プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第625話 子供たちの計画⑫参加条件

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 ふわりと肩に手が置かれる。アダムがわたしの横に立っていた。

「私の婚約者をいじめないでくれるかな、侍女殿」

 アダムがとてもナチュラルに言う。

「第1王子殿下、お嬢さまはどんな敵に狙われているかも定かではありません。お嬢さまは、自分自身のことにだけ集中した方がいいのではないでしょうか? こちらのことにもかかわり、危険があるやもしれません」

「侍女殿はおかしなことを言うね。私の婚約者だ。私の守りがあるのに、何の危険があるのだろう?」

「……差しでがましいことを申し上げました」

 兄さまが頭を下げた。

「でも、侍女殿が言うことにも一理ある。当事者に聞いてみよう。危険が伴うことは、君もわかっているはずだ。君の方の案件も、実態はよくつかめていない。難儀することもわかっている。土地買いについては、最近思いついたものではなく、何年も前から練りこまれた、国家を揺るがすような案件である可能性も出てきた」

 アダムがわたしの目を覗き込む。

「トカゲになっても、情報を得るために敵地に乗り込むような君だ。引くかと問えば、引かないと言うだろう」

 その通りだ。

「もし、どうしても参加したいと言うなら、条件がある」

 わたしは唾を飲み込む。

「絶対に私の言うことはきくこと」

 速攻で頷いた。

「でも君は勢いで、最終的に結果が良いことに繋がればいいと、そう行動することが多々ある」

 ……無駄にわたしを知っている。

「言うことをきくのは絶対だ。もし破ったら、案件が終わっても婚約を解かない。そのまま本当に結婚してもらうよ?」

 アダムはニッと笑う。

「それで良ければ」

「それでいいわ」

「……いいの?」

「ア、っ、ゴットさまの言うことを、必ずきけばいいんでしょ?」

 それくらい朝飯前だ。

「いいのかい?」

「変な要求はきかないわよ」

 忙しい時にレアチーズケーキを作れとかはね。

「君は私を何だと思っているんだ?」

「第1王子殿下」

 ふっと、アダムは笑った。

「みんな、聞いたね。みんなが証人だ。リディア嬢も作戦会議に参加させるけど、私の言うことを絶対にきくそうだ。危険なことはさせない。……それで収めてくれ」

 そして完璧な、エセスマイルを決める。

「最初から根を詰めすぎたね。今日の話し合いは、これくらいにしておこう」

「そうですね。どう追い詰めるつもりなのかまでたどり着けなかったので、次回はそこから話します」

 ロサは今日話したいところまで、進めなかったことに苛立っているようだ。少しだけ口調が刺々しい。

「そうしてくれ。さて、頭を使ったから、今度は少し体を使ってみないかい?」

 え? 体?




 みんなで体育館へと移動した。
 木刀があったので、それで試合が始まった。
 わたしはマットに腰掛けてそれを見ていた。

 もふさまが戦いに興奮しているので、近くに行ってきていいよと送り出す。
 なんでそんな戦闘狂なんだとおかしくなる。
 兄さまはスカートで参戦している。
 アダムも授業の時よりもっと積極的に、そして本気は出してないのだろうけど、遠慮もしていない感じだ。

 戦い方、やはりロサとアダムは似ている。涼しげでスマートな戦い方だ。本気の兄弟対決見てみたいかも。
 ロサの剣が荒っぽい。涼しげはいつもの通りだけど、何か怒っているみたいな感じがする。

 それにしても……。見えない敵が手強いことはわかっていた。最低でも2国間を股にかけている。資金もある人たちだということだ。そして兄さまをひとりにさせるためのエトセトラから仕組まれたのだとしたら、多くの人を扇動していたから、より大きな組織であると考えられる。そして……反逆を企んでいる人たちかもしれないなんて……。もうそれはコトが大きすぎる。巻き込まれた子供なんて、どんなことになってしまうかわからない。兄さまが心配だ。危険すぎる。

 っていうか、敵はユオブリア民なんだ。農場はメラノ公の持ち物なんだから、そっか、国内で合ってるのか。メラノ公の農場っていうことも知っていたのに、なぜか敵は外国人だと思おうとしていた。どうしてかな?

 隣にルシオが腰掛ける。
 正方形で厚みが30センチはある緑のマット。高飛びの練習をする時に役立ちそうなやつだ。

「大丈夫? 顔色悪いよ」

「そう? 別になんともないけど」

「なら、いいんだけど」

 とルシオは控え目に笑う。

「神官って祈るばかりで、フランツの役にも、リディア嬢の役にも立てなくて、申し訳ないよ」

「そんなぁ。そばにいてくれることがどんなに力になっているか。それに……もし力になれてないと感じたとしても、それは今がその時じゃないだけ」

「今がその時じゃないだけ?」

 ルシオは小首を傾げる。
 ルシオはアラ兄たちより1学年上だけど、まだ〝かわいい〟が残っている。
 アラ兄たちはかわいいから離脱してかっこいい期に移ってしまったからな。
 あ、アラ兄たちの本当の年はプラス2だからルシオたちのひとつ上になるのか。
 男の子だけど、まだかわいさが残っているルシオは貴重だ。ルシオも来年はかっこいいに移行しちゃうのかしら。
 ルシオの瞳を見ながら、余計なことを考える。

「うん。きっとルシオが。ルシオしかできないことがあって、それをやるべき、そんな機会がね」

 わたしの隣に休憩に来たってことは、ルシオも木刀を振り回す遊びはあまり得意でないのだろう。

「ね、ルシオ、このマットで遊ぼうか」

「マットで遊ぶ?」

「このマットを壁に向かって立てるよ」

「え、え? ふたりでは無理じゃない?」

「大丈夫、いけるよ」

 よいしょっと緑のマットを立ち上げて、壁にもたせかける。
 この体育館だけは天井が高い。だからか、半二階のところにぐるりと通路を作っている。その通路へは梯子を登ればいい。

「え、リディア嬢、何を?」

 わたしは促してルシオと梯子を登る。そして手すりを乗り越えて、立たせているマットに手を置く。

「何を?」

「ルシオはそこで。掛け声かけたら、マットを押してぶら下がりながら、壁を蹴るんだよ、いい?」

「え、えっ?」

「せーの!」

 押して、立たせたマットを倒すようにする。隙間ができたらマットのフチにぶら下がるようにし、足で壁を蹴る。
 マットがわたしたちを乗せたまま倒れた。
 この浮遊感がたまらない! バタンと倒れたけど、マット越しだから痛くないしね。楽しくて笑える。
 横を向くと、ルシオは笑っていいのかどうか、悩んでいるような顔をしていた。

「お嬢さまたち、何をやっていらっしゃるんですか?」

 笑顔を貼り付けて、怖い声を出す、兄さま。

「兄さまもやろう。はい、立てるよ」

 怒られる前に味方にしよう。だってこれ、絶対面白いもん。

「お嬢さま、スカートで梯子を登るなど」

「ペチコート履いてるから大丈夫だよ。兄さまも登っておいでよ」

 兄さまもスカートで木刀振るってるじゃん。やっぱりペチコートはいてるのかな?

 渋々登ってきたけれど、マットと共に倒れた時は、ちょっと楽しそうな顔をしていた。
 マット遊びの楽しさはみんなに伝染し、それからしばらくマットで遊んだ。
 わたしはマットと一緒に倒れるのが楽しかったけれど、みんなは2階からマットの上に飛び降りる方が面白かったようだ。
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