プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第667話 彼女のはかりごと②キーワード

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 トルマリン氏を部屋へと送り、わたしたちだけで作戦会議だ。
 アイラはわたしに術をかけた。
 しかも、ケッ! アイラに依存だって?

「アイラはわたしに依存させて、何かさせたいことがあるってことよね?」

 鼻息も荒く尋ねれば、ロサが相槌を打つ。

「だろうねぇ」

「術にかかっているふり、できそう?」

 アダムに尋ねられて、わたしは息を整える。

「やるわ」

 できないことでもやってやる。
 そしてアイラから情報を引き出して、何をするつもりなのか、それから仲間や彼女のバックにいる人を知らなくては。



 時間を置いて、3人の術師を部屋に呼ぶ。
 メラノ公、サマリン伯も入ってきて、人型のわたしと挨拶をした。
 少しも嬉しそうではない顔で、お喜び申し上げますと言われる。
 けっ。
 嫌だわ、心がすさみそう。

 まず赤の三つ目氏が、解呪ができているかを診る。
 そして、解呪されていますと言った。
 そう聞くと、微かにアイラの口の端があがった。

 アダムは3人によくやってくれたと褒めて、褒賞の話をした。赤の三つ目氏以外は辞退し、アイラは解呪のアフターフォロー、見届けるためにもう1日わたしの様子をみたいと言った。速攻で断ったが、彼女は主張を変えなかった。
 それにしても、わたしの解呪をさせると言ったら、彼女は約束通りアダムが偽王子の話は全く出さなかったという。その静けさも怖いね。
 もしかして、わたしに言わせるつもりとか? 依存させて、わたしを操って。アダムが偽物と知ってたことで、わたしも罰を受けるように画策しているとかでもいやだな。
 ああ、目的がわからないと、いろいろ考えちゃって疲れる!
 メラノ公からは変化をしたときのことを覚えているかと問われた。

「本当にわたしは、姿が変わっていたのですか?」

 逆にわたしが尋ねる。
 みんなお互いの目を見て驚いている。
 なんでみんな猫のときの記憶があるって思うのさ。
 その後、姿が戻ったということで父さまとの再会のお芝居をしたり、陛下が見舞いにきてくれたりなどした。



 さて、わたしは変化したときあたりから、記憶がはっきりしない令嬢だ。
 魔法士長さま、神官長さま、それからお医者さまにも身体を診てもらった。
 みんな呪いにより変化した一過性?のものと、話を持っていくつもりみたいだ。それにはメラノ公も異論はないようだ。

 明日からサマリン伯がわたしの調査を始めるという。
 主にわたしが、メロディー嬢を陥れたかどうかに焦点を当てるだろうと、アダムが言っていた。

 アダムは始終腕を組み、わたしを気遣う時は言葉だけ、ロサが驚くぐらい気を配ってくれた。そういう役どころらしい。




 次の日、朝一番にアイラがわたしの部屋へやってきた。
 もちろんアダム、ロサ、もふさまもいる。アイラについていたレオが仏頂面だ。あー、彼女を嫌ってそう。

 アイラはわたしの状態を見ると言った。少しの間、ベッド越しに、わたしを眺めるようにして見ていた。

「リディアさま、無事成功しておりました。解呪できております」

 と頭を下げる。

「そう。ご苦労さまでした。もう、下がっていいわ」

 塩対応すると、アイラは悲しそうな顔をした。

「リディアさま、これまでの数々の無礼をお許しください。それから、ひとつだけお尋ねしたいことが」

「なぁに?」

 わたしはできるだけ冷たく言った。

「その……砦のみんなは元気ですか?」

 そのときわたしは〝砦〟がキーワードだったんだろうなと思った。じろりと視線を向けたままでいると、慌てて言葉を付け足す。

「あんなふうに出てしまったから、連絡も取れなくて。みんな元気かなって」

「ええ、元気だと聞いてるわ」

 どれくらいで種から術は育っていくのかしら。すぐには現れないだろうな。
 そこらへんのさじ加減が難しい。

「……そちらこそ、マルティンおじさんはお元気? 一緒に暮らしているの?」

 アイラから一瞬だけ表情が抜け落ちた。

「亡くなりました」

 !

「……そうだったの。お悔やみ申し上げます」

「いえ、自業自得です。悪い女に引っ掛かったんです」

 それはアイラの、心からの言葉のような気がする。

「そんなことより、リディアさま、お加減はいかがですか? 気持ち悪くなったりしていませんか?」

「ええ、大丈夫よ」

「でも顔色が悪いですわ」

『血色は悪くないぞ』

 もふさまが教えてくれる。
 これから情報をつかむために、突き放してもいけないけれど、あんまり近寄りたくもない。

「解呪は問題なくできているのよね?」

 そう尋ねると嬉しそうな顔をした。

「はい、もちろんです。けれど、リディアさまは瘴気が少ないお方。解呪は少々瘴気を活性化させています。それにより、普通の方でも、2日後ぐらいまで体調が悪くなる方がいらっしゃいます。リディアさまの場合、5日は安静にされていた方がいいと思います。あのー、周りに男性ばかりですね。侍女はいらっしゃいませんの? 女性がいた方が、リディアさまも気兼ねなくいられると思うのですけど」

「……どんなものが舞い込むかわからないからな、リディアには素性のしれない者を近づけたくないのだ」

 アダムが打ち合わせ通りのセリフを口にした。
 アイラはわたしの近くにいたいだろうから、甘いシロップを撒いて呼び寄せる。

「でしたら、いかがでしょう? 私に5日間、リディアさまのお世話をさせていただけませんか?」

 乗ってきた。

「結構よ」

 思ったよりキツイ言い方になってしまった。心底嫌だから、思わず本音が。

「私はアイリーンをリディアのそばに置きたくない。なぜなら、アイリーンはリディアの人に戻す邪魔をしようとしたからだ」

「どういうことですか?」

 アダムの告白に、ロサが食いつく。

「あ、あたくしはリディアさまを戻す邪魔などしておりません!」

「この者は、何を思ったか、私が偽物だと言った。そう言いふらされたくなければ、解呪をさせろとな」

 これは揺さぶり作戦だ。
 偽物発言をしたことはアイラの中では終わっているはずだ。
 解呪をアイラにさせたということは、アダムはそう騒ぎたくないと判断したはず。だから蒸し返したりしないと思い込んでいるはず。
 人は思ってもなかったことを言われ、窮地に立たされると、無意識に助けを請うものだ。バックにいる人に無意識に助けを求めて、何か口走るかもしれない。

「義兄上にそんな無礼を。なぜすぐに首をはねなかったのです?」

 演技とわかっていても、激情しているロサは、かなり怖い。

「そんなことをしてみろ。どんな無礼だとしても、私たちをよく思わないものからの意見が出て、リディアを人に戻すことが遅れただろう」

「では、今もう、この者を無礼討ちしても、問題ありませんね」

 ろ、ロサ、どっから剣出した?
 わたしは本当にびっくりした。
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