プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
681 / 823
15章 あなたとわたし

第681話 彼女のはかりごと⑯まだ〝必要〟

しおりを挟む
 わたしは何度も自分の両頬を叩いて、気合を入れた。
 昨日はアダムの帰りが遅かったので、わたしと兄さまは先に休ませてもらった。
 朝も朝でそこまで話し込む余裕もなく、午前中にできたら、城内のわたしの部屋で会議をすることになっている。陛下からの話と合わせて、今後の作戦をたてると。

 アイラがわたしに言霊を仕掛けてきたのは、焦れているからでもあるだろう。
 思惑通りロサの胸に飛び込んだわけだから、流れとしては、わたしはアイラに一気に傾倒しているぐらいのはず。

 対アイラへの心意気のことだけを考えていたら、朝一でメラノ公がお見舞いに来てくれて、わたしは困惑した。
 アリがベッドの中に入ってきたので、気づかれないよう撫で回した。
 クイはぺしゃんこ、じゃない、ペトリス候についているんだね。
 アリは、今日、メラノ公が何かするつもりだと教えてくれた。
 わたしは構える。

「お加減はいかがですかな?」

 優しい笑みを携えて、わたしに尋ねる。

「はい、おかげさまで、回復しました。起きていても大丈夫なのですが……その、殿下からまだ休んでいるように言われて……」

 ロサと熱々なのをアピールしなくては。白いなみなみじぃじも、ロサとわたしにくっついて欲しかったみたいだもんね。
 乗っ取り派なら、窓口を増やすためとわかりやすいけど、そうではないなら、どうしてわたしとロサをくっつけたがるのかわからないな。

「その……殿下とはどちらの?」

 わたしはハッとしたフリをして、口を閉ざす。

「リディア嬢、若い時は、時が永遠に続くように思われるでしょう? だがそれはただの錯覚なのです。人に与えられる時間は有限。
 若い頃、よく言われました。我慢なさい、時を待ちなさい、と。
 いずれ望んだ時はやってくる。その期を待ちなさい、と。
 でも、いずれなんて時はやってこないのです。ただ待っているだけでは何も変わらない。そう教えてくれた人がいました。行動したら、思い描くように、ことが動くようになりました。
 ですから、リディア嬢、心のままに行動しなされ。あなたが動くことで、世の中は変わる」

 微笑まれているのに、どうしてわたしは怖いと感じているのだろう?

「そう、……ですね。命は有限。わたしも思うように動いてみようと思います。大変ためになるご教授、ありがとうございました」

「いやいや、年寄りが説教くさいことをしてしまいましたな。お許しくだされ。
 けれど、心のままに奔放に生きなされ。あなたにはそんな生き方が似合う」

 アリ付きのメラノ公をお送りして、部屋にひとりにしてもらう。
 心のまま、奔放に生きる……。この流れだと、わたしがロサに乗り換えるということだ。第1王子と婚約までして、散々騒ぎまくって、第2王子に乗り換える。
 敵の動きを知るための芝居であるからやっているけど、本当にそんなことしているとしたら、奔放すぎるだろ、それ。まだ一般貴族ならともかく、次代の王族を手玉にとってると揶揄られても仕方ないぐらいのことだ。
 それに、呪いで一回だけということにしたとしても猫になっていたんだぞ? 猫だよ、猫。獣憑きに未だ忌避があるユオブリアで、王族に獣憑きだぞ。
 わたしも奔放すぎるけど、王子殿下たちもそんなのに惑わされるように見えるだろうし、愚かに映るよね。そしてそれを許す陛下も……。
 婚約式の時のあの困惑していた目を思い出す。

 それだ!
 メラノ公が謀反の一派なら、王族が愚かだとみんなに絶望させるのが目的だ。そんな次代の殿下にはついていけないと、新たな王をたてる気だ。
 ロサへの乗り換えは中止だ。危険すぎる。
 わたしはアリから得た、今日動きがあることの報告も含めて、アダムに手紙を書いた。
 

 アイラがノックの後に入ってきた。
 おい、部屋に入るのを許していないのに。
 もう依存しているって思い込んでいるのかしら?

「あ、ごめんなさい。もう少しひとりにしてもらえないかしら?」

 手紙はとりあえず送ったものの、アイラに対して、まだどうするべきか、考えがまとまっていない。

「時間なんです。もうすぐ正午ですから。
 昨日は、どうだったんですか? 第2王子殿下とお話しされたんですよね? 第2王子殿下が大切にリディアさまを抱きかかえて運ばれるところを、使用人たち、貴族たちが見ていましたわ。とても素敵でした!」

 ああ、まずった。反乱分子を煽ったことだろう。

「リディアさまのお城での評判、最悪ですよ」

 アイラは嬉しそうに言う。わたしは自分の親指を軽く握る。

「伯爵令嬢が何様のつもり?って。第1王子殿下に擦り寄って、振られそうになったら、第2王子殿下に尻尾を振ったって。あ、うまいこと言いますよね。猫だったから尻尾を振ったって言われたんですよ、わかります?」

 アイラ、楽しそう。

『この者はうるさいな。足でも齧ってやろうか?』

 わたしはもふさまの背中に手を置いて、静かに首を小さく振る。
 けど、うわー、演技でもこんなやつに〝尻尾振る〟の嫌だわ。
 でも、通らないとならない道。
 わたしは心配しないでと、もふさまの背中を軽く叩いてから、顔を両手で覆った。

「わたしの行いが、殿下たちの評判をも下げているのね」

 泣きそうなフリをする。

「あら、やっと気づきました? もう遅いですよ。リディアさまはいるだけで迷惑なんです。何もできないくせに、またでしゃばって。本当にしょうもないお方ですね。でも、あたくしが味方になってさしあげます。リディアさまを嫌う人たちから守ってさしあげます」

 ここはうるうる瞳で見上げるところだろうけど、わたしは方針を変える事にした。無理。演技でもアイラに陶酔するように依存するのは無理。
 諦めて、全てが嫌になって、でも話すのはアイラだけ、ぐらいにしておこう。

「本当に?」

 わたしは冷たい声で尋ねた。
 アイラの茶色い瞳が少しだけ大きくなった。

「本当にわたしを守れるの?」

「え、ええ。リディアさまはまだ〝必要〟なんですって。だから、守ってさしあげますわ」

 まだ必要? 聞き捨てならないわね。でも、それは事実なんだろう。
 アイラは誰かに従っている、その誰かがわたしはまだ必要だと言ったのだ。だからそれまで守る、と。

『リディア、城に嫌な気が紛れ込んでいるぞ』

 嫌な気? メラノ公が何かするって言ったことに関係することかな?
 わたしは探索をオンにする。点がいっぱいあるけれど、今のところ赤い色は見えなかった。この部屋の中の点も。

「アイラはわたしを嫌いよね?」

 アイラが訝しんだ目を向けた。あれ、術がまだ完全に効いてないのか?の顔だ。
 すがるような目を向ければ、クスッと笑う。なんだ、やっぱり、効いてると思ったようだ。

「嫌いに決まっているじゃないですか。リディアさまさえいなければ、あたくしは砦で幸せになれたのに。でも許してあげます。死なないでくれて助かったんです。全く運がいいんだから。
 嫌いだけど、中身が違くなれば、気にならなくなるでしょう」

 やっぱり、わたしを乗っ取ろうとしている。でもそれはアイラではないんだ。
 もっと言葉の意味を考えたいけど、それより無表情でいることに神経を使った。
 バックに誰がいるのか、それを突き止めたい。それまでは、術が効いているフリをしなくては。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...