プラス的 異世界の過ごし方

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14章 君の味方

第564話 リーム領回想 (前編)

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 チャド・リーム。リーム先輩のお言葉に甘えて、リーム領へ行かせてもらうことになった。

 終業式の後、リーム先輩とガネット先輩と一緒に向かった。
 転移門でワープして、1日半だ。
 リーム領はのんびりした牧歌的な領地だった。王都よりもちょっと西にきただけなのに、かなり暖かく感じる。こちらは家から出られなくなるぐらいの雪が降ることはないそうだ。

 元家庭教師のホーキンス先生を紹介してもらうのは次の日だったので、わたしたちは領地を案内してもらった。ガネット先輩のご家族ともご挨拶できた。ウチのお菓子をいっぱい渡したよ。かわいい弟と妹がいて、慕われていた。
 モーモやメーメが普通に道を歩いていて、もふさまが盛んに匂いを嗅がれている。リュックもだ。ぬいぐるみになっているのに、生き物だってわかるかのようだった。

 わたしたちはリーム先輩のお屋敷に泊めていただいた。
 町にも宿屋はあまりないそうで、……人より家畜の数の方が多いそうだ。
 お屋敷には多くの人が働いていて、おぼっちゃま感満載だった。
 そして下にも置かない歓待ぶりで、物凄いもてなしを受けた。同じ伯爵家なのに。
 リーム伯さまは、見かけは先輩をそのまま大人にしたような感じだった。温厚で、好奇心旺盛。知識を広く持つことがお好きなようだ。
 引くぐらいいっぱい質問されたけど、アラ兄と気が合ったみたい。

 リーム先輩の弟たちは、留学先のフォルガードから帰ってきたところで、リーム先輩に甘えている。いいお兄ちゃんみたい。
 お土産のお菓子もすっごく喜んでくれた。

 夕飯ではバターがふんだんに使われたもので、お肉も分厚い。
 重たくなりそうなものだけど、ぺろっと一人前を食べ切ってしまった。それでも胃はもたれなかった。
 もふさまや兄さまたちは、もたれるって現象が起こったことないみたいだけど。
 わたしが驚いていると、伯爵さまはこのハーブのおかげかもしれませんと、〝リーム〟というハーブを見せてくれた。

 かわいい双葉のような葉っぱで、このリーム領に昔から群生していて食べられてきたものらしい。家畜ももちろん食べていて、そのために良質なお肉なのではないかと推測されている。そういえば歩いているときに、どこにでもあったかも。食事にもこのリームを入れると調子がいいから、よく料理に使われるそうだ。ただ増やそうとしても、他の領地で育ったことはないという。不思議。でもダンジョンなら育つかもしれないから、群生しているのをちょっともらって帰ろうっと。

 バターをもっと売り出したいと悩んでらした。それだったらリームを混ぜたバターを売ってみたらと提案すると、驚いてから、絶対にやってみると意気込んでいた。リーム領だし、リームがここでしか育たないなら、それは強みになる。



 次の日、リーム家の一室で、ホーキンス先生とお会いすることができた。
 なぜかわたしは男性だと思い込んでいたんだけど、ホーキンス先生は女性だった。
 リーム先輩の様子で気づいてしまった。こいつ、惚れてる……。憧れより強く。相手は20歳より上だろう。……こいつの実りそうもない恋は置いておき、ガネット先輩もヤーガンさまも……、本当になぜこいつに……。
 いやいや、リーム先輩は嫌な態度しか取っていなかったわたしに、ホーキンス先生にも会わせてくれた人なんだもの。
 リーム先輩はわたしたちを引き合わせると、約束通り、すぐに部屋を出て行った。

 くすんだ金髪に、真っ青な瞳。
 わたしはすくっと立ち上がる。

「リディア・シュタインと申します。このたびは、わたしと会う時間を取っていただき感謝いたします」

「ラーナ・ホーキンスです。シュタイン領の噂はかねがね耳にしております。そちらのお嬢さまが私に会いたいと聞いて驚きましたが、チャドさまにどうしてもと頼まれましてお会いする運びとなりました」

 リーム先輩に頼まれたのではなければ、会わなかったと言われる。
 会ってもらえて御の字だ。さらに教えてもらえることは少ないかもしれない。

「お尋ねしたいことがあります。先生は魔法とは何だと思われますか?」

「チャドさまにもお尋ねしたそうですね。魔法とは魔の法則を編むこと、私がそうチャドさまに教えました」

「先生はリーム領の方ではないと聞きました。どちらのご出身でしょうか?」

「……どうしてですか?」

「現代では魔法を編むという表現はほとんど使われていません。わたしは古代魔法を知っている方からお話をうかがいたいのです」

 ホーキンス先生は少しだけ瞳を伏せる。

「お母さまは確か……光の使い手でしたね」

「はい」

「チャドさまより、シュタイン嬢が必死に見えたと聞きました。シュタイン家のお嬢さまが私に必死となって聞きたいこと……魔法を編むと聞いて……それで私なりに推測を立てました。お嬢さまは呪術に触れてしまったのではありませんか?」

 わたしは固まった。

「何もおっしゃる必要はありません、私の話を聞いてください」

 とホーキンス先生は瞳を和ませた。そういう表情をされると、実は垂れ目だったことに気づく。

「期待させては申し訳ありませんので、最初に伝えておきますね。私には呪術に関する知識はありません。生まれは南で、いろいろな地を転々としておりました。ですから、編むというのを誰に習ったかはわかりません。それから呪術であると推測したのは、同じことを言われたことがあるからです」

 先生は毅然と言った。
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