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15章 あなたとわたし
第648話 協力者と思惑⑨シールド強化
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「〝お嬢さまを危険にさらさない〟という、お約束だったと思いますが?」
兄さまが迫力ある笑顔と、鋭い声で言う。
こ、怖い。
「(兄さま、シールドを強化するわ)きゅきゅ、ぴーぴーぴっぴきゅ」
もふさまが通訳してくれた後に、わたしに向き直る。
『攻撃ならともかく、乗っ取るのにどんな〝物〟が使われるかわからないのだろう? シールドを強化しても、弾くかどうかわからないではないか』
もふさまにはいつも子犬サイズになってもらっている。人型の時は見下ろしていることが多い。今は子犬もふさまより断然小さいので、下から見上げる形だ。下から見ると、奥の方の歯までとんがっているのがよく見える。
わたしはこれは通訳しないでと断りを入れてから、もふさまに言った。
「ほら、前に、役者のホーキンスさんに魅了をかけられた時、シールドは魅了を弾いたでしょう?」
あの時に、シールドは精神的な魔法も〝攻撃〟とみなせば弾くのかと驚いた。
「シールドはわたしに害をなす攻撃を弾くという定義だけど、物理的な攻撃を避けながらも、実は精神的な割合をかなり占めていると思うの。わたしの肩を叩くくらいなら跳ね返さないわ。わたしが受ける衝撃の強さが判断の基準だとしても、害をなすかどうかなんて、ものすごく精神的なところで判断しているでしょ? それもわたしの無意識の中でね」
兄さまたちはわたしたちに話しかけていたけれど、途中から何か言い合っているのを感じたのか、口を閉ざした。
「それでいくと、わたしの無意識はわたしの気持ちの中に誰かが入ってくることは攻撃だと思うと思うの。ううん、今まで思ってなくても、これからそう思うわ。だから、そんな攻撃はわたしは絶対に弾く」
もふさまが深い森の色の瞳で、わたしを長いことじーっと見た。
優しさしかないもふさまなのに、わたしは生唾をのみ込んだ。
『我はリディアのやりたいことを応援するし、手助けできることはしよう。だが、魂を乗っ取られるということは、恐らく乗っ取られた側の魂は滅するのだと思う。我は死人を蘇らせることはできない。ゆえに、シールドが本当にそのように作用するかわからないのに、うかつに話を進めるべきではないと思う』
もふさまと意見が割れたのは初めてだ。
意見が割れるとは違うか。いつももふさまが引いてくれたから。わたしの思いを優先してくれたから。
でも乗っ取りはあまりに未知すぎることから、目はつぶれないということだ。
「……わかった。もっと考える」
そう伝えると、もふさまは頷いた。
でもそうすると、どういうことをすれば乗っ取れるのかを知らなくてはいけない。
「ねー、もふさま。ウチの諜報員に、そこに行ってもらうってありかな?」
もふさまは少しだけ考えて頷いた。
『場所がわかれば、きっと行って何かつかんでくるだろう。こちらに帰ってきてるんだったな』
「もふさま、アダムに聞いて。呪術師たちの居場所は調べてるかって」
もふさまがアダムに話しかけた。
兄さまとアダムそっちのけで話していたわたしたちから急に話しかけられ、アダムはちょっと驚いたようだ。
「ピマシンとユオブリアの境目に今、人をやっている。どれくらいで見つけられるかは、ちょっとわからないな。でも、どうして? まさかトカゲの身で乗り込むんじゃないよね?」
アダムの顔が引きつっている。
「わたしじゃないよ」
兄さまは、それでわかったみたいだ。
ちょうどよかった。兄さまには手紙を書いてもらわないとだから。
「それ、どういうこと?」
アダムの眉根が微かに寄っている。
「……諜報員を使う。乗っ取る方法を探ってもらって、その間にこっちはこっちで進めよう」
兄さまに描いてもらった手紙で、父さま、それからアルノルト経由でレオたちに乗っ取る方法を探ってもらえるか打診しておいた。
アダムは大忙しだった。呪術師役をやれそうな役者を探しつつ、サマリンさん、それからメラノ公、ロサと話を進め、いい子ちゃんを演じているだけで、本当は猫と婚約なんてごめんだと少しずつバラしているらしい。
アダムは明日、ロサと喧嘩する予定だ。
次の日、呪術師たちのいる場所がわかったので、そこを地図でもふさまが覚え、王都の家へと行ってくれた。もふさまがレオたちをピマシンまで送り届け、そして戻ってくることになっている。その間わたしは結界の中から出ない。
わたしは一度人型に戻してもらって、たっぷり眠ってから、シールドを強化したり、思いつく限りの即席魔具を作り続けた。
兄さまもわたしの身を守ることには協力的だったので、いろんなパターンを想定し、あれやこれやと魔具を作り出していった。
ロサたちは、作戦会議で言っていた具体的なことを始めたようだ。
調べを進めているものの、何も見えてこない日が続いた。
焦らないように、みんなで会えた日はゲームをして楽しんだりした。
動きがあったのはその2日後。
メラノ公ではなく、特別班メンバーであるダニーラ・サマリン伯子息が呪術師を知っているという男爵が接触してきたと言ってきた。
呪術師を知っていると言ってきた男爵は、サマリンさんの知り合いというわけでなく、こそこそっと議会の後に寄ってきたのだという。
兄さまが迫力ある笑顔と、鋭い声で言う。
こ、怖い。
「(兄さま、シールドを強化するわ)きゅきゅ、ぴーぴーぴっぴきゅ」
もふさまが通訳してくれた後に、わたしに向き直る。
『攻撃ならともかく、乗っ取るのにどんな〝物〟が使われるかわからないのだろう? シールドを強化しても、弾くかどうかわからないではないか』
もふさまにはいつも子犬サイズになってもらっている。人型の時は見下ろしていることが多い。今は子犬もふさまより断然小さいので、下から見上げる形だ。下から見ると、奥の方の歯までとんがっているのがよく見える。
わたしはこれは通訳しないでと断りを入れてから、もふさまに言った。
「ほら、前に、役者のホーキンスさんに魅了をかけられた時、シールドは魅了を弾いたでしょう?」
あの時に、シールドは精神的な魔法も〝攻撃〟とみなせば弾くのかと驚いた。
「シールドはわたしに害をなす攻撃を弾くという定義だけど、物理的な攻撃を避けながらも、実は精神的な割合をかなり占めていると思うの。わたしの肩を叩くくらいなら跳ね返さないわ。わたしが受ける衝撃の強さが判断の基準だとしても、害をなすかどうかなんて、ものすごく精神的なところで判断しているでしょ? それもわたしの無意識の中でね」
兄さまたちはわたしたちに話しかけていたけれど、途中から何か言い合っているのを感じたのか、口を閉ざした。
「それでいくと、わたしの無意識はわたしの気持ちの中に誰かが入ってくることは攻撃だと思うと思うの。ううん、今まで思ってなくても、これからそう思うわ。だから、そんな攻撃はわたしは絶対に弾く」
もふさまが深い森の色の瞳で、わたしを長いことじーっと見た。
優しさしかないもふさまなのに、わたしは生唾をのみ込んだ。
『我はリディアのやりたいことを応援するし、手助けできることはしよう。だが、魂を乗っ取られるということは、恐らく乗っ取られた側の魂は滅するのだと思う。我は死人を蘇らせることはできない。ゆえに、シールドが本当にそのように作用するかわからないのに、うかつに話を進めるべきではないと思う』
もふさまと意見が割れたのは初めてだ。
意見が割れるとは違うか。いつももふさまが引いてくれたから。わたしの思いを優先してくれたから。
でも乗っ取りはあまりに未知すぎることから、目はつぶれないということだ。
「……わかった。もっと考える」
そう伝えると、もふさまは頷いた。
でもそうすると、どういうことをすれば乗っ取れるのかを知らなくてはいけない。
「ねー、もふさま。ウチの諜報員に、そこに行ってもらうってありかな?」
もふさまは少しだけ考えて頷いた。
『場所がわかれば、きっと行って何かつかんでくるだろう。こちらに帰ってきてるんだったな』
「もふさま、アダムに聞いて。呪術師たちの居場所は調べてるかって」
もふさまがアダムに話しかけた。
兄さまとアダムそっちのけで話していたわたしたちから急に話しかけられ、アダムはちょっと驚いたようだ。
「ピマシンとユオブリアの境目に今、人をやっている。どれくらいで見つけられるかは、ちょっとわからないな。でも、どうして? まさかトカゲの身で乗り込むんじゃないよね?」
アダムの顔が引きつっている。
「わたしじゃないよ」
兄さまは、それでわかったみたいだ。
ちょうどよかった。兄さまには手紙を書いてもらわないとだから。
「それ、どういうこと?」
アダムの眉根が微かに寄っている。
「……諜報員を使う。乗っ取る方法を探ってもらって、その間にこっちはこっちで進めよう」
兄さまに描いてもらった手紙で、父さま、それからアルノルト経由でレオたちに乗っ取る方法を探ってもらえるか打診しておいた。
アダムは大忙しだった。呪術師役をやれそうな役者を探しつつ、サマリンさん、それからメラノ公、ロサと話を進め、いい子ちゃんを演じているだけで、本当は猫と婚約なんてごめんだと少しずつバラしているらしい。
アダムは明日、ロサと喧嘩する予定だ。
次の日、呪術師たちのいる場所がわかったので、そこを地図でもふさまが覚え、王都の家へと行ってくれた。もふさまがレオたちをピマシンまで送り届け、そして戻ってくることになっている。その間わたしは結界の中から出ない。
わたしは一度人型に戻してもらって、たっぷり眠ってから、シールドを強化したり、思いつく限りの即席魔具を作り続けた。
兄さまもわたしの身を守ることには協力的だったので、いろんなパターンを想定し、あれやこれやと魔具を作り出していった。
ロサたちは、作戦会議で言っていた具体的なことを始めたようだ。
調べを進めているものの、何も見えてこない日が続いた。
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メラノ公ではなく、特別班メンバーであるダニーラ・サマリン伯子息が呪術師を知っているという男爵が接触してきたと言ってきた。
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