プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第612話 秘密の謁見④安全な場所

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「えぇッ!?オリヴィアさんもう行っちゃうのっ!?」

「そうなんですね……」

「こんなに早く発たれるとは……」

「元々旅をしている身の上だからな」



 朝食を『ノーレイン』で食べている時、ふと今日この街を発つと言った。丁度ふわとろオムレツを10個とスクランブルエッグ卵20個分。ハムやベーコン2キロずつ。クロワッサンを1キロ持ってきてもらったところのユミが、心底驚いた表情をした。

 命の恩人なので特別におかわり自由……というか満足するまで食べてもらうという事になっていて、ガツガツ、ムシャムシャとリュウデリア達がテーブルの上で山のような量をした朝食を片づけている。そんな光景も既に4回目。街に襲撃を受けてから今日で4日目となる。

 昨日までの3日間は、オリヴィア達に街の修復依頼が出された。1人で全てやれという訳ではないが、修復作業を手伝ってほしいというものだ。それ相応の報酬は出させてもらうという、ギルド側が街の領主に提案をし、領主が乗ったという感じだ。前に寄った国で土の壁を修復したことを知っているギルド側が思い付いたという。

 結果、冒険者ギルドに来てその話をされたオリヴィアとリュウデリア達が、は?と呟き、指示を出したギルドマスターを引き摺り出して無理矢理土下座させて頭を踏み付けた。勝手に話を進めるとはどういう了見かと。今まで絡んできて四肢を斬り落としてやった奴等みたいにしてやろうかと脅すと、土下座の状態で頭を踏み付けられている女ギルドマスターが全身全霊で謝罪した。



『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!本当にごめんなさい許して下さい私のポケットマネーで報酬の上乗せしますので手脚斬り落とさないで下さいッ!!』

『次舐めた事をすると使い魔のやることを。そうなれば最後、お前は確実に死ぬより辛い目に遭うだろう。自業自得だと思い噛み締めるが良い』

『ほんっとに申し訳ありませんでしたッ!!』



 本気でやるということはギルド間の報告にあったので、それはもう許してもらえる為ならば靴も舐める勢いだった。外見は美人だっただけに残念なことになっていた。受付嬢は、一体何をしているんですか……と呆れ気味だったのは仕方ないのだろう。

 取り敢えず街の修復はやってやった。リュウデリア達の魔力操作でさっさと終わらせ、女ギルドマスターに手脚を斬り落とされるのと全財産を出すのどちらが良い?と天秤に掛けさせて、街の修復の報酬となる800万Gと、女ギルドマスターの全財産600万Gを受け取った。因みに、1人で全てやる必要は無いと言われたが、実質オリヴィア達だけで街を元に戻したので単独報酬が800万Gとなった。

 次に、襲撃者を倒してくれた事に礼の言葉を贈りたいから領主の屋敷まで来てくれと達せられたが、用が有るならばそっちが来いと言っておけと返し行かなかった。すると領主が来て礼を言いながら、ほんの気持ちだと言って100万Gを渡してきた。修復依頼は女ギルドマスターが唆したことなので、領主はギリギリ制裁の域に入らなかった。図に乗るな。という脅しはしたが。勿論顔が蒼白くなった。



「オリヴィアさんは旅をしているんだね……」

「未だ見ぬものを見て、気ままに美味いものを食べて、適当に魔物を狩る。使い魔達も共に居るから全てが彩っていて楽しく感じるんだ。私には合っている自由な旅だ」

「そっか……っ……また会えたら会おうね、オリヴィアさん!」

「うむ。縁があればまた会うことだろう」



 宿屋『ノーレイン』で食べる最後の朝食を食べ終わり、店の外に出るとユミと彼女の両親が見送りをするために出て来た。それなりに懐いてくれていたのだろう、ユミの目の端には涙が溜まっている。だが泣かないように眉間に力を入れるのに必死だ。

 世話になったことから、ユミの両親はオリヴィア達に深く頭を下げてお礼を口にした。最後に言う、万感の思いを込めた礼の言葉だった。

 忘れ物……は異空間に物を詰め込んでいるのであるわけが無く、そのまま『ノーレイン』に背を向けて歩き出した。その後ろ姿を眺めて目に焼き付けていたユミは、溜め込んでも流すことなかった涙を静かに流した。思っていたよりも別れが悲しいようで、両親に抱き締められながら泣き続けた。



「オリヴィアさん、カッコよかったなぁ……」

「そうね。街の修復もして下さったし」

「何と言ってもユミの命の恩人だからな」

「私ね、オリヴィアさんにお前の出来ることは疲れた人を癒してやることだって言われたの。だから、私これからもいっぱい頑張って1人前の看板娘になるね!」

「ふふっ。そう言ってくれるとお母さんも嬉しいわ。でも無理はしちゃダメよ?」

「それに、ユミはもうウチの立派な看板娘さ」

「えへへ。ありがとう!」



 流していた涙を拭いて顔を上げ、オリヴィアに言われたように満面の笑みを浮かべた。それを見て父親と母親も笑みを作り、これからも家族で頑張っていこうと気合いを入れるのだった。

 そして、そんな和気藹々とした家族が居る温かい『ノーレイン』の、通りを挟んだ向かいの宿屋は潰れ、売り出し中の看板が掛かっていた。

















「あらまぁ。オリヴィアさんはもう出発するのねぇ。残念なことにねぇ」

「元々旅をしている身だからな」

「それなら仕方ないわよねぇ」



 通りを歩いて街の入り口を目指していると、途中でマダムスと会った。襲撃を受けてからの数日間で、何かと世間話をしていた間柄だ。残念ながらマダムスの振り掛けている香水の匂いが強すぎてリュウデリア達は避難し、オリヴィアとマダムスだけの会話となったが。

 これからどこに行くだとか、これまでどういった冒険者の依頼を達成してきたのか等を話していた。それにマダムスは一緒に食事をした際、絶対にオリヴィアに金を出させず、全部自分が支払っていた。これからも仲良くしたいと思っている相手は久しぶりだから、ここは払わせて欲しいとのことだった。

 何だかんだユミやその両親と同じくらい親交があった人物だろう。相変わらず付き人兼護衛の男を3人連れている姿は、人が多い通りでもよく目立つ。街を出ることを言っておこうと近寄れば、同じく純黒に覆われたオリヴィアをすぐさま見つけたマダムスが和やかに迎えた。



「また会える時を楽しみにしているわねぇ。あぁ、忘れる前に渡そうかしらぁ。これね、私の店で出している口紅なのぉ。唇に塗ればぷるっぷるでより女の美しさを引き上げてくれるわよぉ」

「ほう……ナイリィヌの店で売っている物か。折角だから是非貰っていこう。店を見掛けた時は客として利用させてもらう」

「嬉しいわぁ。なら、これも渡してちゃうわねぇ?」

「これは?」

「店の従業員に渡せば全ての商品を8割引きで買える、私だけが持っている特別なバッチよぉ。気に入った人にだけ渡すようにしているのぉ。オリヴィアさんにもあげちゃうわぁ」

「おぉ。それは嬉しいな。ありがとうナイリィヌ。また会える時を楽しみにしている」

「私こそ、オリヴィアさんとのお話は楽しかったわぁ。また会いましょうねぇ」



 優雅で、気品のある動作で小さく手を振って別れの挨拶を済ます。別れは確かに寂しいものではあるが、これで永遠に会うことは無い……というものでもない。それを分かっているからこそ、マダムス……ナイリィヌは寂しさを感じない別れ方をしているのだ。

 付き人達を連れて街の散策を続けるナイリィヌの後ろ姿を見送るが、1つ気になった事がある。付き人の男3人は訓練されているエリートなのかどうか知らないが、一言も喋らなかったな……と。


















 今回寄ったダムニスから出たオリヴィア一行。出て少しは人の目がある可能性があるので使い魔と冒険者の体を崩さない。今回ダムニスに寄ったのは、本来メインの街へ行くための、道中必要になるものを買うのが目的だった。勿論もう買ってある。

 だが今回、思っていたよりも随分と長居をしていた。約1週間程度だろうか。本当は3日間ぐらいの滞在で済ます予定だった。リュウデリアが図書館があるところでは必ずやっている読書の時間なども考慮して3日だったが、色々とあって時間を掛けた。

 図書館での読書だが、リュウデリアは図書館に備えられていた本を殆ど読んだことがあって時間は食わなかったが、バルガスとクレアは久しぶりの本なので4分の1は読んだことの無いものだった。じっくりと2匹が読んでいる時、オリヴィアとリュウデリアは街の気ままなデートを楽しんだ。



「今度はどこ向かうンだ?」

「次は西に向かって進む」

「何が……あるんだ?」

「次の大陸へ行こうと思っていてな」

「お、いいねぇ。つまり西の大陸だな?」

「そうだ」



 そうなのだ。次にリュウデリアが行くのは港町であり、そこから船に乗って大陸を渡るつもりなのだ。今一行が居るのは南側の大陸。そして今回行こうとしているのは西側の大陸である。この南側の大陸、エンデル大陸にもまだ行ったことが無い場所はあるが、この際行ってみようという話だ。

 それを聞いてバルガスとクレアが良いんじゃないか?と賛同する。1つの住処に固執はせず、ある程度時が経ったら次に住む場所を探す龍からしてみれば、大陸を移っての旅は期待するものがある。大陸が違えばまだ見ぬものがあるはずだ。

 本を読んでチラリと書いてあることは知っているが、やはり己の目で実際に見るのとは雲泥の差だろう。他の龍のことは知らないが、少なくともリュウデリア、バルガス、クレアは新しい自身の知らないことへは興味を示す。それにより、次の大陸へ行くのに賛同しているのだろう。



「あ、忘れていたが“御前祭”が2週間後くらいにあるんだったな」

「うむ。そうだな」

「大陸を渡るより先にスカイディアの方が先か?何だったらダムニスを出る必要は無かったか?」

「いや、気にしなくていい。大陸を渡る為の船の予約等もあるからな。それにスカイディアはこの大陸からまだ出ない。“御前祭”に行ってから移動しよう。後は船の予約が出来るかどうかだな」

「最悪自力で飛べばいいだろ」

「まだ船に乗ったことが無いんだぞ。是非乗りたいではないか」

「確かに……船に揺れる……気分を……味わって……みたい」

「最悪の場合ってことだって」



 確かにリュウデリア達ならば飛べば一瞬だ。何の危険も無しに西の大陸へと渡る事が出来るだろう。しかし違うのだ。そんないつでも出来ることをしたいのではなく、初めてである船に乗ってみたいのだ。例えそれが時間の掛かるものであったとしても。

 正直スカイディアで“御前祭”が開かれる方が早いとは思うが、どちらかというと“御前祭”よりも船の方が楽しみだ。どうせ行ったところで歓迎されるものでも無し。それどころか悍ましい容姿の奴等が何故来たという視線に晒されることだろう。行く理由なんて100年に1度開かれる催しものであり、ちょっとするくらいしかない。



「さて、そろそろサイズを大きくしてもいいだろう」

「はー、使い魔の大きさってマジで窮屈なんだよなー」

「無理矢理……押し込めている……感じがする」

「悪いな。そんな思いをさせて」

「いや、気にする必要は無いぞ。たかだか数時間程度だからな」



 ダムニスの街が小さくなった頃。周囲の気配を探って誰も近くに居ないことを確認してから、リュウデリア、バルガス、クレアは使い魔サイズから人間大サイズへと変わった。

 押し込められている感覚があるので体を伸ばして欠神等をしてから再び歩き出す。オリヴィアもフードを被る必要は無いということで外して陽の光を浴びる。純白の長い髪を靡かせているとリュウデリアに頭を撫でられる。

 程良い力加減で撫でられて甘んじて受け入れる。そしてお返しとでも言うようにリュウデリアの尻尾を捕まえてクルクルと先端を指に巻き付けたり、撫でたり、左右に振ったりして遊んでみる。そうやって戯れていると、上から影が降りてきた。

 今日は天気の良い快晴の空が広がっているので陽の光が強めなのだ。邪魔だからだろうフードを外したので直射日光が当たっている。それを遮るためにリュウデリアが片方の翼を広げて陽射しを遮ってくれているのだ。



「ありがとうリュウデリア」

「どういたしまして」

「……のんびり歩くのもいいけどよォ。ちっと遊び心が無ェよな。何かしながら歩こうぜ」

「魔法で……魔物を……誘き寄せて……弓矢で……狙い撃つのは……どうだ」

「武器の練習も兼ねる訳だ。いいだろう。それならオリヴィアにも出来る」

「勝った奴飯多めな!」



 歩くだけでは飽きてしまうということで、手軽なゲームをしながら向かう事にした。魔法で魔物を誘き寄せ、弓と矢を魔力で造り出して射るのだ。武器を使うという練習にもなるし、肉を確保することができる。

 早速と言わんばかりにボアを4匹誘い出して、皆が魔力で造った武器を構える。オリヴィア、リュウデリア、バルガス、クレアは仲良く旅を楽しんでいく。次に目指すは大陸を移る為に必要な船が停まる港町。





 初めての船。初めての大陸移動。次に待ち受けているものは何なのかと楽しみにしている一行。彼等ならばどんな困難にぶつかろうと、嗤いながら越えて征くのだろう。それが強者である龍の歩みなのだから。





 ──────────────────


 ギルドマスター

 女性。善意で領主に、修復経験のあるオリヴィアに頼んだらどうかと話したところノリノリで乗って名指しの依頼を出すことになった。結果、2階のギルドマスター室に居たのに壁を突き破ってオリヴィア達の前に引き摺り出され、土下座させられた挙げ句に頭をかち割る勢いで踏み付けられた。

 四肢を本気で斬り落とされそうになったので半泣きで謝罪して、報酬を跳ね上げることでどうにか許してもらった。彼女達を使おうとすればそれ相応の罰が下る。全財産を無くしたが、まだ生きているだけマシ。




 マダム(ナイリィヌ)

 別にこれで今生の別れという訳ではないから、軽い別れを済ませた。その内また会えるでしょうという考え。

 付き人はあくまで付き人と護衛を兼ねているだけで、勝手な発言をしないようにしている。なので結局オリヴィア達との会話に入ってくることは無かった。とても優秀であり、それぞれがB級冒険者並みの強さを持っている。




 ユミ

 今回オリヴィア達と良く交流をした人物。まだ10代前半の子供であり、宿屋『ノーレイン』を営む夫婦の1人娘。ある時強盗に押し入られて殺されかけたところをオリヴィア達に助けられた。結構懐いていたので別れが寂しかった。

 これから繁盛して大きくなっていく宿屋の立派な看板娘になる。いつかオリヴィア達がまた来てくれた時に、胸を張って成長したと自慢出来るように、日々頑張っている。

 尚、オリヴィアからチラッと恋愛の話をされて強くて優しくてカッコイイ男の人に憧れている。可愛らしい笑みが似合うので同世代の男の子にモテるが、相手にされない。堕とすならかなり頑張らないといけない。




『スター・ヘイラー』

 薬物を使って客足をゲットしていた宿屋。広大な敷地を使った複数階ある大きな宿屋を建て、容姿に気を遣った選りすぐりの従業員を揃えたが、何故か客が減っていき、最後は売りに出してしまった。




 オリヴィア&龍ズ

 本当はそんなに長居するつもりは無かったが、色々とあって1週間くらい滞在していた。別に急いでいる訳でもないが、船の予約をしておきたいので出発した。

 街の図書館に行ったが、殆ど読んだことのある物が多かった為に半日で読み終わった。

 最後の弓矢の狙い撃ちは、大穴でオリヴィアが勝った。その日の晩飯にボアの丸焼きが出され、流石に食べきれないな……と顔を引き攣らせた。後にリュウデリア達にあげたら10秒で骨となった。


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