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15章 あなたとわたし
第619話 子供たちの計画⑥嗅覚
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『リディア、朝だぞ』
もふさまが口でカーテンを引っ張る。
見せかけの地下の窓なのに、どうやって光彩を取り入れているんだか。
大きく伸びをして、もふさまに挨拶をする。
『小僧はどこかに出かけたようだぞ』
「アダムが?」
時間を確認すると7時半だ。結構たっぷり眠ったなぁ。
着替えて、お風呂場に失礼して、顔を洗わせてもらう。
お風呂に使うお湯はどこかにプールしてあるんだと思う。洗い場のお湯は出がいいもの。
王宮だから水源の確保は考えられていて当然だけど、後から付け足した地下部屋は水源から遠いのではないかな。そうなるとここで暮らすには、お水問題がネックだ。あ、アダムは水魔法も使えるから問題ないか。
と要らぬことを思っていたら、キッチンの樽にはお水が満杯になっていた。魔法か魔具だね。
居間に行くと、アダムからの置き手紙があった。
陛下への挨拶に行ったようだ。ついでに朝食を仕入れてくるとある。
それから絶対に地下から出ないようにと、書き添えられていた。
「もふさま、ここに入る時、魔力の流れが途切れてるって言ってたでしょ? どんな感じなの?」
『……学園では聖樹さまの魔が張り巡らされている。それと同じような魔がもっと複雑に複数の魔が張り巡らされている、それが王宮だ。ただ、あの入り口までだ。魔が張り巡らされているのは。ここは強い結界に守られている。そうだな、リディアの魔力が暴走してもこの室が傷つくぐらいだろう。それぐらい何重にも中に閉じ込めるようにしておる。外からは感知されない別の空間のようなところだ』
……………………。
それって狂った第1王子の魔力が暴走しても大丈夫なように、閉じ込める目的で作られているから? あーやだやだ。
「でも。それって、ここで魔法使っても、バレないってこと?」
『小僧にはわかるかもしれないぞ』
あ、そっか。アダムのための結界だものね。魔法使いたいホーダイかと思ったのに。
ソファーに腰掛けてアダムを待っていたけれど、なかなか帰ってこない。
もふさまの背中を撫でているうちに、うとうとしていたようだ。
咳払いで気がついた。
「アダム、おはよう」
朝っぱらから無駄にキラキラしている。
学園とは違い顔を隠す必要がないからか、鬱陶しい長い前髪の半分は後ろに流れているので、イケメン度がアップだ。
「おはよう。眠いなら部屋で寝るように」
「ごめん、ごめん。トカゲになってから、眠り癖がついちゃってさ」
注意モードだったアダムの表情が緩み、代わりに心配するような表情が顔を出す。
「眠り癖だけかい? 他に変わったところはないの?」
「あと、寒がりになったな。狭くてあったかそうなところ見ると、入りたくなるんだよね」
「……狭くて、あったかそうなところ?」
「人型だと入れないけど、袖口とか、ポケットとか、胸の内側のとことか。もふさまの伏せてる時の、この床との間とかにね、顔を突っ込みたくなるの」
アダムが固まっている。
「人型の時はやらないから安心して」
「……それもまた難儀だね」
アダムはわたしたちを食堂へ促す。
アダムが袋から出したのは、スープにパンと串焼きだった。屋台にあるようなラインナップだ。
「もしかして、外に出たの?」
「昨日ご馳走になったからね。リディア嬢はこういうの好きだろ?」
もふさまの分もたっぷりだ。
「ありがとう」
早速、配膳していただくことに。
お城の近くで営業できる屋台だけあって、お肉の味がよく、ジューシな焼き方も素晴らしい。塩だけの味つけでもおいしかった。パンはパサっとした普通のタイプのもの。具沢山のスープに浸して食べれば全く気にならない。
あったかい朝ごはんでお腹もいっぱいだ。
「アダム、お遣いさまが、ここの結界は特殊だって言ってたんだけど、伝達魔法は使える?」
「ああ、地下から出る必要がある。手紙を渡してくれれば、僕が出すよ。君は地下から出ないでくれ」
出るつもりはこれっぽっちもなかったけれど、念を押されると、なんだか怖くなるじゃないか。
「何かあったの?」
尋ねるとアダムはしまったという顔をした。軽く息をひとつつく。
「ガゴチが呪術師に狙われていると教えてくれたと言ったね。その時、ガゴチは君の家に何をしに来たの? それを教えにだけ? そんなに親しいの?」
「親しくないわ。どか雪の中、砦越えをして領地に来たの。ガゴチ将軍の孫のガイン・キャンベル・ガゴチがね。用件は嫁になれって。嫁になるのなら呪術師の情報も渡すし、完全に護るからって話だった。お断りしたけど」
アダムは顎に人差し指の背を置き、考えるような仕草をした。
「君にずいぶんご執心みたいだ。このタイミングで陛下に謁見を求めてきた。……君との婚約を認めてもらおうという魂胆かもしれないね。シュタイン家に断られたのなら」
ええっ。間に国を持ち込もうってわけ? それで通るの? 魚心あれば水心じゃないけど、……陛下の心を動かすような土産でもあれば、協力もあり得るか……。
アダムはその件で、朝一番に陛下に呼ばれていたようだ。
「僕より早く情報を掴んでいるし……。君は転移で王宮に来ているのに、すごい嗅覚だよ」
「嘘でしょ、ここにわたしがいるってばれてるの?」
「わからないけど、王宮とシュタイン家で動きがあったのを掴んだのだと思う」
「どうやって? だってわたし外に出てないわ。家の中からの転移だし……」
それにわたしはずっとサブハウスにいたのだ。
ウチに変わった事はないはず。
「確かではないけれど、動きは察していると思う。家から出ていないといっても、使用人の動きなどでも、普段と違うと感じることもあるだろう。……王宮では婚約の儀に使う特別な花を大急ぎで取り寄せているから、そこから何かあると思われているかもしれない」
そうか、何が起こっているかはわからなくても、何かが起こりそうだとは察しがついてるってところか。……油断ならない。
「ガゴチの謁見は、僕たちの婚約発表が終わってからになるけど。その前に君が見つかると、面倒なことになりそうな気がするんだ」
「絶対、地下から出ないよ」
「そうしてくれ」
「どんな土産を持ってきたのかが気になるね」
「……ユオブリアの敵を掴んだのではないかな」
「え?」
アダムがサラリと言う。
「表向きは、来年度からユオブリアの学園に通えることに対しての、お礼だそうだ。でも将軍や大人は一緒じゃない。その度胸も大したものだ。話がそれだけならいいけど、シュタイン領に寄ってから来たって事は、恐らくそっちが目的だろうから。断って、どんな感じだったんだ?」
「……今回は引くって」
「やはりな。君の気を引けないと思って、周りから固める気かな?」
本気で口説くとか言ってたくせに、見事に翻してるわね。
「とにかく外は何があるかわからないから、地下にいて欲しい」
わたしは頷く。
「午後からブレドたちが来るから。それまで休んでいて」
わたしはもう一度頷いた。
もふさまが口でカーテンを引っ張る。
見せかけの地下の窓なのに、どうやって光彩を取り入れているんだか。
大きく伸びをして、もふさまに挨拶をする。
『小僧はどこかに出かけたようだぞ』
「アダムが?」
時間を確認すると7時半だ。結構たっぷり眠ったなぁ。
着替えて、お風呂場に失礼して、顔を洗わせてもらう。
お風呂に使うお湯はどこかにプールしてあるんだと思う。洗い場のお湯は出がいいもの。
王宮だから水源の確保は考えられていて当然だけど、後から付け足した地下部屋は水源から遠いのではないかな。そうなるとここで暮らすには、お水問題がネックだ。あ、アダムは水魔法も使えるから問題ないか。
と要らぬことを思っていたら、キッチンの樽にはお水が満杯になっていた。魔法か魔具だね。
居間に行くと、アダムからの置き手紙があった。
陛下への挨拶に行ったようだ。ついでに朝食を仕入れてくるとある。
それから絶対に地下から出ないようにと、書き添えられていた。
「もふさま、ここに入る時、魔力の流れが途切れてるって言ってたでしょ? どんな感じなの?」
『……学園では聖樹さまの魔が張り巡らされている。それと同じような魔がもっと複雑に複数の魔が張り巡らされている、それが王宮だ。ただ、あの入り口までだ。魔が張り巡らされているのは。ここは強い結界に守られている。そうだな、リディアの魔力が暴走してもこの室が傷つくぐらいだろう。それぐらい何重にも中に閉じ込めるようにしておる。外からは感知されない別の空間のようなところだ』
……………………。
それって狂った第1王子の魔力が暴走しても大丈夫なように、閉じ込める目的で作られているから? あーやだやだ。
「でも。それって、ここで魔法使っても、バレないってこと?」
『小僧にはわかるかもしれないぞ』
あ、そっか。アダムのための結界だものね。魔法使いたいホーダイかと思ったのに。
ソファーに腰掛けてアダムを待っていたけれど、なかなか帰ってこない。
もふさまの背中を撫でているうちに、うとうとしていたようだ。
咳払いで気がついた。
「アダム、おはよう」
朝っぱらから無駄にキラキラしている。
学園とは違い顔を隠す必要がないからか、鬱陶しい長い前髪の半分は後ろに流れているので、イケメン度がアップだ。
「おはよう。眠いなら部屋で寝るように」
「ごめん、ごめん。トカゲになってから、眠り癖がついちゃってさ」
注意モードだったアダムの表情が緩み、代わりに心配するような表情が顔を出す。
「眠り癖だけかい? 他に変わったところはないの?」
「あと、寒がりになったな。狭くてあったかそうなところ見ると、入りたくなるんだよね」
「……狭くて、あったかそうなところ?」
「人型だと入れないけど、袖口とか、ポケットとか、胸の内側のとことか。もふさまの伏せてる時の、この床との間とかにね、顔を突っ込みたくなるの」
アダムが固まっている。
「人型の時はやらないから安心して」
「……それもまた難儀だね」
アダムはわたしたちを食堂へ促す。
アダムが袋から出したのは、スープにパンと串焼きだった。屋台にあるようなラインナップだ。
「もしかして、外に出たの?」
「昨日ご馳走になったからね。リディア嬢はこういうの好きだろ?」
もふさまの分もたっぷりだ。
「ありがとう」
早速、配膳していただくことに。
お城の近くで営業できる屋台だけあって、お肉の味がよく、ジューシな焼き方も素晴らしい。塩だけの味つけでもおいしかった。パンはパサっとした普通のタイプのもの。具沢山のスープに浸して食べれば全く気にならない。
あったかい朝ごはんでお腹もいっぱいだ。
「アダム、お遣いさまが、ここの結界は特殊だって言ってたんだけど、伝達魔法は使える?」
「ああ、地下から出る必要がある。手紙を渡してくれれば、僕が出すよ。君は地下から出ないでくれ」
出るつもりはこれっぽっちもなかったけれど、念を押されると、なんだか怖くなるじゃないか。
「何かあったの?」
尋ねるとアダムはしまったという顔をした。軽く息をひとつつく。
「ガゴチが呪術師に狙われていると教えてくれたと言ったね。その時、ガゴチは君の家に何をしに来たの? それを教えにだけ? そんなに親しいの?」
「親しくないわ。どか雪の中、砦越えをして領地に来たの。ガゴチ将軍の孫のガイン・キャンベル・ガゴチがね。用件は嫁になれって。嫁になるのなら呪術師の情報も渡すし、完全に護るからって話だった。お断りしたけど」
アダムは顎に人差し指の背を置き、考えるような仕草をした。
「君にずいぶんご執心みたいだ。このタイミングで陛下に謁見を求めてきた。……君との婚約を認めてもらおうという魂胆かもしれないね。シュタイン家に断られたのなら」
ええっ。間に国を持ち込もうってわけ? それで通るの? 魚心あれば水心じゃないけど、……陛下の心を動かすような土産でもあれば、協力もあり得るか……。
アダムはその件で、朝一番に陛下に呼ばれていたようだ。
「僕より早く情報を掴んでいるし……。君は転移で王宮に来ているのに、すごい嗅覚だよ」
「嘘でしょ、ここにわたしがいるってばれてるの?」
「わからないけど、王宮とシュタイン家で動きがあったのを掴んだのだと思う」
「どうやって? だってわたし外に出てないわ。家の中からの転移だし……」
それにわたしはずっとサブハウスにいたのだ。
ウチに変わった事はないはず。
「確かではないけれど、動きは察していると思う。家から出ていないといっても、使用人の動きなどでも、普段と違うと感じることもあるだろう。……王宮では婚約の儀に使う特別な花を大急ぎで取り寄せているから、そこから何かあると思われているかもしれない」
そうか、何が起こっているかはわからなくても、何かが起こりそうだとは察しがついてるってところか。……油断ならない。
「ガゴチの謁見は、僕たちの婚約発表が終わってからになるけど。その前に君が見つかると、面倒なことになりそうな気がするんだ」
「絶対、地下から出ないよ」
「そうしてくれ」
「どんな土産を持ってきたのかが気になるね」
「……ユオブリアの敵を掴んだのではないかな」
「え?」
アダムがサラリと言う。
「表向きは、来年度からユオブリアの学園に通えることに対しての、お礼だそうだ。でも将軍や大人は一緒じゃない。その度胸も大したものだ。話がそれだけならいいけど、シュタイン領に寄ってから来たって事は、恐らくそっちが目的だろうから。断って、どんな感じだったんだ?」
「……今回は引くって」
「やはりな。君の気を引けないと思って、周りから固める気かな?」
本気で口説くとか言ってたくせに、見事に翻してるわね。
「とにかく外は何があるかわからないから、地下にいて欲しい」
わたしは頷く。
「午後からブレドたちが来るから。それまで休んでいて」
わたしはもう一度頷いた。
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