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14章 君の味方
第586話 ある意味モテ期⑧トカゲ逃げる
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ところが。
最初は張り切っていたけれど、農場は毎日がとてもゆっくりと、時が流れていくところだった。ここだけ時間の流れが違うのかと思うほどに。
今が冬だから、そうなのかもしれないけど。
グレーンの畑は普通の世話、冬でも育つ作物を他のところで育てている。グレーンよりも少ないスペースなので、人は余っている状態だ。ワインにする仕事もつきっきりでというわけでもないので、かなり人を遊ばせている。
グレーンの実りの時期は大変だろうけど、あとはかなり緩やかな仕事なのではと、余計なことを思う。
以前来た時の地下への入り口を教えてもらったけれど、そこはオープンな出入り口になっていて、空き部屋へと変わっていた。
農場を隅から隅まで調べてみたけれど、怪しいところはなくなっていた。レオたちが覚えている魔力の多い人の出入りもなくなっていると言う。
ここで、キートン夫人たちの名前を聞き、偽キートン家がこちらに土地を買っていることがわかった。そしてそれは確認が入ったこと。もしかしたら、ここでバレたのかもとわかって、怪しい人たちの拠点が移されてしまったのかもしれない。
そうすると、手がかりが途切れてしまうんだよね。
でもせっかくここまで来たし、ユオブリアより格段に暖かいので、ここでゆっくりすることにした。
わたしのお気に入りは、ボイラー室に通されている管。みんなはボイラー室も管も熱すぎるというのだけど、わたしにはちょうどいい。管にお腹をピタリとつけて張りついて眠るのが至福だ。この姿に限り、もふもふより、あったかさが勝る。
今日も今日とて、水平な管の上にペタリとお腹を張りつけて、うとうとしていると、荒々しくドアが開いた。
何事かと首を伸ばして下を見れば、20代後半の男女が熱い抱擁を交わしている。
え。
仕事もあんまりなくてゆるゆるの生活を送っていながら、さらに逢引かっ。
「ちょっと、そんながっつかないでよ」
ぉい。
やだ。ここにいたら、何を聞かされるかわかったもんじゃないね。
移動しよう。
わたしは管の上をペタペタと移動する。
熱い口づけでひと段落したのか、男の声がする。
「あいつらがいなくなって、やっとせーせーしたな」
「ジャックたちのこと?」
「後から来たくせに偉そーに。女たちはワイワイ騒ぎやがって」
女性が軽く吹き出す。
「若い子はね、あーゆうちょっと悪っぽいのに惹かれる時があるのよ。それにあんたは私がいるんだから、目くじら立てることないじゃない」
あー、もう一個下の管に降りないと、ドアのところに行けないや。飛び降りるか?
「目くじらを立てるわけじゃねー。あいつがくると女どもがギャーギャー騒いで仕事をしなくなるから困るつってんだ」
「ちょっと、どこ触ってるの? すぐ戻らなくちゃいけないんだから、ダメよ」
「いいじゃねーか」
オイオイ。
飛び降りるのやっぱ怖いな。ちょっと近づいちゃうけど、管を下に降りて行って床を走ろう。
「ダーメ。それに、ジャックのことはいいじゃない、もう来ないでしょ?」
「本当に戻ってこないんだろうな? 荷物、まだあるだろ?」
「引っ越しっていうか、元々行くところの改装工事があって、そこが落ち着くまで場所を貸していたそうよ。カルビさんもジャックさんの雇主を知っていて、頭が上がらないとかで」
ふたりは激しいキスをしだした。
見たくないけど、管がね、ちょうどその横を通っているのよ。
「あ……ん……荷物ってまだあったの? 男部屋に?」
「いや、仕事関係のものだろうな、箱に積み上げられて、倉庫にまだある」
わたしは慎重に管を降りた。レオからトカゲなら下へでも進行方向に向かって降りて平気って言われたんだけど、怖いんだよね。垂直に顔から降りていくって。
だからわたしはお尻から下に下がるように降りていく。
チュッチュッしながら女性が軽く笑う。
「そんな毛嫌いして。ジャックが男前なのは、あの人のせいじゃないでしょうに」
仕事場が変わったジャックという人はイケメンだったんだろう。
男の声のトーンが変わる。
「いや、あいつには関わらねー方がいい」
「どうして?」
「カザエル語、話してた」
女性が息をのむ。
「嘘でしょ? ……それに、あんたなんでカザエル語がわかるの?」
「これをいうと、俺がカザエル出身だと勘違いされるから言わなかったけど、じーちゃんが若い時に、カザエルで働いてたことがあるんだ」
男性は慌てたように言い募る。
「違うぞ、兵士としてじゃない。飯炊きとしてだ。その時ちょっとだけ言葉覚えてて、聞いたことがある。その言葉を喋ってたんだよ、仲間と」
「ってことはあの人たち、カザエルの人たちなの?」
「かもしれねー」
途中から話に引き込まれて聞いていた。足が滑って落ちる。
おお、落ちたけど、そんな痛くなかった。
よかった動ける!
「きゃーーーーーー、トカゲ!」
きゃーーーー。女性は叫びながら手でわたしを捕まえようとした。
いやーーーーー、わたしは逃げる。
「ちょっと、あんた、捕まえて!」
「なんでだよ。ネズミなら捕まえねーとだけど、トカゲなら害虫食ってくれんだろ」
「ネズミもトカゲも同じよ! 酒蔵にいたら大変なことになるわ」
あれ、雲行きが怪しい!
お、追いかけてくる。
いやーーーーーー。
わたしは走った。
ボイラー室を出る。
あ、人。
「ちょっと、そのトカゲ捕まえて!」
いやーーーーー。
わたしは壁を走った。茶色い壁に薄いグリーンの身体はよく見えてしまう。
追手が増える。
うわーーん、どうしよう。もふさま、レオ、アオ、アリ!
みんなの隠れている部屋は階が違う。
その時目の前に、土色のトカゲが現れた。
「増えた!」
1匹が人に向かって特攻していく。また目の前に濃い茶色いのがいて、わたしの目をみてから、ついてこいとでもいうように背を向けた。わたしは自分の勘を信じてその背中についていった。
最初は張り切っていたけれど、農場は毎日がとてもゆっくりと、時が流れていくところだった。ここだけ時間の流れが違うのかと思うほどに。
今が冬だから、そうなのかもしれないけど。
グレーンの畑は普通の世話、冬でも育つ作物を他のところで育てている。グレーンよりも少ないスペースなので、人は余っている状態だ。ワインにする仕事もつきっきりでというわけでもないので、かなり人を遊ばせている。
グレーンの実りの時期は大変だろうけど、あとはかなり緩やかな仕事なのではと、余計なことを思う。
以前来た時の地下への入り口を教えてもらったけれど、そこはオープンな出入り口になっていて、空き部屋へと変わっていた。
農場を隅から隅まで調べてみたけれど、怪しいところはなくなっていた。レオたちが覚えている魔力の多い人の出入りもなくなっていると言う。
ここで、キートン夫人たちの名前を聞き、偽キートン家がこちらに土地を買っていることがわかった。そしてそれは確認が入ったこと。もしかしたら、ここでバレたのかもとわかって、怪しい人たちの拠点が移されてしまったのかもしれない。
そうすると、手がかりが途切れてしまうんだよね。
でもせっかくここまで来たし、ユオブリアより格段に暖かいので、ここでゆっくりすることにした。
わたしのお気に入りは、ボイラー室に通されている管。みんなはボイラー室も管も熱すぎるというのだけど、わたしにはちょうどいい。管にお腹をピタリとつけて張りついて眠るのが至福だ。この姿に限り、もふもふより、あったかさが勝る。
今日も今日とて、水平な管の上にペタリとお腹を張りつけて、うとうとしていると、荒々しくドアが開いた。
何事かと首を伸ばして下を見れば、20代後半の男女が熱い抱擁を交わしている。
え。
仕事もあんまりなくてゆるゆるの生活を送っていながら、さらに逢引かっ。
「ちょっと、そんながっつかないでよ」
ぉい。
やだ。ここにいたら、何を聞かされるかわかったもんじゃないね。
移動しよう。
わたしは管の上をペタペタと移動する。
熱い口づけでひと段落したのか、男の声がする。
「あいつらがいなくなって、やっとせーせーしたな」
「ジャックたちのこと?」
「後から来たくせに偉そーに。女たちはワイワイ騒ぎやがって」
女性が軽く吹き出す。
「若い子はね、あーゆうちょっと悪っぽいのに惹かれる時があるのよ。それにあんたは私がいるんだから、目くじら立てることないじゃない」
あー、もう一個下の管に降りないと、ドアのところに行けないや。飛び降りるか?
「目くじらを立てるわけじゃねー。あいつがくると女どもがギャーギャー騒いで仕事をしなくなるから困るつってんだ」
「ちょっと、どこ触ってるの? すぐ戻らなくちゃいけないんだから、ダメよ」
「いいじゃねーか」
オイオイ。
飛び降りるのやっぱ怖いな。ちょっと近づいちゃうけど、管を下に降りて行って床を走ろう。
「ダーメ。それに、ジャックのことはいいじゃない、もう来ないでしょ?」
「本当に戻ってこないんだろうな? 荷物、まだあるだろ?」
「引っ越しっていうか、元々行くところの改装工事があって、そこが落ち着くまで場所を貸していたそうよ。カルビさんもジャックさんの雇主を知っていて、頭が上がらないとかで」
ふたりは激しいキスをしだした。
見たくないけど、管がね、ちょうどその横を通っているのよ。
「あ……ん……荷物ってまだあったの? 男部屋に?」
「いや、仕事関係のものだろうな、箱に積み上げられて、倉庫にまだある」
わたしは慎重に管を降りた。レオからトカゲなら下へでも進行方向に向かって降りて平気って言われたんだけど、怖いんだよね。垂直に顔から降りていくって。
だからわたしはお尻から下に下がるように降りていく。
チュッチュッしながら女性が軽く笑う。
「そんな毛嫌いして。ジャックが男前なのは、あの人のせいじゃないでしょうに」
仕事場が変わったジャックという人はイケメンだったんだろう。
男の声のトーンが変わる。
「いや、あいつには関わらねー方がいい」
「どうして?」
「カザエル語、話してた」
女性が息をのむ。
「嘘でしょ? ……それに、あんたなんでカザエル語がわかるの?」
「これをいうと、俺がカザエル出身だと勘違いされるから言わなかったけど、じーちゃんが若い時に、カザエルで働いてたことがあるんだ」
男性は慌てたように言い募る。
「違うぞ、兵士としてじゃない。飯炊きとしてだ。その時ちょっとだけ言葉覚えてて、聞いたことがある。その言葉を喋ってたんだよ、仲間と」
「ってことはあの人たち、カザエルの人たちなの?」
「かもしれねー」
途中から話に引き込まれて聞いていた。足が滑って落ちる。
おお、落ちたけど、そんな痛くなかった。
よかった動ける!
「きゃーーーーーー、トカゲ!」
きゃーーーー。女性は叫びながら手でわたしを捕まえようとした。
いやーーーーー、わたしは逃げる。
「ちょっと、あんた、捕まえて!」
「なんでだよ。ネズミなら捕まえねーとだけど、トカゲなら害虫食ってくれんだろ」
「ネズミもトカゲも同じよ! 酒蔵にいたら大変なことになるわ」
あれ、雲行きが怪しい!
お、追いかけてくる。
いやーーーーーー。
わたしは走った。
ボイラー室を出る。
あ、人。
「ちょっと、そのトカゲ捕まえて!」
いやーーーーー。
わたしは壁を走った。茶色い壁に薄いグリーンの身体はよく見えてしまう。
追手が増える。
うわーーん、どうしよう。もふさま、レオ、アオ、アリ!
みんなの隠れている部屋は階が違う。
その時目の前に、土色のトカゲが現れた。
「増えた!」
1匹が人に向かって特攻していく。また目の前に濃い茶色いのがいて、わたしの目をみてから、ついてこいとでもいうように背を向けた。わたしは自分の勘を信じてその背中についていった。
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