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15章 あなたとわたし
第631話 王子殿下の婚約騒動①正装
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陛下は真っ黒の立ち襟長衣。襟の中の真っ白のフリルがゴージャス感を打ち出していた。肉厚なマントは真紅。あったかそうなホワホワしたのを肩のところにつけている。止めるボタンは全部宝石か。サシェはやはり紫。金と真紅と黒。色の対比が素晴らしかった。
父さまは白を基調とした長衣で、押さえの色は深緑。刺繍の施されたサシェごとベルトで留めていた。上に羽織っているジャケットは流行の半分色味を変えてサシェの色的効果を高めている。ウッドのおじいさまに用意してもらったんだろう。
父さまかっこいいぞ。
陛下たちが近づいてくると、アダムはソックスを抱えたまま、頭を下げた。
「陛下、そしてシュタイン伯、ご足労、ありがとうございます」
「子供の婚約式だ。見届けるに決まっておろう。なぁ、シュタイン伯」
「さようでございます」
とソックスに目をやった父さまが、わたしに気づく。
「リ、リディー」
「(ハロー)きゅー」
「何、リディア嬢とな?」
陛下も覗き込んでくる。目があったので、わたしはペコリとした。
「おお、これが! なんと愛らしい」
おお、陛下にも言われた。わたし、本当にかわいいのかしら。トカゲだけど。
「変化したのか? また呪いか?」
「いえ、これは変化できるようになったそうです。魔力を使うようで戻った後は眠くなるようですが、大丈夫だから心配しないでと」
父さまがアダムの説明を聞いてからわたしを見るので、わたしは力強く頷いた。
ソックスが大きなあくびをしたので、背中に張りついていたわたしは、アダムの腕側に転がった。
「リディー」
「おお、大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
父さま、陛下、神官長さまから心配される。
アダムがもう片方の手でわたしを掬って、ソックスの背に乗せてくれた。
「(ありがと)きゅっ」
「陛下、規制されているところに多数の人の気配。そしてバンプーに会いました」
陛下は顔をしかめる。
「愚か者が。ひとりか? 供は誰が?」
「侍女と一緒でした」
陛下がため息を落とす。
「あい、わかった」
「陛下、夏前のことになりますが、デュボスト伯が第4夫人に接触していたようです」
「夫人が? どんな繋がりだ?」
「バンプーがよく使用する店はデュボスト伯の傘下のようで、そこから接触したのではないかと……」
アダムは陛下もご存知ではない情報を得たりするんだ……凄いな。
「第4夫人を少し自由にさせすぎたな。第2に歯向かわないよう言い聞かせたが、わかっていないようだ」
わたしはブルッと震えた。陛下から冷気が出てるよ、絶対。
「きゅー」
う。怖くて、出すつもりはなかったのに、鳴き声をあげてしまう。
すると器用に首を後ろに回したソックスが、わたしの顔を舐めた。
自身が小さくなっているとその仕草も大迫力だったが、怖がったのを感じて寄り添ってくれたのだろう。
母君である第4夫人が第3王子殿下の手綱を取れていない、もしくは王子にそうするようけしかけたのではないかという話ならわかるけど、どうしてそれが第2夫人、ロサのお母さんに歯向かうことになるんだろう?と、わたしは意味がわからなかった。
「シュタイン伯よ、少しわかったことがある」
「はっ」
父さまは胸に手を当て、首を垂れる。
砦で上官となるおじいさまの命を受けた時、騎士たちがやっぱり上官の命を受けた時の礼のやつだね。
そういうキビキビした動作っていうか、なんかかっこいいんだよね。
優雅とはまたかけ離れた〝礼〟。
「ふたりの婚約の情報はどこにも漏らしていないが、鼻の効くものたちが、何かが起こっていると、嗅ぎつけているようだ。今まで見向きもしていなかった第1王子の婚約に、注目が集まることだろう。そして反応をするほとんどの者が反対の意を唱え、難癖つけてくる。
シュタインに関わる全ての者に気をつけさせろ。一度でも手出しがあったなら、騎士を派遣する。が、どんな思惑がある者が潜んでいるやもしれん。だから外枠を騎士に守らせ、家族や近しい者にはフォンタナ家やランディラカの者で固めしっかり守れ。
それから釘はさしておいたが、王妃の実家がきっとシュタインを取り込もうとすることだろう。あのジジイには気をつけておけ。クジャク公に頭が上がらないはずだから、すぐ間に入ってもらえ」
「ありがたきご配慮、痛み入ります」
「ゴットも覚悟しろ。どうやらお前は利用価値があると気づかれたようだ。お前と誰かが一緒になると、計画が狂う者たちがいるようだな」
わたしは生唾を飲んだ。
その時、扉がガンガン叩かれている音がした。
剣がぶつかるような音も聞こえる。
な、何?
「舐められたものだ」
陛下が独りごちる。
「ゴット、前へ」
「はい」
アダムはサッと動いて、神官長さまの前で、ソックスを抱きしめながら佇む。
神官長さまは、聖水を振りまき、手につけたそれでアダムの額とソックスの額、そしてわたしの額に指を置いた。
ギギーと重たい音がして扉が開く。
アダムが体半分を横に向けて、扉の方を見た。
振り返っても後ろに陛下と父さまがいるから、そのさらに後ろの扉の辺りはよく見えない。けれど、ある程度の数の大人がダダッと入り込んできたのはわかる。その前の方の人たちは剣を掲げていた。
「神聖な儀式中に、何事だ?」
陛下の荒々しい声が響いた。
わたしは身が細るぐらい怯えた。マジで。
父さまは白を基調とした長衣で、押さえの色は深緑。刺繍の施されたサシェごとベルトで留めていた。上に羽織っているジャケットは流行の半分色味を変えてサシェの色的効果を高めている。ウッドのおじいさまに用意してもらったんだろう。
父さまかっこいいぞ。
陛下たちが近づいてくると、アダムはソックスを抱えたまま、頭を下げた。
「陛下、そしてシュタイン伯、ご足労、ありがとうございます」
「子供の婚約式だ。見届けるに決まっておろう。なぁ、シュタイン伯」
「さようでございます」
とソックスに目をやった父さまが、わたしに気づく。
「リ、リディー」
「(ハロー)きゅー」
「何、リディア嬢とな?」
陛下も覗き込んでくる。目があったので、わたしはペコリとした。
「おお、これが! なんと愛らしい」
おお、陛下にも言われた。わたし、本当にかわいいのかしら。トカゲだけど。
「変化したのか? また呪いか?」
「いえ、これは変化できるようになったそうです。魔力を使うようで戻った後は眠くなるようですが、大丈夫だから心配しないでと」
父さまがアダムの説明を聞いてからわたしを見るので、わたしは力強く頷いた。
ソックスが大きなあくびをしたので、背中に張りついていたわたしは、アダムの腕側に転がった。
「リディー」
「おお、大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
父さま、陛下、神官長さまから心配される。
アダムがもう片方の手でわたしを掬って、ソックスの背に乗せてくれた。
「(ありがと)きゅっ」
「陛下、規制されているところに多数の人の気配。そしてバンプーに会いました」
陛下は顔をしかめる。
「愚か者が。ひとりか? 供は誰が?」
「侍女と一緒でした」
陛下がため息を落とす。
「あい、わかった」
「陛下、夏前のことになりますが、デュボスト伯が第4夫人に接触していたようです」
「夫人が? どんな繋がりだ?」
「バンプーがよく使用する店はデュボスト伯の傘下のようで、そこから接触したのではないかと……」
アダムは陛下もご存知ではない情報を得たりするんだ……凄いな。
「第4夫人を少し自由にさせすぎたな。第2に歯向かわないよう言い聞かせたが、わかっていないようだ」
わたしはブルッと震えた。陛下から冷気が出てるよ、絶対。
「きゅー」
う。怖くて、出すつもりはなかったのに、鳴き声をあげてしまう。
すると器用に首を後ろに回したソックスが、わたしの顔を舐めた。
自身が小さくなっているとその仕草も大迫力だったが、怖がったのを感じて寄り添ってくれたのだろう。
母君である第4夫人が第3王子殿下の手綱を取れていない、もしくは王子にそうするようけしかけたのではないかという話ならわかるけど、どうしてそれが第2夫人、ロサのお母さんに歯向かうことになるんだろう?と、わたしは意味がわからなかった。
「シュタイン伯よ、少しわかったことがある」
「はっ」
父さまは胸に手を当て、首を垂れる。
砦で上官となるおじいさまの命を受けた時、騎士たちがやっぱり上官の命を受けた時の礼のやつだね。
そういうキビキビした動作っていうか、なんかかっこいいんだよね。
優雅とはまたかけ離れた〝礼〟。
「ふたりの婚約の情報はどこにも漏らしていないが、鼻の効くものたちが、何かが起こっていると、嗅ぎつけているようだ。今まで見向きもしていなかった第1王子の婚約に、注目が集まることだろう。そして反応をするほとんどの者が反対の意を唱え、難癖つけてくる。
シュタインに関わる全ての者に気をつけさせろ。一度でも手出しがあったなら、騎士を派遣する。が、どんな思惑がある者が潜んでいるやもしれん。だから外枠を騎士に守らせ、家族や近しい者にはフォンタナ家やランディラカの者で固めしっかり守れ。
それから釘はさしておいたが、王妃の実家がきっとシュタインを取り込もうとすることだろう。あのジジイには気をつけておけ。クジャク公に頭が上がらないはずだから、すぐ間に入ってもらえ」
「ありがたきご配慮、痛み入ります」
「ゴットも覚悟しろ。どうやらお前は利用価値があると気づかれたようだ。お前と誰かが一緒になると、計画が狂う者たちがいるようだな」
わたしは生唾を飲んだ。
その時、扉がガンガン叩かれている音がした。
剣がぶつかるような音も聞こえる。
な、何?
「舐められたものだ」
陛下が独りごちる。
「ゴット、前へ」
「はい」
アダムはサッと動いて、神官長さまの前で、ソックスを抱きしめながら佇む。
神官長さまは、聖水を振りまき、手につけたそれでアダムの額とソックスの額、そしてわたしの額に指を置いた。
ギギーと重たい音がして扉が開く。
アダムが体半分を横に向けて、扉の方を見た。
振り返っても後ろに陛下と父さまがいるから、そのさらに後ろの扉の辺りはよく見えない。けれど、ある程度の数の大人がダダッと入り込んできたのはわかる。その前の方の人たちは剣を掲げていた。
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陛下の荒々しい声が響いた。
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