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15章 あなたとわたし
第645話 協力者と思惑⑥ガインの情報(後編)
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「300年前、魔法が規制されたのをご存知ですね? その原因も」
「魔力の高い魔使いは、魔のある人族も魔で操ることができる、あの論文のことか?」
「そうです。すぐに論文は破棄され、箝口令が敷かれ、魔使いたちは魔力を測られ、魔力が高いものは捕らえられました。けれどその処遇に不満を持つ者も多く、細く長く論文の検証は行われてきたようです」
「それは魔法で人を操るという目的、ということですね?」
アダムが確かめる。
「最初はどうだったのか知りませんが、テイマーが人をも操る、それに憧れた人が少なからずいたのは確かです」
……倫理的にはナシだけど、最初に聞いた時、もし自分がテイマーだったなら、試したくなる人はいるだろうなーって、わたしも思った。人を操ってみたいというより、本当にそんなことができるのかという好奇心で。自分の持つ能力の可能性を知りたくて。
やはりみんなが危惧して規制を引くようなことが、表面には出ずに受け継がれてきたんだ。呪術と同じように。
「それが、テイマーだけでなく、ある〝物〟を使うことで人を操る研究に移行していた」
え、テイマーだけではなく、そして魔法ではなく、〝物〟にその魔力を閉じ込めることができたってこと?
「その〝物〟というのが、どういう〝物〟なのかは、まだわかっていません。それから〝操る〟からさらに発展し、身体を乗っ取ることができるような、話ぶりでした」
!
「にわかに信じがたい」
「そうでしょう。でもだからこそ、荒唐無稽なあの噂の意味がわかりましょう」
荒唐無稽な噂?
わたしのだよね。わたしがメロディー嬢をけしかけて、失脚させたってやつのことだよね?
「君は彼女が私の前に姿を現す時、全く違う彼女になっていると言った。その意味か?」
「理解が早くて助かります」
え、え、え、待って。
「ちゃんと言葉にして!」
わたしは訴えた。わたしもうっすらそうかなと思えた推測があるけど、怖くて理解が追いつかない。
アダムが解説してくれた。
「呪術師が君を消す。君がメロディー家令嬢を追い出したのだと噂が立つ。民衆が彼女を許す。私は幽閉の決まっている王子。それならせめて、その伴侶に戻してやれと世論が動く。メロディー家令嬢が私と婚約する。でも彼女の中身は、もう、彼女ではない」
「どのように、どれくらいのことでできることなのかもわかりませんが、国家転覆を狙うなら、婚姻したゴット殿下もいつの間にか入れ替わるでしょうね。そうやってじわじわと、いつの間にか全てを乗っ取られている……」
「私は幽閉される身だぞ?」
「中身が変わり、幽閉の道を取らないことも、できるじゃありませんか。どう乗っ取れるのかわかりませんが、身体に接近しないとできないことなのでしょう。もしあなたを乗っとることができれば、あなたが接近できる王族、それから議会のトップなど、いいように仲間を乗っ取らせていくでしょう」
嘘でしょ。ちょっと大事すぎる。
もし簡単に入れ替えられる〝物〟なら、もうこの国にどれだけ入れ替わった人がいるのだろう?
「簡単に信じていただけませんでしょうが、その知識がないと、リディア嬢を守りきれないと思いましてね」
「信じるよ」
「え?」
「符合するから」
アダムはキュッと口を結んでいた。
「それでガゴチとしては、どう参戦する気でいたんだい?」
「リディア嬢との婚約という名の保護ですね。そして〝物〟を利用して乗っとる考えの集団は仲間割れをさせ、自滅に向かわさせるつもりでした。ただ、リディア嬢を保護できなかったので、私はしばらく謹慎させられると思います」
アダムはちょっと考える仕草をした。
「なるほど」
「まさか手放しに信じてもらえるとは、思っていなかったです」
「いや、手放しには信じていない。ただ符合することがある。そこは信じる」
「それでこそ、任せられます」
ガインはほっとした表情を浮かべた。
「(ガイン、ありがとう)きゅ、きゅきゅっきゅ」
ガインはもふさまの通訳を聞くと、もふさまの方に向かい胸に手をやり、頭を下げた。
「リディア嬢、ウチの国は、いつでもあなたを歓迎します。あなたが何回婚約を破棄されていようとね」
「(一言多いのよ! 見直しかけていたのに)きゅっきゅ! ぴぴぴぴぴっぴ」
もふさまが、そのまま、伝えてくれた。
「ハハ、元気そうで何よりです。忘れないでくださいね。私はあなたを歓迎するということを」
そう言ってから、気持ちを切り替えるように、アダムに向き合う。
「リディア嬢に関連することは、今後もわかった時にお伝えします。信じるも信じないも自由ですが、今、彼女を守れるのは、現婚約者のあなただけだ。あなたがどんなふうに守るのか、しかと見せていただきますよ」
ガインたちが出て行ってからも、アダムはしばらく立ち上がらなかった。
手を組み、そこに顎を乗せ考え込んでいる。近寄りがたい雰囲気で、声をかけ辛い。おとなしくしていた。
なーご、にゃにゃにゃん
身を大きく震わせてから、前足を伸ばし、次は後ろ足を伸ばしてと体を伸ばしたソックス、大きな鳴き声をあげた。それでアダムが覚醒する。
「あ、ごめん。ソックス、大人しくしていてくれてありがとう。帰ろうか」
アダムはソックスを抱き上げ、もふさまを促した。
「魔力の高い魔使いは、魔のある人族も魔で操ることができる、あの論文のことか?」
「そうです。すぐに論文は破棄され、箝口令が敷かれ、魔使いたちは魔力を測られ、魔力が高いものは捕らえられました。けれどその処遇に不満を持つ者も多く、細く長く論文の検証は行われてきたようです」
「それは魔法で人を操るという目的、ということですね?」
アダムが確かめる。
「最初はどうだったのか知りませんが、テイマーが人をも操る、それに憧れた人が少なからずいたのは確かです」
……倫理的にはナシだけど、最初に聞いた時、もし自分がテイマーだったなら、試したくなる人はいるだろうなーって、わたしも思った。人を操ってみたいというより、本当にそんなことができるのかという好奇心で。自分の持つ能力の可能性を知りたくて。
やはりみんなが危惧して規制を引くようなことが、表面には出ずに受け継がれてきたんだ。呪術と同じように。
「それが、テイマーだけでなく、ある〝物〟を使うことで人を操る研究に移行していた」
え、テイマーだけではなく、そして魔法ではなく、〝物〟にその魔力を閉じ込めることができたってこと?
「その〝物〟というのが、どういう〝物〟なのかは、まだわかっていません。それから〝操る〟からさらに発展し、身体を乗っ取ることができるような、話ぶりでした」
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「にわかに信じがたい」
「そうでしょう。でもだからこそ、荒唐無稽なあの噂の意味がわかりましょう」
荒唐無稽な噂?
わたしのだよね。わたしがメロディー嬢をけしかけて、失脚させたってやつのことだよね?
「君は彼女が私の前に姿を現す時、全く違う彼女になっていると言った。その意味か?」
「理解が早くて助かります」
え、え、え、待って。
「ちゃんと言葉にして!」
わたしは訴えた。わたしもうっすらそうかなと思えた推測があるけど、怖くて理解が追いつかない。
アダムが解説してくれた。
「呪術師が君を消す。君がメロディー家令嬢を追い出したのだと噂が立つ。民衆が彼女を許す。私は幽閉の決まっている王子。それならせめて、その伴侶に戻してやれと世論が動く。メロディー家令嬢が私と婚約する。でも彼女の中身は、もう、彼女ではない」
「どのように、どれくらいのことでできることなのかもわかりませんが、国家転覆を狙うなら、婚姻したゴット殿下もいつの間にか入れ替わるでしょうね。そうやってじわじわと、いつの間にか全てを乗っ取られている……」
「私は幽閉される身だぞ?」
「中身が変わり、幽閉の道を取らないことも、できるじゃありませんか。どう乗っ取れるのかわかりませんが、身体に接近しないとできないことなのでしょう。もしあなたを乗っとることができれば、あなたが接近できる王族、それから議会のトップなど、いいように仲間を乗っ取らせていくでしょう」
嘘でしょ。ちょっと大事すぎる。
もし簡単に入れ替えられる〝物〟なら、もうこの国にどれだけ入れ替わった人がいるのだろう?
「簡単に信じていただけませんでしょうが、その知識がないと、リディア嬢を守りきれないと思いましてね」
「信じるよ」
「え?」
「符合するから」
アダムはキュッと口を結んでいた。
「それでガゴチとしては、どう参戦する気でいたんだい?」
「リディア嬢との婚約という名の保護ですね。そして〝物〟を利用して乗っとる考えの集団は仲間割れをさせ、自滅に向かわさせるつもりでした。ただ、リディア嬢を保護できなかったので、私はしばらく謹慎させられると思います」
アダムはちょっと考える仕草をした。
「なるほど」
「まさか手放しに信じてもらえるとは、思っていなかったです」
「いや、手放しには信じていない。ただ符合することがある。そこは信じる」
「それでこそ、任せられます」
ガインはほっとした表情を浮かべた。
「(ガイン、ありがとう)きゅ、きゅきゅっきゅ」
ガインはもふさまの通訳を聞くと、もふさまの方に向かい胸に手をやり、頭を下げた。
「リディア嬢、ウチの国は、いつでもあなたを歓迎します。あなたが何回婚約を破棄されていようとね」
「(一言多いのよ! 見直しかけていたのに)きゅっきゅ! ぴぴぴぴぴっぴ」
もふさまが、そのまま、伝えてくれた。
「ハハ、元気そうで何よりです。忘れないでくださいね。私はあなたを歓迎するということを」
そう言ってから、気持ちを切り替えるように、アダムに向き合う。
「リディア嬢に関連することは、今後もわかった時にお伝えします。信じるも信じないも自由ですが、今、彼女を守れるのは、現婚約者のあなただけだ。あなたがどんなふうに守るのか、しかと見せていただきますよ」
ガインたちが出て行ってからも、アダムはしばらく立ち上がらなかった。
手を組み、そこに顎を乗せ考え込んでいる。近寄りがたい雰囲気で、声をかけ辛い。おとなしくしていた。
なーご、にゃにゃにゃん
身を大きく震わせてから、前足を伸ばし、次は後ろ足を伸ばしてと体を伸ばしたソックス、大きな鳴き声をあげた。それでアダムが覚醒する。
「あ、ごめん。ソックス、大人しくしていてくれてありがとう。帰ろうか」
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