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15章 あなたとわたし
第643話 協力者と思惑④ガインの情報(前編)
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わたしは今日、ソックスではなく、もふさまの背中にいる。
ここは安全地帯だからだ。
ソックスに攻撃される可能性がわかった今、地下からソックスを出したくはない。けれどガインからの表向きの要件が婚約祝いだったので、ソックスを連れて行くことになった。
半分脅されて、アダムは本日ガインと会う。わたしがトカゲとバレてしまったから。
用意された室には、ソファーと小さなテーブルがあった。
アダムは衛兵が出ていくと、盗聴防止の魔具を作動させた。
「(ごめんね、アダム。面倒ごとを増やして)きゅきゅ、きゅきゅ、きゅぴっぴ」
いつものように、もふさまが訳してくれる。
「会うことにしたきっかけではあるけれど、それが全てではないから気にしなくていいよ」
それから少しして、案内されてガインがやってきた。お付きの青髪と赤髪も一緒だ。
アダムが立ち上がり迎えると、ガインは胸の前で左手をパーにして、右手の拳を左手の掌に叩きつけた。そして黙礼する。
「陛下には、ユオブリアの学園への入園を、許していただきました。第1王子殿下におかれましても、本日はお時間をとってくださり、ありがとうございます」
入園を許されたんだ。
冬にずれ込んだ、聖女候補誘拐事件の裁判は今も終結していない。けれど、結局ガゴチという国が関与していたことは立証されないだろうと、世界議会のカードさんから手紙がきたようだ。
「脅してきたのに、よく言うねぇ。こっちは見逃してあげたのに」
軽く礼をした後、アダムは悠然とソファーに腰掛けた。
「私は取り引きはしないと、言ったはずだけど」
「第1王子殿下は、リディア嬢を助けようとしているんですよね? 婚約は何かを調べるための、炙り出しなのではありませんか?」
「ガゴチの若君は、不可思議なことを言うね。不愉快だ」
一気に険悪なムードに。
「誤解があるようだ。私もリディア嬢を助けたいと思っているんですよ」
「伴侶となるなら、守るし、呪術師の情報を教えると言ったと聞きましたが?」
ガインはわたしを探すかのように、ソックス、それからもふさまの方に目をやった。
「その通りです。リディア嬢は、そんなことまで話したんですね……」
「守ることに条件をつける、それを取り引きというのです。あなたはリディア嬢を守りたいわけではない。利用するのにちょうどいいと思っているだけだ」
ガインはふっと笑う。
「世の中は広い。そんな守り方もあるんですよ」
「そうですね。でも、シュタイン家はそれを望んでいません」
ガインとアダムの視線がぶつかった。
「はっきり言って、あなたがリディア嬢をそうまでして、欲しがる理由がわかりません」
アダムはそう言って、軽く目を閉じた。
「あなたは用心深い人ですね。これでは埒が明かない」
ガインに言われて、アダムは何を今更とばかりに、口の端を歪めた。
「私はあなたを知りません。知っているのは過去あなたの国が何をしたかということだけ。それを踏まえ、私はあなたと手を取らないと決めているのです」
アダム、つよっ。
言われて、ガインの口の端が少し引きつった。
「確かに。それだけの情報の上、脅すように会ってくれといえば、印象も最悪のままですね」
と、怒り出すことはなかった。
「信じるか信じないかは別として、少しだけ私の話を聞いてください」
ガインはそう言って、軽く礼をしてからソファーに腰掛け、静かに話し始めた。
「私はガゴチは変わらなければと思っています。私の代で、周りからの評価を変えてみせます。変えていくには国の中で力をつける必要があり、その第1の関門として、私はリディア嬢に共に歩んでもらいたいと思いました」
へ?
「ツワイシプ大陸の人にはわからない感覚かもしれませんが、我々はツワイシプ大陸、とりわけユオブリアには思慕の感情があるんです。代々の聖女が暮らした地ですから」
あー、聖域問題か。
「あちらの大陸の王族が、ツワイシプの女性、それもユオブリアの女性を娶れば、それだけで一気に地位が向上します」
え。
「そのためにリディア嬢を、娶りたかったと?」
「ウチのような小さな国では、国の利になるように婚姻を結びます。その条件にも当て嵌まる、リディア嬢に惹かれたのです」
「では、遅かったですね。彼女は私と婚約しました」
「ええ、婚約されたようですね。でも婚姻を結んだわけではない」
「……リディア嬢から、あなたの求婚をはっきりきっぱり断ったと聞きました」
「……ええ。断られました。でも状況が動けば、また変わると思います」
そう言って、ソックスともふさまを見る。
やだよ、ガゴチには行かないよ、わたしは。
「話を伺っても、あなたが自分勝手にリディア嬢を娶りたいと思っていることしか、伝わってきませんが」
「……私は今、味方を集めています。学園に入るのもそのためです。力をつけるため」
ガインは思いを馳せるように、軽く目を瞑った。
「そしてリディア嬢、あなたを直接守りたかったが、一足遅かったようです。ただまだそちらは情報をつかんでいないようなので、私から情報を出しましょう」
「ですから、取り引きはしません」
「リディア嬢に関わることは無償ですよ。守りたいから」
……信じていいのかしら?
「その余裕はどこから?」
「本当に疑い深い。いいでしょう。安心されるよう、ひとつ手札を見せましょう。
ふたりは婚約されましたが、いずれ解消されると私は思っています」
なんでそう勘がいいんだ。
「リディア嬢は呪われて獣になった。その事実はツワイシプ大陸では喜ばれるものではないでしょう。けれど、こちらの大陸なら違います。特にガゴチは獣憑きにも理解があるのです」
え。それは誤算だ。獣憑きに険しい顔をするのは、ツワイシプ大陸限定?
ってことは他国からの縁談は、獣憑きぐらいじゃ変わらない?
「なぜ、理解があるか……」
ガインの後ろで立ったまま控えている、お付きの青髪と赤髪は少しだけ心配げにガインを見ている。
「獣憑きが大勢いるからです」
獣憑きが大勢?
ここは安全地帯だからだ。
ソックスに攻撃される可能性がわかった今、地下からソックスを出したくはない。けれどガインからの表向きの要件が婚約祝いだったので、ソックスを連れて行くことになった。
半分脅されて、アダムは本日ガインと会う。わたしがトカゲとバレてしまったから。
用意された室には、ソファーと小さなテーブルがあった。
アダムは衛兵が出ていくと、盗聴防止の魔具を作動させた。
「(ごめんね、アダム。面倒ごとを増やして)きゅきゅ、きゅきゅ、きゅぴっぴ」
いつものように、もふさまが訳してくれる。
「会うことにしたきっかけではあるけれど、それが全てではないから気にしなくていいよ」
それから少しして、案内されてガインがやってきた。お付きの青髪と赤髪も一緒だ。
アダムが立ち上がり迎えると、ガインは胸の前で左手をパーにして、右手の拳を左手の掌に叩きつけた。そして黙礼する。
「陛下には、ユオブリアの学園への入園を、許していただきました。第1王子殿下におかれましても、本日はお時間をとってくださり、ありがとうございます」
入園を許されたんだ。
冬にずれ込んだ、聖女候補誘拐事件の裁判は今も終結していない。けれど、結局ガゴチという国が関与していたことは立証されないだろうと、世界議会のカードさんから手紙がきたようだ。
「脅してきたのに、よく言うねぇ。こっちは見逃してあげたのに」
軽く礼をした後、アダムは悠然とソファーに腰掛けた。
「私は取り引きはしないと、言ったはずだけど」
「第1王子殿下は、リディア嬢を助けようとしているんですよね? 婚約は何かを調べるための、炙り出しなのではありませんか?」
「ガゴチの若君は、不可思議なことを言うね。不愉快だ」
一気に険悪なムードに。
「誤解があるようだ。私もリディア嬢を助けたいと思っているんですよ」
「伴侶となるなら、守るし、呪術師の情報を教えると言ったと聞きましたが?」
ガインはわたしを探すかのように、ソックス、それからもふさまの方に目をやった。
「その通りです。リディア嬢は、そんなことまで話したんですね……」
「守ることに条件をつける、それを取り引きというのです。あなたはリディア嬢を守りたいわけではない。利用するのにちょうどいいと思っているだけだ」
ガインはふっと笑う。
「世の中は広い。そんな守り方もあるんですよ」
「そうですね。でも、シュタイン家はそれを望んでいません」
ガインとアダムの視線がぶつかった。
「はっきり言って、あなたがリディア嬢をそうまでして、欲しがる理由がわかりません」
アダムはそう言って、軽く目を閉じた。
「あなたは用心深い人ですね。これでは埒が明かない」
ガインに言われて、アダムは何を今更とばかりに、口の端を歪めた。
「私はあなたを知りません。知っているのは過去あなたの国が何をしたかということだけ。それを踏まえ、私はあなたと手を取らないと決めているのです」
アダム、つよっ。
言われて、ガインの口の端が少し引きつった。
「確かに。それだけの情報の上、脅すように会ってくれといえば、印象も最悪のままですね」
と、怒り出すことはなかった。
「信じるか信じないかは別として、少しだけ私の話を聞いてください」
ガインはそう言って、軽く礼をしてからソファーに腰掛け、静かに話し始めた。
「私はガゴチは変わらなければと思っています。私の代で、周りからの評価を変えてみせます。変えていくには国の中で力をつける必要があり、その第1の関門として、私はリディア嬢に共に歩んでもらいたいと思いました」
へ?
「ツワイシプ大陸の人にはわからない感覚かもしれませんが、我々はツワイシプ大陸、とりわけユオブリアには思慕の感情があるんです。代々の聖女が暮らした地ですから」
あー、聖域問題か。
「あちらの大陸の王族が、ツワイシプの女性、それもユオブリアの女性を娶れば、それだけで一気に地位が向上します」
え。
「そのためにリディア嬢を、娶りたかったと?」
「ウチのような小さな国では、国の利になるように婚姻を結びます。その条件にも当て嵌まる、リディア嬢に惹かれたのです」
「では、遅かったですね。彼女は私と婚約しました」
「ええ、婚約されたようですね。でも婚姻を結んだわけではない」
「……リディア嬢から、あなたの求婚をはっきりきっぱり断ったと聞きました」
「……ええ。断られました。でも状況が動けば、また変わると思います」
そう言って、ソックスともふさまを見る。
やだよ、ガゴチには行かないよ、わたしは。
「話を伺っても、あなたが自分勝手にリディア嬢を娶りたいと思っていることしか、伝わってきませんが」
「……私は今、味方を集めています。学園に入るのもそのためです。力をつけるため」
ガインは思いを馳せるように、軽く目を瞑った。
「そしてリディア嬢、あなたを直接守りたかったが、一足遅かったようです。ただまだそちらは情報をつかんでいないようなので、私から情報を出しましょう」
「ですから、取り引きはしません」
「リディア嬢に関わることは無償ですよ。守りたいから」
……信じていいのかしら?
「その余裕はどこから?」
「本当に疑い深い。いいでしょう。安心されるよう、ひとつ手札を見せましょう。
ふたりは婚約されましたが、いずれ解消されると私は思っています」
なんでそう勘がいいんだ。
「リディア嬢は呪われて獣になった。その事実はツワイシプ大陸では喜ばれるものではないでしょう。けれど、こちらの大陸なら違います。特にガゴチは獣憑きにも理解があるのです」
え。それは誤算だ。獣憑きに険しい顔をするのは、ツワイシプ大陸限定?
ってことは他国からの縁談は、獣憑きぐらいじゃ変わらない?
「なぜ、理解があるか……」
ガインの後ろで立ったまま控えている、お付きの青髪と赤髪は少しだけ心配げにガインを見ている。
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