プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第652話 vs呪術師④敵か?

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 地下に戻ってきてソックスをべた褒めだ!
 もしわたしに用意されたお皿だったら、躊躇いなく飲んでいたかも。
 なんて賢いの?
 本当にあんな毒を飲まなくてよかった!
 早いところ入れ替わらないと、ソックスの身が危険だ。

 毒を仕込める輩が王宮に紛れ込んでいるなんて、ガインが闊歩していたこともそうだし(気配をなくしていたっぽいこと言ってたけど)この城ちょっと甘いんじゃと思って、わたしは王宮の警備体制に文句を言った。
 するとアダムは却ってわかったじゃないかと言う。
 何がわかったのかと問うと、兄さまが代わって答えてくれた。

「身分の高いものが噛んでいるということですよ。いくら甘くても城です、王宮です。上が緩くなくてはこんなことは起こりません」

「じゃあ、やっぱりメラノ公が?」

 アダムも兄さまも、そこは断言を避けた。
 王子殿下が一緒なのに、2階の一般的な会議室を押さえたのはサマリン伯だった。けれど、そう指示したのはメラノ公。この件に関しては未だ反発心が強いので、一般的な手順を踏んだ方が心象が良くなると考えたらしい。

 メラノ公がソックスに毒を盛らせたとは思っていない。そんな不確かな勝負はしないはずだ。彼ぐらいの大物になれば。

 王命にて監督役をやることにはなっているけれど、わたしたちに気を許しているわけではないし、小物の考える罠に嵌るぐらいなら、さっさといなくなった方がいいぐらい考えているんじゃないかな。それで、調べようと思えば調べられる、つまり頭を使えば仕掛けることもできる、普通の会議室を取らせたんだろう。自分の手を汚すことなく、他の誰かがやってくれたら、その方がいいものね。自分は隙を作るだけ。



 アダムが招待した人以外訪れることのない地下に、知らせが来た。
 それはメラノ公からアダムへ、晩餐の招待だった。
 行くのかと聞けば、やっと訪れた機会だ、逃す手はないと意気込んでいる。
 そりゃそうだけど危険だと言うと、陛下に許しを得るのに晩餐のことを話しているみたいだから、何かあるとしたら帰りぐらいで、行っている時は危険はないとみているそうだ。
 じゃあ、帰りやばいじゃんと言えば、私の強さを知っているだろう?とウインク。強いのは知っているけど、大勢で来られたらどうするのよ?
 散々言ってはみたものの、アダムはひとりで行くと決めているようだった。


 アダムが出かけてから、わたしは兄さまの作ってくれた具沢山スープを食べさせてもらった。
 もふさまはもっと肉が欲しいと所望した。
 そうしてジレジレとアダムの帰りを待った。
 夜も更けてきた頃、アダムは無事に帰ってきた。
 
 頬がちょっと紅潮していた。

「やっと食いついてきた」

 わたしたちは顔を見合わせる。
 話すのに頭を整理するためにも、先に風呂に入っていいかと聞かれて、わたしたちはもちろん頷いた。


 兄さまの胸ポケットにいてはうっかり寝てしまいそうだったので、もふさまの背中に張りついて過ごした。
 やっとアダムが出てきて、居間にて、お茶を入れてもらう。
 わたしはテーブルの上に鎮座した。


 機嫌がいいみたいだ。アダムはわたしの頭を指で軽く撫でた。

「さっきも言ったけど、食いついてきた」

「メラノ公が敵だったの?」

 もふさまに通訳してもらう。

「敵なのは9割、間違いない。だけど、リディア嬢に呪いをかけた犯人かどうかは、わからない」

 アダムは今回のことは王家への乗っ取りをかけて、いくつかの集団が動いていると予想しているようだ。
 ひとつは、文字通り乗っ取り。王族に乗り移り、いつの間にか、中の者が変わっている手段を考えている人たち。
 ひとつは、謀反。王家を糾弾し、団結し、新たな国王を立てる派。
 ひとつは、そんな動きがあると感じて、便乗して上の地位を狙う者。
 そんな敵が大勢いると考えられ、メラノ公がどれに当てはまるかは、まだ掴めないと言った。

 それから、アダムは晩餐のことを話してくれた。
 王宮から近い1区にもメラノ公の仮の住まいがある。そこまで華美ではないが、貴族然とした佇まいのお屋敷だったという。
 案内されたテーブルには、なんとロサもいた。

 ちなみに、現在アダムとロサは喧嘩中ということになっている。
 特別班の会議中にドンパチした。
 アダムがソックスがいないのをいいことに、本音を漏らすテイストで、なんで伴侶が猫なんだよと口にする。
 ロサが、それを嗜める。
 アダムはそれにブチ切れる。お前はいいよな、と。幽閉されるわけでもない。狂うかもしれない恐怖もない。唯一の味方となる伴侶が猫だぞ? もし人型に戻れたとしても、獣憑きなんだぞ、と。
 それに対してロサは、リディア嬢だって、好きで猫になったわけではないでしょう? そんな婚約者に対して不誠実です。もしそんな気持ちがあるなら、どうして猫になったと分かった時点で、婚約をしない道を選ばなかったのかと言及する。
 アダムは急に弱気になる。幽閉される身で、婚約者が選べる立場だと思うか? 獣憑きってことで突き放し、それが陛下の耳に入ってみろ。情がないだのなんだの言われて、結局、狂うやつだからと言われるんだ。

 その兄弟のやりとりをメラノ公とサマリン伯は見ている。
 それなのに、ロサとアダムを同時に晩餐へと呼んだ。

 晩餐は静かに始まった。
 料理は素晴らしかった。外国の有名な料理も並んでいたそうだ。
 メラノ公は食事の間、アダムやロサが優秀なことを耳にしていたけど、それが今回のことで実際目にすることができて嬉しいと、盛んに褒めていたそうだ。
 そして食後に酒がいいかと問われ、お茶がいいとふたりは言ったそうだ。


「私たちを仲直りさせる目的で、晩餐にご招待いただいたのでしょうか?」

 アダムは尋ねた。
 メラノ公は笑い声をあげる。

「ハハハ、そんなつもりはありませんでしたが、そうですね、おふたりの本心を私は聞くことができました。おふたりはすれ違っているようですが、この老いぼれ、年の功により、すれ違いの理由がわかります。それを老婆心ながらお伝えしようと思いましてね。結果的に、お二人にいい結果となり、仲違いする必要もないことを理解されるかもしれませんね」

 メラノ公はそう言って微笑んだ。


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