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14章 君の味方
第581話 ある意味モテ期③傷心の令嬢
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「もう大丈夫なのか?」
お茶の席で、ガインに心配げに尋ねられた。
醜態を晒したことを謝れば、女性に対して配慮が足りなかったと反省している。わたしがいつも元気で気も強いから、ついつい年齢のことも忘れ率直に言ってしまったのだと。
こういうのを聞くと、ガインはまともであるように思えるんだけどね。
「気にかけてくださったこと、感謝します。けれど、婚姻のお話はお断りします」
「君は伯爵令嬢だ。他国の王族と遣り合うには、守りが必要ではないか?」
痛いところを突いてくる。全くもってその通りなのだ。
「元婚約者は君から逃げ出したって? 骨がありそうな者に見えたけど……。命が関わってくれば、そんなことを言っていられないか」
それは対外的な理由だ。でもそうしておいた方が、兄さまも危険度が低くなる。だからわたしは掌に爪を立ててやり過ごす。
「他の者と婚約しても、同じことが繰り返されるんじゃないかな?」
ガインはゆっくりと持ち上げたカップを揺らして、ワインの香りを楽しむような仕草をしている。
「そちらの国も噛んでますの?」
ガインはニヤリとした。
「リディア嬢、ご忠告申し上げる。我が国を怪しんでいるのなら、それを俺に悟らせるな。でないと、本音は聞き出せないぞ。かえって利用されるだけだ」
わざとだよ!
そういえないのがストレスになる。
ガゴチみたいな情報に長けているところには、どう足掻いても勝ち目はない。だったら、こちらは戦略においてウブだと思わせておいた方が、いろいろやりやすいはず。
「御託はよろしいですわ。ガインさまとガインさまの国は、わたしの婚約が破棄されるように動いたんですの?」
右のお付きの人が手を動かした。膝の上のもふさまがちろっと目を開ける。
「俺は、そんなことはしませんよ。リディア嬢を本当に欲しかったら、本気で口説くのみ。それで落とす自信もありますしね」
へーーーーーー。
わたしは冷めた目で、ガインを見た。
でも、〝俺は〟で〝国〟が関与していないとは言わなかったね。国はグレーだ。やっぱり、この国と関わらない方がいい。それなら。
「わたし、傷心ですの」
キッパリというと、お付きの人たちも目をパチクリさせている。
「……ショウシンとは?」
「長年連れ添った婚約者から一方的に婚約破棄されて、傷心中で、心の病気になりそうなぐらい病んでおりますの」
「……とてもそうは見えませんが」
「見えないようにしておりますもの。ですから、当分婚姻のことなど考えたくありません。わたしまだ12歳ですし」
ガインはソファーに背中を預けた。
「わかりました。今回は引こう。
少し厳しいことを言う。けれど、読みが甘いリディア嬢を思って言うことだと理解してほしい。
王族のアプローチは大変だぞ。婚約者を持っておかないと……。それにのってもらっては困る者から刺客なども差し向けられる。リディア嬢が傷心中だとごねている間に、君を狙った刺客が、君を守ろうとした君の大切な人を傷つけることもあるだろう。そのことでまた君が傷つかないよう、よく考えた方がいい」
言っていることは至極まともで、どう思惑があろうが、わたしのためになる助言ではある。悔しいが。
「痛み入ります」
「リディア嬢は、元婚約者と相思相愛だったと聞いた」
なんでこいつは、人の傷に塩を塗り込むようなことを言ってくるのかな。
「それは婚姻するのに、心も預けたいと思うからなのか?」
?
「愛し合って結婚したいと思っているのか?」
「だったらなんなんですか?」
貴族でそれは甘いとか言いたいわけ?
「それなら本気で落としに掛かろうと思ってな」
は?
「噂は事欠かなかった。聖女を引き継いだユオブリアの高貴な血筋。光の使い手でもなく、魔力も少なく体も弱いが、それを凌駕する魅力がある。血筋もあるけれど、幼くても賢さは群を抜いている。
話してみて噂が本当で驚いたよ。でも、君のそこに価値をみたわけじゃないんだ。君はとても優しくて、愛情深い。まずそこに惹かれた。
君はいつも虚勢を張っている。強くあろうとしている。それがどうしてなんだろうと不思議だった。今日話してわかった気がした。君は守ろうとしているんだね。俺は……そんな君を丸ごと守りたくなった」
じっとりとわたしを見る。
「ガインさまは、口もうまくていらっしゃいますのね」
「うまくはないさ。本心しか言わない。けれど〝うまい〟と感じてもらえたのなら、これからも本心を言いまくるよ」
「結構です。お断りいたしました」
「……今回は引くと言っただろ、そんな警戒しなくても大丈夫だよ。出ていくから。他国からの誘いに疲れたら俺を思い出してくれ。余計な煩わしいことから守ってみせるよ」
嘘つき。〝守る〟なんて一瞬の、一刻のことなくせに。
「リディア嬢?」
呼ばれてハッとする。
「大丈夫か? 体調が悪いのだな、そんな時にすまなかった。長居をした。伝えることは伝えたからお暇しよう」
え?
「今日はお泊まりください。このドカ雪も今夜で止むと思います。2日ぐらいは雪が降りません。その時に宿の取れるところに移動することをお勧めします。それを逃すとまたしばらく雪に閉じ込められますから」
「やはり、今夜には止むのか。それなら好都合。このまま引き上げる」
そう言ってすくっと立ち上がった。
本当に? と立ち上がったらふらっとして、そこをテーブルを挟んだ向こう側にいたガインに支えられる。
「侍女を呼んでこい」
ガインがお付きの人に言っている。
「侍女はおりません」
目を押さえて伝える。
え?と言う顔をしていた。
「領地は雪深い時は寸断されます。ですから、メイドたちもこの時期は暇を与えています」
「……そうだったのか、雪深いところはそうするのだな。これは本当に申し訳なかった」
父さまも流石にこの雪の中を帰れとは、言いづらかったみたいで引き止めはしたけれど、ガインたち一行は出発していった。
父さまに断っておいたと報告すると、そうかと優しく抱き留められた。
ジェットそりに乗って、町外れの家に帰った。
なかなか手強いガインからは情報は引き出せなかった……。
お茶の席で、ガインに心配げに尋ねられた。
醜態を晒したことを謝れば、女性に対して配慮が足りなかったと反省している。わたしがいつも元気で気も強いから、ついつい年齢のことも忘れ率直に言ってしまったのだと。
こういうのを聞くと、ガインはまともであるように思えるんだけどね。
「気にかけてくださったこと、感謝します。けれど、婚姻のお話はお断りします」
「君は伯爵令嬢だ。他国の王族と遣り合うには、守りが必要ではないか?」
痛いところを突いてくる。全くもってその通りなのだ。
「元婚約者は君から逃げ出したって? 骨がありそうな者に見えたけど……。命が関わってくれば、そんなことを言っていられないか」
それは対外的な理由だ。でもそうしておいた方が、兄さまも危険度が低くなる。だからわたしは掌に爪を立ててやり過ごす。
「他の者と婚約しても、同じことが繰り返されるんじゃないかな?」
ガインはゆっくりと持ち上げたカップを揺らして、ワインの香りを楽しむような仕草をしている。
「そちらの国も噛んでますの?」
ガインはニヤリとした。
「リディア嬢、ご忠告申し上げる。我が国を怪しんでいるのなら、それを俺に悟らせるな。でないと、本音は聞き出せないぞ。かえって利用されるだけだ」
わざとだよ!
そういえないのがストレスになる。
ガゴチみたいな情報に長けているところには、どう足掻いても勝ち目はない。だったら、こちらは戦略においてウブだと思わせておいた方が、いろいろやりやすいはず。
「御託はよろしいですわ。ガインさまとガインさまの国は、わたしの婚約が破棄されるように動いたんですの?」
右のお付きの人が手を動かした。膝の上のもふさまがちろっと目を開ける。
「俺は、そんなことはしませんよ。リディア嬢を本当に欲しかったら、本気で口説くのみ。それで落とす自信もありますしね」
へーーーーーー。
わたしは冷めた目で、ガインを見た。
でも、〝俺は〟で〝国〟が関与していないとは言わなかったね。国はグレーだ。やっぱり、この国と関わらない方がいい。それなら。
「わたし、傷心ですの」
キッパリというと、お付きの人たちも目をパチクリさせている。
「……ショウシンとは?」
「長年連れ添った婚約者から一方的に婚約破棄されて、傷心中で、心の病気になりそうなぐらい病んでおりますの」
「……とてもそうは見えませんが」
「見えないようにしておりますもの。ですから、当分婚姻のことなど考えたくありません。わたしまだ12歳ですし」
ガインはソファーに背中を預けた。
「わかりました。今回は引こう。
少し厳しいことを言う。けれど、読みが甘いリディア嬢を思って言うことだと理解してほしい。
王族のアプローチは大変だぞ。婚約者を持っておかないと……。それにのってもらっては困る者から刺客なども差し向けられる。リディア嬢が傷心中だとごねている間に、君を狙った刺客が、君を守ろうとした君の大切な人を傷つけることもあるだろう。そのことでまた君が傷つかないよう、よく考えた方がいい」
言っていることは至極まともで、どう思惑があろうが、わたしのためになる助言ではある。悔しいが。
「痛み入ります」
「リディア嬢は、元婚約者と相思相愛だったと聞いた」
なんでこいつは、人の傷に塩を塗り込むようなことを言ってくるのかな。
「それは婚姻するのに、心も預けたいと思うからなのか?」
?
「愛し合って結婚したいと思っているのか?」
「だったらなんなんですか?」
貴族でそれは甘いとか言いたいわけ?
「それなら本気で落としに掛かろうと思ってな」
は?
「噂は事欠かなかった。聖女を引き継いだユオブリアの高貴な血筋。光の使い手でもなく、魔力も少なく体も弱いが、それを凌駕する魅力がある。血筋もあるけれど、幼くても賢さは群を抜いている。
話してみて噂が本当で驚いたよ。でも、君のそこに価値をみたわけじゃないんだ。君はとても優しくて、愛情深い。まずそこに惹かれた。
君はいつも虚勢を張っている。強くあろうとしている。それがどうしてなんだろうと不思議だった。今日話してわかった気がした。君は守ろうとしているんだね。俺は……そんな君を丸ごと守りたくなった」
じっとりとわたしを見る。
「ガインさまは、口もうまくていらっしゃいますのね」
「うまくはないさ。本心しか言わない。けれど〝うまい〟と感じてもらえたのなら、これからも本心を言いまくるよ」
「結構です。お断りいたしました」
「……今回は引くと言っただろ、そんな警戒しなくても大丈夫だよ。出ていくから。他国からの誘いに疲れたら俺を思い出してくれ。余計な煩わしいことから守ってみせるよ」
嘘つき。〝守る〟なんて一瞬の、一刻のことなくせに。
「リディア嬢?」
呼ばれてハッとする。
「大丈夫か? 体調が悪いのだな、そんな時にすまなかった。長居をした。伝えることは伝えたからお暇しよう」
え?
「今日はお泊まりください。このドカ雪も今夜で止むと思います。2日ぐらいは雪が降りません。その時に宿の取れるところに移動することをお勧めします。それを逃すとまたしばらく雪に閉じ込められますから」
「やはり、今夜には止むのか。それなら好都合。このまま引き上げる」
そう言ってすくっと立ち上がった。
本当に? と立ち上がったらふらっとして、そこをテーブルを挟んだ向こう側にいたガインに支えられる。
「侍女を呼んでこい」
ガインがお付きの人に言っている。
「侍女はおりません」
目を押さえて伝える。
え?と言う顔をしていた。
「領地は雪深い時は寸断されます。ですから、メイドたちもこの時期は暇を与えています」
「……そうだったのか、雪深いところはそうするのだな。これは本当に申し訳なかった」
父さまも流石にこの雪の中を帰れとは、言いづらかったみたいで引き止めはしたけれど、ガインたち一行は出発していった。
父さまに断っておいたと報告すると、そうかと優しく抱き留められた。
ジェットそりに乗って、町外れの家に帰った。
なかなか手強いガインからは情報は引き出せなかった……。
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