プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第668話 彼女のはかりごと③脅された

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「お待ちください!」

 アイラが必死の形相で言った。そして床に這いつくばり頭を下げた。

「申し訳ございません。あ、あれは、そうするよう脅されたのでございます」

 やっぱり、バックがいたのか。
 アダムと目が合う。

「ほう、それは誰にだ?」

 ロサが剣先をアイラに突きつける。

「そ、それは……。あの、口にしたらあたくしは殺されてしまいます。あたくしを守っていただけますか?」

 ビュン

「ヒィ!」

 ロサの剣が振るわれて、アイラの髪の一部が床に落ちた。

「その者に殺されるのを待つまでもない。私が今ここで、お前の息の根を止める」

 迫真の演技に、わたしは布団を握りしめていた。

「メ、メラノ公爵さまです! 王子殿下に、本物の第1王子殿下はどこにいる?と尋ねればいいと言われました! 偽物だと言うように言われました。貴族に脅されたら、あたくしたち平民など従うしかありません。どうか憐れに思い、命はお助けください」

『嘘だ。メラノ公爵はこの者の振る舞いをたしなめていたけど、その件とは関係なかった!』

 え。レオは何かをつかんでいるんだね。
 それをふたりに伝えたいけど、アイラがいるから難しい。

「本当にメラノ公爵さまに、脅されたのですか?」

 尋ねれば、アイラは涙いっぱいの顔で訴えた。

「はい。そうでなかったら、そんな恐ろしいことは致しません。だって、そんな無礼なことを言ったら、その場で命を落としてもおかしくありませんでしたから! でもできなかったら、仲間を……あたくしを殺すだけでなく、呪術師の他の仲間もリディアさまを呪った犯人にでっち上げて、みんな処刑すると言いました。それで……」

 と床に顔をつけて泣き出した。

「お前はメラノ公はどんな目的で、そんなことを言わせたのだと思う?」

 グズグズ泣きながら少しだけ顔を上げるアイラ。

「それは……リディアさまのお姿を戻すのを、遅らせたかったからだと思います」

 アダムとロサの視線が交錯した。
 ふたりはレオの声が聞こえてないわけだけど、アイラの言葉をそのまま信じてはいないようだ。問われて用意したアイラの答えも、先にアダムやロサが示したのと同じもの。
 誰が命令したにせよ、本当にわたしが人型に戻るのを引き止めるためで、アダムが偽物ってわかってないのかな? それとも演技か。でもそこをピンポイントで聞いたらヤブヘビになるし。

 でもさ、変じゃない? アイラをアダムに紹介したのはメラノ公爵だ。アイラの失態はメラノ公爵にも響く。
 とんでも発言をして生きているアイラは運がいい。本当のことだからと確信があったのかと最初は思ったけど、そうでもないっぽい。
 っていうか、普通、すぐ息の根を止められるか、牢屋行きだ。そんなリスクを侵すか? 確証があるのなら、アイラに言わせるより、もっと確実な逃げ場のないところでアダムを吊し上げるのが一般的じゃないだろうか。

「私がお前の首をはねず、なおかつ黙っている条件で言うことをききそうなら、お前に解呪をさせるよう言ったのか?」

 スッとアイラの表情が引き締まる。

「公爵さまは殿下に紹介してやったのだから、絶対に結果を持ち帰れと言いました。ここまで来て術のひとつも披露しないのなら、自分の面目が丸潰れだと。そんなことになったら仲間も一緒に葬り去ると。それが嫌なら殿下が本物ではないとでもうそぶいて、気をひくなりして呪術師の仕事をしろ、と」

 ん? 話の順序の持っていき方で、全然違う話になるじゃん!
 最初の言い方だと、アダムが偽物と知っていると脅すことが目的に聞こえていた。その結果の副産物として〝解呪〟の権利を得た。首をはねられていたかもしれないし、そうなったらわたしの人型に戻すのはストップがかかっただろう。アダム偽物疑惑をなんとかしてからではないと、わたしの変化自体も本当のことかわからなくてもっと恐ろしいことをしようとしているかもしれないと思われ、調べて疑惑が完璧になくなってからじゃないと話は進まなかっただろう。

 けれど、今の話だと、脅した人は、殿下やわたしを攻撃したかったのではなく、自分のメンツを守るために気をひく策を与えたって感じだ。
 って言うか、脅してきた人はそう言ったのに、丸ごとこう脅されたとわたしたちに思わせようとしたんじゃないの?
 まだ嘘をついている、というか、言ってないことがある気がする。
 アイラは唇を噛みしめうなだれているフリで、アダムとロサの様子を探っているように見える。

「……お前、メラノ公に脅されたと、裁判で証言できるか?」

「そ、それまで……あたくしと仲間を守ってくださるのなら」

 アダムとロサは、ふたりで小声で少し話す。

「リディア」

 ロサに手を取られる。

「仲が悪かったようだから嫌だろうけど、この者をしばらく侍女にして、過ごしてくれないだろうか?」

 そうか、メラノ公を追い詰めるため、アイラの証言がいるとすれば、守るようなことをしても不思議ではないね。そうやって、わたしの近くに置いて、真のアイラの狙いを探るんだ。

「……わかり、ましたわ」

「! ありがとうございます。あたくし、命に変えましてもリディアさまも守ります。尽くします!」

 変わり身の早いこと!
 ふたりはアイラに口止めした。メラノ公に自分たちに言いつけてしまったことは言わないこと。これからもメラノ公に何か言われたらそれに従うようなふりをして、それをわたしたちに伝えること。表向きには少しの間、昼間わたしの侍女のようなことをすること、と。

 では明日からと、アイラを部屋に返した。
 レオはまたアイラについて行った。
 わたしたちが話していた間に、レオは詳細をもふさまに話しておいたと言った。
 レオ、できるやつ!

 わたしたちは、城の続き部屋に引き続きいるふりをして、地下基地へと帰った。歩けると言ったけど、念のためとロサにお姫さま抱っこで運ばれた。
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