656 / 930
15章 あなたとわたし
第656話 vs呪術師⑧古狸
しおりを挟む
「第1王子殿下にご挨拶しなさい」
「はい、メラノ公爵さま」
おっとりとした口調。彼女は続ける。
「第1王子殿下にご挨拶申し上げます。あたくしは呪術師のアイリーンと申します」
彼女は自分をアイリーンだと名乗った。
カーテシーをする。一応形になっていたが、幼い子供が習いたてのカーテシーを披露しているようで……アダムも微かに目を細めた。
よくよく彼女を見れば、面影はあるけれど、ずいぶん成長していた。一瞬見ただけで、よくわたしは彼女だとわかったなと思うぐらいには。
少し客観的に眺められるようになると、激しかった鼓動が収まってきた。
……そう。彼女が成長したように、わたしも5歳の時のわたしじゃない。
修羅場もいくつも潜ってきたじゃないか。
わたしはもう、アイラにただ翻弄され続けることはないはずだ。
「こちらは第2王子殿下だ」
「第2王子殿下にご挨拶申し上げます。アイリーンです」
うわっ、びっくりした。浮遊感に驚いた。ロサがもふさまを抱き上げたのか。そして用意されていたアダムの隣の椅子に座る。
アダムはソックスを撫でながら、早速アイラに尋ねた。
「アイリーン、優秀な呪術師だと聞いた。他のふたりからは昨日、我が婚約者の状態をどう見て、どんな術を考えるかを聞いている。お前はどうみる?」
「恐れながら申し上げます。できましたら、シュタインのお嬢さまに触れたいです」
アダムの眉がピクッとした。
わたしもギュッともふさまに抱きつく。触られるのはわたしじゃなくてソックスだろうけど、それもやめて欲しい。
「……優秀と聞いたが、それはメラノ公の間違いだったようだな。赤の三つ目も、トルマリンも、触れることもなくすぐさま感じ取ったぞ」
アイラの顔から、余裕の笑みが消える。
「お待ちくださいませ。より正確にみるには触れるのが一番いいのです。ですから、そう申し上げました。ですが、触れずともわかります」
「……では申してみよ」
わたしはほっと息を吐き出した。
「このお姿のシュタインのお嬢さまは、呪術にかかっているようには見えません……。残滓も見えないわ……」
「見えないのか?」
「あ、いえ。あの。残滓のようなものは感じるのです。けれど、そのお姿からは感じられず……でも残滓はあるのです」
わたしの残滓を感じ取っているのかしら?
呪術師として大成しているのかもしれない。でも受け答えなどは、まだ14、5の未熟な感じが前面に出ている。
「お前は、人型に戻すことはできるか?」
「はい、できます」
間髪入れず、躊躇いもなく、アイラは言った。
「どのような呪術を使うのだ?」
「人型の、シュタインのお嬢さまに戻る、呪術をかけるのです」
「術は高度なものになると危険と聞いた。人型に戻る、とは高度なものではないのか?」
「ああ、人型の設計図がわからないのではないか、というお話ですか?」
アダムは、少し首を斜めにしていたが、軽く頷く。
「それでしたら、問題ありません。確かに、全く別の何かを人型にする場合は人の設計図がないと危険かもしれませんが、お嬢さまは元は人でございましょう? 元の姿に戻る術式なら、危険はありませんわ」
「……では、それは依頼人と術者が同じ、アイリーンお前で、呪術をすることができるか?」
アイラはハッとした。アダムが自分の身に返ってくる術として、危険だと思わないか?と言われたことに気づいたのだろう。
「……依頼人と術をするものは違う方が、術の精度は上がります」
「トルマリン、そうなのか?」
アダムはトルマリンに尋ねる。
「……そういう者もいるようです。ただ、私は昨日申し上げました術が、リディアさまには一番いいと思います」
アダムは頷く。
「赤の三つ目、お前は依頼人と術師は違うべきだと思うか?」
「術師の腕によるのだと思います。トルマリン氏のおっしゃるように、私も元に戻す術は、リディアさまによくないように感じます」
「あなたたち、手を組んでいるのね?」
アイラがヒステリックな声をあげた。
「王族の前で、金切り声をあげるとは! 義兄上、この者は下げましょう」
アイラが息を呑んだ。
「殿下、申し訳ございません。こちらの者は術師として優秀でも、礼儀がなっていなかったようです。ですが、彼女が疑うのも、自分の考える呪術が1番適していると思っている証でありましょう。それもシュタイン嬢を思ってのこと。ここはいかがでしょう? やっと見つけた呪術師3人です。3人に任せてみては?」
わたしはアイラに術をかけられるのは、絶対嫌だ!
「もふさま、アダムにアイラに術をかけられるのは嫌だって言って!」
もふさまは隣へとジャンプして、ソックスに頬擦りした。ソックスは甘い声を出した。それから何か訴えるように、不機嫌そうな鳴き声を、あげた。
もふさまは、ソックスをひと舐めして宥め、チロリとアイラに目を走らせてから、アダムに耳打ちした。
ロサもメラノ公もその様子を固唾を飲んで見守っている。アイラは顔色をなくしていた。
アダムは息をつく。
「どうも我が婚約者は、新たな呪術師を信用ならないと思ったようだ」
その場にいた人たちが、ロサを含めて息を呑む。
ロサ以外、猫のわたしとは意思の疎通ができないと思っていたに違いない。けれど、お遣いさまを通すことにより可能なのかと、思い当たったのだろう。
「お待ちください。あたくしの話を聞いてください」
「発言の許しを得る前に、義兄上の前で。なんてことだ!」
ロサが非難する。
「メラノ公、あなたをたてていたが、彼女の振る舞いは目に余るものがある」
アダムとロサはアイラの無礼さを非難した。彼らは礼儀のことで声を荒げるような人たちではない。アイラを糾弾することで、新たな呪術師とメラノ公の結びつきがどれくらいかを確認しているんだろう。
「申し訳ございません。術師として優秀とは聞いたのですが、ここまでなっていないとは」
メラノ公は大きなため息をつく。
「ですが、殿下。話だけは聞いてみてはいかがでしょう? 大事なシュタイン家の令嬢を元の姿に戻すのに、間違いがあってはなりません。手持ちの案がいくつもあることは重要です。おふたりも、それが真理だとご存知でしょう?」
メラノ公は慈悲深い笑みを浮かべた。
「殿下、お遣いさまはなんとおっしゃったのですか? 仮の姿の令嬢は、アイリーンを見て、何を感じ取られたというのでしょう? 令嬢は実は人型に戻りたくないということはないですよね? 人型に戻れる機会を、自ら弾くなど、何をお考えなのか、聞かせていただきたい」
さすが古狸。猫のわたしのわがままだと、自らチャンスを潰すとはおかしいと、わたしに非難が集まるように風向きを変えた。
アダムもロサも渋めの表情だ。
「はい、メラノ公爵さま」
おっとりとした口調。彼女は続ける。
「第1王子殿下にご挨拶申し上げます。あたくしは呪術師のアイリーンと申します」
彼女は自分をアイリーンだと名乗った。
カーテシーをする。一応形になっていたが、幼い子供が習いたてのカーテシーを披露しているようで……アダムも微かに目を細めた。
よくよく彼女を見れば、面影はあるけれど、ずいぶん成長していた。一瞬見ただけで、よくわたしは彼女だとわかったなと思うぐらいには。
少し客観的に眺められるようになると、激しかった鼓動が収まってきた。
……そう。彼女が成長したように、わたしも5歳の時のわたしじゃない。
修羅場もいくつも潜ってきたじゃないか。
わたしはもう、アイラにただ翻弄され続けることはないはずだ。
「こちらは第2王子殿下だ」
「第2王子殿下にご挨拶申し上げます。アイリーンです」
うわっ、びっくりした。浮遊感に驚いた。ロサがもふさまを抱き上げたのか。そして用意されていたアダムの隣の椅子に座る。
アダムはソックスを撫でながら、早速アイラに尋ねた。
「アイリーン、優秀な呪術師だと聞いた。他のふたりからは昨日、我が婚約者の状態をどう見て、どんな術を考えるかを聞いている。お前はどうみる?」
「恐れながら申し上げます。できましたら、シュタインのお嬢さまに触れたいです」
アダムの眉がピクッとした。
わたしもギュッともふさまに抱きつく。触られるのはわたしじゃなくてソックスだろうけど、それもやめて欲しい。
「……優秀と聞いたが、それはメラノ公の間違いだったようだな。赤の三つ目も、トルマリンも、触れることもなくすぐさま感じ取ったぞ」
アイラの顔から、余裕の笑みが消える。
「お待ちくださいませ。より正確にみるには触れるのが一番いいのです。ですから、そう申し上げました。ですが、触れずともわかります」
「……では申してみよ」
わたしはほっと息を吐き出した。
「このお姿のシュタインのお嬢さまは、呪術にかかっているようには見えません……。残滓も見えないわ……」
「見えないのか?」
「あ、いえ。あの。残滓のようなものは感じるのです。けれど、そのお姿からは感じられず……でも残滓はあるのです」
わたしの残滓を感じ取っているのかしら?
呪術師として大成しているのかもしれない。でも受け答えなどは、まだ14、5の未熟な感じが前面に出ている。
「お前は、人型に戻すことはできるか?」
「はい、できます」
間髪入れず、躊躇いもなく、アイラは言った。
「どのような呪術を使うのだ?」
「人型の、シュタインのお嬢さまに戻る、呪術をかけるのです」
「術は高度なものになると危険と聞いた。人型に戻る、とは高度なものではないのか?」
「ああ、人型の設計図がわからないのではないか、というお話ですか?」
アダムは、少し首を斜めにしていたが、軽く頷く。
「それでしたら、問題ありません。確かに、全く別の何かを人型にする場合は人の設計図がないと危険かもしれませんが、お嬢さまは元は人でございましょう? 元の姿に戻る術式なら、危険はありませんわ」
「……では、それは依頼人と術者が同じ、アイリーンお前で、呪術をすることができるか?」
アイラはハッとした。アダムが自分の身に返ってくる術として、危険だと思わないか?と言われたことに気づいたのだろう。
「……依頼人と術をするものは違う方が、術の精度は上がります」
「トルマリン、そうなのか?」
アダムはトルマリンに尋ねる。
「……そういう者もいるようです。ただ、私は昨日申し上げました術が、リディアさまには一番いいと思います」
アダムは頷く。
「赤の三つ目、お前は依頼人と術師は違うべきだと思うか?」
「術師の腕によるのだと思います。トルマリン氏のおっしゃるように、私も元に戻す術は、リディアさまによくないように感じます」
「あなたたち、手を組んでいるのね?」
アイラがヒステリックな声をあげた。
「王族の前で、金切り声をあげるとは! 義兄上、この者は下げましょう」
アイラが息を呑んだ。
「殿下、申し訳ございません。こちらの者は術師として優秀でも、礼儀がなっていなかったようです。ですが、彼女が疑うのも、自分の考える呪術が1番適していると思っている証でありましょう。それもシュタイン嬢を思ってのこと。ここはいかがでしょう? やっと見つけた呪術師3人です。3人に任せてみては?」
わたしはアイラに術をかけられるのは、絶対嫌だ!
「もふさま、アダムにアイラに術をかけられるのは嫌だって言って!」
もふさまは隣へとジャンプして、ソックスに頬擦りした。ソックスは甘い声を出した。それから何か訴えるように、不機嫌そうな鳴き声を、あげた。
もふさまは、ソックスをひと舐めして宥め、チロリとアイラに目を走らせてから、アダムに耳打ちした。
ロサもメラノ公もその様子を固唾を飲んで見守っている。アイラは顔色をなくしていた。
アダムは息をつく。
「どうも我が婚約者は、新たな呪術師を信用ならないと思ったようだ」
その場にいた人たちが、ロサを含めて息を呑む。
ロサ以外、猫のわたしとは意思の疎通ができないと思っていたに違いない。けれど、お遣いさまを通すことにより可能なのかと、思い当たったのだろう。
「お待ちください。あたくしの話を聞いてください」
「発言の許しを得る前に、義兄上の前で。なんてことだ!」
ロサが非難する。
「メラノ公、あなたをたてていたが、彼女の振る舞いは目に余るものがある」
アダムとロサはアイラの無礼さを非難した。彼らは礼儀のことで声を荒げるような人たちではない。アイラを糾弾することで、新たな呪術師とメラノ公の結びつきがどれくらいかを確認しているんだろう。
「申し訳ございません。術師として優秀とは聞いたのですが、ここまでなっていないとは」
メラノ公は大きなため息をつく。
「ですが、殿下。話だけは聞いてみてはいかがでしょう? 大事なシュタイン家の令嬢を元の姿に戻すのに、間違いがあってはなりません。手持ちの案がいくつもあることは重要です。おふたりも、それが真理だとご存知でしょう?」
メラノ公は慈悲深い笑みを浮かべた。
「殿下、お遣いさまはなんとおっしゃったのですか? 仮の姿の令嬢は、アイリーンを見て、何を感じ取られたというのでしょう? 令嬢は実は人型に戻りたくないということはないですよね? 人型に戻れる機会を、自ら弾くなど、何をお考えなのか、聞かせていただきたい」
さすが古狸。猫のわたしのわがままだと、自らチャンスを潰すとはおかしいと、わたしに非難が集まるように風向きを変えた。
アダムもロサも渋めの表情だ。
144
お気に入りに追加
1,379
あなたにおすすめの小説

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。


悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる