プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第638話 王子殿下の婚約騒動⑧困惑

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「なぜ姿が変わったのかはわからない。彼女は突然この姿になったそうだ。……そして戻る気配がない」

 アダムがソックスを覗き込み、わたしと目が合う。

「義父上とは、スキルが発動されたのかと話していたのだが、今日の鑑定でわかった。彼女は呪術をかけられたのだろう。それで人から姿を変えた」

 あれ、スキルじゃなくて、呪いで姿が変わったことにするの?

「義父上からは、こんな姿になってしまった以上と、結婚の件は断られたのだが、私が彼女を諦められなかった」

 陛下が咳払いをする。

「皆も知っている通り、ゴットは今まで多くを望んだことはない。そのゴットがたとえ姿が変わっても一緒にいたいと思った相手だ。だから余は許した」

 さらに場がシーンとした。

 他の夫人はどこまで話を聞いているんだろう。嘘だと知っているのか、知らないのか。実際、猫が王族に名を連ねるっていったら、絶対反対すると思うんだよね。
 けれど皆さま、異を唱えることはなく、全て知っていることのような顔をしている。第1王子の夢を皆で叶えてあげたいんだと言わんばかりに。


「では、あの噂を、殿下は信じていないのですね?」

「噂とは、どの噂のことだい?」

 一瞬たじろいだが、真面目な青年は顔をあげた。

「シュタイン嬢が第1王子殿下の婚約者におさまるために、画策していた件です。お芝居まで公演されました。それが本当のことだとは思っていませんでしたが、シュタイン嬢は殿下と婚約された。噂の通りの利を得ているではないですか!」

「あれは、王族の元婚約者、ひいては王族を侮辱する噂だったね。元婚約者殿は確かに不正をしたが、それは彼女の意思だ。騙されるような愚か者ではない」

 しん、とする。
 ……やっぱり、アダムはアダムの距離感でちゃんとメロディー嬢を思っていたんだな、と思える回答だった。

「それに君は私の伴侶となることが、利を得ると思うの? 2年後に幽閉が決まっているのに? ダニーラ・サマリン、君には妹がいたね。君は2年後に幽閉が決まっている王子殿下に嫁ぐことを、家門のためと勧められるの?」

 真面目な青年は、ダニーラ・サマリンというらしい。アダムはここにいるみんな、誰だかわかっているんだ。

「……妹には家門のためではなく、本当に思いが通じあった方と、添い遂げて欲しいと思っています。ですから、その相手が殿下だというなら、私は応援します。けれど、立場や何もかもが違うので、私の妹は引きあいの対象にはなり得ません」

「では、リディア嬢が私の愛を得るという利を叶えるために、前婚約者を陥れ、自分の婚約者も破棄すればいいだけなのに、大騒ぎをして相手から破棄をさせるよう仕向け、やっと私との道が開けたが呪われ姿が変わり、それでも願いにしがみつき、今こうしてここにいると、そう思っていると?」

 うわー。青年が妹を引き合いに出され〝愛〟方向に話がいったのを幸いと、アダムの婚約者になることの利点が〝愛〟のみだと話を寄せる。

「そ、そうとは言い切れませんが、元々噂は民から出たもの。符合するところがあるだけに、どんな騒ぎになるかわかりません。逆に殿下は何をもって確信されているのですか? シュタイン嬢が画策していなかったと言い切れるのですか?」

「幽閉される者の伴侶となるのに、利があると考えるのがわからないよ。それに君は知らないのだろうけど、リディア嬢と前婚約者のフランツ・シュタイン・ランディラカの深い絆は、胸に抱いている今でも焼くほどだ。破棄する前、彼女はフランツ君を間違いなく愛していた。羨ましいほど真っ直ぐにね。だから、彼女が画策する必要も、自分から婚約破棄を企てる理由もないんだよ」

 その言葉にはどこか熱がこもっていた。しんみりとした雰囲気になる。
 アダムはその空気を振り切るように、少しだけ明るい声を出した。

「さて。違う姿ではあるが、リディア嬢で間違いないことは証明した。なぜ、慶事に人の姿でなく参加しているのか、……何が起こったのか、わからないからだ。今話した通り、スキルなのだろうと思っていたが、呪術を使われた可能性が出てきたので、これからその線も調べていく。
 呪いが解かれれば、リディアの口からわかることもあるだろう。呪いを放った者を捕まえ、口を割らせる、どちらが先になるかわからないけどね。
 私は全てを話したよ。婚約のこと、議会でしっかりと対策をし、民衆に混乱が起きないようにしてくれ」

「ちょ、ちょっと待ってください。いくらなんでも、猫憑きの令嬢を王族に連ねるのですか? ユオブリアの品格に……」

 誰かが立ち上がる。

「黙れ!」

「余の新たなる娘を、侮辱するのか?」

 陛下が吠えて、体がビクッとなる。それに驚いたソックスがアダムの腕から逃げ出した。

「ごめん、ソックス、大丈夫、怖くないからアダムのとこに戻って!」

 黄緑色のスカーフに張りつき、小さい声でソックスに訴える。

「リディア!」
「リディア嬢!」
「リディア嬢!!」
「リディア嬢!」

 ソックスがというより、振り落とされないかとわたしの心配をしたんだと思う。かなり切羽詰まった声で、父さまと陛下とアダムとロサに名前を呼ばれる。
 アダムに無事回収され、ほっとする。

「悪かった、リディアよ。余がまた大きな声を出してしまった。驚かせたな?」

 と陛下がソックスの頭を撫で、ついでにわたしの頭も撫でた。
 その時にちょうど、議会やお偉方の皆さまが、こちらを凝視しているのが見えた。
 もう、あれだよね。表情で、困惑と絶望よりの感情が見える。

 王族がひと家門に入れあげたというか、確実に陛下心配されてるよ、臣下から。炙り出すためといっても、なんかまずいんじゃない? すっごく剣呑とした雰囲気になってきている。
 大丈夫なの?とアダムを見上げれば、口の端だけをあげた。

 ……狙っているのか。
 転んでもただでは起きないのが、頭のいい人たちだ。
 彼らは今回のことを利用して、王家への反乱分子を一掃するつもりだと感じた。
 それはいい。それはいいけど。そういうことはできれば、わたしが巻き込まれていない時にして欲しい。
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