プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第649話 vs呪術師①ふたりの術師

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 バーデン・カラザース男爵。28歳とまだ若い。去年、父である前・男爵が病死したため引き継ぐ。ユオブリアの西のはずれに小さな領地を持っている。ピマシン国にも近いところだ。去年は引き継いだばかりだったので、中央に出てこなかった。今年の貴族会議には、2回どこかのタイミングで参加するようお達しがあり、初参加し、こそこそと話されている噂話を耳にした。
 それで年も近いサマリンさんに、呪術師を探されているとか?と様子をみる意味で声をかけたそうだ。
 彼は呪術師を知っていた。けれど、それだけでも罰せられることでもある。でも殿下の婚約者が困っているのならと散々迷った末に、声をかけたそうだ。
 怪しいといえば怪しく見えてくるし、親切心からとも思えないこともない。
 ただこれはやっと訪れた機会だ。ハズレにしろ、これしかすがる糸口はない。
 ゆえに、慎重に対峙していくことにした。

 ポイントは
・バーデン・カラザース男爵が敵の一味かどうか
・ダニーラ・サマリン伯子息は敵の一味かどうか
・メラノ公爵が裏で糸をひいていないか
・やってくるのは本当に呪術師か
・呪術師なら敵の一味なのか
 そしてそれらが親切心で教えてくれたことであり、その呪術師が敵の一味ではなかった場合も考えられるのだから、わたしたちが疑ってかかっていることを、それを外から見ている敵に知らせることにならないよう、振る舞わなくてはいけない。そこが注意だ。
 アダムは当初の予定通り、役者を雇い、その呪術師とカラザース男爵が連れてくる呪術師を対立させることにした。報酬を吊り上げて、全ての疑惑を潰せるように見定めていくつもりだ。

 兄さまにはアダム経由で、ロサたちからの手紙がこまめに運ばれていた。土地買いのことの何かしらの報告だと思う。進展がないからなのか、話してくれることはなかった。

 レオたちからも、まだ連絡はない。
 焦ってはいけないと思いつつも、新学期がもうすぐ始まるので、追い詰められるような気持ちになる。


 今日はふたりの呪術師を連れてきてもらう手筈となっている。
 久しぶりにソックスと一緒に、地下から出陣だ。
 バーデン・カラザース男爵は気弱そうに見えながら、なかなか大した人で、自分とその呪術師を罰しないことという誓約書を、アダムに書かせたらしい。
 その上で、知り合いの呪術師を呼び寄せた。

 バーデン・カラザース男爵と知り合いの呪術師、そしてアダムが雇った呪術師に扮した役者。この3人がいる部屋に、アダム、ソックスとわたしともふさま、そしてメラノ公とサマリン伯と入っていく。
 わたしはもふさまの背中だ。ソックスにもシールドをかけてある。

 中にいた3人が立ち上がり、それぞれ頭を下げた。
 い、異様な光景だ。
 アダムの雇った方だろう、の呪術師は濃い金髪で、モジャモジャの長い毛を胸まで伸ばしていた。肉付きのいい男性で、目を覆う布を巻いている。
 役者さんなので、どこかでバレたら大変ということで、目を布で覆うことにしたそうだ。その布は特別製の魔具となっていて、役者さんは目を覆っているにもかかわらず、普段と変わらなく〝見る〟ことができるらしい。

 貴族仕様の見本のような細身の男性が、バーデン・カラザース男爵だろう。
 こげ茶の短髪に、鼻下に髭をはやしていた。目がくりっとしていてかわいらしい顔立ちだ。そう見えるのが嫌で髭をはやしているのかしら?
 もうひとりの呪術師は、呪術師のイメージを背負って現れたような人だった。
 何年も洗っていないのではないかと思えるような、深緑色のフード付きのローブを被っていた。痩せ細った男性に見える。痛々しいぐらい痩せこけて骨張っているのに背中を丸めていて、お腹の前で組まれた手の指を絶えず動かしていた。

 アダムは王さま席にソックスを抱えて座り、みんなもまた座らせた。
 アダムの足元にわたしともふさま。右隣がメラノ公、左隣がサマリン伯だ。
 サマリン伯の対面にバーデン・カラザース男爵とローブを着た呪術師、メラノ公の対面が役者さんだ。
 役者さんのことはアダムとわたしたちしか知らない。アダムがやっと見つけた呪術師としている。

「呪術にかかわっている者は罰を与えられるべきだが、陛下と第1王子殿下の温情で不問に付す。王子殿下の質問に、誠意を持って答えるように」

 メラノ公が言い渡す。

「私の婚約者のために、今日はありがとう。呪術は今まで禁じられていたこともあり、私に知識はない。私は婚約者にかけられた呪いを解き、人の姿に戻して欲しい。けれど、それは呪術師がどれだけ時間をかけ、どのようにして、解けるものなのかも想像がつかない。幸い2人の呪術師が見つかり、2人を同時に呼ぶのも失礼だとは思ったが、やっと掴んだ糸口で手放したくはない。
 まず、各々、我が婚約者の呪いを解くことができるのか聞きたいと思って、本日は来てもらった」

 メラノ公が、役者の呪術師を促した。

「私のことは赤の三つ目とお呼びください」

 耳に心地のいい、低い声だ。

「王子殿下に申し上げます。猫のお姿には、もう呪いがかかっていないようにお見受けします」

「なんと?」

 メラノ公が驚いたように声を発する。

「呪いがかかっていない? おかしいではないか。ではなぜ、リディア嬢は猫の姿のままなのだ?」

 アダムが問いただす。

「本当に呪いをかけられたのでしょうか?」

「何? ではなんだと申すのだ? 鑑定でも猫の姿となったリディア嬢と出ているのだぞ」

 男爵が連れてきたのが本当の呪術師だった場合、ソックスがただの猫だと見破られる可能性もある。……そう思って、役者の呪術師と、こう言い合うことが決まっていた。

「いえ、猫になる呪いをかけられたかどうかはわからないと、そう申し上げたのです」

 赤の三つ目と名乗った役者は、口の端を上につりあげた。
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