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15章 あなたとわたし
第640話 協力者と思惑①食事会
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兄さまが押し黙ると、アダムは言った。
「味方同士の誤解で、すれ違っていくことが一番怖い。誤解を生まないために、全てを打ち明けることがいいと、私は思っている。少しわかったことがある。辛いことと受け取れるかもしれないが、言っておくよ。
例の土地活用の作文、コンクールの主催はフォークリング社だった」
あ。
そういえば、ヤーガンさまは本を出すオファーがあったことを知っていた。フォークリング社をヤーガン公爵が支援しているって言ってたっけ。
……パーティーを開くといったのはウチの親戚だったけど……、もうそこから兄さまに近づくために仕組まれてたんだ。
そりゃ、親戚の後ろ盾を狙って、わたしの物語を本にしてくれると言ってるんだと思った。でも、それさえも違かったんだ。
目的は恐らく兄さまに近づくため。兄さまをひとりにするため。
「(兄さま、ごめんなさい)きゅきゅ、きゅきゅきゅっ」
「お嬢さまは、何も悪くありませんよ」
もふさまが訳す前に、兄さまに言われる。
でもわたしが、兄さまを悪者にしようとしている人を近づけたんだ。
「泣かないで」
兄さまの親指が、わたしの目の下の滴を拭き取る。
干からびるんじゃないかと思えるぐらい、涙が止まらなかった。
ご一家との食事会。
トカゲでの参加となるので最後まで迷ったが、どんなことが話されて、どんな雰囲気だったのか知っておいたほうがいいと思ったので、ソックスに張りついていくことにした。
荘厳な雰囲気の中、食事会は始まった。
といっても、話すのは陛下と、第2夫人と、父さま。時々アダムへと話が振られる、それぐらい。胃が悪くなるような食事タイムだ。こんなのにひたすら耐えているんだから、王族って忍耐強くないとダメだね。
食事は全てその場で鑑定してからとなり、どんどん冷えていく。3人の鑑定士が控えていて、運ばれセッティングされたものをどんどん鑑るんだけどね。
猫舌のソックスにはちょうどよかったみたい。ウニャウニャ言いながら機嫌よく食べている。ソックスはなんと王族と同じテーブルにお皿を置いてもらっている。こんな扱いをしてもらうお猫さまはソックスぐらいだろう。
もふさまは床にお皿を置いてもらっている。てんこ盛りの肉のマウンテンだ。
わたしは帰ってからご飯だ。
第2夫人は父さまに、親戚となったのだからと盛んに枕詞を使うので、ちょっと怖い。
やっとデザートまでが終わり。
退出しようとしたときに、それは起こった。
「猫ちゃん!」
それまで恐る恐るもふさまを撫でていた一番下の王女さまが、床にトンと降りたソックスをむんずと抱き上げたのだ。
驚いたソックスはギャギャギャと騒ぎ、王女さまの手をすり抜けて、部屋を駆け回った。
「リディアさま、申し訳ありません!」
王女さまのお母さまである第5夫人が、頭を下げている。
「フローリア、猫ちゃんではありません、お義姉さまですよ」
夫人がフローリア王女を捕らえた。
「(ソックス、大丈夫よ、落ち着いて!)きゅきゅっきゅ」
小さい声で語りかける。
その時、ドアが外側から開いた。その隙間をソックスが駆け抜けた。
えええええええええっ。
「(もふさま!)きゅー」
『リディア!』
「リディア!」
「リディア嬢!」
「リディア嬢!」
「リディア嬢!」
いやーーー、ソックス止まって。
『リディア!』
「もふさま~!」
もふさまが追ってきている。
『ソックスよ、止まるのだ』
ソックスはスピードを緩めず、廊下を右に曲がった。
うぉーい!
スカーフに捕まっていたけれど、遠心力に引っ張られて、わたしは飛んだ。
壁に当たることを覚悟したが、窓が開いていたので、そこから外へと放物線を描いて落ちた。
トカゲの姿だったから怪我はしなかったものの、花壇のようなところに落ちていた。
うう、どうしよう。
もふさまはそのまま、ソックスを追いかけて行っただろう。けど、追いついて、わたしがいないとわかれば、その間のどこかで落ちたのだと探してくれるはず。魔力が低下しているから見つけにくいだろうけど、必ず見つけてくれる。
廊下を走る音が聞こえる。鳴いてみたが、気づいてもらえなかった。
寒いし、心細い。
「この辺りですね、不可思議な気配が」
誰か、複数の人が近づいてくる?
わたしは隠れるように、葉っぱの裏側に張りついた。
「俺たちの気配は消してるな?」
なんか聞いたことがある声だ。
「声で気づかれたら姿が見えてしまいます。ユオブリアは、魔力を多く使えば引っかかりますから、そういった魔法を使うのは得策ではありません。気配を消すぐらいにしておかないと」
「何もないぞ」
「おかしいな。第1王子殿下についていたのと、同じ気配がするんですが」
「猫か? 猫は居そうもないが、もっと小さなものが潜むとしたら、葉の裏側か?」
声と一緒に草が左右に分かれ、手が入ってくる。多分膝を地面につき、覗き込んできたのは、銀の短髪のガインだった。
「トカゲだ。目の大きい」
手が伸びてきてつかまれる。
「(やめてーーー)きゅっ」
「お、鳴いた。抵抗してるぞ」
「若、見せてください。仲間に似た匂いが」
仲間?
ジタバタするわたしを持って、あ、お付きの青髪さんに突き出すようにされた。
青髪はわたしに鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
トカゲの匂い嗅いでる。スッゴイ嫌なんだけど!
「(嫌、変態!)ぎゅぴっ、びー」
「若、やはり第1王子殿下といたものです」
ガインはわたしをつかんだまま、じっくりとみてくる。
「なるほど」
「何か、わかりましたか?」
「猫に変化したとは嘘だな」
「嘘? そんな誰の得にもならないような嘘をついて、何がしたいのでしょう?」
「君、リディア・シュタインだろ?」
え?
わたしは固まった。
「味方同士の誤解で、すれ違っていくことが一番怖い。誤解を生まないために、全てを打ち明けることがいいと、私は思っている。少しわかったことがある。辛いことと受け取れるかもしれないが、言っておくよ。
例の土地活用の作文、コンクールの主催はフォークリング社だった」
あ。
そういえば、ヤーガンさまは本を出すオファーがあったことを知っていた。フォークリング社をヤーガン公爵が支援しているって言ってたっけ。
……パーティーを開くといったのはウチの親戚だったけど……、もうそこから兄さまに近づくために仕組まれてたんだ。
そりゃ、親戚の後ろ盾を狙って、わたしの物語を本にしてくれると言ってるんだと思った。でも、それさえも違かったんだ。
目的は恐らく兄さまに近づくため。兄さまをひとりにするため。
「(兄さま、ごめんなさい)きゅきゅ、きゅきゅきゅっ」
「お嬢さまは、何も悪くありませんよ」
もふさまが訳す前に、兄さまに言われる。
でもわたしが、兄さまを悪者にしようとしている人を近づけたんだ。
「泣かないで」
兄さまの親指が、わたしの目の下の滴を拭き取る。
干からびるんじゃないかと思えるぐらい、涙が止まらなかった。
ご一家との食事会。
トカゲでの参加となるので最後まで迷ったが、どんなことが話されて、どんな雰囲気だったのか知っておいたほうがいいと思ったので、ソックスに張りついていくことにした。
荘厳な雰囲気の中、食事会は始まった。
といっても、話すのは陛下と、第2夫人と、父さま。時々アダムへと話が振られる、それぐらい。胃が悪くなるような食事タイムだ。こんなのにひたすら耐えているんだから、王族って忍耐強くないとダメだね。
食事は全てその場で鑑定してからとなり、どんどん冷えていく。3人の鑑定士が控えていて、運ばれセッティングされたものをどんどん鑑るんだけどね。
猫舌のソックスにはちょうどよかったみたい。ウニャウニャ言いながら機嫌よく食べている。ソックスはなんと王族と同じテーブルにお皿を置いてもらっている。こんな扱いをしてもらうお猫さまはソックスぐらいだろう。
もふさまは床にお皿を置いてもらっている。てんこ盛りの肉のマウンテンだ。
わたしは帰ってからご飯だ。
第2夫人は父さまに、親戚となったのだからと盛んに枕詞を使うので、ちょっと怖い。
やっとデザートまでが終わり。
退出しようとしたときに、それは起こった。
「猫ちゃん!」
それまで恐る恐るもふさまを撫でていた一番下の王女さまが、床にトンと降りたソックスをむんずと抱き上げたのだ。
驚いたソックスはギャギャギャと騒ぎ、王女さまの手をすり抜けて、部屋を駆け回った。
「リディアさま、申し訳ありません!」
王女さまのお母さまである第5夫人が、頭を下げている。
「フローリア、猫ちゃんではありません、お義姉さまですよ」
夫人がフローリア王女を捕らえた。
「(ソックス、大丈夫よ、落ち着いて!)きゅきゅっきゅ」
小さい声で語りかける。
その時、ドアが外側から開いた。その隙間をソックスが駆け抜けた。
えええええええええっ。
「(もふさま!)きゅー」
『リディア!』
「リディア!」
「リディア嬢!」
「リディア嬢!」
「リディア嬢!」
いやーーー、ソックス止まって。
『リディア!』
「もふさま~!」
もふさまが追ってきている。
『ソックスよ、止まるのだ』
ソックスはスピードを緩めず、廊下を右に曲がった。
うぉーい!
スカーフに捕まっていたけれど、遠心力に引っ張られて、わたしは飛んだ。
壁に当たることを覚悟したが、窓が開いていたので、そこから外へと放物線を描いて落ちた。
トカゲの姿だったから怪我はしなかったものの、花壇のようなところに落ちていた。
うう、どうしよう。
もふさまはそのまま、ソックスを追いかけて行っただろう。けど、追いついて、わたしがいないとわかれば、その間のどこかで落ちたのだと探してくれるはず。魔力が低下しているから見つけにくいだろうけど、必ず見つけてくれる。
廊下を走る音が聞こえる。鳴いてみたが、気づいてもらえなかった。
寒いし、心細い。
「この辺りですね、不可思議な気配が」
誰か、複数の人が近づいてくる?
わたしは隠れるように、葉っぱの裏側に張りついた。
「俺たちの気配は消してるな?」
なんか聞いたことがある声だ。
「声で気づかれたら姿が見えてしまいます。ユオブリアは、魔力を多く使えば引っかかりますから、そういった魔法を使うのは得策ではありません。気配を消すぐらいにしておかないと」
「何もないぞ」
「おかしいな。第1王子殿下についていたのと、同じ気配がするんですが」
「猫か? 猫は居そうもないが、もっと小さなものが潜むとしたら、葉の裏側か?」
声と一緒に草が左右に分かれ、手が入ってくる。多分膝を地面につき、覗き込んできたのは、銀の短髪のガインだった。
「トカゲだ。目の大きい」
手が伸びてきてつかまれる。
「(やめてーーー)きゅっ」
「お、鳴いた。抵抗してるぞ」
「若、見せてください。仲間に似た匂いが」
仲間?
ジタバタするわたしを持って、あ、お付きの青髪さんに突き出すようにされた。
青髪はわたしに鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
トカゲの匂い嗅いでる。スッゴイ嫌なんだけど!
「(嫌、変態!)ぎゅぴっ、びー」
「若、やはり第1王子殿下といたものです」
ガインはわたしをつかんだまま、じっくりとみてくる。
「なるほど」
「何か、わかりましたか?」
「猫に変化したとは嘘だな」
「嘘? そんな誰の得にもならないような嘘をついて、何がしたいのでしょう?」
「君、リディア・シュタインだろ?」
え?
わたしは固まった。
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