プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第630話 子供たちの計画⑰婚約式

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 ソックスに地下にいる時以外、尻尾をあげないようにお願いはしてみたけれど、理解しているかはわからない。

 ソックスは黄緑色のスカーフを首に巻いて、その結び目は宝石で留めてある。わたしはそのスカーフにぶら下がる予定だ。少しだけ仕掛けを施してある。って程のものではないのだけれど、ポケットをつけてある。もふさまや兄さま、それからアダムまでもが、ぶら下がったり、張りついたりするより、ポケットをつけて、そこに入っていろという。落ちるのではないかとハラハラするからとのことだ。張りついたりぶら下がったりが基本だけど、確かにポケットがあれば休むこともできるので、こしらえてみた。
 今日は秘密裏のうえ、儀式の真似事なので、鑑定はされない。だから、もふさまと一緒にいるのでも大丈夫だろう。もふさまに乗っている時は魔法で落ちないようにしてくれるから、気分的にしがみついてはいるけれど、振り落とされるようなことはない。だからもふさまに乗っている方が俄然安心ではある。
 でも鑑定士に見せる時の練習のために、ソックスになるべく張りついていようと思う。

 時間が近づいてきたので、わたしはトカゲへと変化した。
 もふさまは大型犬サイズ。その上にわたしが張りついたソックス。
 ソックスはもふさまの背中に乗せてもらうのを気に入ったようだ。ウニャウニャが止まらない。

「婚約者殿?」

 アダムが呼んでいる。
 わたしたちは部屋を出た。

 おお。
 アダムの正装をするお手伝いを、侍女の兄さまがしたようだ。

 真っ白の立ち襟の長衣。ボタンや飾りは金色だ。
 斜めに紫の帯、サシェをしている。
 城でのアダムの髪は金色で、瞳の色は紫だ。魔法だかを解いているのだろう。
 髪と瞳の色が違うだけなのに、結構印象は変わるものなんだよね。
 イケメン度が2割増しだ。

「婚約者殿、今日はよろしく頼むよ」

 アダムが跪きソックスの鼻の頭を、優しく人差し指で押した。

「なーご」

 元気にソックスが返事をしている。
 アダムはソックスを抱き上げる。
 張りついたわたしと目が合うと、クスッと笑う。

 何笑ってるのさ。
 もうすっかり親しんだ感じでソックスを抱え、顎を撫でる。ソックスがゴロゴロ喉を鳴らした。
 安定感がいいと、しがみつくのも楽チンになる。
 兄さまに行ってきますをして、わたしたちは地下を出た。



 長い廊下を歩き、離れの宮からも出て。
 おお、外だ!
 風が気持ちいい。日差しが心地いい!
 日向ぼっこしたい。

「リディア嬢、問題が起きそうだ」

 アダムが小さな声でいう。
 大型犬サイズのもふさまが、アダムの隣へと足を早めた。

「人払いをしているはずなのに、複数の人の気配がします」

『捕まえるか?』

 念のため翻訳魔具を触っていた、もふさまが尋ねる。

「もし、何か仕掛けてきたらお願いします。僕は手が塞がっているので」

『心得た』

「見られています。気をつけて」

 背中を撫でられ、ソックスはアダムの腕の中でおとなしくしている。
 足早に歩いていたアダムは本宮殿の中に入ると、息をついた。

「何事もなくよかったです。このまま聖堂に急ぎましょう」

「(聖堂が宮殿の中にあるの?)きゅっきゅ」

 もふさまが訳してくれて、アダムが答えをくれた。

「離れにはなるけどね。本当は外からまわっていくはずだったんだけど、人の気配があるから本宮殿の中を通って聖堂の近くまで行き、そこから外に出る」

 アダムはソックスをひと撫でする。

「夕方まで聖堂付近、王宮の西側には入らないように言ってあるし、規制してあるんだが、……中も人の気配がする」

 アダムはスッと柱の影に身を寄せる。もふさまもそれに倣った。
 誰だ? 首を伸ばすようにする。

「第3王子とその侍女だ」

 アダムが顔を歪めた。一歩進み出る。

「義兄上」

「バンプー、なぜここにいる?」

「義兄上こそ、なぜここに?」

「ここは規制されていただろう?」

 アダムが冷たく鋭い声をあげた。
 あ、あの学園祭にきてた子だ。

「あ、義兄上だって同じじゃないか。それにどこに行くの、サシェをつけて正装だよね?」

 後ろに控えている侍女が、微かに視線だけでアダムを見ようとしている。

「バンプー・トスカ・ニキ・ド・ユオブリア、すぐに部屋に戻れ。私は陛下より許しをいただいて、ここにいる。このことは陛下に報告するからな」

「正装をして許しを得ている? 何をしているのです? 私にも教えてください!」

 アダムは振り切って、歩き出した。
 少し歩いてからわたしに謝る。

「すまない。まさか、陛下の言葉に背くとは。それも……。誰に唆されたんだ、あの馬鹿は……」

 アダムは〝家族〟と一線をひいている。その気持ちもわかるけれど、ロサへの気持ちは態度でもわかるし、それから今、第3王子のバンプー殿下にも愛情を持っているのが伝わってくる。
 馬鹿と言いながら、声音でバンプー殿下を心配しているのがわかるもん。
 その後、人に会うことはなかったけれど、人の気配があると、もふさまは言った。

 宮殿から出てまた少し歩き、街中の教会のような建物にたどり着いた。
 凄っ。王宮には聖堂まであるのね。
 重たそうな扉を開けて、中へと入る。
 いくつもの光の玉が乱舞していて、あまりの眩しさにわたしは目を閉じた。
 もふさまもアダムの歩みも止まらない。怯んだ様子もない。
 恐る恐る目を開けると、……あれ、光の反射だったのか?
 色のついたガラスで窓に絵が描かれている。あれが眩しかったのかな?
 教会のように正面には神さまの像があり、その前に説教をといたりする教壇があった。扉からその教壇まで道がまっすぐに続いている。その左右には7人が腰掛けられるような長椅子が並んでいた。
 前の教壇には、ルシオのお父さんである神官長さまが、神官服姿で佇んでいる。
 神官長さまがアダムに礼をとった。

「今日はよろしくお願いします」

 アダムが先に言葉を発する。

「殿下、こちらこそ、よろしくお願いします」

 そう言って頭をあげた後、ソックスを覗き込むようにして、背中に張りついていたわたしと目があった。

「ひょっとして、リディア嬢でいらっしゃいますか?」

「(ご機嫌よう、神官長さま)ぴっぴっぴ、ぴー」

「なんと、愛らしい姿ですね」

 頬を緩めて見てくる。お世辞ではなさそう。……いや、お世辞かもしれないけど、嫌われたわけではなさそう。わたしはほっとした。
 またまた扉が開き、入ってきたのは父さまを従えた陛下だった。
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