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15章 あなたとわたし
第624話 子供たちの計画⑪巻き込まれた学生
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「……そういえばそうだったな。それが記憶に残っていたから、今回の土地買いのことを、土地活用の論文と関連づけたんだ。作文を書いて興味深かったから、もっと知りたくなったということにして」
自分が今、何にかかわっているか思い出したんだろう。
ブライが一瞬、しまったという顔になった。
「去年、2年生以上の全員が書かされましたね。4年生と5年生の何人かの作文が、コンクールに出されて入賞したんじゃなかったかな」
ダニエルがブライの失言を早く流そうとしてか、明るい声をだす。
「……俺、入賞したのより、フランツの書いたのに衝撃を受けたよ。あの時、初めて共和制に興味を持った」
イザークが兄さまの作文を褒めた。
クジャクのおじいさまが、兄さまの土地活用の作文を褒めてたことを思い出す。
あれは去年の2年生以上が、全員書かされたものだったのか。
それでヤーガンさま、それからガネット先輩の作品が選ばれて入賞したってわけなんだね。
そういえばその時にガネット先輩は、平民という理由で自分が選ばれたと、耳にしたことから思ってしまったんだよね。気にはなっていたけれど、ふたりの作文も、兄さまのものも読んでないんだよな。イザークはどれも読んだみたいだ。ちょっと感想を聞いてみたい。けど、……今は作戦会議中だし、脱線し過ぎか……。
「どうしました、リディアお嬢さま? 何か気になることでも?」
兄さまは侍女に徹するつもりらしい。
「ちょっと思い出したことがあって。でも関係ないことだから……」
「授業中というわけではないし、思ったことは何でも言っていいよ」
ロサが優しく言って、みんながそれに頷く。
少々言いづらくはあったけれど、わたしはガネット先輩の話をした。
優秀賞をいただき、賞状と偉い人からの言葉をもらったけれど、主催者の人が〝平民が学園に入るとここまで考えられるようになる〟って話しているのを聞いてしまったこと。そして他の貴族の作文を読んで、自分がどれだけ社会を知らずにいるかと思い知ったこと。自分の考えや作文が認められたのではなくて、平民にしては穿った考えだから、平民にしてはよくやってるから、そんな評価だったと思えて、苦い受賞になってしまったことを。
「それはなんとも辛い経験になってしまったね」
ダニエルが同情の声を上げる。
「コンクールに出品されるぐらいなんだから、胸張ってりゃいいのに」
とブライが言えば
「みんながブライのように、鋼の心を持っているわけではないんだよ」
とルシオが説いた。
「……関係なくないかもしれないぞ」
ロサが言った。
「え?」
「法の改訂案を出したのは、王位継承権を持つ、ゼイヴィア・モンターギュ・ペトリス公爵。3代前の王の兄の家門だ。2代前のメラノ公と兄妹で親戚。もっともメラノ公女は養子をとったから血は繋がっていないけどね」
ええと、それはどういう?
「エイウッド君が言うように、土地活用の作文を課されたのは唐突だったな。まあ、法案が却下され、次代を担う学生に、今から考えておくようにという意味合いを持たせているんだと思っていたけど、……まったく違った意味があったのかもしれない」
「知らないうちに、権力争いに巻き込まれていたんですね、私たち学生が」
アダムが憂いだように言えば、兄さまもそれを肯定する。
「どういうことだよ?」
ヤバイ。顔色を見るに、わかってないのは、わたしとブライだけっぽい。
「受賞者全員の作品を読んだわけではないので断言はできないけれど、主催者が声高に言いたいことが書かれている作品を、受賞させることができるってことですよ」
「え?」
ピンとこなかったんだろう、ブライが発言したルシオに聞き返す。
ルシオはこれ以上なんて説明すればと、目を上にむけた。
それを見て、イザークが腕を組む。
「だからつまり。仮定だけど。土地を買うことができるという案が通らなかった。だけどいずれはどうにか通らせたい。世間の関心が向き、多くの人がそれに賛同すれば案は通る。だから学生に作文を書かせた。コンクールも開く。そして、買うことができるといいというような作文を受賞させる。それが平民のものであれば、平民もそう思っていると、そう誘導できる。再度言うけど、あくまで仮定話だからな」
イザークがブライに指を突きつけた。
なんかそれは、とても後味の悪い仮定話だけれど、ないとも言い切れないと思った。
「あのコンクールの主催は誰だったかな?」
「主催の顧問はヤーガン公爵家」
わたしが言うと、みんなも賞状を授与しに来ていたと相槌を打った。
嫌だな、ヤーガンさまのお父さんが何かかかわっていたら……。
「ヤーガン公爵に話を聞けるな」
ロサが呟く。
「法案を変えるという思いだけなら、まだいいですが……」
ダニエルが渋い顔をした。
「何だよ、最後まで言えよ。お前が暗い顔をした時、ぜってー怖い話なんだから」
ブライに言われて、ダニエルがチラッとわたしを見た。
ん?
おとなしく話をずっと聞いていたもふさまも、わたしを見上げる。
「法案だけを変えるなんて言わず、もっと手っ取り早く全てを変える方法があるじゃないですか」
え、それって……。ごくんと唾を飲み込んでいた。
「……陛下に進捗を報告することになっているから、話しておくよ」
とアダムが言った。
〝手っ取り早く全てを変える〟方法。やっぱり、それは頭をすげ替えるってこと?
「予想の段階ですよ、お嬢さま。まだ何も確かではありません。ここからどんな過酷な事実が展開されるかわかりません。……それが辛いようなら抜けられてはどうですか?」
兄さまにピシッと指摘された。
自分が今、何にかかわっているか思い出したんだろう。
ブライが一瞬、しまったという顔になった。
「去年、2年生以上の全員が書かされましたね。4年生と5年生の何人かの作文が、コンクールに出されて入賞したんじゃなかったかな」
ダニエルがブライの失言を早く流そうとしてか、明るい声をだす。
「……俺、入賞したのより、フランツの書いたのに衝撃を受けたよ。あの時、初めて共和制に興味を持った」
イザークが兄さまの作文を褒めた。
クジャクのおじいさまが、兄さまの土地活用の作文を褒めてたことを思い出す。
あれは去年の2年生以上が、全員書かされたものだったのか。
それでヤーガンさま、それからガネット先輩の作品が選ばれて入賞したってわけなんだね。
そういえばその時にガネット先輩は、平民という理由で自分が選ばれたと、耳にしたことから思ってしまったんだよね。気にはなっていたけれど、ふたりの作文も、兄さまのものも読んでないんだよな。イザークはどれも読んだみたいだ。ちょっと感想を聞いてみたい。けど、……今は作戦会議中だし、脱線し過ぎか……。
「どうしました、リディアお嬢さま? 何か気になることでも?」
兄さまは侍女に徹するつもりらしい。
「ちょっと思い出したことがあって。でも関係ないことだから……」
「授業中というわけではないし、思ったことは何でも言っていいよ」
ロサが優しく言って、みんながそれに頷く。
少々言いづらくはあったけれど、わたしはガネット先輩の話をした。
優秀賞をいただき、賞状と偉い人からの言葉をもらったけれど、主催者の人が〝平民が学園に入るとここまで考えられるようになる〟って話しているのを聞いてしまったこと。そして他の貴族の作文を読んで、自分がどれだけ社会を知らずにいるかと思い知ったこと。自分の考えや作文が認められたのではなくて、平民にしては穿った考えだから、平民にしてはよくやってるから、そんな評価だったと思えて、苦い受賞になってしまったことを。
「それはなんとも辛い経験になってしまったね」
ダニエルが同情の声を上げる。
「コンクールに出品されるぐらいなんだから、胸張ってりゃいいのに」
とブライが言えば
「みんながブライのように、鋼の心を持っているわけではないんだよ」
とルシオが説いた。
「……関係なくないかもしれないぞ」
ロサが言った。
「え?」
「法の改訂案を出したのは、王位継承権を持つ、ゼイヴィア・モンターギュ・ペトリス公爵。3代前の王の兄の家門だ。2代前のメラノ公と兄妹で親戚。もっともメラノ公女は養子をとったから血は繋がっていないけどね」
ええと、それはどういう?
「エイウッド君が言うように、土地活用の作文を課されたのは唐突だったな。まあ、法案が却下され、次代を担う学生に、今から考えておくようにという意味合いを持たせているんだと思っていたけど、……まったく違った意味があったのかもしれない」
「知らないうちに、権力争いに巻き込まれていたんですね、私たち学生が」
アダムが憂いだように言えば、兄さまもそれを肯定する。
「どういうことだよ?」
ヤバイ。顔色を見るに、わかってないのは、わたしとブライだけっぽい。
「受賞者全員の作品を読んだわけではないので断言はできないけれど、主催者が声高に言いたいことが書かれている作品を、受賞させることができるってことですよ」
「え?」
ピンとこなかったんだろう、ブライが発言したルシオに聞き返す。
ルシオはこれ以上なんて説明すればと、目を上にむけた。
それを見て、イザークが腕を組む。
「だからつまり。仮定だけど。土地を買うことができるという案が通らなかった。だけどいずれはどうにか通らせたい。世間の関心が向き、多くの人がそれに賛同すれば案は通る。だから学生に作文を書かせた。コンクールも開く。そして、買うことができるといいというような作文を受賞させる。それが平民のものであれば、平民もそう思っていると、そう誘導できる。再度言うけど、あくまで仮定話だからな」
イザークがブライに指を突きつけた。
なんかそれは、とても後味の悪い仮定話だけれど、ないとも言い切れないと思った。
「あのコンクールの主催は誰だったかな?」
「主催の顧問はヤーガン公爵家」
わたしが言うと、みんなも賞状を授与しに来ていたと相槌を打った。
嫌だな、ヤーガンさまのお父さんが何かかかわっていたら……。
「ヤーガン公爵に話を聞けるな」
ロサが呟く。
「法案を変えるという思いだけなら、まだいいですが……」
ダニエルが渋い顔をした。
「何だよ、最後まで言えよ。お前が暗い顔をした時、ぜってー怖い話なんだから」
ブライに言われて、ダニエルがチラッとわたしを見た。
ん?
おとなしく話をずっと聞いていたもふさまも、わたしを見上げる。
「法案だけを変えるなんて言わず、もっと手っ取り早く全てを変える方法があるじゃないですか」
え、それって……。ごくんと唾を飲み込んでいた。
「……陛下に進捗を報告することになっているから、話しておくよ」
とアダムが言った。
〝手っ取り早く全てを変える〟方法。やっぱり、それは頭をすげ替えるってこと?
「予想の段階ですよ、お嬢さま。まだ何も確かではありません。ここからどんな過酷な事実が展開されるかわかりません。……それが辛いようなら抜けられてはどうですか?」
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