プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
575 / 887
14章 君の味方

第575話 記念パーティー⑨続・災難

しおりを挟む
『リディア』

 もふさまの声が聞こえた気がする。
 薄く目を開ける。カーテンの隙間は微かに明るい。
 朝が近いのかもしれない。

「どうしたの、もふさま?」

 わたしはもふさまを抱きしめて、ふわんふわんの毛に顔を埋め、もふさまの匂いを嗅ぐ。
 ベチャッと音がした。
 微かな振動。ベチャ、ベチャっと続けて音。
 外だ。わたしは目を頑張って開けて、目を擦りながら窓に近づく。

「どうしたでち?」

 アオを起こしちゃったみたい。他の子は、まだ眠ったままだ。
 カーテンを少しだけずらして、外を見ようとすると窓に何かがあたり、外が見えなくなる。泥玉のようなものを当てられたのだと思う。
 ドアの開く音がした。家から誰かが出ていく。多分、アルノルト。
 声を張り上げている、バタバタと逃げていく足音。


 昨日馬車を襲ってきた人たちと、同じような輩だろう。昨夜はあまりにも眠くて、大して考えずに眠ってしまったのだけど、情報が流れるのが早すぎる。
 昨日、馬車を襲ってきた人たちも、今日の泥玉をウチに投げていった人たちも、昨日のパーティーで兄さまがクラウス・バイエルンと同一人物だと証拠が出たと思っているんだろう。
 昨日のパーティーにいた人たちは、王子殿下が〝証拠不十分〟としたことを誰かに告げると思わない。その前から親戚の皆さまと親しい方たちだから、そんなことを噂にするとは思えないし。
 キリアン伯やバイエルン侯は全く証拠にならなかったと思い知っているはず。だから彼らが噂を撒くのも、腑に落ちない。
 では一体誰が、情報を撒いたのか? 兄さまが砦に来たときに黒髪だったと情報をもたらした人物?
 これ以上、騒ぎが大きくならないといいんだけど。
 まだ起きるには早かったのでベッドに戻ったけれど、熟睡することはできなかった。



 中途半端な時間に起こされたからだろう、どの顔も眠たげだった。

「詰所に行ってくる」

 朝食の席で父さまが言えば、兄さまも一緒に行くと言った。
 が、何があるかわからないから、家にいるよう言われている。
 兄さまの顔が辛そうに歪んだ。
 子供だけになるとノエルが言った。

「誰から聞いたんだろう?」

 誰も答えを持っていない。
 父さまが帰ってきたら、少しは詳しいことがわかるだろう。
 兄さまをどう励ましていいかわからなくて、みんなおし黙る。
 兄さまは、自分は大丈夫だと、気を使わせるから部屋にいると言った。
 その空気をどうすることもできなくて、各自部屋に籠もった。


 もふもふ軍団はパーティーで探検した話をしてくれた。
 そしてグリフィス家の人々は、きっと自分たちに気づいていると言う。

「どういうこと?」

『全員が光の使い手ではなくても魔力の感度はいい。だから魔物が紛れ込んでいるってわかっていたよ。それでいて楽しそうにしてた』

 え?

「あなたたちのことをご存知な、おじいさまやおばあさまたちだけでなく?」

『ああ。わかったけど、みんな何も言わないから悪いものでないとほうっておいているんだろう。でもお菓子を取ってくれたぞ』

 ええっ?

「どういうこと?」

『隠れていたら、その前に皿をおいてくれたぞ。菓子をのせたやつを』

「まさか、それ食べちゃったの?」

『ちゃんと、いなくなってから食べたよー』

 クイが膨れる。
 けど、それ、きっと後からお皿を確めにきて、〝なくなってるわ〟って思うだろうねー。
 でも、そっか他の魔法の属性より、光の使い手は魔力に敏感なのか……。




 夕方になり父さまが詰所から帰ってきた。
 わたしたちは父さまを取り囲んで、あの人たちは何だったのか、それがわかったのかを尋ねた。
 彼らは解雇された、ペネロペ商会やその下請けで働いていた労働者だった。次の働き口を探したが見つからず、多少の貯えがなくなった今、ウワサを聞いた。
 ペネロペを追い込んだシュタイン家は犯罪者を匿い、貴族であるからそんな隠蔽ができるのだと聞きかじったと言う。
 やはり、キリアン伯たちを唆したのもペネロペ……メロディー嬢の置き土産っぽいな。
 父さまは兄さまを見て、にこっと笑った。

「フラン、辛い思いをさせたな。けれど今は情報に踊らされているだけだ。確たるものは何もなく、フランツをというより、シュタイン家を貶めたいだけに、お前を標的にしているんだ。少しの間はうるさいかもしれないが、いずれおさまる。堪えてくれ」

「私は大丈夫です」

 兄さまは少しも大丈夫ではない顔でそう言った。
 ハウスさん、そしてドロシーからも連絡がくる。領地の外れの家、それから領地の町の家にも嫌がらせ部隊は現れた。どちらも仮想補佐たちが捕らえて、見回りのおじいちゃんたちが詰所に突き出している。
 どんどん捕らえて詰所に放り込んでいるけれど、そういう輩は湧いてくる。

 シュタイン家からも、パーティーの主宰であるライラック家からもロサ殿下を通して、キリアン家とバイエルン家に正式な抗議をした。
 罰金と、それから重鎮やロサ殿下が追加した罰則で、キリアン伯もバイエルン侯も今年、社交界の参加不可。
 社交界へ強制的に出禁になるのは結構重たい罰だ。わたしは個人的に商会において、手を取らない嫌がらせをしようと思っている。シュタイン領の商会からの締め出しはそうでもないだろうけど、ウッド商会も同じ処置をしているだろうから、あの2家は今年は財を減らすだけだと思う。


 1日は籠もっていたけど、だからって怯えるのはおかしい。
 わたしはノエルとエリンを誘って、市場に行くことにした。
 フォンタナ家のガーシたち5人が護衛についてくれて、申し訳なかった。冬だから期待はできないけど、少しでも新鮮な旬の食材で何か作って兄さまを励ましたかったのだ。

 けれど、想像以上に悪い噂は広まっていた。わたしたちがシュタインだと知ると売ってくれない店もあったし、見知った人たちに目を逸らされたりした。
 態度が変わらなかったのは、端の方でやっているおばあちゃんだけだった。
 おばあちゃんの店でジャムをいくつか買えたので、それでわたしたちはご機嫌になる。
 おばあちゃんにお礼を言って、市場を歩いている時にそれは起こった。

 市場にいた子供たちに泥玉を投げられた。

「ガーシ、全員捕まえて」

「はい、お嬢さま」

 ガーシは驚いたようだったけど、あっという間にみんなを捕まえた。
 その親たちが青くなっている。
 地面に頭をつけるようにして謝ってくる。

「お許しください」

「犯罪者を匿っている家なんだろう?」

 子供が粋がって言っている。

「誰がそう言ったの? あなたのお父さん? お母さん?」

「みんな言ってらー」

「そう。では全員の名前を言って。うちが犯罪者を匿っている証拠があるなら出しなさい。出せないなら、あなたたちは貴族を貶めたのよ。相応の罰を受けてもらうわ」

「お、お嬢さま、お許しください。子供がしたことではないですか」

 そうね、わたしもいつだって、そういう考えだった。
 けれど、それを許したことによって、またノエルやエリンが危険な目に遭うことがあったら、わたしは自分が許せないだろう。
 わたしもまた最低な貴族をカサに着ている。
 わたしの大切な人が危ない目にあいそうだから、そのために貴族の権利を通そうとしている。公平に、すべての人へではなく。わたしの大切な人に向けられた悪意だから、そういう時だけ、わたしの意を曲げているのだから。

「さ、全員の名前を言いなさい。すべての者に罰を受けさせます」

 わたしの本気がやっと伝わったのか、子供が涙を浮かべた。

「詰所に連れて行きなさい。子供だからって容赦することはありません。誰がそんな噂をしていたのかを聞き、全員を引っ張り出して、貴族を貶めた罰を受けさせなさい。王都の法に則ってね」

 お慈悲をと泣いてすがられたけど、わたしは覆さなかった。
 わたしは自分のズルさに泣きそうになりながら、歯をくいしばった。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

処理中です...