669 / 894
15章 あなたとわたし
第669話 彼女のはかりごと④小さき者
しおりを挟む
地下基地では兄さまとソックスが迎えてくれる。
ソックスはアダムの胸に飛び込んだ。アダムもまんざらではない様子。
抱き込んで頭を撫でている。ふたりの絆のようなものを感じた。
あれ、アオは?
うっかりアオが話すと人に聞こえてしまうので、ソックスの通訳ということでアオには地下に残ってもらっていたんだ。
兄さまから、それを話すとちょっと長くなるので、食事をしてからにしましょうと促された。そういえばお昼をぬいたと思うと、急にお腹が空いてきた。
兄さまの料理の腕が上がっている。おいしいし、お腹がいっぱいになると、おおらかな気持ちになってきた。それはわたしだけではなくて、アダムもロサも同じなようだ。
兄さまがお茶を入れてくれた。あ、枇杷茶だ。
気持ちがほっこりしてくる。
「これは飲んでしばらくすると、喉が通ったような感じがするね」
枇杷茶といって、ウチの枇杷の木の葉から作っているんだというと、ふたりとも感嘆の声をあげた。
兄さまは、ひとりだけ地下基地に2日もいて、こちらの情報はわからなかった。
早く知りたいだろうに、まず、アオのことを教えてくれた。
今日の午後、ルシオがひとりでやってきたそうだ。
相談内容が衝撃的だった。
昨日の夕方からいっときの記憶がないそうだ。
ルシオは昨日も教会に行っていた。そこで誰からか声を掛けられ、そこから記憶がない。
でも普通に家に帰り、食事をして眠っていたそうだ。
お付きの侍女がルシオの帰宅を見ている。彼女はそこで引き継ぎをして休んだ。朝の引き継ぎで、交代していた侍女から、ルシオが昨日はお風呂に入らなかったことを聞いたそうだ。それで、具合が悪かったのかと確かめられたらしい。
そして昨日の、その誰かに声を掛けられてから、記憶がないことに気づいた。
もしかしたら、誰かに術のようなものを掛けられ、持っている情報を何か話してしまったかもしれないと、顔を青くしていたそうだ。
そんなルシオにアオが尋ねた。誰と会った?と。
ルシオは教会にいるから、いっぱいの信者の人と会っていると言った。
アオはルシオに小さき者の残滓があると言ったそうだ。
小さき者ってなんだ?って話だけど。
もふもふ軍団は少し前、エレブ共和国の農場のトップであるマンドリンのところに偵察に行っていた。
マンドリンは始終、手紙のやり取りをしていたそうだ。その中で、伝達魔法の手紙を、言葉にして、証拠を残さないようにしていた人がいるという。
伝達魔法のほとんどは手紙を魔法で送ることだけど、魔力を多く使うと言葉をそのまま伝え届けることができる。短い言葉に限るけど。レオは〝言葉〟で届けていた。
その中で割と長いセンテンスなのに、言葉で届けていた者がいたらしい。それが証拠を残さないようにしているようで、どうにも気になったもふもふ軍団。
アオが虫をテイムして、そのテイムした小さき者を、マンドリンが送る手紙に入れこむということをしてみた。
小さき者というか、虫は小さすぎるというか、思考がそう複雑にあるものではないので、意思の疎通はできないし、複雑なお願いはできない。が、近くにいれば、アオは自分がテイムした者かどうかがわかる。
うまくいくかわからないから言わなかったものの、なんでもやってみるべきだのコンセプトで、小さき者を手紙に忍ばせてみたらしい。
その小さき者の微かな気配が、ルシオからしたという。
マンドリンが連絡を取り合っている人が、ルシオと接触したということだ。
アオはそれが誰だか探るために、ルシオについて行った。
もふもふ軍団ってば、そんなことまでしてたのね、賢い!
今度はわたしたちにあったことを話した。
アイラが術を仕込んでいた話をしたとき、兄さまは拳をギュッと固めていた。
それでわたしは慌てて付け足した。
「そうだ、レオが、メラノ公は、アイラを脅したのとは関係ないって言ってた」
「やはりそうか」
「メラノ公は、魂乗っ取りの呪術師集団とは関係ないと?」
『我がレオから聞いたことを伝えよう。肝の据わったおなごのところに、白いなみなみじぃじがきたが、礼儀のないことを叱っていたようだ。四角い堅物と一緒にきたそうだ』
……………………………………。
肝の据わったおなごはアイラ、白いなみなみじぃじはメラノ公で、四角い堅物とはサマリン伯のことだろう。笑うところじゃないんだけど、すっごい真面目に言われると……。レオだって今はちっちゃくなってるけど、高位の魔物なわけで……その子たちが白いなみなみじぃじって!
ふと横を見ると、みんな笑うのを堪えているかのように、口元がふよふよしている。ダメだ、誰かと目を合わせたら笑ってしまう。わたしは口に手をやって堪え、もふさまの説明を聞いた。
白いなみなみじぃじは、いくら知り合いからの紹介といっても、王族にそこまで無礼な態度を取ると、これ以上庇えないと怒ったそうだ。
アイラはしおらしく謝った。そして扉を閉めたとたん、〝あたくしに説教をしたことを後悔させてあげる〟というようなことを口にしたらしい。
食事を持ってきた侍女に何かを渡していたそうだ。
それからお盆の上には食べ物以外に小さな瓶があって、そこには赤く光る細かい砂つぶがめいいっぱい入っていた。
誰かと盛んに伝達魔法のやり取りをしていた。レオは人の文字は読めないから、何を書いているのか誰宛かはわからなかった。
アイラを含む呪術師集団を、メラノ公に紹介した人がいるのね。
公爵に頼み事ができる人。こちらも身分は公爵以上だろう。
メラノ公も絶対に何かにかかわっていると思うけど、魂の乗っ取り班ではないのかもしれない。……まだわからないけど。
ということは、やはり、明日からのアイラの思惑を探るわたしの任務は重要だ。
ソックスはアダムの胸に飛び込んだ。アダムもまんざらではない様子。
抱き込んで頭を撫でている。ふたりの絆のようなものを感じた。
あれ、アオは?
うっかりアオが話すと人に聞こえてしまうので、ソックスの通訳ということでアオには地下に残ってもらっていたんだ。
兄さまから、それを話すとちょっと長くなるので、食事をしてからにしましょうと促された。そういえばお昼をぬいたと思うと、急にお腹が空いてきた。
兄さまの料理の腕が上がっている。おいしいし、お腹がいっぱいになると、おおらかな気持ちになってきた。それはわたしだけではなくて、アダムもロサも同じなようだ。
兄さまがお茶を入れてくれた。あ、枇杷茶だ。
気持ちがほっこりしてくる。
「これは飲んでしばらくすると、喉が通ったような感じがするね」
枇杷茶といって、ウチの枇杷の木の葉から作っているんだというと、ふたりとも感嘆の声をあげた。
兄さまは、ひとりだけ地下基地に2日もいて、こちらの情報はわからなかった。
早く知りたいだろうに、まず、アオのことを教えてくれた。
今日の午後、ルシオがひとりでやってきたそうだ。
相談内容が衝撃的だった。
昨日の夕方からいっときの記憶がないそうだ。
ルシオは昨日も教会に行っていた。そこで誰からか声を掛けられ、そこから記憶がない。
でも普通に家に帰り、食事をして眠っていたそうだ。
お付きの侍女がルシオの帰宅を見ている。彼女はそこで引き継ぎをして休んだ。朝の引き継ぎで、交代していた侍女から、ルシオが昨日はお風呂に入らなかったことを聞いたそうだ。それで、具合が悪かったのかと確かめられたらしい。
そして昨日の、その誰かに声を掛けられてから、記憶がないことに気づいた。
もしかしたら、誰かに術のようなものを掛けられ、持っている情報を何か話してしまったかもしれないと、顔を青くしていたそうだ。
そんなルシオにアオが尋ねた。誰と会った?と。
ルシオは教会にいるから、いっぱいの信者の人と会っていると言った。
アオはルシオに小さき者の残滓があると言ったそうだ。
小さき者ってなんだ?って話だけど。
もふもふ軍団は少し前、エレブ共和国の農場のトップであるマンドリンのところに偵察に行っていた。
マンドリンは始終、手紙のやり取りをしていたそうだ。その中で、伝達魔法の手紙を、言葉にして、証拠を残さないようにしていた人がいるという。
伝達魔法のほとんどは手紙を魔法で送ることだけど、魔力を多く使うと言葉をそのまま伝え届けることができる。短い言葉に限るけど。レオは〝言葉〟で届けていた。
その中で割と長いセンテンスなのに、言葉で届けていた者がいたらしい。それが証拠を残さないようにしているようで、どうにも気になったもふもふ軍団。
アオが虫をテイムして、そのテイムした小さき者を、マンドリンが送る手紙に入れこむということをしてみた。
小さき者というか、虫は小さすぎるというか、思考がそう複雑にあるものではないので、意思の疎通はできないし、複雑なお願いはできない。が、近くにいれば、アオは自分がテイムした者かどうかがわかる。
うまくいくかわからないから言わなかったものの、なんでもやってみるべきだのコンセプトで、小さき者を手紙に忍ばせてみたらしい。
その小さき者の微かな気配が、ルシオからしたという。
マンドリンが連絡を取り合っている人が、ルシオと接触したということだ。
アオはそれが誰だか探るために、ルシオについて行った。
もふもふ軍団ってば、そんなことまでしてたのね、賢い!
今度はわたしたちにあったことを話した。
アイラが術を仕込んでいた話をしたとき、兄さまは拳をギュッと固めていた。
それでわたしは慌てて付け足した。
「そうだ、レオが、メラノ公は、アイラを脅したのとは関係ないって言ってた」
「やはりそうか」
「メラノ公は、魂乗っ取りの呪術師集団とは関係ないと?」
『我がレオから聞いたことを伝えよう。肝の据わったおなごのところに、白いなみなみじぃじがきたが、礼儀のないことを叱っていたようだ。四角い堅物と一緒にきたそうだ』
……………………………………。
肝の据わったおなごはアイラ、白いなみなみじぃじはメラノ公で、四角い堅物とはサマリン伯のことだろう。笑うところじゃないんだけど、すっごい真面目に言われると……。レオだって今はちっちゃくなってるけど、高位の魔物なわけで……その子たちが白いなみなみじぃじって!
ふと横を見ると、みんな笑うのを堪えているかのように、口元がふよふよしている。ダメだ、誰かと目を合わせたら笑ってしまう。わたしは口に手をやって堪え、もふさまの説明を聞いた。
白いなみなみじぃじは、いくら知り合いからの紹介といっても、王族にそこまで無礼な態度を取ると、これ以上庇えないと怒ったそうだ。
アイラはしおらしく謝った。そして扉を閉めたとたん、〝あたくしに説教をしたことを後悔させてあげる〟というようなことを口にしたらしい。
食事を持ってきた侍女に何かを渡していたそうだ。
それからお盆の上には食べ物以外に小さな瓶があって、そこには赤く光る細かい砂つぶがめいいっぱい入っていた。
誰かと盛んに伝達魔法のやり取りをしていた。レオは人の文字は読めないから、何を書いているのか誰宛かはわからなかった。
アイラを含む呪術師集団を、メラノ公に紹介した人がいるのね。
公爵に頼み事ができる人。こちらも身分は公爵以上だろう。
メラノ公も絶対に何かにかかわっていると思うけど、魂の乗っ取り班ではないのかもしれない。……まだわからないけど。
ということは、やはり、明日からのアイラの思惑を探るわたしの任務は重要だ。
129
お気に入りに追加
1,311
あなたにおすすめの小説

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
【連載再開】
長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^)
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜
八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」
侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。
その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。
フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。
そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。
そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。
死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて……
※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる