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15章 あなたとわたし
第658話 vs呪術師⑩多過ぎれば毒
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「なるほどな。トルマリンよ、其方は過去、人を呪う術を使ったことがあるか?」
「……はい、ございます」
「人を助ける術を使ったことはあるか?」
「ございます」
「どちらが多い?」
トルマリン氏は顔をあげた。
「……呪う方が多かったです」
苦渋の色を浮かべていた。
「発展していくには欲もなくてはならないものだが、多過ぎればなんでも毒となる。どうして人は持っているもので満足できなくて、誰かを蹴落として欲を満たそうとするのだろうな? そんな者が多くなければ、呪術は今も魔法士と同じように栄えある職だったろうに」
アダムもやっぱり人の上に立つ考えを持てる人なんだね。
わたしは術で病を軽くできるというのを聞いて、呪術を廃らせるべきではないんじゃないかって思っちゃったよ。
でも、こんないいこともできますよって言われて、本質を見極めず、すぐに飛びつくのも浅はかなことだ。
呪術が問題というより、欲深い人が呪術を使って人知れず呪ったりすることで、人を引きずり下ろすことが問題なんだ。呪術は魔法のように誰にも見えないところで、そっとすることができるから、そこが問題なんだ。
トルマリン氏は肩を落とした。絶えず動かす指の動きが早くなっている。
アイラがそれを侮蔑の表情で見ている。
サマリン伯が咳払いをした。
アダムは軽く目を閉じ、そしてまた開く。
「解呪をするところも見てみたいところだが、魔力を多く使い、リディア嬢を治すのに支障を来したら困る。基本のものにしておこう。そうだな、私が指定する風を出してもらおうか」
アダムは侍従に蝋燭を持ってこさせた。
5つに火をつけ、この蝋燭の火を風で消すようにいう。
まずアイラからやるように言った。
アイラの表情が引き締まる。職人、仕事人の顔だ。
口の中で何か呟き、目の前の空間に指で文字を書いているように見えた。終えると、両手の人差し指と親指を使い、目の前の空間で何か作り上げるようにしている。そうして右の親指と人差し指を擦り合わせると、5つの蝋燭の火が消えた。
「見事だ」
アイラは胸に手をやり、頭を下げた。
「赤の三つ目」
アダムに呼ばれて、のっそり椅子から立ち上がる。
掌サイズの本を持っていた。その本を開く。
そして指でその本に何か書いているような仕草をした。そうしてパタンと本を閉じ、その本に息を吹きかけた。
蝋燭の火がひと揺れしてから、ひとつずつ消えていった。
多分、アダムが魔法でやっているんだと思う。
アイラは少し目を大きくしている。
恐らく、アイラのやったことより高度なんだろう。
「赤の三つ目は、細やかな術を使えるのだな」
「恐れ入ります」
アイラがしまったというように、メラノ公に目をやった。
「義兄上、差し出がましいようですが、案は3人でもう一度考えてもらい、実際の術は赤の三つ目にさせるのがいいのではないかと……」
「……私もそれがいいと思います」
驚いた!
メラノ公がロサの意見に賛同し、そう言ったメラノ公をバッと勢い込んでアイラが見つめる。
アダムがトルマリン氏に取りまとめるように言って、3人に話し合いをさせた。
アイラは人の姿に戻る術がいいはずだと言い張ったけれど、トルマリン氏も赤の三つ目氏も、わたしに魔力を与え、自分の力で人型に戻り、そして解呪して瘴気を引き抜くのが一番いいと言った。呪術師なら知っているコードという設定があるらしく、それが代名詞で活躍していてよくわからなかった。
赤の三つ目氏もわからなかったはずだが、断言は避けるようにして、見事乗り切っていた。何気に凄い。
そして最終的には、トルマリン氏の言っていた方法を施すことが総意となり、アダムに報告する。アダムはそれでいいといい、自分の魔力をわたしにくれると言ったのだが、トルマリン氏は魔力の高いアダムが依頼人とした方がよくて、他の方の魔力を移すのが望ましいと言った。
それを受けて、ロサが自分の魔力を提供すると言ってくれた。
方針が決まった。
赤の三つ目氏に術をかけてもらうなら、わたしは人型になっておいて、ソックスと入れ替わればいいだけだ。ほっと息をつく。
「赤の三つ目、明日、呪術をかけることは可能か?」
「はい、お任せください」
「術は赤の三つ目にやってもらうが、他ふたりの貢献も考慮する。リディアが元に戻ったあかつきには、褒美を授けよう。それまで城に滞在してほしい」
幾分表情を緩めて、アダムは提案する。
「第1王子殿下、褒美は要りません。けれど、その代わりに、3分でいいので殿下の時間をいただけませんか? お話ししたいことがあります」
アイラの発言にメラノ公は本気で驚いている。
あれ、仲間じゃない? それともアイラのただの暴走?
「殿下に自ら褒美をねだるとは、なんと浅ましい!」
メラノ公がフルフルと震えていた。
「話なら今しろ。聞いてやる」
「王子殿下のためを思って申し上げます。何なら手を縛ってくださってもかまいません。ただ、他の人の聞いていないところでお話しするのがいいと思います」
「なんと無礼な!」
ロサも怒っている。
サマリン伯も呆れている。
「……よかろう。みんな出てくれ」
「殿下!」
みんなの声が重なる。
「その代わりつまらぬことなら、すぐさま、追い出すからな」
アイラは頭を下げる。
アダムはソックスをロサに託し、部屋に連れていってくれと言った。
「……はい、ございます」
「人を助ける術を使ったことはあるか?」
「ございます」
「どちらが多い?」
トルマリン氏は顔をあげた。
「……呪う方が多かったです」
苦渋の色を浮かべていた。
「発展していくには欲もなくてはならないものだが、多過ぎればなんでも毒となる。どうして人は持っているもので満足できなくて、誰かを蹴落として欲を満たそうとするのだろうな? そんな者が多くなければ、呪術は今も魔法士と同じように栄えある職だったろうに」
アダムもやっぱり人の上に立つ考えを持てる人なんだね。
わたしは術で病を軽くできるというのを聞いて、呪術を廃らせるべきではないんじゃないかって思っちゃったよ。
でも、こんないいこともできますよって言われて、本質を見極めず、すぐに飛びつくのも浅はかなことだ。
呪術が問題というより、欲深い人が呪術を使って人知れず呪ったりすることで、人を引きずり下ろすことが問題なんだ。呪術は魔法のように誰にも見えないところで、そっとすることができるから、そこが問題なんだ。
トルマリン氏は肩を落とした。絶えず動かす指の動きが早くなっている。
アイラがそれを侮蔑の表情で見ている。
サマリン伯が咳払いをした。
アダムは軽く目を閉じ、そしてまた開く。
「解呪をするところも見てみたいところだが、魔力を多く使い、リディア嬢を治すのに支障を来したら困る。基本のものにしておこう。そうだな、私が指定する風を出してもらおうか」
アダムは侍従に蝋燭を持ってこさせた。
5つに火をつけ、この蝋燭の火を風で消すようにいう。
まずアイラからやるように言った。
アイラの表情が引き締まる。職人、仕事人の顔だ。
口の中で何か呟き、目の前の空間に指で文字を書いているように見えた。終えると、両手の人差し指と親指を使い、目の前の空間で何か作り上げるようにしている。そうして右の親指と人差し指を擦り合わせると、5つの蝋燭の火が消えた。
「見事だ」
アイラは胸に手をやり、頭を下げた。
「赤の三つ目」
アダムに呼ばれて、のっそり椅子から立ち上がる。
掌サイズの本を持っていた。その本を開く。
そして指でその本に何か書いているような仕草をした。そうしてパタンと本を閉じ、その本に息を吹きかけた。
蝋燭の火がひと揺れしてから、ひとつずつ消えていった。
多分、アダムが魔法でやっているんだと思う。
アイラは少し目を大きくしている。
恐らく、アイラのやったことより高度なんだろう。
「赤の三つ目は、細やかな術を使えるのだな」
「恐れ入ります」
アイラがしまったというように、メラノ公に目をやった。
「義兄上、差し出がましいようですが、案は3人でもう一度考えてもらい、実際の術は赤の三つ目にさせるのがいいのではないかと……」
「……私もそれがいいと思います」
驚いた!
メラノ公がロサの意見に賛同し、そう言ったメラノ公をバッと勢い込んでアイラが見つめる。
アダムがトルマリン氏に取りまとめるように言って、3人に話し合いをさせた。
アイラは人の姿に戻る術がいいはずだと言い張ったけれど、トルマリン氏も赤の三つ目氏も、わたしに魔力を与え、自分の力で人型に戻り、そして解呪して瘴気を引き抜くのが一番いいと言った。呪術師なら知っているコードという設定があるらしく、それが代名詞で活躍していてよくわからなかった。
赤の三つ目氏もわからなかったはずだが、断言は避けるようにして、見事乗り切っていた。何気に凄い。
そして最終的には、トルマリン氏の言っていた方法を施すことが総意となり、アダムに報告する。アダムはそれでいいといい、自分の魔力をわたしにくれると言ったのだが、トルマリン氏は魔力の高いアダムが依頼人とした方がよくて、他の方の魔力を移すのが望ましいと言った。
それを受けて、ロサが自分の魔力を提供すると言ってくれた。
方針が決まった。
赤の三つ目氏に術をかけてもらうなら、わたしは人型になっておいて、ソックスと入れ替わればいいだけだ。ほっと息をつく。
「赤の三つ目、明日、呪術をかけることは可能か?」
「はい、お任せください」
「術は赤の三つ目にやってもらうが、他ふたりの貢献も考慮する。リディアが元に戻ったあかつきには、褒美を授けよう。それまで城に滞在してほしい」
幾分表情を緩めて、アダムは提案する。
「第1王子殿下、褒美は要りません。けれど、その代わりに、3分でいいので殿下の時間をいただけませんか? お話ししたいことがあります」
アイラの発言にメラノ公は本気で驚いている。
あれ、仲間じゃない? それともアイラのただの暴走?
「殿下に自ら褒美をねだるとは、なんと浅ましい!」
メラノ公がフルフルと震えていた。
「話なら今しろ。聞いてやる」
「王子殿下のためを思って申し上げます。何なら手を縛ってくださってもかまいません。ただ、他の人の聞いていないところでお話しするのがいいと思います」
「なんと無礼な!」
ロサも怒っている。
サマリン伯も呆れている。
「……よかろう。みんな出てくれ」
「殿下!」
みんなの声が重なる。
「その代わりつまらぬことなら、すぐさま、追い出すからな」
アイラは頭を下げる。
アダムはソックスをロサに託し、部屋に連れていってくれと言った。
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