プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
627 / 904
15章 あなたとわたし

第627話 子供たちの計画⑭雄問題

しおりを挟む
 さて、どうやって切り出そう。
 一応、わたしにも慎みというものもあるし、勝手なことはよくわかっている。
 でも、変化へんげが自由自在でなかった場合、どうしても兄さまの協力が必要なのだ。頼んでみるけれど、もしダメな場合……どうしよう……。
 それからその頼みの綱でも戻れなかった場合も……。


 明後日は、アダムとわたしの嘘っこ婚約式だ。
 本来なら、最初に婚約するという噂を流し、婚約式したよとするはずだったのだけど、そういう慶事は星廻りが大切になってくる。偽りといっても当事者は第1王子殿下。そういうのすっ飛ばしたら、嘘だとすぐにバレそうだしね。明後日を逃すと、次の吉日は結構後になるそうで。それなら婚約式を先に済ませ、そこで発表しようということになった。
 訳あって参列者はいないし、当事者のふたりと大神官とこっそりとやるものだ。
 ってことで、明日父さまが、ソックスを連れてきてくれることになっている。

 作戦会議は思うように時間が取れなかった。というのは、成人していないのに、ロサが公務でかなり忙しいからだ。毎日のように、何かしらの予定が入っている。アダムは地下の幽閉が決まっているし、病弱ってことになっているから、免れているそうだ。


 とても言いにくかったのでここまで先延ばしにしてしまったが、もうあとがない。わたしは食事の後、兄さまを部屋に呼んだ。
 ベッドにはもふさまが寝転んでいる。


「兄さま、お願いがあります」

「お願い? なんでしょう?」

「……きいてくださいますか?」

「内容を聞いてみないと、なんとも申し上げられません」

 ……だよね。

「実験につきあって欲しいのです」

「実験? どんな?」

「ソックスが鑑定される時に、リディア・シュタインと鑑定されなければなりません」

「……ソックスとは?」

「農場からついてきた猫の名前です。ソックスと名付けました」

「鑑定された時ということは……まさか、お嬢さまが猫に変化した姿を……」

「そうです。もふさまにも懐いているし、同じ翠色の目だからちょうどいいと思って……」

「父さまはご存知なのですか?」

 兄さまが真顔だ。

「え? ソックスのこと? え、ええ」

「あの猫は雄ですよね?」

「え?」

「主人さま、あの子は雄でしたよね?」

『そうだな』

 もふさまは顔を毛繕いしている。

「ええっ? ソックスって男の子だったの?」

『リディアは知らなかったのか? 何か意味があるのだろうと思っていたのだが』

 …………。
 わたしが変化して、雄の猫になる。性別が変わる、〝あり〟なのだろうか?

「猫の性別って見かけでわかるものなの?」

 兄さまは眉根を寄せた。

「確かな見分け方は、尻尾をあげたらわかるでしょうね。生殖器で」

 あーーーー、それかぁ。
 なんてこと。
 ソックスはお風呂嫌いだし、帰ってきてからも、洗ってあげる体力はないから、母さまに連れて行ってもらって、恐らくはハンナが洗ってくれたんだと思う。だからわたし、一緒に遊ぶぐらいで、世話をしてないから、全然見てなかったんだよね。
 尻尾をあげたら雄ってわかっちゃうってこと?

「なぜ、雌だと思ったのですか?」

 反対に、兄さまに尋ねられる。

「だっていつもうにゃうにゃ言ってお喋りだし、もふもふ軍団が一歩ひいた感じだから、女の子だからかと思ってた」

 すると

『それは、魔物ではないからだ』

 もふさまが冷静に言った。がっくし。それが理由か……。

「……今から、猫を探しますか?」

「……いえ。翠の瞳の猫を明後日までに見つけるのは難しいと思うわ。それにすぐに懐いてくれるとは限らないし。その猫を見たことがあるとか、知っている猫である方がマズいよね。王族を巻き込んでいるんだもの」

 町にいた猫だなんて、お披露目して足がついたらマズい。王族が嘘事に加担していたとバレるのは、かなり良くない。
 全てが終わり、暴くためだったとなってからなら許されると思うけど。
 だから他国から連れて来たソックスなら、ちょうどいいと思ったのだ。

「……お嬢さまがいいのなら、いいです。それで、実験とは?」

「……自分の意思で、変化してみようと思うの」

 兄さまが息をのんだ。

「あれは起き上がれないぐらい、魔力を削られるんですよね?」

「多分だけど。魔力は使うと思うけど、あれは変化で削られたのではなくて、呪いを跳ね返すのに魔力がいったのだと思うの」

「……それで?」

「なれたとして、魔力をいっぱい使ったとか、戻れない可能性もある」

 兄さまはわたしを、不可思議なものを見るように見る。

「戻れなかったとき、兄さまに協力して欲しいの!」

「……具体的に、どんな協力ですか?」

 グッと詰まる。すっごく言いにくい。

「その……すっごく嫌だと思うんだけど。わたしが人型に戻れたとき、……直前に……その……口が当たって」

 くーーーっ、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「もし、自力で戻れなかった場合、同じ方法で戻れないか、た、試させて欲しいの」

 兄さまの返事がない、恐る恐る顔をあげると、真っ赤な顔をした美女がいた。

「き、君は、あれが、人型に戻れた理由だと思っているのか?」

「……じゃないかと思ってる」

「もし私が断ったら、王子殿下に頼むつもり?」

 え?
 赤い顔した兄さまが、睨んでくる。

「兄さま以外じゃ……」

 そこまで口にし。あれ。え。待って。もしそうだったら……嫌だな。誰でもよくて、節操なくキスすれば戻るものだったらどうしよう。
 試したわけではないことに思い当たって、わたしは困惑した。
 咳払いが聞こえる。

「わかりました。協力しましょう」

 あ、よかった!

「でも本当に私が断ったら、どうするつもりだったんですか?」

「ひたすら頼み込んで……それでもダメなら」

「ダメなら?」

「脅すこともチラッと考えた。あ、でも、できなかったと思うけど」

「脅す? お嬢さまが私を? なんと?」

 兄さまは余裕の笑みだ。

「できなかったと思う。けど。
 協力してくれなかったら、言いふらすって」

「言いふらす?」

「兄さまは、トカゲに口づけするような人だって」

 兄さまが口を開けたまま固まった。
 かなり衝撃を受けている。

 あれは事故だったけど、兄さまはトカゲのわたしに、おでこをコツンとつけていた。それが悪いとか気持ち悪いとか、わたしは思わないけど! 一度トカゲになった身だからね。でも世間の評価はいろんな意見があると思うんだ。

 他の生き物に愛情深くいられる人の目を、自分だけに向けるのは難しい。
 だから一般的に令嬢は、そういう人を恋人候補から外すと思うんだ。
 兄さまに群がる令嬢をシャットアウトするのにも、いいかなと思って。
 わたしが黒い心全開で考えた脅迫。使えないとは思っていたけど。
 ふと見上げれば、未だ兄さまは固まっていた。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

処理中です...