602 / 894
14章 君の味方
第602話 聖なる闇夜の祝い唄①魔力本
しおりを挟む
母さまがノリノリだった。
兄さまのお化粧をするのに。
今日は兄さまが王宮へと向かう日だ。
王都に一番近いのがアラ兄の別荘。その街まで、イザークが馬車で迎えにきてくれることになっている。
王宮の庭園でちょっとした催しがある。
兄さまは女装をし、イザークのエスコートを受けて一緒に会場へ入る。途中で抜け出し、変装をといて、ロサ殿下の従者見習いを装う。ロサたちが立ててくれた作戦だ。その女性はロサが招いた一人で外国人。この催しの後、さらにいくつかの学会に顔を出すことになっている才女で、次の講演先の国に渡る船に乗るのに、どうしてもユオブリアのお茶会をパスしないといけなくなった。その断りの手紙はロサには届いていない……ことになっている。
わたしは今日だけ、兄さまの支度を手伝っていいとされた。
って、まだ歩いたりできないから、ただ見ているだけになるんだけど。
母さまのを手直ししたドレス。茶色のウイッグをして。
母さまから化粧を施された兄さまは、どっからどう見ても美女だった。
いつもキリッと見える目尻と眉を、女性らしくまあるく整えたことにより、無表情でも優しい感じを醸し出す。
「兄さま、とってもきれいよ」
わたしが拍手をしながら言うと、兄さまは微かに目をそらした。
「女装に意味がありますかね?」
「もちろんよ!」
母さまは大きく頷く。
「あなたはもっと前から第二王子殿下の元にいることにするのだから、今入城したのがわかっては絶対にだめなのよ」
母さまは、かわいく頬を膨らませている。
女性に変装した方が、兄さまと結びつきにくいからという理由だとは思うけど、兄さまの嫌がりそうなことを含ませたのだろうとも思っている。みんなからの愛あるお仕置きだろう。
父さまが部屋に入ってきた。
兄さまを見て、感嘆の声をあげる。
「お、綺麗になったな、フランツ」
「……父さま」
「母さまの言う通りだぞ。お前がずっと王宮にいたという証がお前の身を守る。ただ王宮に敵が潜んでないとも限らない。誰の目にも触れないように気をつけなさい」
母さまの発言も聞こえていたみたいだ。
「はい」
兄さまは、視線を逸らしながらもそこはうなずく。
その逃げた視線の先でぶつかったわたしに、お小言を言った。
「レディ、君も人前に出たり、絶対にひとりで行動してはいけないよ?」
「……はい」
「炙り出してからも、父さまと一緒に方法を考えるんだよ。君ひとりの考えで進めちゃだめだからね」
「はい」
大きく頷く。はい、身に染みてます。
「兄さま、偽有力者の土地買いのこと、何かわかったら教えてね」
「わかってるよ。君はくれぐれも無理をしないようにね」
「はい」
きれいな兄さまは、アラ兄の別荘経由で王宮へと旅立って行った。
兄さまは安全なところに行くのだと思えば、気持ちは楽だった。
そろそろと歩けるようになると、ミラーハウスと各ルームには行ってもいいことになった。歩くリハビリをしないとだからね。
それで解禁となったメインルームに本を借りに行き、いくつかの本が読めるようになっていることに気づいた。
神話や魔法に関する本は、規定の魔力量を持っていないと読めないって前にわかったんだけど、わたしの魔力が上がったことで、読めるものも出てきた。こういうのは通称、魔力本というらしい。300年前まではよくあったという。そうやって昔も情報に規制をかけてたんだね。
一番気になってる神話を閉じ込めた本は、まだ無理みたいだ。
借りてきたのはドワーフが書いたという「魔石の扱い方」というタイトルの本。この本が世に出たのは700年ほど前みたい。
わたしがベッドの上で足を投げ出して読んでいると、足にソックスがじゃれてきた。
「ソックス、今、読書中よ」
農場からきた猫ちゃんはソックスと名付けた。
白い猫ちゃんなんだけど、耳と鼻のところと手と足の先っぽだけが靴下を履いたように茶色い。ソックスはわたしのお目付役を言い渡されているので、ミラーハウスで過ごしている。
ソックスはとても自由奔放で、気まぐれだ。
さっき遊ぼうとして、もふもふ軍団用のおもちゃを出した時は見向きもしなかったのに、今、わたしが本を読み出したら、遊ぶ気になったらしい。
ソックスと遊ぶと、流れで最後はソックスがおネムになり、わたしも一緒に寝ちゃうんだよね。今はもう本を読もうと思うので、ソックスと遊ぶのは危険だ。
もふさまが部屋に入ってきた。
「あ、もふさま」
ソックスがもふさまにじゃれついた。
本当に自由だわ、この子。
もふさまはじゃれつかれても気にしない、それもまた強者!
もふさまのお腹の下を通ったり、上から抱きつかれたりしているのに、全く意に返していないで、思う通りに行動している。
「敵の動きはない?」
『ああ、静かなものらしい』
「……そう」
まだそう動けるわけではないので、ありがたいのだが、いつまでも敵がみえないってのも、なんかね。
『本を読んでいたのか?』
「うん、メインルームで借りてきたんだ。魔力が多くなったから、読めるようになったのも出てきて」
まだ魔力は戻ってきてないけど、元の容量が規定量を超えていると、読んでもいいよとされるみたいだ。不思議。
『何の本だ?』
もふさまは尻尾を振って、ソックスと遊んであげることにしたようだ。優しいな。その尻尾にじゃれつこうとソックスは夢中になっている。
兄さまのお化粧をするのに。
今日は兄さまが王宮へと向かう日だ。
王都に一番近いのがアラ兄の別荘。その街まで、イザークが馬車で迎えにきてくれることになっている。
王宮の庭園でちょっとした催しがある。
兄さまは女装をし、イザークのエスコートを受けて一緒に会場へ入る。途中で抜け出し、変装をといて、ロサ殿下の従者見習いを装う。ロサたちが立ててくれた作戦だ。その女性はロサが招いた一人で外国人。この催しの後、さらにいくつかの学会に顔を出すことになっている才女で、次の講演先の国に渡る船に乗るのに、どうしてもユオブリアのお茶会をパスしないといけなくなった。その断りの手紙はロサには届いていない……ことになっている。
わたしは今日だけ、兄さまの支度を手伝っていいとされた。
って、まだ歩いたりできないから、ただ見ているだけになるんだけど。
母さまのを手直ししたドレス。茶色のウイッグをして。
母さまから化粧を施された兄さまは、どっからどう見ても美女だった。
いつもキリッと見える目尻と眉を、女性らしくまあるく整えたことにより、無表情でも優しい感じを醸し出す。
「兄さま、とってもきれいよ」
わたしが拍手をしながら言うと、兄さまは微かに目をそらした。
「女装に意味がありますかね?」
「もちろんよ!」
母さまは大きく頷く。
「あなたはもっと前から第二王子殿下の元にいることにするのだから、今入城したのがわかっては絶対にだめなのよ」
母さまは、かわいく頬を膨らませている。
女性に変装した方が、兄さまと結びつきにくいからという理由だとは思うけど、兄さまの嫌がりそうなことを含ませたのだろうとも思っている。みんなからの愛あるお仕置きだろう。
父さまが部屋に入ってきた。
兄さまを見て、感嘆の声をあげる。
「お、綺麗になったな、フランツ」
「……父さま」
「母さまの言う通りだぞ。お前がずっと王宮にいたという証がお前の身を守る。ただ王宮に敵が潜んでないとも限らない。誰の目にも触れないように気をつけなさい」
母さまの発言も聞こえていたみたいだ。
「はい」
兄さまは、視線を逸らしながらもそこはうなずく。
その逃げた視線の先でぶつかったわたしに、お小言を言った。
「レディ、君も人前に出たり、絶対にひとりで行動してはいけないよ?」
「……はい」
「炙り出してからも、父さまと一緒に方法を考えるんだよ。君ひとりの考えで進めちゃだめだからね」
「はい」
大きく頷く。はい、身に染みてます。
「兄さま、偽有力者の土地買いのこと、何かわかったら教えてね」
「わかってるよ。君はくれぐれも無理をしないようにね」
「はい」
きれいな兄さまは、アラ兄の別荘経由で王宮へと旅立って行った。
兄さまは安全なところに行くのだと思えば、気持ちは楽だった。
そろそろと歩けるようになると、ミラーハウスと各ルームには行ってもいいことになった。歩くリハビリをしないとだからね。
それで解禁となったメインルームに本を借りに行き、いくつかの本が読めるようになっていることに気づいた。
神話や魔法に関する本は、規定の魔力量を持っていないと読めないって前にわかったんだけど、わたしの魔力が上がったことで、読めるものも出てきた。こういうのは通称、魔力本というらしい。300年前まではよくあったという。そうやって昔も情報に規制をかけてたんだね。
一番気になってる神話を閉じ込めた本は、まだ無理みたいだ。
借りてきたのはドワーフが書いたという「魔石の扱い方」というタイトルの本。この本が世に出たのは700年ほど前みたい。
わたしがベッドの上で足を投げ出して読んでいると、足にソックスがじゃれてきた。
「ソックス、今、読書中よ」
農場からきた猫ちゃんはソックスと名付けた。
白い猫ちゃんなんだけど、耳と鼻のところと手と足の先っぽだけが靴下を履いたように茶色い。ソックスはわたしのお目付役を言い渡されているので、ミラーハウスで過ごしている。
ソックスはとても自由奔放で、気まぐれだ。
さっき遊ぼうとして、もふもふ軍団用のおもちゃを出した時は見向きもしなかったのに、今、わたしが本を読み出したら、遊ぶ気になったらしい。
ソックスと遊ぶと、流れで最後はソックスがおネムになり、わたしも一緒に寝ちゃうんだよね。今はもう本を読もうと思うので、ソックスと遊ぶのは危険だ。
もふさまが部屋に入ってきた。
「あ、もふさま」
ソックスがもふさまにじゃれついた。
本当に自由だわ、この子。
もふさまはじゃれつかれても気にしない、それもまた強者!
もふさまのお腹の下を通ったり、上から抱きつかれたりしているのに、全く意に返していないで、思う通りに行動している。
「敵の動きはない?」
『ああ、静かなものらしい』
「……そう」
まだそう動けるわけではないので、ありがたいのだが、いつまでも敵がみえないってのも、なんかね。
『本を読んでいたのか?』
「うん、メインルームで借りてきたんだ。魔力が多くなったから、読めるようになったのも出てきて」
まだ魔力は戻ってきてないけど、元の容量が規定量を超えていると、読んでもいいよとされるみたいだ。不思議。
『何の本だ?』
もふさまは尻尾を振って、ソックスと遊んであげることにしたようだ。優しいな。その尻尾にじゃれつこうとソックスは夢中になっている。
143
お気に入りに追加
1,313
あなたにおすすめの小説

(短編)いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
【連載再開】
長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^)
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)
おいなり新九郎
ファンタジー
ハラスメント、なぜだかしたりされちゃったりする仕事場を何とか抜け出して家に帰りついた俺。帰ってきたのはいいけれど・・・。ずっと閉じ込められて開く異世界へのドア。ずっと見せられてたのは、俺がいなくても回るという世界の現実。あーここに居るのがいけないのね。座り込むのも飽きたし、分かった。俺、出ていくよ。その異世界って、また俺の代わりはいくらでもいる世界かな? 転生先の世界でもケガで職を追われ、じいちゃんの店に転がり込む俺・・・だけど。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!
友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。
聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。
ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。
孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。
でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。
住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。
聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。
そこで出会った龍神族のレヴィアさん。
彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する!
追放された聖女の冒険物語の開幕デス!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる