プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第665話 トルマリンの懺悔④信頼

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「それはもちろん、優秀な呪術師の手を借りたいからです。受けるかどうかはあなたの判断に任せます」

「……お嬢さまと私しか部屋にいないときに、どうして呪いを解いたのです? 私が呪術で何かをしたらどうするんですか!?」

「とりあえず、椅子に座ってください」

 悩んでいるようなので、言葉を足す。

「魔力を使って、少し疲れました。下を見るのは辛いのです。あなたが椅子に座って話せると、楽になるのですが」

 彼はやっと土下座をやめて、椅子に座った。
 わたしはその間、もふさまとアリを撫でていた。
 天蓋付きのベッドは、小さなぬいぐるみのようなアリを隠してくれる。

「私を信頼してくださったのですか?」

 わたしは小さく息をついた。

「あなたのことを何も知りません。信頼なんかできませんわ。
 けれど、あなたを紹介した方がいると聞きました。
 今回に限り、呪術師を罰しないと掲げていますが、情勢が変われば、どうなるかわかりません。それがわかっていながら、自分が罰せられることを顧みずにあなたを紹介してきました。それも付き添った。どんなふうに自分に害があるか分からないのに。男爵はあなたを信頼しているのでしょう。
 わたしは男爵のことも存じ上げませんが、ふたりがお互いに信頼しあっているのだと思いました。その絆を、わたしは信じました」

 それからたとえ首をはねられるとしても、呪術の依頼と向き合う姿勢を見せてもらった。呪術に対する理解度なども優秀だし、とっくに彼を信頼していた。そこは言わないけど。

「……私の手を借りたいこととはなんです?」

「呪い返しの反動の力を借りてあなたにギフトを使ったためか、わたしの中に本当にわずかな、瘴気のかけらが残っていると、ある人から言われました。わたしは瘴気が元々少なく、ゆえに、それが良くないと。ですから、わたしの中の瘴気がなくなるように、解呪してほしいのです」

 トルマリン氏はベッドのレースのカーテン越しに、わたしを覗き込むようにした。

「……問題なくできると思います」

 ほっとする。もふさまもアリも嬉しそうにわたしを見上げる。

「ではすぐに」

「いえ、お願いしたいことは、もうひとつあります」

 彼は生唾を飲んだ。けれど手は膝に置かれていて、忙しく動かしてはいなかった。

「午後に、女性の術師が、わたしに解呪をしてくれることになっています」

 そういうと、彼は頷いた。

「わたしは彼女が解呪ではなく、新たな呪術をかけてくると思っています」

 トルマリン氏は、驚いたように目を見張った。

「術が成立するまでに、時間がかかりますよね?」

 尋ねると、トルマリン氏は頷く。

「成立する前に、わたしにどういった術が施されたかを診てほしいのです。そしてその後に、彼女がかけた術と、わたしの中に燻る瘴気、こちらを引き上げる解呪をしてほしいのです」

「お嬢さまはアイリーンさんと幼なじみだそうですね。けれど、信頼していない。それだったら解呪させなければいいのに……いや、そうさせるしかないのですね。そして術を知りたいということは、そうする必要があるということ。何かあるのですね?」

 彼は自分で疑問を抱いては、答えを予想して口にし、最後にわたしに尋ねた。

「詳しくは言えませんが、彼女の思惑と、彼女に携わる人たちを知りたいのです」

 静けさが舞い降りる。

「……それにしても、お嬢さまが危険すぎるのでは?」

「わたしは命を狙われました。これ以上に危険なことがあるとは思えません」

 そう事実を告げれば、彼は言葉を飲み込んだ。

「術を診ることはできると思います。でも、全てを解読できるかは保証できません。なぜなら術をかけた時点で体の中に術式が組み込まれますので、大きな式は判断がつきますが、置き換えられているものは、分からないのです」

 魔具を作るとき、いくつかの工程をひとつに組み込みたい場合、アラ兄もそうすると言っていた。数式でいうと、大きな式は読み取れるけど、カッコの中とか、Xのような変数を仮定したものなどは分からないと言っているのだと思う。

「はい、わかるところだけで構いません。術の全てがわからないと解呪は難しいですか?」

「私より上の術師でない限りは、細部が見えていなくても、術を解呪できると思います」

「彼女はあなたより上の術師ですか?」

「……いいえ。私の方が上だと思います」

 ふうーと息を吐き出す。

「術を受けないでいる、何か方法はないのですか?」

「術は発動されないと、どんな術を使うつもりだったかわかりませんよね?」

 質問で返せば、彼はうなだれた。
 やはり、かけてもらうしかないということだ。

 それにね、危険なものだった場合、またトカゲになっちゃうかもしれないけど、スキルが発動して呪詛回避すると思うんだ。そうじゃなかったら、解呪できるとわかっていても、術を受けたくはない。

「……わかりました。アイリーンさんが術をかけ終わったら、すぐに部屋から出すようにしてください。私はその少し前から部屋の中のどこかにいたいです。解読に時間がかかるかもしれないので、時間を他で使いたくありません」

「わかりました。そうさせます」


 もふさまにお願いして、アダムとロサを部屋に呼んでもらう。
 そして今決まった、午後の予定を話す。
 トルマリン氏は開始の20分前に人を呼びに行かせ、この部屋に入ってもらうことにした。ここで緊張しているのも嫌だろうから部屋に下がらせると、アダムとロサから確められる。

「あの者をそんなに信用していいのか?」

「信用してないよ」

 と言えば、ロサに噛みつかれる。

「あの者が女性術師がどんな術をかけたか、嘘をいうかもしれないし、解呪だって本当にするかわからないぞ?」

 そしてアダムにとどめをさされる。

「部屋に帰して、その間に逃げられたらどうするんだ?」

「ふたりとも止めなかったじゃない!」

 責められる感じになったので、思わず言ってしまった。

「そりゃーだって、リディア嬢が確信しているみたいだから」

「口を挟めないぐらいに、言い募っていたじゃないか」

 わあわあ、ぎゃあぎゃあ騒いでいると、もふさまに

『身内で割れてどうする』

 と諭され、わたしたちはバツ悪く、顔を見合わせた。
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