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15章 あなたとわたし
第674話 彼女のはかりごと⑨幸せの定義
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マジでいい度胸だ。面の皮厚すぎ!
他の人に害が及ぶといけないから、出て行ってもらおう。
「ロサさま、少し休みたく思います。ゴットさまに、調書の進んだことを話していただけますか?」
ふたりを部屋から出さなくては。
ロサはわかったと頷いて、サマリン伯と一緒に部屋を出て行った。
「リディアさま、お食事を」
「アイラ、ごめんなさい。疲れたのか急に食欲がなくなってしまったの。それはアイラが食べて」
「え?」
「王宮の食事もなかなかよ。布団や服も気に入ったようだから、きっと食事も気にいると思うわ」
「いえ、……あたくしは……」
慈悲深いスマイルを浮かべ……られていると思う。
「苦手なものでも入っていた? アイラはトマトンが苦手だったわね。今日はトマトンは入ってないみたいね。どうぞ、召し上がれ」
魔石入りのご飯を。
「あ……りがとうございます。後でいただきます。リディアさまはお眠りください」
そういって、わたしを寝かそうとする。
「アイラが食べ終わってから眠るわ。食事はひとりですると味気ないでしょ? ……食べたく、ないの?」
「いえ、そうではありませんが。リディアさまは召し上がらないのに、あたくしだけいただくのも……」
「あら、そんなこと気にしないで。今、とても不思議な気持ちなの。
わたしはアイラが苦手だった。それに砦ではあんな別れ方になったから、気になっていたの。どこかで穏やかに幸せになってくれているといいと思った」
アイラのワゴンを持つ手がギュッときつく握りしめられた。
アイラはやっぱりわたしのことを嫌いなままだ。見下している相手から幸せになって欲しいと言われ、マウントを取られた気がして、我慢ならなくなっているのかも。
そうね、そんな気がなくても、アイラの引っかかるどこかで、わたしはマウントをとっているのかもしれない。
でもそこは置いておいても、幸せになって欲しいと思ったのは本当だ。
「あなたは天職に出会い、凄腕の術師になっていた。そしてわたしの解呪もしてくれた。本当に凄いわ。あなたみたいな人が近くにいてくれて、とても心強いわ」
わたしは術が効きだして、アイラに傾倒しだしているアピールをした。
こう言われたら、そのわたしが言うことを断りにくいでしょ?
不審感をもたれたら、依存するのに時間がかかってしまうかもしれないものね。
魔石は取り続ける必要があるみたいだから、1回食べたぐらいじゃぼーっとしないんじゃない? だったら、ここはアイラ、食べて見せなきゃ。
これからも簡単に魔石を入れられるのは嫌なので、警戒心を持ってもらわないと。そのために、今日は自分で用意したものを食べてもらいましょう。
アイラは渋々自分のお膳を準備して、凄い勢いで全て食べた。そして失礼しますとわたしに告げてから急いで部屋を出て行った。
『凄い目で睨んでおったぞ?』
「知ってる。でもこれでわかったでしょう。自分が口にすることになる可能性もあるって。これからはもう少し慎重になると思うわ」
何にでもホイホイ魔石を入れられたら、めんどくさくてたまらないから。
ふうと息をつく。でも同時に思う。
わたしはアイラに対して認識を変えた方がいいかもしれない。
ヤバい奴だとは認めたけど、言葉遣いもなっていないし、言動が粗野だ。すぐにバレそうなことを言って取り繕ったりするから、失礼だけど賢そうには感じなかった。
でも、そう見せているだけなのかもしれない。魔石入りの食事を取った、賢いかどうかはおいておいても、この一連のことに対する覚悟は本物だ。
そうだね、仮にも王族に仕掛けたんだ。そんじょそこらの思い入れでできることではない。何がアイラをそこまで駆り立てたんだろう?
「リディアさま、おやすみになってなかったのですか?」
「アイラ、顔が青いわ。具合が悪いのじゃない?」
吐いてきたんだろうけど、魔石は魔素のように、体内に入れば吸収されるものだと思うから、物理的には意味ないだろうね。心情的にはわかるけど。
「いいえ、そんなことはありません」
「本当に大丈夫?」
「ええ。さ、おやすみになってください」
「アイラ、お話しして!」
わたしは小さい子がねだるような声音で、アイラにお願いをする。
「お話?」
「なんでもいいわ。眠くなるように、アイラの話が聞きたい」
「物語なんて知りません……」
「物語じゃなくて、なんでもいいのよ。たとえばアイラの経験してきたこととか。呪術を習っているときのことなんかでも」
わたしは布団の中に潜りこんで眠る態勢を整え、アイラの話を待った。
アイラのこめかみがピクピクしている。
物語を聴きながら眠りたい? だから甘ちゃんのお嬢さまってのは嫌なのよって思ってそうだ。
嗚呼、アイラの嫌がることを仕掛けるの、少し楽しい。絶対性格悪くなるね、これ。だから嫌いな人とかかわるべきじゃないんだと思う。
「面白い話なんてありませんよ。そうですねー。では、馬鹿な父の話でもしましょうか」
アイラはベッドの横に椅子を近づけた。
そこに座る。
「砦を出てから、町や村を転々としました。仕事をもらってその日ぐらしをしてました。父がいつも一緒にいてくれて、絶えずあたくしの気持ちを聞くのです。思いあがってはいけないと、諭されました。
人は生まれによって、幸せの量が決まっているそうです。
だから持って生まれた器以上を望んではいけないと。
小さい頃はよくわからなかったけど、ひどいこと言ってますよね。夢も希望もなくなることを。でもちっとも構わなかった。父といられて幸せだったから」
そう言った時のアイラは、等身大の少女で、好感を持てるほどだった。
他の人に害が及ぶといけないから、出て行ってもらおう。
「ロサさま、少し休みたく思います。ゴットさまに、調書の進んだことを話していただけますか?」
ふたりを部屋から出さなくては。
ロサはわかったと頷いて、サマリン伯と一緒に部屋を出て行った。
「リディアさま、お食事を」
「アイラ、ごめんなさい。疲れたのか急に食欲がなくなってしまったの。それはアイラが食べて」
「え?」
「王宮の食事もなかなかよ。布団や服も気に入ったようだから、きっと食事も気にいると思うわ」
「いえ、……あたくしは……」
慈悲深いスマイルを浮かべ……られていると思う。
「苦手なものでも入っていた? アイラはトマトンが苦手だったわね。今日はトマトンは入ってないみたいね。どうぞ、召し上がれ」
魔石入りのご飯を。
「あ……りがとうございます。後でいただきます。リディアさまはお眠りください」
そういって、わたしを寝かそうとする。
「アイラが食べ終わってから眠るわ。食事はひとりですると味気ないでしょ? ……食べたく、ないの?」
「いえ、そうではありませんが。リディアさまは召し上がらないのに、あたくしだけいただくのも……」
「あら、そんなこと気にしないで。今、とても不思議な気持ちなの。
わたしはアイラが苦手だった。それに砦ではあんな別れ方になったから、気になっていたの。どこかで穏やかに幸せになってくれているといいと思った」
アイラのワゴンを持つ手がギュッときつく握りしめられた。
アイラはやっぱりわたしのことを嫌いなままだ。見下している相手から幸せになって欲しいと言われ、マウントを取られた気がして、我慢ならなくなっているのかも。
そうね、そんな気がなくても、アイラの引っかかるどこかで、わたしはマウントをとっているのかもしれない。
でもそこは置いておいても、幸せになって欲しいと思ったのは本当だ。
「あなたは天職に出会い、凄腕の術師になっていた。そしてわたしの解呪もしてくれた。本当に凄いわ。あなたみたいな人が近くにいてくれて、とても心強いわ」
わたしは術が効きだして、アイラに傾倒しだしているアピールをした。
こう言われたら、そのわたしが言うことを断りにくいでしょ?
不審感をもたれたら、依存するのに時間がかかってしまうかもしれないものね。
魔石は取り続ける必要があるみたいだから、1回食べたぐらいじゃぼーっとしないんじゃない? だったら、ここはアイラ、食べて見せなきゃ。
これからも簡単に魔石を入れられるのは嫌なので、警戒心を持ってもらわないと。そのために、今日は自分で用意したものを食べてもらいましょう。
アイラは渋々自分のお膳を準備して、凄い勢いで全て食べた。そして失礼しますとわたしに告げてから急いで部屋を出て行った。
『凄い目で睨んでおったぞ?』
「知ってる。でもこれでわかったでしょう。自分が口にすることになる可能性もあるって。これからはもう少し慎重になると思うわ」
何にでもホイホイ魔石を入れられたら、めんどくさくてたまらないから。
ふうと息をつく。でも同時に思う。
わたしはアイラに対して認識を変えた方がいいかもしれない。
ヤバい奴だとは認めたけど、言葉遣いもなっていないし、言動が粗野だ。すぐにバレそうなことを言って取り繕ったりするから、失礼だけど賢そうには感じなかった。
でも、そう見せているだけなのかもしれない。魔石入りの食事を取った、賢いかどうかはおいておいても、この一連のことに対する覚悟は本物だ。
そうだね、仮にも王族に仕掛けたんだ。そんじょそこらの思い入れでできることではない。何がアイラをそこまで駆り立てたんだろう?
「リディアさま、おやすみになってなかったのですか?」
「アイラ、顔が青いわ。具合が悪いのじゃない?」
吐いてきたんだろうけど、魔石は魔素のように、体内に入れば吸収されるものだと思うから、物理的には意味ないだろうね。心情的にはわかるけど。
「いいえ、そんなことはありません」
「本当に大丈夫?」
「ええ。さ、おやすみになってください」
「アイラ、お話しして!」
わたしは小さい子がねだるような声音で、アイラにお願いをする。
「お話?」
「なんでもいいわ。眠くなるように、アイラの話が聞きたい」
「物語なんて知りません……」
「物語じゃなくて、なんでもいいのよ。たとえばアイラの経験してきたこととか。呪術を習っているときのことなんかでも」
わたしは布団の中に潜りこんで眠る態勢を整え、アイラの話を待った。
アイラのこめかみがピクピクしている。
物語を聴きながら眠りたい? だから甘ちゃんのお嬢さまってのは嫌なのよって思ってそうだ。
嗚呼、アイラの嫌がることを仕掛けるの、少し楽しい。絶対性格悪くなるね、これ。だから嫌いな人とかかわるべきじゃないんだと思う。
「面白い話なんてありませんよ。そうですねー。では、馬鹿な父の話でもしましょうか」
アイラはベッドの横に椅子を近づけた。
そこに座る。
「砦を出てから、町や村を転々としました。仕事をもらってその日ぐらしをしてました。父がいつも一緒にいてくれて、絶えずあたくしの気持ちを聞くのです。思いあがってはいけないと、諭されました。
人は生まれによって、幸せの量が決まっているそうです。
だから持って生まれた器以上を望んではいけないと。
小さい頃はよくわからなかったけど、ひどいこと言ってますよね。夢も希望もなくなることを。でもちっとも構わなかった。父といられて幸せだったから」
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