620 / 823
15章 あなたとわたし
第620話 子供たちの計画⑦合流
しおりを挟む
「リディア嬢!」
もふさまにロサたちが来たようだと聞いて、玄関でお出迎えすると、みんなに名前を呼ばれる。
「あらかた、殿下から聞いたよ。大変だったね」
とダニエル。
無言で頭を撫でてくれたのはイザーク。
「元気そうで安心した」
とニカっと笑ったのはブライ。
「祈ることしかできないのが、もどかしいです」
と、すまなそうにしたのはルシオだ。
みんなわたしの無事を喜んでくれる。
最後に兄さまが佇んでいた。
王宮のメイド服は、立ち襟の黒いロングワンピースに、真っ白のエプロンを纏ったもの。エプロンは肩のところだけひだをたっぷり施し、大きく膨らませているけれど、あとはシンプルだ。さすがに生地は良さそうだけどね。たった2色だけで構成された服を着ているのに、圧倒的な存在感。美しさが余計に引き立っているかも。髪は茶色のウィッグの毛を上でひとつにまとめ、白い布で包んでいた。
「しばらく……リディアさまの侍女を命じられました。よろしくお願いします」
と、兄さまの普通の声で言われる。
信頼できる侍女って兄さまのことだったのか。わたしにつけてくれるんだ。
そしたら実験もできるし、大変ありがたいけど……。兄さまはちょっと不機嫌だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アダムが後ろから現れると、みんな一斉に跪いた。
「ごきげんよう」
アダムが声を掛けると、ダニエルが代表して言葉を発する。
「第1王子殿下に、ご挨拶申し上げます」
「ここでは畏まらなくていいよ。ブレドのことだけでなく、私まで君たちを巻き込むことになったが、協力してもらえると助かるよ」
アダムがそういう体を取れば、みんなが胸に手を当てた。
兄さまもメイドのスカート姿で片膝をついている。なのに、どこか優雅に見えるからすごいね。わたしがやっても、そうはならないよ。
何を思ったのか、アダムはみんなに地下基地を案内した。
体育館ではみんな歓声を上げる。テンションが上がってる。なぜ?
アダムは部屋は有り余っているから、いつでも泊まってくれていいよと言った。
それからさりげなく、ガゴチが陛下に謁見を望んだこと、恐らくみんなも目をつけられて、行動を見張られている危険性があることをさらりと言った。
特にわたしと侍女は地下から出ないよう、もう一度諭される。
居間で作戦会議をすることにする。
お茶を入れようとすると、兄さまに止められた。
これは侍女の仕事だそうだ。
先にわたしたちの計画を話した。計画っていっても、まだ婚約発表をするってだけなんだけどね。
ロサから聞いていたんだろう、ダニエルに言われる。
「リディア嬢、変化することを本当に明かすのかい?」
「……うん」
「いいのか?」
ダニエルが、いや、ダニエルだけじゃなくて、みんな心配してくれてる。
「うん。呪術が効かないって思ってもらいたいし、後々、縁談の話もなくなるだろうから、ちょうどいいかと思って」
「そうか」
ひと段落したところで、アダムが促す。
「では、今度はブレドたちの話を聞かせてくれ」
ロサが口火を切った。何も知らないアダムのために外枠からだ。
兄さまはすっきりした顔をしているから、みんなには打ち明けたんだと思う。
けれど表向きは、こうしたようだ。
兄さまは罪人クラウス・バイエルンに間違えられ、一体、何者なんだと、前バイエルン侯を調べた。
候がエレブ共和国で所有しているブレーン農場にて、ユオブリアの機密を漏らしたとタレコミがあり、押しいるとそこだけ破れてしまったかのような地図の端っこがあった。その地図はユオブリアの王室でだけ観覧するのを許された、精巧な地図の一部に見えた。それで国家機密漏洩の疑いがかかり、ユオブリアにて取り調べを受ける。その取り調べている間に、前バイエルン侯は亡くなった。
その罪は子息であるクラウス・バイエルンに移る。けれど、後を追うように、後妻も子息も亡くなった……。それから11年の歳月が流れた今、前バイエルン候に似ているというだけで、迫害を受けた。
事情を聞くだけならともかく、地図の端っこがあっただけで、前バイエルン候が拘束されたのは腑に落ちなかった。不思議に思い、そして自分にも被害が及んでいるので、もう少しだけ調べてみることにした。
兄さまはエレブ共和国のブレーン農場に密偵を送った。といっても、年月が経ち過ぎている。所有者も変わっているのだ。ただそう確認するためだけのはずだった。ところが、決定的なことを聞いてしまう。罪人になったフランツなら、ちょうどいいと、何かの罪を被されようとしていることを。
折しも自分はランディラカの保護下から出て放浪中。今だったら簡単に罪人となってしまう。それを回避するため、そして本当の悪人を見過ごさないために、ロサ殿下の力を借り、阻止することに決めた。
それがきっかけ。
ロサたちはまず、兄さまを王宮に匿った。兄さまの所在不明が、一番利用されやすいからだ。
エレブ共和国のブレーン農場は、今はメラノ公爵家の持ち物。そこで話を聞いた。メラノ公は絶対に関与している。かといって物証がないうちにメラノ公やブレーン農場とワードを出すのは危険すぎる。
と、6人で考えていた時、ロサは思い出した。エレブ共和国といえば、ちょうど今、ユオブリア有権者の土地買いについて、ユオブリアが調べている国だと。
彼らはそれが使えると思った。
恩師がまた何かに巻き込まれているのではないかと不安になり、有志で「外国の土地活用」の論文を書くために調べていると装うことにした。エレブ共和国に前から土地を持ち、農場を経営しているメラノ公に話を聞きにいく算段も取り付けている。
アダムへの説明、それから自分たちでも考えをまとめる意味でもあるのだろう、土地買いについてのあらましも、みんなで補い合いながら話してくれた。
もふさまにロサたちが来たようだと聞いて、玄関でお出迎えすると、みんなに名前を呼ばれる。
「あらかた、殿下から聞いたよ。大変だったね」
とダニエル。
無言で頭を撫でてくれたのはイザーク。
「元気そうで安心した」
とニカっと笑ったのはブライ。
「祈ることしかできないのが、もどかしいです」
と、すまなそうにしたのはルシオだ。
みんなわたしの無事を喜んでくれる。
最後に兄さまが佇んでいた。
王宮のメイド服は、立ち襟の黒いロングワンピースに、真っ白のエプロンを纏ったもの。エプロンは肩のところだけひだをたっぷり施し、大きく膨らませているけれど、あとはシンプルだ。さすがに生地は良さそうだけどね。たった2色だけで構成された服を着ているのに、圧倒的な存在感。美しさが余計に引き立っているかも。髪は茶色のウィッグの毛を上でひとつにまとめ、白い布で包んでいた。
「しばらく……リディアさまの侍女を命じられました。よろしくお願いします」
と、兄さまの普通の声で言われる。
信頼できる侍女って兄さまのことだったのか。わたしにつけてくれるんだ。
そしたら実験もできるし、大変ありがたいけど……。兄さまはちょっと不機嫌だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アダムが後ろから現れると、みんな一斉に跪いた。
「ごきげんよう」
アダムが声を掛けると、ダニエルが代表して言葉を発する。
「第1王子殿下に、ご挨拶申し上げます」
「ここでは畏まらなくていいよ。ブレドのことだけでなく、私まで君たちを巻き込むことになったが、協力してもらえると助かるよ」
アダムがそういう体を取れば、みんなが胸に手を当てた。
兄さまもメイドのスカート姿で片膝をついている。なのに、どこか優雅に見えるからすごいね。わたしがやっても、そうはならないよ。
何を思ったのか、アダムはみんなに地下基地を案内した。
体育館ではみんな歓声を上げる。テンションが上がってる。なぜ?
アダムは部屋は有り余っているから、いつでも泊まってくれていいよと言った。
それからさりげなく、ガゴチが陛下に謁見を望んだこと、恐らくみんなも目をつけられて、行動を見張られている危険性があることをさらりと言った。
特にわたしと侍女は地下から出ないよう、もう一度諭される。
居間で作戦会議をすることにする。
お茶を入れようとすると、兄さまに止められた。
これは侍女の仕事だそうだ。
先にわたしたちの計画を話した。計画っていっても、まだ婚約発表をするってだけなんだけどね。
ロサから聞いていたんだろう、ダニエルに言われる。
「リディア嬢、変化することを本当に明かすのかい?」
「……うん」
「いいのか?」
ダニエルが、いや、ダニエルだけじゃなくて、みんな心配してくれてる。
「うん。呪術が効かないって思ってもらいたいし、後々、縁談の話もなくなるだろうから、ちょうどいいかと思って」
「そうか」
ひと段落したところで、アダムが促す。
「では、今度はブレドたちの話を聞かせてくれ」
ロサが口火を切った。何も知らないアダムのために外枠からだ。
兄さまはすっきりした顔をしているから、みんなには打ち明けたんだと思う。
けれど表向きは、こうしたようだ。
兄さまは罪人クラウス・バイエルンに間違えられ、一体、何者なんだと、前バイエルン侯を調べた。
候がエレブ共和国で所有しているブレーン農場にて、ユオブリアの機密を漏らしたとタレコミがあり、押しいるとそこだけ破れてしまったかのような地図の端っこがあった。その地図はユオブリアの王室でだけ観覧するのを許された、精巧な地図の一部に見えた。それで国家機密漏洩の疑いがかかり、ユオブリアにて取り調べを受ける。その取り調べている間に、前バイエルン侯は亡くなった。
その罪は子息であるクラウス・バイエルンに移る。けれど、後を追うように、後妻も子息も亡くなった……。それから11年の歳月が流れた今、前バイエルン候に似ているというだけで、迫害を受けた。
事情を聞くだけならともかく、地図の端っこがあっただけで、前バイエルン候が拘束されたのは腑に落ちなかった。不思議に思い、そして自分にも被害が及んでいるので、もう少しだけ調べてみることにした。
兄さまはエレブ共和国のブレーン農場に密偵を送った。といっても、年月が経ち過ぎている。所有者も変わっているのだ。ただそう確認するためだけのはずだった。ところが、決定的なことを聞いてしまう。罪人になったフランツなら、ちょうどいいと、何かの罪を被されようとしていることを。
折しも自分はランディラカの保護下から出て放浪中。今だったら簡単に罪人となってしまう。それを回避するため、そして本当の悪人を見過ごさないために、ロサ殿下の力を借り、阻止することに決めた。
それがきっかけ。
ロサたちはまず、兄さまを王宮に匿った。兄さまの所在不明が、一番利用されやすいからだ。
エレブ共和国のブレーン農場は、今はメラノ公爵家の持ち物。そこで話を聞いた。メラノ公は絶対に関与している。かといって物証がないうちにメラノ公やブレーン農場とワードを出すのは危険すぎる。
と、6人で考えていた時、ロサは思い出した。エレブ共和国といえば、ちょうど今、ユオブリア有権者の土地買いについて、ユオブリアが調べている国だと。
彼らはそれが使えると思った。
恩師がまた何かに巻き込まれているのではないかと不安になり、有志で「外国の土地活用」の論文を書くために調べていると装うことにした。エレブ共和国に前から土地を持ち、農場を経営しているメラノ公に話を聞きにいく算段も取り付けている。
アダムへの説明、それから自分たちでも考えをまとめる意味でもあるのだろう、土地買いについてのあらましも、みんなで補い合いながら話してくれた。
120
お気に入りに追加
1,239
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。
まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。
温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。
異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか?
魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。
平民なんですがもしかして私って聖女候補?
脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか?
常に何処かで大食いバトルが開催中!
登場人物ほぼ甘党!
ファンタジー要素薄め!?かもしれない?
母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥
◇◇◇◇
現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。
しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい!
転生もふもふのスピンオフ!
アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で…
母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される
こちらもよろしくお願いします。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる