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14章 君の味方
第565話 リーム領回想(中編)
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それからホーキンス先生は、少し長めの話をしてくれた。
生まれたのはユオブリアの南。南は時々、魔力のすっごく多い人や珍しいスキルを持つ人が生まれることがあるんだって。
気候に由来してか、おおらかで温厚で穏やか、陽気な人が多い。
けれど、ある出来事があり、そこで暮らすことが辛くなり、中央に近いところに出てきた。そして転々としていたそうだ。
西を拠点にしているのは成人してから。
3、4年前、家庭教師の仕事をしていて、そのときにやはり魔法を〝編む〟と教えていたのを聞いた人に、同じ反応されたという。
フードを被った痩せ細った男の人で、背中を丸めているというか姿勢が悪かった。絶えず指を動かしていて、そこが気味悪かったという。
そう思ってしまったが、少し話をしてみると、悪い人でないのはわかった。
子供たちが魔法を編むといったのを聞いて、教えた人が古代魔法の使い手ではないかと思ったそうだ。古代魔法なら治してもらえるかと思ってと。
自分もそう習っただけで、古代魔法は全く知らないというと、男性はしょげかえった。
男性はポツリポツリと話し始めた。
彼は呪いをかけられたのだと。
ホーキンス先生は、丸まった背中や、指を絶えず動かしているのはそれが原因かと思った。
「仕事をしようとすると、身体中が痒くて何もできなくなってしまうんだ」
失礼ながら、何だそのふざけた呪いはと彼女は思った。
けれど男性は、至極、真面目に、自分はどこで道を踏み外したのだろうと嘆くのだった。
男性が自分をからかうために作り話をしたのかと思って、彼女はちょっとムッとした。
先生は嘘をつかれたと席を立とうとすると、男性は慌てた。嘘なんかついてないと。
そんな呪いはあるわけないし、そもそもそれがなぜ呪いと思うのか。
仕事をしようとして痒くて手につかないのは病気だろうから、神殿に訪れたら?と言ったそうだ。
そうしたらそれはできない。自分は実は呪術師なのだと声を潜めた。そして簡単な〝呪術〟をこれからやってみせるといった。
男性は手を独特な形に組んでから、その中に何かを編み込んでいくような仕草をした。その途中で、身をよじり、ケラケラと笑い出した。
それは異様な光景だった。
ゼーゼーと笑いをやっとおさめてから、男性は消耗したような声で言った。
「一番基本である、火で燃やす。それさえもできません。私は職を失いました」
「じゅ、呪術は禁じられたものです。扱えなくなったのも、きっと神の思し召しでしょう。きっぱり足を洗って、他の仕事につけばいいではありませんか?」
と彼女は促す。
けれど、男性は首を横に振った。
もちろん、他の仕事をしていると。けれど、身を守る手段として、呪術をできるようにしておきたいと。
なぜかと尋ねると、これは呪い返しを受けたのと同じこと。恐怖を植え付けるためと、目印にこんなふざけたことをしたのかもしれない。相手は絶対自分を完全な呪い返しにくるはずだと。それに備えて、呪術をできるようにしておかなければと。
そのために古代魔法や呪術師を探している。
編むと言葉を使うのはその使い手だから、尋ねたのだと。
君が古代魔法の使い手で、うまくこの目印をとく方法を知っていたらと思ったんだと、肩を落とし、去っていった。
その時はたちの悪い冗談だと疑わなかったものの、友達に魔法とはどういうものかを尋ねると誰も〝編む〟とは言わなかった。それで彼女は自分の知っていた魔法の定義が古代魔法からの流れだったのだと推測した。
自分なりに古代魔法を調べたけれど、300年前の規制により本なども全くなくて、わかることはほぼなかった。では誰に魔法は編むものだと教わったのだろうと思い出してみたが、転々としていた時の家庭教師の誰かに教わったもので、魔法をやってみせるということはあるものの、魔法の定義を問われることなんかほとんどないので、いつ、どこで、誰にそう教わったという記憶がはっきりしなかった。
呪術は禁止されたものだけれど、呪術師は細く長く存在している。それでわたしの年齢から呪術師ってことはないだろう。ということは、呪いを受けた……と推測したという。それで、そんな経緯なので、自分には力になれることは全くないし、呪いは犯罪に関わることだから、関与したくないとはっきりと言われた。だから、これ以上、私に何も話してくれるな、とも。
わたしは謝ってから、その元呪術師の覚えていることをできる限り教えてもらえないかと訴え、彼女はもう一度繰り返し話してくれた。
わたしはお礼をいう。カスダフの町で会ったということだけで、その人の名前はわからない。風貌だけだ。探せるとは思えなかった。でもその人しか手掛かりはない。
「ありがとうございました」
「冷たいと思うでしょうね。でも、我が家は呪いによって壊れたから、もう絶対に関わりたくないの」
「呪いに?」
自重気味にホーキンス先生は笑った。
「話すつもりはなかったのに……なぜかしら、あなたを見ていると居なくなった子のことを思い出したの」
居なくなった子?
「領地で魔力の高い子が、次々と神隠しにあいましたの」
「神隠し?」
「それまでそこに、存在した人が、ある日突然姿を消す。人攫いじゃないかって言われていたけど、ひとりでフラフラと歩いていくのを子供が見たと言って、自発的に去ったのではないかと言われました。そしてそれが続くほどひどい領だとも」
気持ちホーキンス先生の顔が青ざめた。
わたしはその、フラフラと歩いていくというのを聞いて、既視感を覚える。
「あの、それが呪いと言われたんですか?」
「え? ああ、勝手に呪われていると言っていた方もいるし、鑑定士から呪われた痕跡があると言われましたの」
鑑定で呪いがわかるの? わたしは驚いた。
おじいさまや前宰相、一流の鑑定士にも多分わたしは鑑定された。
でも呪いの欠片があるのを感じ取ったのはオババさまだけだ。
高位の魔物も見つけられなかったから、わたしに残る痕跡が特殊なのかもしれないけど……。
生まれたのはユオブリアの南。南は時々、魔力のすっごく多い人や珍しいスキルを持つ人が生まれることがあるんだって。
気候に由来してか、おおらかで温厚で穏やか、陽気な人が多い。
けれど、ある出来事があり、そこで暮らすことが辛くなり、中央に近いところに出てきた。そして転々としていたそうだ。
西を拠点にしているのは成人してから。
3、4年前、家庭教師の仕事をしていて、そのときにやはり魔法を〝編む〟と教えていたのを聞いた人に、同じ反応されたという。
フードを被った痩せ細った男の人で、背中を丸めているというか姿勢が悪かった。絶えず指を動かしていて、そこが気味悪かったという。
そう思ってしまったが、少し話をしてみると、悪い人でないのはわかった。
子供たちが魔法を編むといったのを聞いて、教えた人が古代魔法の使い手ではないかと思ったそうだ。古代魔法なら治してもらえるかと思ってと。
自分もそう習っただけで、古代魔法は全く知らないというと、男性はしょげかえった。
男性はポツリポツリと話し始めた。
彼は呪いをかけられたのだと。
ホーキンス先生は、丸まった背中や、指を絶えず動かしているのはそれが原因かと思った。
「仕事をしようとすると、身体中が痒くて何もできなくなってしまうんだ」
失礼ながら、何だそのふざけた呪いはと彼女は思った。
けれど男性は、至極、真面目に、自分はどこで道を踏み外したのだろうと嘆くのだった。
男性が自分をからかうために作り話をしたのかと思って、彼女はちょっとムッとした。
先生は嘘をつかれたと席を立とうとすると、男性は慌てた。嘘なんかついてないと。
そんな呪いはあるわけないし、そもそもそれがなぜ呪いと思うのか。
仕事をしようとして痒くて手につかないのは病気だろうから、神殿に訪れたら?と言ったそうだ。
そうしたらそれはできない。自分は実は呪術師なのだと声を潜めた。そして簡単な〝呪術〟をこれからやってみせるといった。
男性は手を独特な形に組んでから、その中に何かを編み込んでいくような仕草をした。その途中で、身をよじり、ケラケラと笑い出した。
それは異様な光景だった。
ゼーゼーと笑いをやっとおさめてから、男性は消耗したような声で言った。
「一番基本である、火で燃やす。それさえもできません。私は職を失いました」
「じゅ、呪術は禁じられたものです。扱えなくなったのも、きっと神の思し召しでしょう。きっぱり足を洗って、他の仕事につけばいいではありませんか?」
と彼女は促す。
けれど、男性は首を横に振った。
もちろん、他の仕事をしていると。けれど、身を守る手段として、呪術をできるようにしておきたいと。
なぜかと尋ねると、これは呪い返しを受けたのと同じこと。恐怖を植え付けるためと、目印にこんなふざけたことをしたのかもしれない。相手は絶対自分を完全な呪い返しにくるはずだと。それに備えて、呪術をできるようにしておかなければと。
そのために古代魔法や呪術師を探している。
編むと言葉を使うのはその使い手だから、尋ねたのだと。
君が古代魔法の使い手で、うまくこの目印をとく方法を知っていたらと思ったんだと、肩を落とし、去っていった。
その時はたちの悪い冗談だと疑わなかったものの、友達に魔法とはどういうものかを尋ねると誰も〝編む〟とは言わなかった。それで彼女は自分の知っていた魔法の定義が古代魔法からの流れだったのだと推測した。
自分なりに古代魔法を調べたけれど、300年前の規制により本なども全くなくて、わかることはほぼなかった。では誰に魔法は編むものだと教わったのだろうと思い出してみたが、転々としていた時の家庭教師の誰かに教わったもので、魔法をやってみせるということはあるものの、魔法の定義を問われることなんかほとんどないので、いつ、どこで、誰にそう教わったという記憶がはっきりしなかった。
呪術は禁止されたものだけれど、呪術師は細く長く存在している。それでわたしの年齢から呪術師ってことはないだろう。ということは、呪いを受けた……と推測したという。それで、そんな経緯なので、自分には力になれることは全くないし、呪いは犯罪に関わることだから、関与したくないとはっきりと言われた。だから、これ以上、私に何も話してくれるな、とも。
わたしは謝ってから、その元呪術師の覚えていることをできる限り教えてもらえないかと訴え、彼女はもう一度繰り返し話してくれた。
わたしはお礼をいう。カスダフの町で会ったということだけで、その人の名前はわからない。風貌だけだ。探せるとは思えなかった。でもその人しか手掛かりはない。
「ありがとうございました」
「冷たいと思うでしょうね。でも、我が家は呪いによって壊れたから、もう絶対に関わりたくないの」
「呪いに?」
自重気味にホーキンス先生は笑った。
「話すつもりはなかったのに……なぜかしら、あなたを見ていると居なくなった子のことを思い出したの」
居なくなった子?
「領地で魔力の高い子が、次々と神隠しにあいましたの」
「神隠し?」
「それまでそこに、存在した人が、ある日突然姿を消す。人攫いじゃないかって言われていたけど、ひとりでフラフラと歩いていくのを子供が見たと言って、自発的に去ったのではないかと言われました。そしてそれが続くほどひどい領だとも」
気持ちホーキンス先生の顔が青ざめた。
わたしはその、フラフラと歩いていくというのを聞いて、既視感を覚える。
「あの、それが呪いと言われたんですか?」
「え? ああ、勝手に呪われていると言っていた方もいるし、鑑定士から呪われた痕跡があると言われましたの」
鑑定で呪いがわかるの? わたしは驚いた。
おじいさまや前宰相、一流の鑑定士にも多分わたしは鑑定された。
でも呪いの欠片があるのを感じ取ったのはオババさまだけだ。
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