プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第663話 トルマリンの懺悔②呪術を編んだ人

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「トルマリンよ、其方は今呪術が使えないのだったな。呪術師は見ただけで、魔力量などがわかるのか?」

 アダムはトルマリンから、あまり知られていない呪術師の情報を得るつもりのようだ。
 彼はわたしから目を外し、アダムに答える。

「人によりけりですね。わたしは魔力のことも、ある程度ならわかります。
 呪術師でしたら、魔力のことはわからないとしても、呪術の波動は独特ゆえ、術の残滓はわかると思います」

 そうか、魔力とはまた違う視点でみるものなんだね、呪術というのは。
 でもそっか、扱うのが〝魔力〟ではなく〝瘴気〟なんだものね。

「今のリディアの状態はどう見える?」

「そうですね……枯渇というほどではありませんが、魔力が十分とは思えません。それから、魔力を移した瘴気が、お嬢さまに悪い影響を与えているようには見えません。赤の三つ目氏は優秀なんですね。全くその残滓が見えません」

 どきっとする。
 本当に呪術をかけてもらったわけじゃないから、残滓がなくて当然だ。
 
「リディアや、お遣いさまのこと。その他なんでもいい、何か気づくことはあるか?」

「聖なる方の遣いのお力はすごいですね。光に満ちていて、その他が霞むほどです」

「他の術師もそう感じるものなのか?」

「亡くなった私のお師匠さまなんかは、しっかりと見える方だったようですが、現在は見える方は少ないのかもしれません。こうして術を成功させた三つ目氏も、それからアイリーンさんも、全く眩しそうにしていませんでしたから」

 もふさまの出している気で、もふもふ軍団のオーラが分かりにくくなってるのかもしれないな。ぬいぐるみ防御は解いているけれど、小さくなっているしね。

「赤の三つ目は、移した魔力が馴染むように、解呪は明日にした方がいいというのだが、お前はどう見る?」

 トルマリン氏は、ことさら指を激しく動かす。

「……残滓が見えないぐらいですから……、解呪しても問題ないと思いますが、術を施した三つ目氏がそうおっしゃるのなら、そうした方がいいと思います」

 よし、言質を取った。

「……トルマリンさん」

 わたしはかすれた声を絞り出す。
 彼はあからさまにビクッとした。

「は、はい」

「あなたにお話があります。明日の朝一番に、秘密裏にここでお会いしたいです」

 わたしはすがるように、アダムを見て、手を握っていてくれるロサの手を握り返す。

「トルマリン、リディアの願いを叶えてくれるか?」

「は、はい」

 トルマリン氏は場の雰囲気にのまれたふうに装っているけれど、そうではないのは見て取れた。

「では、使いをやるので、明日頼む。でも口外はしないでほしい」

 アダムがそういうと、覚悟を決めた顔になり、トルマリン氏は頷いた。
 そしてロサを置いて、アダムはトルマリン氏と部屋を出て行った。



 わたしたちが警戒していないことを示すために、地下の結界の中ではなく、城に泊まった。わたしは動かさない方がいい設定となっているしね。
 アダムやロサも隣の部屋だったし、もふさまと一緒だ。部屋の外では衛兵に守られ。昨晩は何事も起こらなかったようだ。
 手早く朝ごはんを食べ終え、トルマリン氏を呼んでもらう。
 アダムもロサも隣の部屋にいるけれど、わたしはもふさまとトルマリン氏とだけにしてもらった。


 ベッドの上で起き上がる。
 昨日、わたしを見たあたりから、ちょっと様子が変だった。
 あのときには気づいたんだろう。トルマリン氏は本当に優秀な呪術師だったんだ。
 わたしの中にある瘴気が自分の術の残滓か、彼にかかっている痒みの戒めが、わたしのした何かだと気づいたんだろう。

「来てくださってありがとうございます。ベッドの中からですみません」

 彼は短くいいえと言って、指を激しく動かした。

 この人が、母さまを呪い殺す、呪術を編んだ人……。
 ……そういうことをした人と認識しただけで、それ以上の感情は湧き上がらなかった。そこはほっとする。

「7年前のことです。……家族が呪いを受けました」

 わたしはゆっくりと息を吸い込んだ。

「最初は疲れているように見えたんです。それが起き上がっているのが辛そうになり、ベッドから起き上がれなくなり……顔色が白いを通り越して土気色になったときは、ただ恐ろしくて、叫び出しそうになりました」

 どうして7年も経っているのに、母さまの土気色の顔を、忘れられないんだろう? この記憶は色褪せていかないのだろう?

「呪術というものは、呪いを返すと、依頼人に返ると聞きました。そのときに思いました。依頼した人が元凶ではあるけれど、術を作った呪術師も罰を受けるべきだと」

 震えてくる手を、もふさまが舐めてくる。
 大丈夫だという合図に、もふさまの頭を撫でる。

「わたしの授かったギフトで、わたしは術師にくだる罰をのぞみました。二度と呪術を使うことができないように。呪術を使おうとすると、身体中が痒くなってとても術に集中できなくなればいいと。
 殿下たちから、あなたが今回のことの褒美に、わたしの父と母に会いたいと言っていると聞きました。そして、あなたからはわたしのギフトの残滓を感じます」

 彼は捨てられた子犬のような目を、わたしに向けた。

「あなたは、父と母に会い、何をいうつもりなのですか?」
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