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14章 君の味方
第593話 君の中のロマンチック③見た?
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「見た?」
顔だけ振り返り尋ねると、兄さまはわたしから視線をそらした。
「見てない」
「嘘!」
「……見た。けっこうしっかり」
だよなぁーーーーーーー。
「忘れて!」
「……目に焼きついちゃったから、無理、かな?」
う、うわーーーーん。
泣き散らかして、失態を忘れたいところだけど、うう、寒い。
「君のことだから収納袋に服、あるよね。まず着替えようか。話はそれからだ」
収納袋、アレは魔力に関係なく出せるから……、わたしの魔力戻ったのかな? それで呪いが……? ステータスボードを呼び出す。魔力が8だ。
あ、これ、やばいやつ。
「魔力が……寒い」
「リ、リディー?」
あ、やっといつもみたいに呼んでくれた。
ガシッと抱えられる。
「魔力が低下。ダメだ、寒い」
「え?」
ん?
鳥のさえずりが聞こえる。
あれ、誰かに抱きかかえられてる。
「気がついた?」
後ろから兄さまの声がする。
わたしは兄さまのマントやら服やらにぐるぐる巻きにされていて、兄さまに抱えられ眠っていたみたいだ。
うっ。な、なんてこと!?
うっ、わたし臭くないかな。
トカゲになってから、お湯にはよく浸かっていたものの、体は洗ってないのだ。だって自分の手が届かなかったんだもん。けれど誰かに洗ってもらうのもなんなので、長くお湯に浸かるだけにしてきたのだ。絶対臭ってそう。
動こうとしたけど、頭を上げようとしただけで、頭がガンガンしてまた頭を落とす。
「どこか痛いの? 大丈夫?」
ステータスボードをみると、魔力が10になっていた。
「魔力の低下で動けないみたい。でも8から10にはアップした」
「……魔力10じゃ、起き上がれないか……」
魔力の容量がかなり多くなってから、1000を切るとあり得ないくらいのダメージを受ける。少ないときに魔力を使うと命を削ることがある。魔力を使わなければ命に関わるような問題にはならないけれど、身体ってのは元の状態っていうか、満たされた状態に戻ろうとするからなのか、魔素を取り入れることに一生懸命になって、その他のことにはエネルギーを使わせないようにしているんじゃないかと思う。
魔力酔いも辛いけど、この枯渇状態はもっと辛かった。
「兄さまをつけてたとかじゃないの。本当に偶然で……」
姿を替えてまで付き纏ったなんて思われたら哀しい。
頭がガンガンしている。
「言っておくと、ありったけの布でぐるぐる巻きにしたのに、君が寒いって呟くから、こうしてあたためてる。他に意はないから」
うう。ありったけの布を奪ってるのね。
「君が伏せっているって噂に聞いたけど、どこかを調べるのに不在ってことにしてるの?」
わたしの噂を気にしてくれてたのかな?
「ううん、呪いに掛かっちゃったの」
声を出すと、またそれが頭に響く。
「呪い?」
驚いた声がする。
でもこの頭痛のおかげで感情が一部麻痺していて、助かっているのかもしれない。こんな恥ずかしい状況、まともな思考では身が持たない。
「……呪いでトカゲに?」
「ちょっと違う。呪術にかかって、多分わたしのスキルが発動して、呪いをはねのけたみたいなんだけど、トカゲになっちゃってたの」
「トカゲに?」
「トカゲの尻尾切りで、死を免れたんじゃないかと推測してる」
わたしを抱きしめる力が、一瞬強くなった。
「魔力がなくなって、トカゲのままだったのかもしれない。ウチと懇意にしたい人がいっぱいいて、それで療養中ってことにして、わたしはルームに籠もっていたの」
「ルームに籠もっていたのに、どうしてこんなところに?」
「……それはもふさまたちと農場に……遊びに来て……」
声が小さくなる。
「父さまたちは知ってるの?」
マズい……。
「それより兄さまはなぜこんなところに? クイとベアはどこに偵察へ?」
体の向きを苦労して変えると、動いたから頭痛がひどくなる。
「うっ」
「動かないで。まだ、辛いだろ?」
びっくりするぐらい近くに、兄さまの顔があった。
「父さまたちには内緒で来たんだね? 主人さまたちはどこにいるの? なんではぐれたの?」
お見通し感がすごい。一緒に育ったんだもの、当たり前か。
「動けなさそうだから、伝達魔法で父さまに連絡して迎えに来てもらう?」
兄さまはニコッと笑った。
「今、君はひとりだし、自由に動けない。私を頼るしかないなら、事情を話すぐらいは当たり前じゃないかい?」
う、その通りだ。
「ごめんなさい」
「変わらず、素直だな。そんなに素直だと……わかってる? こんな無防備にひとりで。トカゲでも、今の姿でも、どうにでもされちゃうんだぞ? 父さまや主人さまたちの手の届かないところで、簡単に命を奪われるかもしれないんだぞ?」
本当にそうだった。
トカゲになっても鈍臭いと言われていたものの、なぜか人型のリディアよりは危険はない気がしていた。だから、農場まで来たし、鳥に咥えられるまで、本当にそんなことが起こり得ると理解してなかった。
気がつくと、また時間が経っていた。兄さまがご飯を食べさせてくれる。
話しては眠り、眠っては食べて、話してまた眠りと、どれくらい 繰り返しただろう。やっと魔力が50を超え、身体を起こせるまでになった。でもそれ以上は動けなくて、服を着ることも自分ではできず、わたしは兄さまの服やら何やらにくるまったままだ。
クイとベアが帰ってきた。
わたしを見つけると、ためらわずわたしに抱きついてきた。わたしもふたりを抱きしめる。そこまで長い間離れていたわけじゃないのにね。ふたりとも外で暮らしているからか、毛が硬いものになっている。自然ってのはよくできてる。自分の身を守るために、自分を作り替えていくんだから。
わたしがここにいる経緯を話し、みんなが農場にいるというと、わたしを動かせないので、みんなを連れてきてくれることになった。
わたしがいなくなってどれくらい経ったかわからないけど、すごく心配をかけたはずだ。
顔だけ振り返り尋ねると、兄さまはわたしから視線をそらした。
「見てない」
「嘘!」
「……見た。けっこうしっかり」
だよなぁーーーーーーー。
「忘れて!」
「……目に焼きついちゃったから、無理、かな?」
う、うわーーーーん。
泣き散らかして、失態を忘れたいところだけど、うう、寒い。
「君のことだから収納袋に服、あるよね。まず着替えようか。話はそれからだ」
収納袋、アレは魔力に関係なく出せるから……、わたしの魔力戻ったのかな? それで呪いが……? ステータスボードを呼び出す。魔力が8だ。
あ、これ、やばいやつ。
「魔力が……寒い」
「リ、リディー?」
あ、やっといつもみたいに呼んでくれた。
ガシッと抱えられる。
「魔力が低下。ダメだ、寒い」
「え?」
ん?
鳥のさえずりが聞こえる。
あれ、誰かに抱きかかえられてる。
「気がついた?」
後ろから兄さまの声がする。
わたしは兄さまのマントやら服やらにぐるぐる巻きにされていて、兄さまに抱えられ眠っていたみたいだ。
うっ。な、なんてこと!?
うっ、わたし臭くないかな。
トカゲになってから、お湯にはよく浸かっていたものの、体は洗ってないのだ。だって自分の手が届かなかったんだもん。けれど誰かに洗ってもらうのもなんなので、長くお湯に浸かるだけにしてきたのだ。絶対臭ってそう。
動こうとしたけど、頭を上げようとしただけで、頭がガンガンしてまた頭を落とす。
「どこか痛いの? 大丈夫?」
ステータスボードをみると、魔力が10になっていた。
「魔力の低下で動けないみたい。でも8から10にはアップした」
「……魔力10じゃ、起き上がれないか……」
魔力の容量がかなり多くなってから、1000を切るとあり得ないくらいのダメージを受ける。少ないときに魔力を使うと命を削ることがある。魔力を使わなければ命に関わるような問題にはならないけれど、身体ってのは元の状態っていうか、満たされた状態に戻ろうとするからなのか、魔素を取り入れることに一生懸命になって、その他のことにはエネルギーを使わせないようにしているんじゃないかと思う。
魔力酔いも辛いけど、この枯渇状態はもっと辛かった。
「兄さまをつけてたとかじゃないの。本当に偶然で……」
姿を替えてまで付き纏ったなんて思われたら哀しい。
頭がガンガンしている。
「言っておくと、ありったけの布でぐるぐる巻きにしたのに、君が寒いって呟くから、こうしてあたためてる。他に意はないから」
うう。ありったけの布を奪ってるのね。
「君が伏せっているって噂に聞いたけど、どこかを調べるのに不在ってことにしてるの?」
わたしの噂を気にしてくれてたのかな?
「ううん、呪いに掛かっちゃったの」
声を出すと、またそれが頭に響く。
「呪い?」
驚いた声がする。
でもこの頭痛のおかげで感情が一部麻痺していて、助かっているのかもしれない。こんな恥ずかしい状況、まともな思考では身が持たない。
「……呪いでトカゲに?」
「ちょっと違う。呪術にかかって、多分わたしのスキルが発動して、呪いをはねのけたみたいなんだけど、トカゲになっちゃってたの」
「トカゲに?」
「トカゲの尻尾切りで、死を免れたんじゃないかと推測してる」
わたしを抱きしめる力が、一瞬強くなった。
「魔力がなくなって、トカゲのままだったのかもしれない。ウチと懇意にしたい人がいっぱいいて、それで療養中ってことにして、わたしはルームに籠もっていたの」
「ルームに籠もっていたのに、どうしてこんなところに?」
「……それはもふさまたちと農場に……遊びに来て……」
声が小さくなる。
「父さまたちは知ってるの?」
マズい……。
「それより兄さまはなぜこんなところに? クイとベアはどこに偵察へ?」
体の向きを苦労して変えると、動いたから頭痛がひどくなる。
「うっ」
「動かないで。まだ、辛いだろ?」
びっくりするぐらい近くに、兄さまの顔があった。
「父さまたちには内緒で来たんだね? 主人さまたちはどこにいるの? なんではぐれたの?」
お見通し感がすごい。一緒に育ったんだもの、当たり前か。
「動けなさそうだから、伝達魔法で父さまに連絡して迎えに来てもらう?」
兄さまはニコッと笑った。
「今、君はひとりだし、自由に動けない。私を頼るしかないなら、事情を話すぐらいは当たり前じゃないかい?」
う、その通りだ。
「ごめんなさい」
「変わらず、素直だな。そんなに素直だと……わかってる? こんな無防備にひとりで。トカゲでも、今の姿でも、どうにでもされちゃうんだぞ? 父さまや主人さまたちの手の届かないところで、簡単に命を奪われるかもしれないんだぞ?」
本当にそうだった。
トカゲになっても鈍臭いと言われていたものの、なぜか人型のリディアよりは危険はない気がしていた。だから、農場まで来たし、鳥に咥えられるまで、本当にそんなことが起こり得ると理解してなかった。
気がつくと、また時間が経っていた。兄さまがご飯を食べさせてくれる。
話しては眠り、眠っては食べて、話してまた眠りと、どれくらい 繰り返しただろう。やっと魔力が50を超え、身体を起こせるまでになった。でもそれ以上は動けなくて、服を着ることも自分ではできず、わたしは兄さまの服やら何やらにくるまったままだ。
クイとベアが帰ってきた。
わたしを見つけると、ためらわずわたしに抱きついてきた。わたしもふたりを抱きしめる。そこまで長い間離れていたわけじゃないのにね。ふたりとも外で暮らしているからか、毛が硬いものになっている。自然ってのはよくできてる。自分の身を守るために、自分を作り替えていくんだから。
わたしがここにいる経緯を話し、みんなが農場にいるというと、わたしを動かせないので、みんなを連れてきてくれることになった。
わたしがいなくなってどれくらい経ったかわからないけど、すごく心配をかけたはずだ。
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