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14章 君の味方
第566話 リーム領回想(後編)
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「……推測でものを言うべきでないのはわかっていますが、〝隷属の札〟を思い出しました」
「隷属……の札?」
わたしは頷く。ちょうどいいので、対外的にわたしと呪いの関わりは、この事実とすることにしよう。
「わたしは5歳の時に隷属の札で呼び出され、拐われたことがあるのです」
ホーキンス先生の瞳が驚いたように大きくなる。
「夜眠っていた時に、誰にも告げず、黙って出てこいと隷属されていました。
目が覚めると、知った人に抱えられていました。わたしを殺せと依頼があったけれど、奴隷として売りつけることにすると言われました。そして札みたいなものをわたしの額に当てて、自分が許すまで声は出せないと言いました。その人の言った通り、わたしは声が出せませんでした。札を接触させて、ある程度の時間だけ隷属させることができる呪符でした。それを知って、こうやっていつの間にかわたしを呼び出す隷属もされていたのだなと思いました」
先生の眉根がよる。
「今こうしていらっしゃると言うことは……」
「はい、幸いにも流れの人売りに渡された後、馬車同士のいざこざがあり、見つけてもらうことができました」
「よかったこと……」
先生は胸を押さえている。
「呪いの痕跡を鑑定で追えるのは知りませんでしたが、隷属の札でならそうやって呼び出すことができます。先生のお話を聞いて、呪符が使われたのではないかと思いました」
「……ではあなたが触れた呪いというのは……」
「そうです。隷属の札自体は効力をなくしたのを知っていますが、それから瘴気が寄り付きやすくなっていて……わたしは元々瘴気が少ないので辛いのです。呪術が禁じられているのはわかっていますが、調べてわたしに残る欠けらをどうにかしたいのです」
「そういうことでしたか……」
「辛い目に遭われたのですね。でも、ごめんなさい。お気の毒だと思うけれど、私から話せることは、それしかないのです」
わたしは聞けてよかったと、心からお礼を言った。
先生がその人と会ったのはカスダフの町だそうだから、……今もいるとは思えないけれど、取っ掛かりはあるわけだし。
昔あったことからなのかわからないけれど、先生は何かに傷ついているように見えた。わたしは最後に言ってみた。
王都にきたらジェインズ劇団の劇をぜひ観に行ってください、元気が出るからと告げる。悩んでいた時に、あの小さな舞台の世界に夢中になり、心に火が灯った。そしてそれを共有して人と話すことで、わたしは励まされていたのを知り、次の一歩を踏み出す勇気をもらった。
同じホーキンスで関係ないけど縁ある感じだし。ふふ、多分思い出したのは、笑うと目が垂れる感じが似ているからだ。
急にそんなことを言ったわたしに驚いたようだけど、ジェインズさんを思い出させる笑みを浮かべて、王都に行った時は観に行って見ますと言った。
先生とさよならし、リーム先輩やお世話になったお家の方々にもご挨拶して、わたしたちは家路についた。
途中で泊まった宿で、もふさまがやけに静かだった。
思い返してみると、先生の話を聞いたあたりから、あまり喋っていないなと思う。
「もふさま、どうかした?」
『……お前は魔が通った時から、ギフトを使いこなしていたのかもしれないな』
「え、どういうこと?」
『お前が言ったことじゃないか』
「え? わたしが言った?」
「何を言ったんでち?」
あくびをしながら、アオがもふさまに尋ねる。
『母君の呪術を返すさい、呪いが呪った本人に返るのは当たり前だが、そんな呪術を作れる呪術師が、呪術を使おうとするとどこかが痒くて呪術を使えなくなるといい、と』
シーツの上でもふもふ軍団が、揃ってわたしを見上げる。
「そ、そんなこと言ったっけ?」
母さまの呪いを解いた頃は、まだ魔力が通ったばかりで……。
最初は贈られたギフトのあの記号が漢数字の十だと思って、意味がわからないってなっていたし……。
ギフトを使えるとは思っていなかったはずだし。
そんなこと言ったかな? はっきりした記憶はない。
けれど、呪いをかけた本人だけでなく、それを作れる人にもペナルティーを。そして作ろうとすると痒くなるとか、いかにもわたしが考えそうかもとも思う。
「思い出せないけど……」
『思い出せ!』
『どうしたんだ、主人さま?』
大きな声だったからだろう、レオがもふさまの前にお座りする。
『もしリディアのギフトで痕をつけているのなら、リディアの能力が高くなれば、その痕を辿ることもできよう』
あ。
わたしたちは顔を見合わせた。
ギフト・プラスのレベルが上がれば、もしかしたら、痕跡を辿ることもできるかもしれない。わたしがしたことだったら……。今のレベルだと、わたしからギフトを送る一方通行しかできないけれど。
そっか。わたしが成長することで、もし、その痒い人がわたしが最初のプラスをした人だとしたら、痕跡を辿れるようになるかもしれない。いつか、たどりつけるかもしれない! それだけに頼らず、カスダフの町に行き情報は集めるつもりだけどね。でも、複数探す方法があるのは絶対にいいことだ!
リーム領に来れたことで、また道が開けた。
というわけで、わたしはその呪術師を探そうと思っている。
母さまに怪しまれないように、他のことで忙しいと思わせないとね。
わたしの冬休みはそんなふうに始まった。
「隷属……の札?」
わたしは頷く。ちょうどいいので、対外的にわたしと呪いの関わりは、この事実とすることにしよう。
「わたしは5歳の時に隷属の札で呼び出され、拐われたことがあるのです」
ホーキンス先生の瞳が驚いたように大きくなる。
「夜眠っていた時に、誰にも告げず、黙って出てこいと隷属されていました。
目が覚めると、知った人に抱えられていました。わたしを殺せと依頼があったけれど、奴隷として売りつけることにすると言われました。そして札みたいなものをわたしの額に当てて、自分が許すまで声は出せないと言いました。その人の言った通り、わたしは声が出せませんでした。札を接触させて、ある程度の時間だけ隷属させることができる呪符でした。それを知って、こうやっていつの間にかわたしを呼び出す隷属もされていたのだなと思いました」
先生の眉根がよる。
「今こうしていらっしゃると言うことは……」
「はい、幸いにも流れの人売りに渡された後、馬車同士のいざこざがあり、見つけてもらうことができました」
「よかったこと……」
先生は胸を押さえている。
「呪いの痕跡を鑑定で追えるのは知りませんでしたが、隷属の札でならそうやって呼び出すことができます。先生のお話を聞いて、呪符が使われたのではないかと思いました」
「……ではあなたが触れた呪いというのは……」
「そうです。隷属の札自体は効力をなくしたのを知っていますが、それから瘴気が寄り付きやすくなっていて……わたしは元々瘴気が少ないので辛いのです。呪術が禁じられているのはわかっていますが、調べてわたしに残る欠けらをどうにかしたいのです」
「そういうことでしたか……」
「辛い目に遭われたのですね。でも、ごめんなさい。お気の毒だと思うけれど、私から話せることは、それしかないのです」
わたしは聞けてよかったと、心からお礼を言った。
先生がその人と会ったのはカスダフの町だそうだから、……今もいるとは思えないけれど、取っ掛かりはあるわけだし。
昔あったことからなのかわからないけれど、先生は何かに傷ついているように見えた。わたしは最後に言ってみた。
王都にきたらジェインズ劇団の劇をぜひ観に行ってください、元気が出るからと告げる。悩んでいた時に、あの小さな舞台の世界に夢中になり、心に火が灯った。そしてそれを共有して人と話すことで、わたしは励まされていたのを知り、次の一歩を踏み出す勇気をもらった。
同じホーキンスで関係ないけど縁ある感じだし。ふふ、多分思い出したのは、笑うと目が垂れる感じが似ているからだ。
急にそんなことを言ったわたしに驚いたようだけど、ジェインズさんを思い出させる笑みを浮かべて、王都に行った時は観に行って見ますと言った。
先生とさよならし、リーム先輩やお世話になったお家の方々にもご挨拶して、わたしたちは家路についた。
途中で泊まった宿で、もふさまがやけに静かだった。
思い返してみると、先生の話を聞いたあたりから、あまり喋っていないなと思う。
「もふさま、どうかした?」
『……お前は魔が通った時から、ギフトを使いこなしていたのかもしれないな』
「え、どういうこと?」
『お前が言ったことじゃないか』
「え? わたしが言った?」
「何を言ったんでち?」
あくびをしながら、アオがもふさまに尋ねる。
『母君の呪術を返すさい、呪いが呪った本人に返るのは当たり前だが、そんな呪術を作れる呪術師が、呪術を使おうとするとどこかが痒くて呪術を使えなくなるといい、と』
シーツの上でもふもふ軍団が、揃ってわたしを見上げる。
「そ、そんなこと言ったっけ?」
母さまの呪いを解いた頃は、まだ魔力が通ったばかりで……。
最初は贈られたギフトのあの記号が漢数字の十だと思って、意味がわからないってなっていたし……。
ギフトを使えるとは思っていなかったはずだし。
そんなこと言ったかな? はっきりした記憶はない。
けれど、呪いをかけた本人だけでなく、それを作れる人にもペナルティーを。そして作ろうとすると痒くなるとか、いかにもわたしが考えそうかもとも思う。
「思い出せないけど……」
『思い出せ!』
『どうしたんだ、主人さま?』
大きな声だったからだろう、レオがもふさまの前にお座りする。
『もしリディアのギフトで痕をつけているのなら、リディアの能力が高くなれば、その痕を辿ることもできよう』
あ。
わたしたちは顔を見合わせた。
ギフト・プラスのレベルが上がれば、もしかしたら、痕跡を辿ることもできるかもしれない。わたしがしたことだったら……。今のレベルだと、わたしからギフトを送る一方通行しかできないけれど。
そっか。わたしが成長することで、もし、その痒い人がわたしが最初のプラスをした人だとしたら、痕跡を辿れるようになるかもしれない。いつか、たどりつけるかもしれない! それだけに頼らず、カスダフの町に行き情報は集めるつもりだけどね。でも、複数探す方法があるのは絶対にいいことだ!
リーム領に来れたことで、また道が開けた。
というわけで、わたしはその呪術師を探そうと思っている。
母さまに怪しまれないように、他のことで忙しいと思わせないとね。
わたしの冬休みはそんなふうに始まった。
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