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15章 あなたとわたし
第669話 彼女のはかりごと④小さき者
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地下基地では兄さまとソックスが迎えてくれる。
ソックスはアダムの胸に飛び込んだ。アダムもまんざらではない様子。
抱き込んで頭を撫でている。ふたりの絆のようなものを感じた。
あれ、アオは?
うっかりアオが話すと人に聞こえてしまうので、ソックスの通訳ということでアオには地下に残ってもらっていたんだ。
兄さまから、それを話すとちょっと長くなるので、食事をしてからにしましょうと促された。そういえばお昼をぬいたと思うと、急にお腹が空いてきた。
兄さまの料理の腕が上がっている。おいしいし、お腹がいっぱいになると、おおらかな気持ちになってきた。それはわたしだけではなくて、アダムもロサも同じなようだ。
兄さまがお茶を入れてくれた。あ、枇杷茶だ。
気持ちがほっこりしてくる。
「これは飲んでしばらくすると、喉が通ったような感じがするね」
枇杷茶といって、ウチの枇杷の木の葉から作っているんだというと、ふたりとも感嘆の声をあげた。
兄さまは、ひとりだけ地下基地に2日もいて、こちらの情報はわからなかった。
早く知りたいだろうに、まず、アオのことを教えてくれた。
今日の午後、ルシオがひとりでやってきたそうだ。
相談内容が衝撃的だった。
昨日の夕方からいっときの記憶がないそうだ。
ルシオは昨日も教会に行っていた。そこで誰からか声を掛けられ、そこから記憶がない。
でも普通に家に帰り、食事をして眠っていたそうだ。
お付きの侍女がルシオの帰宅を見ている。彼女はそこで引き継ぎをして休んだ。朝の引き継ぎで、交代していた侍女から、ルシオが昨日はお風呂に入らなかったことを聞いたそうだ。それで、具合が悪かったのかと確かめられたらしい。
そして昨日の、その誰かに声を掛けられてから、記憶がないことに気づいた。
もしかしたら、誰かに術のようなものを掛けられ、持っている情報を何か話してしまったかもしれないと、顔を青くしていたそうだ。
そんなルシオにアオが尋ねた。誰と会った?と。
ルシオは教会にいるから、いっぱいの信者の人と会っていると言った。
アオはルシオに小さき者の残滓があると言ったそうだ。
小さき者ってなんだ?って話だけど。
もふもふ軍団は少し前、エレブ共和国の農場のトップであるマンドリンのところに偵察に行っていた。
マンドリンは始終、手紙のやり取りをしていたそうだ。その中で、伝達魔法の手紙を、言葉にして、証拠を残さないようにしていた人がいるという。
伝達魔法のほとんどは手紙を魔法で送ることだけど、魔力を多く使うと言葉をそのまま伝え届けることができる。短い言葉に限るけど。レオは〝言葉〟で届けていた。
その中で割と長いセンテンスなのに、言葉で届けていた者がいたらしい。それが証拠を残さないようにしているようで、どうにも気になったもふもふ軍団。
アオが虫をテイムして、そのテイムした小さき者を、マンドリンが送る手紙に入れこむということをしてみた。
小さき者というか、虫は小さすぎるというか、思考がそう複雑にあるものではないので、意思の疎通はできないし、複雑なお願いはできない。が、近くにいれば、アオは自分がテイムした者かどうかがわかる。
うまくいくかわからないから言わなかったものの、なんでもやってみるべきだのコンセプトで、小さき者を手紙に忍ばせてみたらしい。
その小さき者の微かな気配が、ルシオからしたという。
マンドリンが連絡を取り合っている人が、ルシオと接触したということだ。
アオはそれが誰だか探るために、ルシオについて行った。
もふもふ軍団ってば、そんなことまでしてたのね、賢い!
今度はわたしたちにあったことを話した。
アイラが術を仕込んでいた話をしたとき、兄さまは拳をギュッと固めていた。
それでわたしは慌てて付け足した。
「そうだ、レオが、メラノ公は、アイラを脅したのとは関係ないって言ってた」
「やはりそうか」
「メラノ公は、魂乗っ取りの呪術師集団とは関係ないと?」
『我がレオから聞いたことを伝えよう。肝の据わったおなごのところに、白いなみなみじぃじがきたが、礼儀のないことを叱っていたようだ。四角い堅物と一緒にきたそうだ』
……………………………………。
肝の据わったおなごはアイラ、白いなみなみじぃじはメラノ公で、四角い堅物とはサマリン伯のことだろう。笑うところじゃないんだけど、すっごい真面目に言われると……。レオだって今はちっちゃくなってるけど、高位の魔物なわけで……その子たちが白いなみなみじぃじって!
ふと横を見ると、みんな笑うのを堪えているかのように、口元がふよふよしている。ダメだ、誰かと目を合わせたら笑ってしまう。わたしは口に手をやって堪え、もふさまの説明を聞いた。
白いなみなみじぃじは、いくら知り合いからの紹介といっても、王族にそこまで無礼な態度を取ると、これ以上庇えないと怒ったそうだ。
アイラはしおらしく謝った。そして扉を閉めたとたん、〝あたくしに説教をしたことを後悔させてあげる〟というようなことを口にしたらしい。
食事を持ってきた侍女に何かを渡していたそうだ。
それからお盆の上には食べ物以外に小さな瓶があって、そこには赤く光る細かい砂つぶがめいいっぱい入っていた。
誰かと盛んに伝達魔法のやり取りをしていた。レオは人の文字は読めないから、何を書いているのか誰宛かはわからなかった。
アイラを含む呪術師集団を、メラノ公に紹介した人がいるのね。
公爵に頼み事ができる人。こちらも身分は公爵以上だろう。
メラノ公も絶対に何かにかかわっていると思うけど、魂の乗っ取り班ではないのかもしれない。……まだわからないけど。
ということは、やはり、明日からのアイラの思惑を探るわたしの任務は重要だ。
ソックスはアダムの胸に飛び込んだ。アダムもまんざらではない様子。
抱き込んで頭を撫でている。ふたりの絆のようなものを感じた。
あれ、アオは?
うっかりアオが話すと人に聞こえてしまうので、ソックスの通訳ということでアオには地下に残ってもらっていたんだ。
兄さまから、それを話すとちょっと長くなるので、食事をしてからにしましょうと促された。そういえばお昼をぬいたと思うと、急にお腹が空いてきた。
兄さまの料理の腕が上がっている。おいしいし、お腹がいっぱいになると、おおらかな気持ちになってきた。それはわたしだけではなくて、アダムもロサも同じなようだ。
兄さまがお茶を入れてくれた。あ、枇杷茶だ。
気持ちがほっこりしてくる。
「これは飲んでしばらくすると、喉が通ったような感じがするね」
枇杷茶といって、ウチの枇杷の木の葉から作っているんだというと、ふたりとも感嘆の声をあげた。
兄さまは、ひとりだけ地下基地に2日もいて、こちらの情報はわからなかった。
早く知りたいだろうに、まず、アオのことを教えてくれた。
今日の午後、ルシオがひとりでやってきたそうだ。
相談内容が衝撃的だった。
昨日の夕方からいっときの記憶がないそうだ。
ルシオは昨日も教会に行っていた。そこで誰からか声を掛けられ、そこから記憶がない。
でも普通に家に帰り、食事をして眠っていたそうだ。
お付きの侍女がルシオの帰宅を見ている。彼女はそこで引き継ぎをして休んだ。朝の引き継ぎで、交代していた侍女から、ルシオが昨日はお風呂に入らなかったことを聞いたそうだ。それで、具合が悪かったのかと確かめられたらしい。
そして昨日の、その誰かに声を掛けられてから、記憶がないことに気づいた。
もしかしたら、誰かに術のようなものを掛けられ、持っている情報を何か話してしまったかもしれないと、顔を青くしていたそうだ。
そんなルシオにアオが尋ねた。誰と会った?と。
ルシオは教会にいるから、いっぱいの信者の人と会っていると言った。
アオはルシオに小さき者の残滓があると言ったそうだ。
小さき者ってなんだ?って話だけど。
もふもふ軍団は少し前、エレブ共和国の農場のトップであるマンドリンのところに偵察に行っていた。
マンドリンは始終、手紙のやり取りをしていたそうだ。その中で、伝達魔法の手紙を、言葉にして、証拠を残さないようにしていた人がいるという。
伝達魔法のほとんどは手紙を魔法で送ることだけど、魔力を多く使うと言葉をそのまま伝え届けることができる。短い言葉に限るけど。レオは〝言葉〟で届けていた。
その中で割と長いセンテンスなのに、言葉で届けていた者がいたらしい。それが証拠を残さないようにしているようで、どうにも気になったもふもふ軍団。
アオが虫をテイムして、そのテイムした小さき者を、マンドリンが送る手紙に入れこむということをしてみた。
小さき者というか、虫は小さすぎるというか、思考がそう複雑にあるものではないので、意思の疎通はできないし、複雑なお願いはできない。が、近くにいれば、アオは自分がテイムした者かどうかがわかる。
うまくいくかわからないから言わなかったものの、なんでもやってみるべきだのコンセプトで、小さき者を手紙に忍ばせてみたらしい。
その小さき者の微かな気配が、ルシオからしたという。
マンドリンが連絡を取り合っている人が、ルシオと接触したということだ。
アオはそれが誰だか探るために、ルシオについて行った。
もふもふ軍団ってば、そんなことまでしてたのね、賢い!
今度はわたしたちにあったことを話した。
アイラが術を仕込んでいた話をしたとき、兄さまは拳をギュッと固めていた。
それでわたしは慌てて付け足した。
「そうだ、レオが、メラノ公は、アイラを脅したのとは関係ないって言ってた」
「やはりそうか」
「メラノ公は、魂乗っ取りの呪術師集団とは関係ないと?」
『我がレオから聞いたことを伝えよう。肝の据わったおなごのところに、白いなみなみじぃじがきたが、礼儀のないことを叱っていたようだ。四角い堅物と一緒にきたそうだ』
……………………………………。
肝の据わったおなごはアイラ、白いなみなみじぃじはメラノ公で、四角い堅物とはサマリン伯のことだろう。笑うところじゃないんだけど、すっごい真面目に言われると……。レオだって今はちっちゃくなってるけど、高位の魔物なわけで……その子たちが白いなみなみじぃじって!
ふと横を見ると、みんな笑うのを堪えているかのように、口元がふよふよしている。ダメだ、誰かと目を合わせたら笑ってしまう。わたしは口に手をやって堪え、もふさまの説明を聞いた。
白いなみなみじぃじは、いくら知り合いからの紹介といっても、王族にそこまで無礼な態度を取ると、これ以上庇えないと怒ったそうだ。
アイラはしおらしく謝った。そして扉を閉めたとたん、〝あたくしに説教をしたことを後悔させてあげる〟というようなことを口にしたらしい。
食事を持ってきた侍女に何かを渡していたそうだ。
それからお盆の上には食べ物以外に小さな瓶があって、そこには赤く光る細かい砂つぶがめいいっぱい入っていた。
誰かと盛んに伝達魔法のやり取りをしていた。レオは人の文字は読めないから、何を書いているのか誰宛かはわからなかった。
アイラを含む呪術師集団を、メラノ公に紹介した人がいるのね。
公爵に頼み事ができる人。こちらも身分は公爵以上だろう。
メラノ公も絶対に何かにかかわっていると思うけど、魂の乗っ取り班ではないのかもしれない。……まだわからないけど。
ということは、やはり、明日からのアイラの思惑を探るわたしの任務は重要だ。
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