プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第680話 彼女のはかりごと⑮命より

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「いいや」

 アダムが言って、他のみんなも首を横に振る。

「大昔から呪術はあったそうですが、今の呪術の体系となったのは、300年前のくだんの魔使いの論文が発端だったといいます」

「魔使いの?」

 思わず、声をあげる。

「はい。魔使いが狩られた時に、多くの者が呪術師へと逃げ込んだのです。魔使いは魔物と携わってきたからこそ、瘴気との相性も悪くなく、すぐに溶け込めた。
 それまでの呪術というのは、まじないの要素が大きかったのです。日照りに対して言霊を込めた護符を作るというような。
 それが魔使いが入ってきたことにより、魔力を編むように、瘴気を編み込んだ呪術となっていったのです。
 その魔使いたちは研究熱心でした。術師としても成功しましたが、魔使いの論文が本当かどうか、検証していたものが多かったといいます」

「論文が本当かどうかというと……、魔を持つ人も使役できるかということをか?」

 ロサの声が乾いていた。

「はい。けれど、魔法だけでそれをしようとしてもうまくいかなかったそうです。行き詰まった元魔使いは、魅了のスキル持ちに目をつけました」

「魅了?」

 アダムが問い返す。

「はい。あれはまさしく、結果、人を言う通りに動かせるものですからね」

 ホーキンスさんのことを思い出してドキンとする。

「でもあれはスキルだから。人道的ではない探り方をした、きな臭い話を聞きますが、それもうまくいかなかったようです。結局わからなかった。次に目をつけたのが、グレナンという国でした」

「西の大陸の滅びた国か?」

 なんか聞いたことがある気がする。

「はい。……グレナンは、言葉を口に出さずとも気持ちを届けることができる〝伝心〟というスキル持ちが、生まれることが多かったのです。そのスキルの持ち主は早世なのも特徴だそうですが。その秘密を探ろうとしていると噂が流れ、いつの間にか人を操ることができる国と言われ。逃げ出した魔使いが隠れているのではないかとも言われ、魔使い狩りが始まり……攻防の末、国が滅んだのです」

 えーーーーーー。それは酷い。

「それでグレナンの秘密はわかったのか?」

「いえ、突き止める前に滅んでしまったそうです。書物なども焼けてしまったので、探ることも難しいし、グレナン語自体を知る人が少ないそうです」

「あ!」

「どうした?」

 声をあげると、ロサに尋ねられる。

「シンシアダンジョンの傭兵のふたり組。あの人たちがグレナンが故郷って言ったんだ。なんか聞いたことがあると思った」

 ちょっとスッキリした。

「故郷って、300年前あたりで滅びたんだろう? いくつぐらいの人たちだ?」

 再びロサに尋ねられる。

「えっと、25歳と26歳」

 みんなに凝視されていた。
 あ、鑑定したから思わず言っちゃった。

「女の勘で、それぐらいだと思う!」

 危なかった。

「グレナン国の生き残りが、今でも故郷を偲んでいるってことでしょうか……」

 ロサが切ない息をついた。
 滅ぼされた国の末裔は、何を思うのだろう?
 帰れない故郷と言っていて、哀しそうだったとは思った。

「そういえば、あの言葉をグレナン語だって、どうしてリディア嬢はわかったんだい?」

 あ、あの時、アダムが一緒にいたっけ。

「それは……家の魔使いさんが残した本で読んだことがあったから」

 苦しい言い訳だと思いながらいうと、アダムもロサもふぅんと頷く。

「魔使いの残した本とは?」

 トルマリンさんに説明すると、目を輝かせて羨ましがられた。家族のみ入れる部屋でしか見ることができないと伝えると、しょぼんとした。
 でも、トルマリンさんのような人に見てもらってこそ、あの膨大な知識が生きるのかもしれないと、ちょっと思った。

 トルマリンさんにお礼を言って、見送った。
 わたしたちはロサも一緒に食事にする。
 その時兄さまに、前バイエルン侯とキートン夫人との間に、繋がりというか何か覚えていることはないかを、ロサが尋ねた。

「……繋がりとなるかはわかりませんが、私の家庭教師を頼んでみると言っていました。それが記憶が確かではないのですが、キートン侯爵夫人だったと思います」

 キートン夫人は家庭教師として有名だから、高位の貴族が子供の教育を頼みたくなるのもわかるなぁ。

「ブレド、伝達魔法でキートン夫人に聞いてみてくれないか?」

 アダムに言われて、ロサは頷いた。
 さささっと便箋に書きつけて、封をし、魔具を使う。
 玄関に行き、扉を開ける。青い小鳥が飛び立っていった。

「前バイエルン侯とキートン夫人に繋がりがあったら、ふたりは狙われるべくして狙われたってことですね」

 兄さまが小さく息をつく。
 食事を終え、お茶にする。
 お茶をお代わりした時に、アダムがピクッとした。

「鳥が来たようだ」

 そう告げる。わたしたちは玄関へと向かった。扉を開けると、青い鳥が入ってきて、ロサの肩に止まる。ロサが鳥のくちばしに手をやると、青い鳥は封書になった。
 居間へと戻る。
 封を開けて、ロサが手紙を広げた。
 ロサがゴクリと喉を鳴らした。
 わたしたちは、ロサが手紙に書かれていることを、教えてくれるのを待った。

「当たりです」

 え?

「繋がった。キートン夫人は、前バイエルン侯の家庭教師をしていた。グレナン語の」

 ええっ?
 アダムがすくっと立ち上がる。

「陛下に、すぐにキートン夫人の保護を要請してくる」

 アダムは部屋から出て行った。
 キートン夫人が危険ってこと?

「何年も前、まず、グレナン語がわかる者を消し去ろうとした。グレナン語がわかるとまずい何かがあるんだ」

 それって、〝あの頃〟どころじゃないってこと?
 もっと前から、敵の計画は息づいていたんだ!

「……お嬢さま、お嬢さまがグレナン語だとわかったことを、その傭兵たちに知られましたか?」

 あ。軽く目を瞑る。

「国の言葉でありがとうと言ってみてと言ったら、アビサという国からきたというのに、グレナン語のありがとうだったから、アビサという国はグレナン語が共用語なのかと思って、そう聞いちゃった」

「グレナンのことを調べる。フランツ、ここは任せたぞ」

 そう言って、ロサも出て行った。

「グレナンに何があるっていうんだろう……」

 思わず呟いたけど、兄さまだってわからないわけで。

「お嬢さまが狙われる理由が、またひとつ出てきてしまいました。アイラだけではなく、その勢力からも狙われるかもしれません。お嬢さま、ここからは全てを殿下たちに任せて、この結界の中の安全な場所にいてくれませんか?」

 辛そうな顔。何が辛いって、多分答えがわかっているから。
 兄さまもそう感じながら言っていると、わたしは思った。

「……ごめんなさい。どんな結果になるとしても、わたしは自分で掴み取りたいの」

「……掴み取るって何をですか? それは命より大切なものですか?」

「わたしの未来。わたしの未来は、命と同じで大切なの」

「命をなくしたら、未来もなくなると思いますが」

 兄さまが冷静に言う。
 それはそうなんだけど。
 でも、意地というわけではなく、ここは引くべきところではないと、心の中のわたしが言う。
 わたしだけの感覚をうまく伝えられそうもなくて、わたしは口を閉ざした。
 
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