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14章 君の味方
第602話 聖なる闇夜の祝い唄①魔力本
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母さまがノリノリだった。
兄さまのお化粧をするのに。
今日は兄さまが王宮へと向かう日だ。
王都に一番近いのがアラ兄の別荘。その街まで、イザークが馬車で迎えにきてくれることになっている。
王宮の庭園でちょっとした催しがある。
兄さまは女装をし、イザークのエスコートを受けて一緒に会場へ入る。途中で抜け出し、変装をといて、ロサ殿下の従者見習いを装う。ロサたちが立ててくれた作戦だ。その女性はロサが招いた一人で外国人。この催しの後、さらにいくつかの学会に顔を出すことになっている才女で、次の講演先の国に渡る船に乗るのに、どうしてもユオブリアのお茶会をパスしないといけなくなった。その断りの手紙はロサには届いていない……ことになっている。
わたしは今日だけ、兄さまの支度を手伝っていいとされた。
って、まだ歩いたりできないから、ただ見ているだけになるんだけど。
母さまのを手直ししたドレス。茶色のウイッグをして。
母さまから化粧を施された兄さまは、どっからどう見ても美女だった。
いつもキリッと見える目尻と眉を、女性らしくまあるく整えたことにより、無表情でも優しい感じを醸し出す。
「兄さま、とってもきれいよ」
わたしが拍手をしながら言うと、兄さまは微かに目をそらした。
「女装に意味がありますかね?」
「もちろんよ!」
母さまは大きく頷く。
「あなたはもっと前から第二王子殿下の元にいることにするのだから、今入城したのがわかっては絶対にだめなのよ」
母さまは、かわいく頬を膨らませている。
女性に変装した方が、兄さまと結びつきにくいからという理由だとは思うけど、兄さまの嫌がりそうなことを含ませたのだろうとも思っている。みんなからの愛あるお仕置きだろう。
父さまが部屋に入ってきた。
兄さまを見て、感嘆の声をあげる。
「お、綺麗になったな、フランツ」
「……父さま」
「母さまの言う通りだぞ。お前がずっと王宮にいたという証がお前の身を守る。ただ王宮に敵が潜んでないとも限らない。誰の目にも触れないように気をつけなさい」
母さまの発言も聞こえていたみたいだ。
「はい」
兄さまは、視線を逸らしながらもそこはうなずく。
その逃げた視線の先でぶつかったわたしに、お小言を言った。
「レディ、君も人前に出たり、絶対にひとりで行動してはいけないよ?」
「……はい」
「炙り出してからも、父さまと一緒に方法を考えるんだよ。君ひとりの考えで進めちゃだめだからね」
「はい」
大きく頷く。はい、身に染みてます。
「兄さま、偽有力者の土地買いのこと、何かわかったら教えてね」
「わかってるよ。君はくれぐれも無理をしないようにね」
「はい」
きれいな兄さまは、アラ兄の別荘経由で王宮へと旅立って行った。
兄さまは安全なところに行くのだと思えば、気持ちは楽だった。
そろそろと歩けるようになると、ミラーハウスと各ルームには行ってもいいことになった。歩くリハビリをしないとだからね。
それで解禁となったメインルームに本を借りに行き、いくつかの本が読めるようになっていることに気づいた。
神話や魔法に関する本は、規定の魔力量を持っていないと読めないって前にわかったんだけど、わたしの魔力が上がったことで、読めるものも出てきた。こういうのは通称、魔力本というらしい。300年前まではよくあったという。そうやって昔も情報に規制をかけてたんだね。
一番気になってる神話を閉じ込めた本は、まだ無理みたいだ。
借りてきたのはドワーフが書いたという「魔石の扱い方」というタイトルの本。この本が世に出たのは700年ほど前みたい。
わたしがベッドの上で足を投げ出して読んでいると、足にソックスがじゃれてきた。
「ソックス、今、読書中よ」
農場からきた猫ちゃんはソックスと名付けた。
白い猫ちゃんなんだけど、耳と鼻のところと手と足の先っぽだけが靴下を履いたように茶色い。ソックスはわたしのお目付役を言い渡されているので、ミラーハウスで過ごしている。
ソックスはとても自由奔放で、気まぐれだ。
さっき遊ぼうとして、もふもふ軍団用のおもちゃを出した時は見向きもしなかったのに、今、わたしが本を読み出したら、遊ぶ気になったらしい。
ソックスと遊ぶと、流れで最後はソックスがおネムになり、わたしも一緒に寝ちゃうんだよね。今はもう本を読もうと思うので、ソックスと遊ぶのは危険だ。
もふさまが部屋に入ってきた。
「あ、もふさま」
ソックスがもふさまにじゃれついた。
本当に自由だわ、この子。
もふさまはじゃれつかれても気にしない、それもまた強者!
もふさまのお腹の下を通ったり、上から抱きつかれたりしているのに、全く意に返していないで、思う通りに行動している。
「敵の動きはない?」
『ああ、静かなものらしい』
「……そう」
まだそう動けるわけではないので、ありがたいのだが、いつまでも敵がみえないってのも、なんかね。
『本を読んでいたのか?』
「うん、メインルームで借りてきたんだ。魔力が多くなったから、読めるようになったのも出てきて」
まだ魔力は戻ってきてないけど、元の容量が規定量を超えていると、読んでもいいよとされるみたいだ。不思議。
『何の本だ?』
もふさまは尻尾を振って、ソックスと遊んであげることにしたようだ。優しいな。その尻尾にじゃれつこうとソックスは夢中になっている。
兄さまのお化粧をするのに。
今日は兄さまが王宮へと向かう日だ。
王都に一番近いのがアラ兄の別荘。その街まで、イザークが馬車で迎えにきてくれることになっている。
王宮の庭園でちょっとした催しがある。
兄さまは女装をし、イザークのエスコートを受けて一緒に会場へ入る。途中で抜け出し、変装をといて、ロサ殿下の従者見習いを装う。ロサたちが立ててくれた作戦だ。その女性はロサが招いた一人で外国人。この催しの後、さらにいくつかの学会に顔を出すことになっている才女で、次の講演先の国に渡る船に乗るのに、どうしてもユオブリアのお茶会をパスしないといけなくなった。その断りの手紙はロサには届いていない……ことになっている。
わたしは今日だけ、兄さまの支度を手伝っていいとされた。
って、まだ歩いたりできないから、ただ見ているだけになるんだけど。
母さまのを手直ししたドレス。茶色のウイッグをして。
母さまから化粧を施された兄さまは、どっからどう見ても美女だった。
いつもキリッと見える目尻と眉を、女性らしくまあるく整えたことにより、無表情でも優しい感じを醸し出す。
「兄さま、とってもきれいよ」
わたしが拍手をしながら言うと、兄さまは微かに目をそらした。
「女装に意味がありますかね?」
「もちろんよ!」
母さまは大きく頷く。
「あなたはもっと前から第二王子殿下の元にいることにするのだから、今入城したのがわかっては絶対にだめなのよ」
母さまは、かわいく頬を膨らませている。
女性に変装した方が、兄さまと結びつきにくいからという理由だとは思うけど、兄さまの嫌がりそうなことを含ませたのだろうとも思っている。みんなからの愛あるお仕置きだろう。
父さまが部屋に入ってきた。
兄さまを見て、感嘆の声をあげる。
「お、綺麗になったな、フランツ」
「……父さま」
「母さまの言う通りだぞ。お前がずっと王宮にいたという証がお前の身を守る。ただ王宮に敵が潜んでないとも限らない。誰の目にも触れないように気をつけなさい」
母さまの発言も聞こえていたみたいだ。
「はい」
兄さまは、視線を逸らしながらもそこはうなずく。
その逃げた視線の先でぶつかったわたしに、お小言を言った。
「レディ、君も人前に出たり、絶対にひとりで行動してはいけないよ?」
「……はい」
「炙り出してからも、父さまと一緒に方法を考えるんだよ。君ひとりの考えで進めちゃだめだからね」
「はい」
大きく頷く。はい、身に染みてます。
「兄さま、偽有力者の土地買いのこと、何かわかったら教えてね」
「わかってるよ。君はくれぐれも無理をしないようにね」
「はい」
きれいな兄さまは、アラ兄の別荘経由で王宮へと旅立って行った。
兄さまは安全なところに行くのだと思えば、気持ちは楽だった。
そろそろと歩けるようになると、ミラーハウスと各ルームには行ってもいいことになった。歩くリハビリをしないとだからね。
それで解禁となったメインルームに本を借りに行き、いくつかの本が読めるようになっていることに気づいた。
神話や魔法に関する本は、規定の魔力量を持っていないと読めないって前にわかったんだけど、わたしの魔力が上がったことで、読めるものも出てきた。こういうのは通称、魔力本というらしい。300年前まではよくあったという。そうやって昔も情報に規制をかけてたんだね。
一番気になってる神話を閉じ込めた本は、まだ無理みたいだ。
借りてきたのはドワーフが書いたという「魔石の扱い方」というタイトルの本。この本が世に出たのは700年ほど前みたい。
わたしがベッドの上で足を投げ出して読んでいると、足にソックスがじゃれてきた。
「ソックス、今、読書中よ」
農場からきた猫ちゃんはソックスと名付けた。
白い猫ちゃんなんだけど、耳と鼻のところと手と足の先っぽだけが靴下を履いたように茶色い。ソックスはわたしのお目付役を言い渡されているので、ミラーハウスで過ごしている。
ソックスはとても自由奔放で、気まぐれだ。
さっき遊ぼうとして、もふもふ軍団用のおもちゃを出した時は見向きもしなかったのに、今、わたしが本を読み出したら、遊ぶ気になったらしい。
ソックスと遊ぶと、流れで最後はソックスがおネムになり、わたしも一緒に寝ちゃうんだよね。今はもう本を読もうと思うので、ソックスと遊ぶのは危険だ。
もふさまが部屋に入ってきた。
「あ、もふさま」
ソックスがもふさまにじゃれついた。
本当に自由だわ、この子。
もふさまはじゃれつかれても気にしない、それもまた強者!
もふさまのお腹の下を通ったり、上から抱きつかれたりしているのに、全く意に返していないで、思う通りに行動している。
「敵の動きはない?」
『ああ、静かなものらしい』
「……そう」
まだそう動けるわけではないので、ありがたいのだが、いつまでも敵がみえないってのも、なんかね。
『本を読んでいたのか?』
「うん、メインルームで借りてきたんだ。魔力が多くなったから、読めるようになったのも出てきて」
まだ魔力は戻ってきてないけど、元の容量が規定量を超えていると、読んでもいいよとされるみたいだ。不思議。
『何の本だ?』
もふさまは尻尾を振って、ソックスと遊んであげることにしたようだ。優しいな。その尻尾にじゃれつこうとソックスは夢中になっている。
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