プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第632話 王子殿下の婚約騒動②闖入者

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「へ、陛下?」

 誰かの間が抜けた声がして。
 ひとりが跪くと、入ってきた全員が見えなくなったから、跪いたのではないかと思う。
 その後に負傷して肩を押さえた、恐らく扉を守っていた騎士が中へと入ってきて、陛下を守ろうとする。

「どういうことだ? 聖堂には誰も入れるなと言ったはずだが」

「申し訳ございません。陛下の命だとお伝えしたのですが、聞く耳を持たず……」

 騎士の報告に、また1度温度が下がった気がする。

「メネズ候、これは余に逆らう叛逆という認識でよいか?」

「め、滅相もございません。私どもは王子殿下の過ちを正しに来たのです!」

 陛下は一層声を低くした。

「余の息子の過ちとは何か、教えてくれるか、メネズ候。余には全くわからないのだが」

 これが魔力を込めた、威圧というやつか。
 体が勝手にブルブルと震える。
 アダムがソックスの背中を撫でながら、わたしの頭も大丈夫だというように撫でた。魔力を乗せたのか? 少しだけ、息がしやすくなる。

「陛下、お話を遮るようですみませんが、婚約者が陛下の、力あるお言葉の余波を受けているようです。彼女を寝所《しんじょ》に送り届けてきても良いでしょうか? お叱りや話はその後で聞きます」

 当初の予定では、今日は極秘の婚約式。発表し騒がれたら、実は婚約者が猫に変化しちゃったから公けにしにくくて、とするはずだった。
 ところが、陛下の規制を掻い潜り、神聖な儀式に殴り込みをかけてきたものたちがいた。アダムは計画を立て直したみたいだ。陛下もそれにすぐ気づいた。

 驚くぐらい優しい、初孫にメロメロになっているおじいちゃんのように、ソックスを覗きこむ。

「悪かった、リディア嬢。いや、余の娘となるリディアよ。大丈夫か?」

 そこからは、悪いけど、翻弄され続ける人たちが、めっちゃ面白かった。
 聞こえてくることから想像するに、どうやら駆けつけた人たちは、第1王子に慶事があるとだけの情報で、それを探り、そして潰すためにやってきたようなのよね。
 場所が聖堂ということから、婚約が考えられ、その相手は誰だ、絶対に潰してやると意気込んで入ってきた。けれど、中に陛下がいらして、動揺する。
 なんとか、苦言を言いにきたんだと繕ったが、殿下は婚約者が怯えていると言い、陛下が彼女を覗き込んだ。
 どう見ても殿下と陛下の指す、彼女=婚約者=娘は猫のようなものに見える。
 真っ白の毛並みの獣に、一国のふたりの王族が驚くほど優しい目を向けている。

 ざわざわしていた。けれど、発言を許されていないため質問はできない。
 何が起こっているんだという動揺が、ダイレクトに伝わってくる。

「もう、式は終わったのだ。寝所で休ませてやれ。お前はその後、しつに来い」

「ありがとうございます、陛下」

「なーご」

「おお、リディアよ、返事をしているのだな。やはり賢い。ゆっくり休むのだぞ」

 陛下がソックスの頭を撫で、わたしに向かってウィンクした。
 面白がってるね。

「へ、陛下」

 誰だか勇気を出して、陛下に呼びかける。
 陛下は振り返る。

「何だ? 発言を許した覚えはないが。娘が怯えるゆえ、お前の首はつながっているのだ。リディアに感謝するが良い」

 陛下、悪ノリしている。

「し、式が終わったとは?」

 ひとりが発言すると、勇気が出たらしい。どんどん声が上がる。

「だ、第1王子さまの婚約式が終わったということでしょうか?」
「議会に通すこともなく?」
「それに……〝リディア〟とは?」
「私には殿下が抱えているのは、猫に見えるのですが!」
「なぜここにシュタイン伯が?」
「なぜ白い獣を婚約者のように扱われて?」
「シュタイン伯、どういうことだ!」

 ひとりが父さまに突っかかる。

「(父さま!)きゅー」

 もふさまが父さまの前に出て、牙を見せると、詰め寄ろうとした人が驚いて尻餅をついた。

「(もふさま、ありがと)ぴっぴ、ぴー」

「なーご」

「後から知らせるつもりだったのに、せっかちだな」

 わたしに向けるのとは全く違う鋭い目で、ため息を落とす。
 ため息なのに、それが当たった人は怪我しそうな尖ったため息だよ。
 みんな固まっているし。

「シュタイン伯、どういうことだ。リディアとはご息女と同じ名。まさか!」

「いかにも。殿下に抱えていただいているのは、私の娘です」

 嘘は言ってないね。

「だ、誰か、鑑定ができるものは?」

 一瞬のうちに騒がしくなり、なんとその中に鑑定できる人がいた。

「シュタイン伯、嘘ではないか、確かめさせてもらうぞ?」

 父さまは陛下とアダムをチラッと見ながら焦っている。

「無粋な真似はおやめください、こんな聖なる場で!」

 あ、父さまに鑑定されても、多分大丈夫って伝えてないや。

「鑑定」

 父さまの止める声に被せるように、ひとりがソックスに向かって手を伸ばすパフォーマンスをし、目の前の何かを読むように視線が動き、驚愕した。

「ね、猫。リディア・シュタインの変化した姿、と出ます」

 ざわざわが強まり。
 父さまは複雑な表情をしている。

「獣憑きか……」

 おお、リアルに言われた。

「……ゴットよ、行きなさい」

 アダムは陛下と父さまに礼をして歩き出す。
 父さま、大丈夫かな? 陛下に強いこと言えないからって、そのしわ寄せが全部父さまにいくのでは?

『リディアよ、我は領主を守ろう。お前に害を成すものがいるなら知っておきたいしな。お前はあの結界から出るではないぞ』

 もふさまが小さい声で言った。

「なーご」

 それに返事をするかのようにソックスが鳴き声を上げる。
 もふさまはアダムを先導して道を開けさせた。
 そしてわたしたちを扉から出すと、自分は身を翻して戻って行った。
 もふさま、父さまをお願いします!
 心の中で祈った時、また光が乱舞した。

「な、何だ?」

「光が!」

「神の祝福だ!」

 誰かが心酔したような声を出す。
 この光はみんなに見えているようだ。
 アダムは光を一瞥したけれど、大して心を動かされなかったように歩き出した。
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