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14章 君の味方
第597話 君の中のロマンチック⑦復活
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「 待ってくれ、なぜそんなことを聞く必要がある?」
兄さまが鋭くわたしを見る。そこには苦痛の色があったけど、わたしは強気で答えた。
「兄さまが貴族か平民かで、やるべきことが違ってくるからよ」
『リディア、復活だな』
『うん、リーはそうでなくっちゃ』
レオとアリがハイタッチしている。
やっぱりトカゲになって、頭ものんびりしていたんだわ。
「わたしも動けなくて危険だけど、状況的には兄さまの方が危険だわ」
兄さま以外が重たく〝うん〟と頷く。絶対わかってないだろう猫ちゃんまで、ちゃっかり「にゃっ」と鳴く。
兄さまは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「敵の目的を見誤っていたわ。右肩上がりのシュタイン家に言いがかりをつけられたんだと思ってた。それで兄さまに白羽の矢が立ってしまったんだと。
バイエルン侯が絡んでいたから惑わされてしまったけど、メラノ公が裏で手を引いてたんだわ。目的はキートン夫人たちの名前で土地を買っていたあの件。あれもっとバレたらまずいようなことをしようとしていたのね。それがバレそうになっているから前バイエルン侯の忘形見に押しつけることを思いついた。でもそれがユオブリアでランディラカの庇護下にあっては手を出せない。だからバイエルン侯を使って騒ぎを起こし、次々にそのままでいたくなくなるような状況に追い込んだんだ」
メラノ公サイドには、兄さまが本物のクラウスかどうかは関係ない。そう噂のでた者なら誰でも良かったのだ。って言うか、罪を被せるなら誰でもいいんだと思う。ただ、バイエルン候の忘形見とする方が、人は前バイエルン侯に罪があったと、より思うことになるだろう。
兄さまが前バイエルン侯の子息だと認められたなら、兄さまは罪人になる。こんなことを企んでいたと後付けで証拠を出せばいいし、子息だと認められなかったから、貴族的に抹殺とばかりにいろいろ仕掛けてきたんだ。命の危険を感じれば元々は養子、家から出ると思ったのかもしれない。どんな手を使おうとしていたのかはわからないけど、とにかく兄さまを貴族の保護下から引っ張り出そうとしたはずだ。
「偶然、兄さまを見つけたんでちかね?」
『どういう意味?』
アオが首を傾げると、アリが尋ねる。
「全部あのパーティーの後、一気に起こったでち。誰かがそう仕向けたに違いないでち。だとすると、メラノ公サイドが怪しいでち。でもメラノ公サイドはどうやって兄さまがクラウスだって知ったでちか?」
『フランツは父上に似ているんだろう? それで一部では、話に上がってたとかじゃないか?』
『それもだが、……リディアが呪われたのは、別便かどうかが気になる』
そうだ、わたしはなんで呪われたんだろう?
「ガインはどっかの王族への嫁になられちゃ困る人が、言い出したんじゃないかって口ぶりだったけど」
頷ける理由ではあるから、そうだと思ってきたけれど……。
「ガイン? ガゴチが?」
「どか雪の頃、砦越えしてウチに来たの。……呪術師の集団にわたしが狙われていることを教えに」
「……ガゴチも……」
「リディアの周りで、すべては起こっているでち。なんか変でち」
『確かに、それは気に留めておいた方がいいだろう』
やめてよ、なんか鳥肌立ったから……。
水色の鳥が飛んできて、レオの肩に止まった。
レオがその嘴をチョンと触ると封書となる。
とてとて歩いて、レオが持ってきてくれた。
手紙を開封する。
短くまとまった文章。やっぱり……。
わたしは兄さまに手紙を渡した。
兄さまは白い便箋に書かれた文字を目で追った。
そして唇を噛みしめた。
「おじいさま、なぜ……」
泣きそうな声で呟いた。
おじいさまはそうすると思っていた。
「兄さまは今もランディラカのままよ。婚約破棄の噂が広がって、兄さまは家から出て行った。そのことは隠さなかったし、兄さまはみんなに平民になると手紙を送っていたから、〝平民〟になったと思われているんだわ」
それは使えそうだね。
とにかく兄さまをユオブリアに戻さなくちゃ。でもそうしろといっても聞き入れてはもらえないだろう。
「農場や新たなアジトでも、これ以上に証拠は見つからないと思うわ。だから、ここからは退散しましょう」
「どういうこと?」
「農場からは撤退されていて、もう誰も残ってない。残されていた書類なら魔具に保存した。アジトの方も、ジャックたちも頃合いを見てお金をもらってズラかるって言ってたから、これから適当に仕事はこなすでしょうけど、何かこちらの知って得するようなことがあると思えないわ。
それより、兄さまにはキートン夫人たちが土地を買ったことにして何ができるのかを考えて欲しい。
全く関係ないかもしれないけど、ジャックたちが農場に残した書類を魔具に撮ってきたからそれも見て。帳簿だと思うけど……」
「いや、私は……」
「兄さまがエレブ共和国にいても探れることはもうないわ。メラノ公だかなんだかは、前バイエルン候の忘形見に罪を被せようとしている。それも焦っていると感じるわ。わたしたちが知っているのはキートン夫人たち、ユオブリアの偽有力者が共和国で土地を買っていたことだけ。それ以上のことがバレる前にと焦っているでしょう? そこに糸口がある気がするの。それを兄さまには探って欲しい」
「……ユオブリアでは、顔が知られているところでは動けない……」
「兄さまは王宮に籠るの」
「何だって?」
『王宮に?』
クイの驚いた声が響く。
「兄さまは、行方をくらませたのではなくて、ロサたちと偽有力者が共和国で土地を買っていた事件を調べるために王宮にいたし、これからもいるの」
みんなを驚かせることができた!
いや、別に驚かせたかったわけじゃないんだけど。
「なーーーーご」
場を和ませる、猫ちゃんの泣き声が響いた。
兄さまが鋭くわたしを見る。そこには苦痛の色があったけど、わたしは強気で答えた。
「兄さまが貴族か平民かで、やるべきことが違ってくるからよ」
『リディア、復活だな』
『うん、リーはそうでなくっちゃ』
レオとアリがハイタッチしている。
やっぱりトカゲになって、頭ものんびりしていたんだわ。
「わたしも動けなくて危険だけど、状況的には兄さまの方が危険だわ」
兄さま以外が重たく〝うん〟と頷く。絶対わかってないだろう猫ちゃんまで、ちゃっかり「にゃっ」と鳴く。
兄さまは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「敵の目的を見誤っていたわ。右肩上がりのシュタイン家に言いがかりをつけられたんだと思ってた。それで兄さまに白羽の矢が立ってしまったんだと。
バイエルン侯が絡んでいたから惑わされてしまったけど、メラノ公が裏で手を引いてたんだわ。目的はキートン夫人たちの名前で土地を買っていたあの件。あれもっとバレたらまずいようなことをしようとしていたのね。それがバレそうになっているから前バイエルン侯の忘形見に押しつけることを思いついた。でもそれがユオブリアでランディラカの庇護下にあっては手を出せない。だからバイエルン侯を使って騒ぎを起こし、次々にそのままでいたくなくなるような状況に追い込んだんだ」
メラノ公サイドには、兄さまが本物のクラウスかどうかは関係ない。そう噂のでた者なら誰でも良かったのだ。って言うか、罪を被せるなら誰でもいいんだと思う。ただ、バイエルン候の忘形見とする方が、人は前バイエルン侯に罪があったと、より思うことになるだろう。
兄さまが前バイエルン侯の子息だと認められたなら、兄さまは罪人になる。こんなことを企んでいたと後付けで証拠を出せばいいし、子息だと認められなかったから、貴族的に抹殺とばかりにいろいろ仕掛けてきたんだ。命の危険を感じれば元々は養子、家から出ると思ったのかもしれない。どんな手を使おうとしていたのかはわからないけど、とにかく兄さまを貴族の保護下から引っ張り出そうとしたはずだ。
「偶然、兄さまを見つけたんでちかね?」
『どういう意味?』
アオが首を傾げると、アリが尋ねる。
「全部あのパーティーの後、一気に起こったでち。誰かがそう仕向けたに違いないでち。だとすると、メラノ公サイドが怪しいでち。でもメラノ公サイドはどうやって兄さまがクラウスだって知ったでちか?」
『フランツは父上に似ているんだろう? それで一部では、話に上がってたとかじゃないか?』
『それもだが、……リディアが呪われたのは、別便かどうかが気になる』
そうだ、わたしはなんで呪われたんだろう?
「ガインはどっかの王族への嫁になられちゃ困る人が、言い出したんじゃないかって口ぶりだったけど」
頷ける理由ではあるから、そうだと思ってきたけれど……。
「ガイン? ガゴチが?」
「どか雪の頃、砦越えしてウチに来たの。……呪術師の集団にわたしが狙われていることを教えに」
「……ガゴチも……」
「リディアの周りで、すべては起こっているでち。なんか変でち」
『確かに、それは気に留めておいた方がいいだろう』
やめてよ、なんか鳥肌立ったから……。
水色の鳥が飛んできて、レオの肩に止まった。
レオがその嘴をチョンと触ると封書となる。
とてとて歩いて、レオが持ってきてくれた。
手紙を開封する。
短くまとまった文章。やっぱり……。
わたしは兄さまに手紙を渡した。
兄さまは白い便箋に書かれた文字を目で追った。
そして唇を噛みしめた。
「おじいさま、なぜ……」
泣きそうな声で呟いた。
おじいさまはそうすると思っていた。
「兄さまは今もランディラカのままよ。婚約破棄の噂が広がって、兄さまは家から出て行った。そのことは隠さなかったし、兄さまはみんなに平民になると手紙を送っていたから、〝平民〟になったと思われているんだわ」
それは使えそうだね。
とにかく兄さまをユオブリアに戻さなくちゃ。でもそうしろといっても聞き入れてはもらえないだろう。
「農場や新たなアジトでも、これ以上に証拠は見つからないと思うわ。だから、ここからは退散しましょう」
「どういうこと?」
「農場からは撤退されていて、もう誰も残ってない。残されていた書類なら魔具に保存した。アジトの方も、ジャックたちも頃合いを見てお金をもらってズラかるって言ってたから、これから適当に仕事はこなすでしょうけど、何かこちらの知って得するようなことがあると思えないわ。
それより、兄さまにはキートン夫人たちが土地を買ったことにして何ができるのかを考えて欲しい。
全く関係ないかもしれないけど、ジャックたちが農場に残した書類を魔具に撮ってきたからそれも見て。帳簿だと思うけど……」
「いや、私は……」
「兄さまがエレブ共和国にいても探れることはもうないわ。メラノ公だかなんだかは、前バイエルン候の忘形見に罪を被せようとしている。それも焦っていると感じるわ。わたしたちが知っているのはキートン夫人たち、ユオブリアの偽有力者が共和国で土地を買っていたことだけ。それ以上のことがバレる前にと焦っているでしょう? そこに糸口がある気がするの。それを兄さまには探って欲しい」
「……ユオブリアでは、顔が知られているところでは動けない……」
「兄さまは王宮に籠るの」
「何だって?」
『王宮に?』
クイの驚いた声が響く。
「兄さまは、行方をくらませたのではなくて、ロサたちと偽有力者が共和国で土地を買っていた事件を調べるために王宮にいたし、これからもいるの」
みんなを驚かせることができた!
いや、別に驚かせたかったわけじゃないんだけど。
「なーーーーご」
場を和ませる、猫ちゃんの泣き声が響いた。
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