プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
624 / 823
15章 あなたとわたし

第624話 子供たちの計画⑪巻き込まれた学生

しおりを挟む
「……そういえばそうだったな。それが記憶に残っていたから、今回の土地買いのことを、土地活用の論文と関連づけたんだ。作文を書いて興味深かったから、もっと知りたくなったということにして」

 自分が今、何にかかわっているか思い出したんだろう。
 ブライが一瞬、しまったという顔になった。

「去年、2年生以上の全員が書かされましたね。4年生と5年生の何人かの作文が、コンクールに出されて入賞したんじゃなかったかな」

 ダニエルがブライの失言を早く流そうとしてか、明るい声をだす。

「……俺、入賞したのより、フランツの書いたのに衝撃を受けたよ。あの時、初めて共和制に興味を持った」

 イザークが兄さまの作文を褒めた。
 クジャクのおじいさまが、兄さまの土地活用の作文を褒めてたことを思い出す。
 あれは去年の2年生以上が、全員書かされたものだったのか。
 それでヤーガンさま、それからガネット先輩の作品が選ばれて入賞したってわけなんだね。

 そういえばその時にガネット先輩は、平民という理由で自分が選ばれたと、耳にしたことから思ってしまったんだよね。気にはなっていたけれど、ふたりの作文も、兄さまのものも読んでないんだよな。イザークはどれも読んだみたいだ。ちょっと感想を聞いてみたい。けど、……今は作戦会議中だし、脱線し過ぎか……。

「どうしました、リディアお嬢さま? 何か気になることでも?」

 兄さまは侍女に徹するつもりらしい。

「ちょっと思い出したことがあって。でも関係ないことだから……」

「授業中というわけではないし、思ったことは何でも言っていいよ」

 ロサが優しく言って、みんながそれに頷く。
 少々言いづらくはあったけれど、わたしはガネット先輩の話をした。

 優秀賞をいただき、賞状と偉い人からの言葉をもらったけれど、主催者の人が〝平民が学園に入るとここまで考えられるようになる〟って話しているのを聞いてしまったこと。そして他の貴族の作文を読んで、自分がどれだけ社会を知らずにいるかと思い知ったこと。自分の考えや作文が認められたのではなくて、平民にしては穿った考えだから、平民にしてはよくやってるから、そんな評価だったと思えて、苦い受賞になってしまったことを。

「それはなんとも辛い経験になってしまったね」

 ダニエルが同情の声を上げる。

「コンクールに出品されるぐらいなんだから、胸張ってりゃいいのに」

 とブライが言えば

「みんながブライのように、鋼の心を持っているわけではないんだよ」

 とルシオが説いた。

「……関係なくないかもしれないぞ」

 ロサが言った。

「え?」

「法の改訂案を出したのは、王位継承権を持つ、ゼイヴィア・モンターギュ・ペトリス公爵。3代前の王の兄の家門だ。2代前のメラノ公と兄妹で親戚。もっともメラノ公女は養子をとったから血は繋がっていないけどね」

 ええと、それはどういう?

「エイウッド君が言うように、土地活用の作文を課されたのは唐突だったな。まあ、法案が却下され、次代を担う学生に、今から考えておくようにという意味合いを持たせているんだと思っていたけど、……まったく違った意味があったのかもしれない」

「知らないうちに、権力争いに巻き込まれていたんですね、私たち学生が」

 アダムが憂いだように言えば、兄さまもそれを肯定する。

「どういうことだよ?」

 ヤバイ。顔色を見るに、わかってないのは、わたしとブライだけっぽい。

「受賞者全員の作品を読んだわけではないので断言はできないけれど、主催者が声高に言いたいことが書かれている作品を、受賞させることができるってことですよ」

「え?」

 ピンとこなかったんだろう、ブライが発言したルシオに聞き返す。
 ルシオはこれ以上なんて説明すればと、目を上にむけた。
 それを見て、イザークが腕を組む。

「だからつまり。仮定だけど。土地を買うことができるという案が通らなかった。だけどいずれはどうにか通らせたい。世間の関心が向き、多くの人がそれに賛同すれば案は通る。だから学生に作文を書かせた。コンクールも開く。そして、買うことができるといいというような作文を受賞させる。それが平民のものであれば、平民もそう思っていると、そう誘導できる。再度言うけど、あくまで仮定話だからな」

 イザークがブライに指を突きつけた。
 なんかそれは、とても後味の悪い仮定話だけれど、ないとも言い切れないと思った。

「あのコンクールの主催は誰だったかな?」

「主催の顧問はヤーガン公爵家」

 わたしが言うと、みんなも賞状を授与しに来ていたと相槌を打った。
 嫌だな、ヤーガンさまのお父さんが何かかかわっていたら……。

「ヤーガン公爵に話を聞けるな」

 ロサが呟く。

「法案を変えるという思いだけなら、まだいいですが……」

 ダニエルが渋い顔をした。

「何だよ、最後まで言えよ。お前が暗い顔をした時、ぜってー怖い話なんだから」

 ブライに言われて、ダニエルがチラッとわたしを見た。
 ん?
 おとなしく話をずっと聞いていたもふさまも、わたしを見上げる。

「法案だけを変えるなんて言わず、もっと手っ取り早く全てを変える方法があるじゃないですか」

 え、それって……。ごくんと唾を飲み込んでいた。

「……陛下に進捗を報告することになっているから、話しておくよ」

 とアダムが言った。
 〝手っ取り早く全てを変える〟方法。やっぱり、それは頭をすげ替えるってこと?

「予想の段階ですよ、お嬢さま。まだ何も確かではありません。ここからどんな過酷な事実が展開されるかわかりません。……それが辛いようなら抜けられてはどうですか?」

 兄さまにピシッと指摘された。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...