プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
671 / 926
15章 あなたとわたし

第671話 彼女のはかりごと⑥女優

しおりを挟む
「侮辱? なんですか、証拠もないのにフランツくんをクラウス氏だと言ったことですか?」

「いいえ、それは事実だろうが、事実ではなかろうが、あまり関係ありませんわ。あなたは今、第1王子殿下の元婚約者の心を勝手に推測し、第1王子殿下、そして元婚約者のメロディー公爵令嬢。その引き合いに、幼くして亡くなられたクラウスさま、それからフランツさま、並びにその元婚約者のわたしの、人を想う気持ちを侮辱したんですわ」

「令嬢、ひとつ教えて差し上げます。想いに名前をつけられはしませんよ。感情を損なっただけのこと、そんな意見が議会や裁判で通るとでも?」

「あら、ここで発言を省みるならと、ことを荒立てないために、逃げ道を用意してさしあげましたのに。ロサさま、わたしからではなく、サマリン伯爵さまから、〝裁判〟という言葉を出してきたこと、証言してくださいませね」

「ああ、聞いていたよ。サマリン伯が、〝議会〟と〝裁判〟と言い出した」

 ロサが冷静に言ったので、そこでサマリン伯は風向きが怪しい?と感じたようだ。余裕しかなかった表情が引き締まった。

「それでは、裁判などが大好きな大人のお話をしましょう。ご存知でしょう? 婚約は子供の口約束でできるものではありませんわ。特に貴族は最終的に国からの許可をいただくのです。それは陛下がお認めになったということ。最初はメロディー嬢とクラウスさま。メロディー嬢と第1王子殿下、そして、わたしとフランツさま。この3組の婚約を、あなたは侮り侮辱したんですわ。陛下に進言いたします」

 まさか攻撃を受けるとは思っていなかったんだろう。驚いている。
 でもみんなで決めた。敵を炙り出すために、わたしたちは傍若無人に振る舞うと。サマリン伯が敵かどうかわからないけど、わたしたちに反発心を持って欲しいからやりあうつもりだった。向こうから、変なところに突っかかってきてくれたので手間が省けた。
 まさか〝兄さまクラウス説〟を出してくるとは思わなかったけど。
 でも本当のところ、わたしとメロディー嬢の因縁があると知った誰かが、メロディー嬢がクラウスさまの婚約者だったことを思い出し、そして兄さまがクラウスさまではないかと噂が出たのだから、そこに繋がりを持たせる人は出てくると思ってた。っていうか、今まで出なかった方が不思議だ。
 サマリン伯はふっと笑った。

「12歳にして、頭の回転も早く、度胸もある。王子殿下のパートナーに、なるべくしてなったようだ……」

 試したってこと?

「私は現バイエルン侯の……」

 そこまで言って、彼はドアに目を走らせ、人差し指を口にたてた。この件に口を閉ざす合図だろう。
 ガチャっとノブが回って、入ってきたのはカートを押しているアイラだった。
 茶器とポットとカップなどが用意されているけど……お茶の用意をするのにどんだけ時間をかけてるんだ。と、わたしは呑気に思った。

「ずいぶん時間がかかったようね」

 いなくてよかったんだけど、と言葉を飲み込む。
 アイラは少し頬を膨らます。

「ひどいんですよー。まったくリディアさまのことを敬ってなくて。リディアさまのお茶だと言ったのに、最後に回されたんです。抗議するって言っておきました!」

 やられた。
 わたしはこめかみを押さえた。
 王族の婚約者はフリではあるものの、しばらく城でお世話になる。それはお城で働く従業員のお世話になるということだ。

 元々いい印象ではないので、控えめに付きあっていきたかったが、こいつは高飛車な権力をかさに振るう婚約者の侍女だと吹聴してきたわけね。最後に回されたということは、最初から嫌な態度をとったのだろう。
 結果、なんてわたしに対する地味な嫌がらせ!
 人型に戻ったわたしの評判は、最初から最悪になるだろう。

「リディアさま、お疲れなのでは? 顔色がお悪いです」

 あんたの嫌がらせが効いてるのよと、言ってしまいたい。
 顔を合わせれば、体調を聞いてくるってことは、そろそろ術の効き目が現れる頃なのかもしれない。
 なんで術が効かないのかしら?と探られたら、術の残滓がないってわかってしまうかもしれない。探られる前に、少しずつアイラに依存していかなければ。
 サマリン伯はアイラがいたら、話さないだろうし、少しばかり依存が効いてきたをアピールしとくか。

「そうね、少し疲れたわ」

「では、調書はまた時間を空けて、午後に参ります」

 ベアが尻尾をわたしの手に巻きつける挨拶をしてから、人の目につかないようにしてサマリン伯について行く。

 アイラはわたしは少し横になるべきと、ロサまで言葉巧みに追い出そうとした。
 ロサがふたりにして平気か?と視線を送ってきたので頷く。

「リディアさま、お休みになる前にお茶を飲みませんか? 心を鎮める効果のあるお茶なんです」

 鑑定してみると、ジャスミン茶だ。爽やかでスッキリした香りと味だったはず。何かを混ぜてもわかりにくいかもしれない。
 でも、何も入れてないようなので、いただくことにした。わたしは話しかける。

「アイラはわたしが嫌いでしょう? なのにどうして良くしてくれるの? 殿下たちから命を受けたから? だったら、別にわたしの世話をしなくても守ってもらえるようにお願いするわ。無理しなくていいのよ」

 しおらしく言うと、もふさまとレオがあんぐり口を開けている。

「まあ、リディアさまはそんなふうに考えていたのですか。変わられたと思ったけど、心根は変わってないのですね。お優しい」

 アイラはニヤリとした。

「嫌ってなどいませんよ。あのいつも泣いていたリディアさまが、貴族としてのマナーを身につけ、堂々としていらっしゃるのが嬉しいぐらいです」

「昨日は嫌なことを言って、ごめんなさい」

 わたしは女優と唱えながら、上目遣いにアイラをみつめる。
 向こうからはそこまで見えてないだろうけど。

『リディア、尊敬するぞ』

『ああ、嫌な相手に、なかなかできることではない。その目も、本当にそう思っているように見えるぞ』

 ちゃちゃいれないで~!
 ふたりは純粋に応援してくれているのだろうけど、笑いそうになっちゃうから!
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。

ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」 ──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。 「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」 婚約者にそう言われたフェリシアは── (え、絶対嫌なんですけど……?) その瞬間、前世の記憶を思い出した。 彼女は五日間、部屋に籠った。 そして、出した答えは、【婚約解消】。 やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。 なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。 フェリシアの第二の人生が始まる。 ☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...