プラス的 異世界の過ごし方

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14章 君の味方

第599話 君の中のロマンチック⑨番い

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「どうするんだ?」

「決めかねているところ」

「呪術をかけた人に、心当たりはあるのかい?」

「いいえ。その呪術師の集団ではあるんだろうけど……」

 またあくびが出る。

「手紙、読んでもいい?」

 わたしは頷く……そこまで覚えているのだけれど、プツンと記憶が途切れる。わたしは眠ってしまったようだ。



 小鳥のさえずりで起きた。正しくは小鳥を追い回す猫ちゃんのダッシュ音と、鳥たちの警戒の鳴き声と、それを面白がっているもふもふ軍団の声で。

「おはよう。ごめん、途中で眠っちゃった」

 ボードを見れば魔力は85。まだできるのは体を起こすことぐらい。っていうか、座ったままの体勢を保持できることも、実はすごいことなんだと思い知る。参ったなー、魔力の戻りが遅い。
 例えばごっそり魔力を使ったことがあった今までも、一晩眠ればある程度は回復していた。同じ魔力を使うのでも、変化の尻尾切りはエグいぐらいに魔力を削るってことだ。大元の何かまで。

 兄さまがスープをこしらえようとしているところだった。
 そんな背中を見ているうちに、またうとうとして、次に目が覚めると、ご飯ができていた。

「自分のことは、どうするか考えられた?」

 兄さまに尋ねられる。

「それが踏ん切りがつかなくて……」

 今日はおじやだ。差し出してもらったスプーンをあむりとしてもぐもぐと咀嚼する。
 お米の甘みと野菜とお肉の塩加減が最高。体もあったまってくるし、力が湧いてくる。

「それじゃあ、このまま、ただ、黙り続けるのはどうかな?」

「え?」

「親しい人には手紙を送って、みんなにも君の病状には口を閉ざしてもらう。伏しているとも、元気だとも何も言わずにいてもらうんだ」

 わたしは頭の中で忙しくシミュレーションしてみる。昨日は自分のことになると〝予想〟がうまくできなかったけれど、兄さまから言葉にしてもらうと、ビジョンが少しだけ確かになった。

 死亡説を出してくる人は、絶対に呪術をした人か仕掛けた人だ。
 だって一介の伯爵令嬢がひと月ぐらい療養中と姿が見えなくても、死んだんじゃ?とは思わないものでしょ? 言い出すことだって普通ない。だって死亡説ってめっちゃ失礼だもの! よほど疑っているってことだ。関係者しかあり得ない。
 死亡説が飛び出す。生きていれば生きてるわよ、失礼な!って家や本人が言い出すのが普通の流れだろう。パーティーが開かれるとか、何かに参加するとかいう形でね。

 けれど、わたしはダンマリを貫く。反応がない。
 関係ない人から聞かれても、誰もがダンマリを続ければ……我慢比べだ。

 それにしても、わたしが死んだとして、何が変わってくるというのだろう?
 シュタイン家はわたしがいなくなったぐらいでは揺るがない。社会的にはもっとだ。誰かの嫁候補がひとり脱落するぐらい。なのに実行した。わたしがどうしても邪魔という人がいるんだね。
 その人はわたしが死んだことを確認したい。それで礼がもらえるんだか、認めてもらえるんだか知らないけど、わたしが死んだ確認がされないと、〝認識〟されないのだろう。待ちきれなくてそんな噂を広げているのだから、焦っているのがうかがえる。

 噂が出ても黙っていたら? 何も言わなかったら? どこからも情報が出てこなかったら? 焦って何かをしてくるかもしれない。アクションを起こした人は……それは敵。

「それって、炙り出して一網打尽にするってこと?」

 兄さまは軽く頷いた。
 みんなが協力してくれれば、うまくいくかもしれない。

『息もぴったりだな』

つがいみたいですねぇ』

「つ、番いって!」

 レオに続き、ベアから言われ、反射的に声を上げていた。

『だってそうじゃありませんか。お互い、自分のことより相手を知っている。自分のことでは計画を立てられないのに、相手にとって一番いい方法を考えられる。それは相手をより思っているからです。フランツの足りないところはリディアが考え、リディアの及ばないところはフランツが助ける。ふたりは番いのように見えます』

 兄さまと目があって、慌てて逸らす。

「昨日、みんなに手紙を出した。すぐに返事が来て、みんな助けてくれるって。君が動けるようになったら、私は王宮に籠る。きっと君はそうすると思ったから、ロサにはそのことを伝えておいた」

「……ありがとう」

 もふもふたち+猫ちゃんにまで生温かく見られている気がする。
 いや、それは置いておこう。

 これからの指針が決まった。進む道が決まったのなら、一刻も早く兄さまを安全なところへ送り届けたい。
 一緒にルームへと行けるなら、兄さまに送ってもらえるということだ。
 それならわたしが回復するまで待っていることもない。

 ってことで、猫ちゃんとサヨナラして、農場へと送ってきてもらったのに、また猫ちゃんも一緒に戻ってきた。
 どうしたの?と聞くと、猫ちゃんたちは自由奔放すぎて、そして仕事をちっともしないために、クビになったんだって。けれど引く手数多あまたで、もう靴下猫の、この子以外は引き取り先が決まっていた。
 猫ちゃんたちは元々近くの町猫。農場主から猫が必要と言われて、突然捕まえられた子たちらしい。猫ちゃん同士も家族というわけでなく、同じ地域にいたから見たことがあるぐらいで、ベタベタの仲良しでもなかったそうだ。
 そう農場の飼い犬が教えてくれたという。送っていったアオとレオがどうする? 町まで送るか?と尋ねたところ。どこに行くのも同じなので、それだったら面白そうなわたしたちについてくると言ったそうだ。
 それでまあ、連れ帰ってきた。

 ウチに来るのは別にいいけど……。
 猫ちゃんに尋ねる。ウチにはコッコや馬がいるけれど仲良くできるかを。
 鳥をからかうのが大好きだそうだが、我慢すると通訳のアオに答えた。
 怪しいけど……、ワラたちが負けているとは思えない。魔物に突っかかっていく子たちだからね。
 まあ、喧嘩するようだったら、家はいっぱいあるから、最終手段として住み分けすればいい。

 もふもふ軍団はマンドリンを探しに、意気揚々と行ってしまった。それは楽しそうに。もふさまはわたしのボディーガードなので、わたしと居てくれる。
 兄さまの馬は伝達魔法を送った後に、兄さまが出かけて行った。blackに引き渡してきたようだ。ユオブリアに戻ることも伝えてきたみたいだ。
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