね。

「瘴木から抽出できた結晶は純度の高い瘴気。では核は純度の高い魔素の結晶。そんな見通しから、人道的ではない方法をやってのけたのでしょう。それは多くの者の人の血と屍。違いますか、アイリーン?」

「何をおっしゃっているのでしょう? 罪を被せるつもりですね」

 アイラは警戒するようにアダムを睨みつける。
 え? 今なんて言った? 核は多くの者の人の血と屍? そ、そんな恐ろしい……。

「お前の企みは全部わかっている!」

 そうアダムに言われ、アイラはケタケタと笑った。

「わかっている? あたくしがメロディー公爵令嬢になりきるのに、ここにいると? あたくしはただの呪術師。助けを求められ、こちらに来たにすぎません。でも、そうですね、思うところはあります。リディアさま、リディアさまも同じ考えですか? もし当てることができたら、当たってると教えて差し上げます」

「リディア嬢、戯言だ、気にすることはない」

 ロサに言われる。
 捕らえられていて、なんでこんなにアイラは落ち着いているの?
 黒幕が守ってくれると思ってるの?

 アイラと少しの間一緒にいて、わかったことがある。
 メロディー嬢に乗り移るつもりかと思って、それはどうして?と思いを巡らせた。顔が好みとも言っていたけど、自分を捨てることと引き換えて、手に入ることなわけで……。公爵令嬢になりたいのか?と思った。上流階級や王族に夢があるみたいだったし。盛んにわたしが王子殿下と婚約するのをいいなと言っていたから。
 だけど、確信に近く思う。
 公爵令嬢になり、あなたが望むのは婚姻じゃない。……その先だ。

「ひとつわかることがあるわ。アイラがメロディー嬢になり代わるとして、あなたは王子殿下と婚約したいんじゃない。王妃になりたいのよね?」

 この国の女性の頂点に。
 アイラの目が大きくなる。そして手枷をされているからか指先だけを合わせ、ゆっくりとした拍手をした。

「リディアさまって愚図で何もできない方だけど、何かあるって思わせる才があると思います。ある意味、当たってます。ほんとリディアさまって不思議な方。どう対処されるのか見定めたくなります。いいでしょう。……そうですね、今は、大人しく従ってあげます」

 この期に及んでどうしてそんな台詞が言える、余裕があるんだろう? ただの強がり?

「……私たちが何を言っても、どうせあなた方は信じられないでしょう。ですから、自分の目で見られるといい」

 アダムが部屋の隅に目をやった。
 え、いつの間に? トルマリンさん……。
 トルマリンさんが部屋の隅で佇んでいた。
 捕らえられていた人たちも息を呑んだ。
 いつの間に?って思ったんだと思う。
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