570 / 631
14章 君の味方
第570話 記念パーティー④招かれざる客
しおりを挟む
誰かが入ってくる。
背の高い金髪の紳士、って感じ。
後ろには茶色の髪の人、それからフードを被った人がついて来ている。
乱入者?
マップでは赤い点ではない。
他の親戚の方々が、あちらは気にせず、楽しみましょうと盛り上げようとしているけど、やはりみんな出入り口が気になってしまう。
「どういうことですかな? 招待状は送っておりませんが、キリアン伯?」
金髪の人、あの人がキリアン伯……。父さまと同じぐらいの年齢だろうか。線が細く、そして頬はこけている。痩せぎすだからか、目がギョロっとして見えて、ある意味迫力があった。兄さまの父さまである前バイエルン伯を陥れた人じゃないかと思われ、現バイエルンと仲のいい人だ。
わたしは不安になって兄さまを目で探す。
気持ちが通じたのか、兄さまがわたしの隣に来てくれた。
右にはシヴァ。左に兄さま。足元には、もふさま。
そしてフォンタナ家の人がいっぱいいて。父さま、アラ兄、ロビ兄もいる。
何も怖いことなんてないはずだ。
「不躾で申し訳ない。リディア・シュタイン嬢の初の本の出版を祝いたいと思ったのです。……そして、そんなシュタイン嬢に寄生している犯罪者を、教えて差し上げようと思いましてね」
出入り口で揉めていれば気になるのが人情ってもので、あの背の高い金髪のキリアン伯の言葉は多くの人の耳に届いただろう。
わたしが進み出ようとすれば、左右から止められた。
微笑んで、大丈夫と伝える。
すると、兄さまがわたしの手をとり、エスコートしてくれる。
わたしはライラックのおじいさまの隣に並ぶ。そしてカーテシーを決めた。
「お初にお目にかかります、キリアン伯爵さま。リディア・シュタインにございます」
「はじめまして、リディア・シュタインお嬢さま。ご本を出版されるとか、おめでとうございます。そんなお嬢さまの近くに犯罪者がおりますので、お伝えしに参りました」
「本日、このめでたい席で、わたしの大切な人だけをお呼びしたところに、呼んでもいないキリアン伯さまが、犯罪者がいるとおっしゃいますの? その発言の責任は取っていただけますのよね?」
まさか12歳から喧嘩を売られると思っていなかったのか、多少たじろいでいる。
「……このまま黙っていては、罪を見逃すことになりますからな」
「でしたら、騎士や衛兵に伝えればいいのではありませんか? それをパーティーの最中に乱入してくるなんて、常識を疑います」
クスクスと笑い声が聞こえる。
いい大人が少女にやられているのだから、滑稽に見えるのだろう。
「衛兵には言えない何か? 証拠が足りない? それともキリアン伯さまが邪魔に思っているものを陥れたい、けれど正規の手続きでは陥れることはできない。だからめでたい人の集まっている席で、噂をばら撒いてやろうというところでしょうか?」
キリアン伯の顔が赤らんでいく。
「陥れるなど、なんて失礼な!」
「あら。招待客でもないのに、パーティーに乱入された方ですから〝失礼〟な感情が抜けているのかと思ってご忠告させていただきましたの。確たる証拠がないことで、わたしのパーティーを台無しにする責任をどう取られるのかを」
キリアン伯が嫌な目つきをすると、兄さまがスッとわたしの前に動く。
いくらわたしのためを思うみたいな建前にしてみようが、わたしの記念パーティーでそんなことをしてくる時点でわたしの敵なのだ。何を言われ、何をされても、文句はお門違いだ。
前に進み出た兄さまを見て、キリアン伯は頬を緩める。
やっぱり、狙いは兄さまか。
「まぁ、いい、子供相手に声を荒げるのも大人気ない。シュタイン嬢の婚約者、フランツ・シュタイン・ランディラカの化けの皮を剥がしてご覧に入れましょう」
正気か? 真正面から切り込んできた。めちゃくちゃ自信があるってこと?
「……人の婚約者を……化け物扱いするんですの?」
「聞き捨てなりませんな」
わたしの横にやってきたのは、父さま、おじいさま(前・ランディラカ辺境伯)と現ランディラカ辺境伯のシヴァだ。
「ワシの息子が何だというんだね?」
「私の義弟が、化けの皮を被っていると?」
「私の娘の婿に言いがかりをつけるのか?」
ふと後ろに目を走らせれば、母さまやエリン、ノエルもぶんむくれているけど、アラ兄、ロビ兄をはじめ、フォンタナ家の方々に守られている。
ガーシたちはわたし担当なんだろう、すぐ後ろに控えていた。
「前ランディラカ伯が、ご存知かどうかまでは騒ぎたてはしませんがね」
そう言って、キリアン伯はフードの男の腕を引っ張った。
「さぁ、ご挨拶させていただいたらどうです?」
フードの男が顔を出す。
!
兄さまに似ていた。というか、前バイエルン伯に似ているんだろう。
20代だろう、まだ若い。漆黒の髪を長く伸ばしている。
後ろで息を飲んだり、声をあげたりしている。
キリアン伯はその様子に満足したようだ。
「挨拶なんかよろしいですわ。意味がわかりませんけど、お帰りください。不愉快です!」
「証拠は今まではございませんでしたが、今からお見せしようと思うのですよ」
「キリアン伯よ、その者は何者だ? なぜここに連れてきたのだ?」
全くわからないというように、おじいさまが尋ねる。
キリアン伯は、下手な芝居だとでも言いたげに、鼻を鳴らした。
「さ、ご挨拶なさい」
ったく、帰れって言ってるのに。
「バイエルン侯を賜りました、ヨハネス・バイエルンです。お見知り置きを」
後ろの方でため息が漏れてる。
兄さまと似ているだけあって美形だし、ちょっと自信なさげなところが庇護欲をそそるのだろう。
「バイエルン侯さま、何用でこちらに来られたのかは知りませんが、わたしどもはあなた方を招待してはおりません。お帰りくださいませ」
わたしは冷たく言った。
「そう庇うところを見ると、シュタイン嬢は打ち明けられているのかな?」
「わけのわからないことばかりを言って、わたし、あなたがいらしてからずっと不愉快ですの」
現バイエルン侯と顔合わせをするだけで、ハプニングになると思っていたのか、そうならなかったので、キリアン伯は歯軋りしている。
「主役もそう言っていることですし、退場願えないようでしたら、衛兵に強制的に出させますが……」
ライラックのおじいさまがまとめた。
背の高い金髪の紳士、って感じ。
後ろには茶色の髪の人、それからフードを被った人がついて来ている。
乱入者?
マップでは赤い点ではない。
他の親戚の方々が、あちらは気にせず、楽しみましょうと盛り上げようとしているけど、やはりみんな出入り口が気になってしまう。
「どういうことですかな? 招待状は送っておりませんが、キリアン伯?」
金髪の人、あの人がキリアン伯……。父さまと同じぐらいの年齢だろうか。線が細く、そして頬はこけている。痩せぎすだからか、目がギョロっとして見えて、ある意味迫力があった。兄さまの父さまである前バイエルン伯を陥れた人じゃないかと思われ、現バイエルンと仲のいい人だ。
わたしは不安になって兄さまを目で探す。
気持ちが通じたのか、兄さまがわたしの隣に来てくれた。
右にはシヴァ。左に兄さま。足元には、もふさま。
そしてフォンタナ家の人がいっぱいいて。父さま、アラ兄、ロビ兄もいる。
何も怖いことなんてないはずだ。
「不躾で申し訳ない。リディア・シュタイン嬢の初の本の出版を祝いたいと思ったのです。……そして、そんなシュタイン嬢に寄生している犯罪者を、教えて差し上げようと思いましてね」
出入り口で揉めていれば気になるのが人情ってもので、あの背の高い金髪のキリアン伯の言葉は多くの人の耳に届いただろう。
わたしが進み出ようとすれば、左右から止められた。
微笑んで、大丈夫と伝える。
すると、兄さまがわたしの手をとり、エスコートしてくれる。
わたしはライラックのおじいさまの隣に並ぶ。そしてカーテシーを決めた。
「お初にお目にかかります、キリアン伯爵さま。リディア・シュタインにございます」
「はじめまして、リディア・シュタインお嬢さま。ご本を出版されるとか、おめでとうございます。そんなお嬢さまの近くに犯罪者がおりますので、お伝えしに参りました」
「本日、このめでたい席で、わたしの大切な人だけをお呼びしたところに、呼んでもいないキリアン伯さまが、犯罪者がいるとおっしゃいますの? その発言の責任は取っていただけますのよね?」
まさか12歳から喧嘩を売られると思っていなかったのか、多少たじろいでいる。
「……このまま黙っていては、罪を見逃すことになりますからな」
「でしたら、騎士や衛兵に伝えればいいのではありませんか? それをパーティーの最中に乱入してくるなんて、常識を疑います」
クスクスと笑い声が聞こえる。
いい大人が少女にやられているのだから、滑稽に見えるのだろう。
「衛兵には言えない何か? 証拠が足りない? それともキリアン伯さまが邪魔に思っているものを陥れたい、けれど正規の手続きでは陥れることはできない。だからめでたい人の集まっている席で、噂をばら撒いてやろうというところでしょうか?」
キリアン伯の顔が赤らんでいく。
「陥れるなど、なんて失礼な!」
「あら。招待客でもないのに、パーティーに乱入された方ですから〝失礼〟な感情が抜けているのかと思ってご忠告させていただきましたの。確たる証拠がないことで、わたしのパーティーを台無しにする責任をどう取られるのかを」
キリアン伯が嫌な目つきをすると、兄さまがスッとわたしの前に動く。
いくらわたしのためを思うみたいな建前にしてみようが、わたしの記念パーティーでそんなことをしてくる時点でわたしの敵なのだ。何を言われ、何をされても、文句はお門違いだ。
前に進み出た兄さまを見て、キリアン伯は頬を緩める。
やっぱり、狙いは兄さまか。
「まぁ、いい、子供相手に声を荒げるのも大人気ない。シュタイン嬢の婚約者、フランツ・シュタイン・ランディラカの化けの皮を剥がしてご覧に入れましょう」
正気か? 真正面から切り込んできた。めちゃくちゃ自信があるってこと?
「……人の婚約者を……化け物扱いするんですの?」
「聞き捨てなりませんな」
わたしの横にやってきたのは、父さま、おじいさま(前・ランディラカ辺境伯)と現ランディラカ辺境伯のシヴァだ。
「ワシの息子が何だというんだね?」
「私の義弟が、化けの皮を被っていると?」
「私の娘の婿に言いがかりをつけるのか?」
ふと後ろに目を走らせれば、母さまやエリン、ノエルもぶんむくれているけど、アラ兄、ロビ兄をはじめ、フォンタナ家の方々に守られている。
ガーシたちはわたし担当なんだろう、すぐ後ろに控えていた。
「前ランディラカ伯が、ご存知かどうかまでは騒ぎたてはしませんがね」
そう言って、キリアン伯はフードの男の腕を引っ張った。
「さぁ、ご挨拶させていただいたらどうです?」
フードの男が顔を出す。
!
兄さまに似ていた。というか、前バイエルン伯に似ているんだろう。
20代だろう、まだ若い。漆黒の髪を長く伸ばしている。
後ろで息を飲んだり、声をあげたりしている。
キリアン伯はその様子に満足したようだ。
「挨拶なんかよろしいですわ。意味がわかりませんけど、お帰りください。不愉快です!」
「証拠は今まではございませんでしたが、今からお見せしようと思うのですよ」
「キリアン伯よ、その者は何者だ? なぜここに連れてきたのだ?」
全くわからないというように、おじいさまが尋ねる。
キリアン伯は、下手な芝居だとでも言いたげに、鼻を鳴らした。
「さ、ご挨拶なさい」
ったく、帰れって言ってるのに。
「バイエルン侯を賜りました、ヨハネス・バイエルンです。お見知り置きを」
後ろの方でため息が漏れてる。
兄さまと似ているだけあって美形だし、ちょっと自信なさげなところが庇護欲をそそるのだろう。
「バイエルン侯さま、何用でこちらに来られたのかは知りませんが、わたしどもはあなた方を招待してはおりません。お帰りくださいませ」
わたしは冷たく言った。
「そう庇うところを見ると、シュタイン嬢は打ち明けられているのかな?」
「わけのわからないことばかりを言って、わたし、あなたがいらしてからずっと不愉快ですの」
現バイエルン侯と顔合わせをするだけで、ハプニングになると思っていたのか、そうならなかったので、キリアン伯は歯軋りしている。
「主役もそう言っていることですし、退場願えないようでしたら、衛兵に強制的に出させますが……」
ライラックのおじいさまがまとめた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,161
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる