プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
633 / 776
15章 あなたとわたし

第633話 王子殿下の婚約騒動③ポーカーフェイス

しおりを挟む
「リディア嬢、ごめんね」

 アダムは歩きながら言った。

「(なんでアダムが謝るのよ)きゅきゅきゅっぴ」

 あ、通訳のもふさま、いないんだっけ。

「急な変更で、君に聞かせなくていい言葉を聞かせた」

 聞かせなくていい言葉?
 あ、獣憑きか。

 何でもないよと言おうとして、また気づく。
 確かに衝撃を受けていた。言葉がどうとかじゃなくて、侮蔑だって心がわかったんだ。心が感じるんだね、侮辱されたと。
 最初トカゲになっちゃった時は、どうしてトカゲに?と思ったし、戻れたからそう思えるのかもしれないけれど、そのおかげで死を免れたし、このスキルに感謝している。
 だから今、トカゲになることに忌避はないけれど。忌避する側の気持ちもわかる。ただ侮辱されるって、じかに心にくるんだなと思った。
 そりゃ侮辱が痛みとなることは知っていた。それこそ容姿やら能力やらでいろいろ言われてきたし、落ち込んだことももちろんある。でもそれは自分自身のことだから当たり前だと思っていた。
 だけど化身はスキルだ。わたしが身につけようと思ってしたことでもないし、わたしが選んだことでもない。だからそれについて何か言われても、わたしのせいじゃないっていうか、別物と自分の中で区分けされるかと思ってた。だけど言われてみれば、心がギュッとした。
 ああ、だから母さま、父さまからしつこいぐらいに嫌な思いをすると説かれたのだなーと思い当たる。

「(大丈夫だよ)きゅぴっぴ」

 アダムはわたしを見て、少し哀しい顔でわたしの頭を撫でた。
 そのアダムが急に緊張して、振り返る。
 3人の人影。

「道をお尋ねしたかったのだが……。これは、ユオブリアの第1王子殿下とお見受けする。我はガイン・キャンベル・ガゴチ。お初にお目にかかります」

 知ってる声だ。首を微かに伸ばして見てみると、銀の短髪、ガゴチ将軍の孫だ。後ろのふたりはお付きの人。右側はやはり青い短髪の人で、左側は暗い赤の長髪の人だった。

「……こちらに迷い込まれるとは、おかしなもの。規制地区に他国の要人がいたとあれば国際問題にも発展しましょう。ここでは会わなかったことにして差し上げます。挨拶は再びまみえた時に」

「貸しを作るとおっしゃるか」

 ガインの声が、聞いたことのないほど尖っている。

「ことを大きくするのをお望みでしたらそうしましょう。謁見も……来年度の入園もない話となりますが、よろしいか?」

 え。その方が良くない?
 わたしは打算的なことを考えた。

「なるほど。噂とはあてになりませんね」

 ガインはそう言って、クスリと笑う。
 はい?

 アダムを見上げれば、スッと目が細まった。

「陛下との謁見の後、あなたの時間をいただきたい」

 え?

「私は話すことはありませんが?」

 アダムははねつける。

「あなたの探している方の、居場所を突き止めております。自分から利用されることを選んだようだが、危険が迫っている。このままだと、あなたの前に姿を現す時、全く違う彼女になっていることでしょう」

 彼女? それって……。
 アダムはポーカーフェイスを貫いている。
 けれど、微かにソックスを抱く手に力が入った。

「私は何の取り引きにも応じません。……私はご存知の通り幽閉の決まっている身。伴侶以外は持つことを許されておりません。ゆえに取り引きできるようなものがないのです。では」

 黙礼をし、身を翻そうとすれば。

「待たれよ。なぜ幽閉の道を選ぶ? 他にも道はありましょう?」

 ガインの感情の入った声だ。

「初めてお会いする方が、私の何を知っているというのか」

 アダムは口の端に、薄く笑みを浮かべる。

「私の嫁と決めている者が、何やら巻き込まれているのでね。回避するのにあなたの協力がいるのです」

 アダムの目がますます細まった。

「そうするには、あなたは少し遅かったようだ」

 アダムは身を翻した。

「それはどういうことだ?」

 今度アダムは、歩みを止めなかった。




 少し黙って歩いてから、唐突に言う。

「あの者は、君を本気で娶りたいと思っているようだね」

「(怖いこと言わないで)ぴきゅっぴ」

「王宮に来たのは、陛下への謁見ではなく、僕に用事があったのかもしれないね。今日のは〝見定め〟だ」

 もし言葉が通じたら、いくつも聞きたいことがあるのに。

「彼は残念だったね、一足遅かった。君は僕の婚約者になったから」

 アダムはガインの言った〝嫁に決めている者〟をわたしだと思ったようだ。

「ガゴチは武力の国と言われ、それも間違っていないけれど、情報戦も得意なんだ。隠密部隊がいて、様々な情報を探ってくる。そして取り引きを持ちかけ、自分たちの都合のいいような状況に追い込むのが上手い。弱味となる情報を山のように握っているときくよ」

 そんな話をしているうちに、結界の中へと帰ってきた。

「お帰りなさいませ。問題はありませんでしたか?」

「いろいろあったよ。私は陛下のところに戻らなくてはならない。お遣いさまはシュタイン伯を守っているようだ。彼女たちを頼む。君もだけど、絶対にここからでないでくれ」

 兄さまはひと礼する。

「承知致しました」

 アダムはソックスごと兄さまに預け、わたしたちをひと撫でし、また玄関から出て行った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

嫌われ者の【白豚令嬢】の巻き戻り。二度目の人生は失敗しませんわ!

大福金
ファンタジー
コミカライズスタートしました♡♡作画は甲羅まる先生です。 目が覚めると私は牢屋で寝ていた。意味が分からない……。 どうやら私は何故か、悪事を働き処刑される寸前の白豚令嬢【ソフィア・グレイドル】に生まれ変わっていた。 何で?そんな事が? 処刑台の上で首を切り落とされる寸前で神様がいきなり現れ、『魂を入れる体を間違えた』と言われた。 ちょっと待って?! 続いて神様は、追い打ちをかける様に絶望的な言葉を言った。 魂が体に定着し、私はソフィア・グレイドルとして生きるしかない と…… え? この先は首を切り落とされ死ぬだけですけど? 神様は五歳から人生をやり直して見ないかと提案してくれた。 お詫びとして色々なチート能力も付けてくれたし? このやり直し!絶対に成功させて幸せな老後を送るんだから! ソフィアに待ち受ける数々のフラグをへし折り時にはザマァしてみたり……幸せな未来の為に頑張ります。 そんな新たなソフィアが皆から知らない内に愛されて行くお話。 実はこの世界、主人公ソフィアは全く知らないが、乙女ゲームの世界なのである。 ヒロインも登場しイベントフラグが立ちますが、ソフィアは知らずにゲームのフラグをも力ずくでへし折ります。

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です

何でも欲しがる妹が、私が愛している人を奪うと言い出しました。でもその方を愛しているのは、私ではなく怖い侯爵令嬢様ですよ?

柚木ゆず
ファンタジー
「ふ~ん。レナエルはオーガスティン様を愛していて、しかもわたくし達に内緒で交際をしていましたのね」  姉レナエルのものを何でも欲しがる、ニーザリア子爵家の次女ザラ。彼女はレナエルのとある寝言を聞いたことによりそう確信し、今まで興味がなかったテデファリゼ侯爵家の嫡男オーガスティンに好意を抱くようになりました。 「ふふ。貴方が好きな人は、もらいますわ」  そのためザラは自身を溺愛する両親に頼み、レナエルを自室に軟禁した上でアプローチを始めるのですが――。そういった事実はなく、それは大きな勘違いでした。  オーガスティンを愛しているのは姉レナエルではなく、恐ろしい性質を持った侯爵令嬢マリーで――。 ※全体で見た場合恋愛シーンよりもその他のシーンが多いため、2月11日に恋愛ジャンルからファンタジージャンルへの変更を行わせていただきました(内容に変更はございません)。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

あなたが私をいらないと言ったから。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...