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13章 いざ尋常に勝負
第559話 ふたりの秘密
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ロサは真っ直ぐにわたしを見たまま、話を聞いてくれた。
あの時、ショックなことがあり、事態を受け止めるために学園を休んでいた。
気分転換に外出する。街に一人で出るのは禁止だったので、ウィッグをつけ変装して出かけた。
お芝居を観たのだけど、余裕がなくて、全然観ていなかった。
その後キャストさんと話し、どうだったか聞かれ、面白かったと言ったら嘘だと言われた。主役の人には心あらずで観ていたことをお見通しだった。
もっといい演技をするから、明日も見にきてと言われた。わたしは気にかかっていることがあるから、明日来ても同じことになるから行かないと答えた。
けれど、その日が王都の公演の最終日でとても貴重なものなのに、チケットをもらってしまった。
次の日、わたしはすることもなかったし、チケットがもったいないので、行くことにした。せめてもちゃんと観ようと思った。
演劇は面白かった。その劇でわたしはいつの間にか、悩んでいることも含めて、励まされていたことを知った。
主役の人と会った。表通りまで送ってくれると言う。
その時すれ違った劇団の人が転んで、運んでいた赤い石がこぼれ落ちた。
それからわたしは……。
ホーキンスさんのギフトを話すことになるので、どこまでぼやかそうか悩んだけど、ギフトを名付けた名前だけ言わずに、ほぼあったことを話した。
わたしにギフトが効かなかったこと。それで効いているフリをして、逃げ出すように計画を立てたこと。けれどうまくいかなくて、ホーキンスさんと一緒に塔に登りそこで落とされることになっていたこと。
そこにルシオが来ていて、ホーキンスさんは神官とわたしが一緒だと安全だと思ったのか、預けられ、登っていく途中で、ホーキンスさんが本当に落ちたのだと。わたしはそれを止めようとして足にしがみついたら、止めることもできなくて、わたしも一緒に落ちてしまった。
ホーキンスさんが抱え込んでくれて、わたしは風魔法で衝撃を和らげようとしたら、何故だか弾んだように、上に飛び落ちては転がりまた飛んでという具合に転がっていったのだと。
わたしは無傷だった。ホーキンスさんも足に怪我はしていたけれど、命に別状はなさそうだった。その時、わたしたちを探しているような声が聞こえ、わたしは寮を黙って抜け出していたので、その場から逃げた。
そこでロサに見つかったのだと。
ロサは小さく息をつく。
「それで解決したのか?」
「え?」
「3日も学園を休んだほどの悩みは」
ああ、ある程度ロサは情報を集めて知っていたのだなと思った。
「うん。じゃなくて、はい。ええと、決めたし、その後に思ってない形だったけど、全然違うところで解決しました。でも悩んでおいてよかったと、……思いました」
「今まで通りに話してくれ。淋しいじゃないか」
そう言ってもらえると、ほっとする。
「このことはフランツに話してないのか?」
「うん、話してない」
「なぜ?」
「え、なぜってどういうこと?」
「なぜフランツに相談しなかったのかと思ってね。婚約者に」
「それは……」
「それは?」
「わたしが乗り越えるべきことだから」
「君が乗り越えるべきこと?」
「うん。兄さまや家族に話したら、きっと甘やかしてくれて癒されるだろうけど、それじゃあ本当の意味で立ち直れていないし。支え合うけど、わたしはひとりでも立っていたいから。だから、自分のことは自分で片をつけようと思ってる」
「君は強いね」
「強くないよ。多分、強くあろうとしているだけ」
ロサは軽く目を閉じる。
「じゃあ、これは私と君だけの秘密だね」
「え? うん、まぁ、そうなるのかな」
「君が犯罪に絡んでなくてよかったよ」
「……信じてくれてありがとう」
あの時、ロサに捕まっていたら、とてもややこしくなったと思う。
ホーキンスさんの劇団も再出発が難しくなっただろう。
団長と用心棒たちはそれぞれ違う罪で捕まったままだけれど、ホーキンスさんは巻き込まれただけとされ、彼が座長になり劇団を続けていくと噂で聞いた。
「君は赤い石をシンシアダンジョンで見ているはずだから、劇団で石を見た時、ピンときただろう?」
事実を告げ、わたしの思ったことなどは言ってない。だからか、ロサは確かめてきた。
「石って聞いたから、すぐには結びつけなかった。赤さが気にはなったけど」
「彼らの行動はおかしなところがいくつもあるから、君が魔石のことを気づいて彼らを捕まえるために、君が何かしたのかと考えたよ」
「わたしじゃないよ」
「じゃあ誰って、あのジェインズ・ホーキンスしかいないか」
ロサは短く息をつく。
これでまたホーキンスさんを調べるとかになったらどうしよう。
「あの、ロサ……」
ロサは顔を上げて、気づいたように言葉を足した。
「ああ、大丈夫。その可能性ももちろん考えて、でも罪にはならないから釈放されているんだ」
あ、そっか。わたしが浅はかでした。
ホーキンスさんはまたお芝居ができる。よかった!
「赤い魔石のこと、何かわかった?」
「いや、かなり広範囲で調べたが、どの国が関係してユオブリアに悪さをしようとしているのか、わからないでいる」
ロサが口をキュッと結んだ。
もふさまが自分のお腹を後ろ足で掻いた。
わたしは頭を撫でる。
「ロサはアイリス嬢の話を、信じてくれたんだよね?」
「君は信じたの?」
「終焉の方じゃないけど、彼女のギフトを見せてもらったから」
「ギフトを?」
わたしは頷く。
「わたしは……ウチの領地の家が魔使いさんの家だったことは知ってるよね?」
ロサは腕を組んで頷いた。
「持ち出せないんだけど、昔の本があったり、魔使いさんが書いたものとかを見て、知ったことがある。それからお遣いさまがおっしゃったことの端々で感じたこととか。それとね、アイリス嬢の未来視の数々と符号することがある。それでわたしは、わたしの暮らすこの世界を守りたいと思っている」
ロサをみつめる。同じ気持ちか心の中で問いかける。
「私は信じたわけではない。確かに赤い髪の子のことは当たっていたけどね。でも可能性があることだとは認識し、そうなってしまっては困るから、心配事の芽は摘み取るつもりでいるよ」
「守りたいと思っている……仲間だと思っていい?」
ロサは薄く開いていた唇をきつく閉じた。
あの時、ショックなことがあり、事態を受け止めるために学園を休んでいた。
気分転換に外出する。街に一人で出るのは禁止だったので、ウィッグをつけ変装して出かけた。
お芝居を観たのだけど、余裕がなくて、全然観ていなかった。
その後キャストさんと話し、どうだったか聞かれ、面白かったと言ったら嘘だと言われた。主役の人には心あらずで観ていたことをお見通しだった。
もっといい演技をするから、明日も見にきてと言われた。わたしは気にかかっていることがあるから、明日来ても同じことになるから行かないと答えた。
けれど、その日が王都の公演の最終日でとても貴重なものなのに、チケットをもらってしまった。
次の日、わたしはすることもなかったし、チケットがもったいないので、行くことにした。せめてもちゃんと観ようと思った。
演劇は面白かった。その劇でわたしはいつの間にか、悩んでいることも含めて、励まされていたことを知った。
主役の人と会った。表通りまで送ってくれると言う。
その時すれ違った劇団の人が転んで、運んでいた赤い石がこぼれ落ちた。
それからわたしは……。
ホーキンスさんのギフトを話すことになるので、どこまでぼやかそうか悩んだけど、ギフトを名付けた名前だけ言わずに、ほぼあったことを話した。
わたしにギフトが効かなかったこと。それで効いているフリをして、逃げ出すように計画を立てたこと。けれどうまくいかなくて、ホーキンスさんと一緒に塔に登りそこで落とされることになっていたこと。
そこにルシオが来ていて、ホーキンスさんは神官とわたしが一緒だと安全だと思ったのか、預けられ、登っていく途中で、ホーキンスさんが本当に落ちたのだと。わたしはそれを止めようとして足にしがみついたら、止めることもできなくて、わたしも一緒に落ちてしまった。
ホーキンスさんが抱え込んでくれて、わたしは風魔法で衝撃を和らげようとしたら、何故だか弾んだように、上に飛び落ちては転がりまた飛んでという具合に転がっていったのだと。
わたしは無傷だった。ホーキンスさんも足に怪我はしていたけれど、命に別状はなさそうだった。その時、わたしたちを探しているような声が聞こえ、わたしは寮を黙って抜け出していたので、その場から逃げた。
そこでロサに見つかったのだと。
ロサは小さく息をつく。
「それで解決したのか?」
「え?」
「3日も学園を休んだほどの悩みは」
ああ、ある程度ロサは情報を集めて知っていたのだなと思った。
「うん。じゃなくて、はい。ええと、決めたし、その後に思ってない形だったけど、全然違うところで解決しました。でも悩んでおいてよかったと、……思いました」
「今まで通りに話してくれ。淋しいじゃないか」
そう言ってもらえると、ほっとする。
「このことはフランツに話してないのか?」
「うん、話してない」
「なぜ?」
「え、なぜってどういうこと?」
「なぜフランツに相談しなかったのかと思ってね。婚約者に」
「それは……」
「それは?」
「わたしが乗り越えるべきことだから」
「君が乗り越えるべきこと?」
「うん。兄さまや家族に話したら、きっと甘やかしてくれて癒されるだろうけど、それじゃあ本当の意味で立ち直れていないし。支え合うけど、わたしはひとりでも立っていたいから。だから、自分のことは自分で片をつけようと思ってる」
「君は強いね」
「強くないよ。多分、強くあろうとしているだけ」
ロサは軽く目を閉じる。
「じゃあ、これは私と君だけの秘密だね」
「え? うん、まぁ、そうなるのかな」
「君が犯罪に絡んでなくてよかったよ」
「……信じてくれてありがとう」
あの時、ロサに捕まっていたら、とてもややこしくなったと思う。
ホーキンスさんの劇団も再出発が難しくなっただろう。
団長と用心棒たちはそれぞれ違う罪で捕まったままだけれど、ホーキンスさんは巻き込まれただけとされ、彼が座長になり劇団を続けていくと噂で聞いた。
「君は赤い石をシンシアダンジョンで見ているはずだから、劇団で石を見た時、ピンときただろう?」
事実を告げ、わたしの思ったことなどは言ってない。だからか、ロサは確かめてきた。
「石って聞いたから、すぐには結びつけなかった。赤さが気にはなったけど」
「彼らの行動はおかしなところがいくつもあるから、君が魔石のことを気づいて彼らを捕まえるために、君が何かしたのかと考えたよ」
「わたしじゃないよ」
「じゃあ誰って、あのジェインズ・ホーキンスしかいないか」
ロサは短く息をつく。
これでまたホーキンスさんを調べるとかになったらどうしよう。
「あの、ロサ……」
ロサは顔を上げて、気づいたように言葉を足した。
「ああ、大丈夫。その可能性ももちろん考えて、でも罪にはならないから釈放されているんだ」
あ、そっか。わたしが浅はかでした。
ホーキンスさんはまたお芝居ができる。よかった!
「赤い魔石のこと、何かわかった?」
「いや、かなり広範囲で調べたが、どの国が関係してユオブリアに悪さをしようとしているのか、わからないでいる」
ロサが口をキュッと結んだ。
もふさまが自分のお腹を後ろ足で掻いた。
わたしは頭を撫でる。
「ロサはアイリス嬢の話を、信じてくれたんだよね?」
「君は信じたの?」
「終焉の方じゃないけど、彼女のギフトを見せてもらったから」
「ギフトを?」
わたしは頷く。
「わたしは……ウチの領地の家が魔使いさんの家だったことは知ってるよね?」
ロサは腕を組んで頷いた。
「持ち出せないんだけど、昔の本があったり、魔使いさんが書いたものとかを見て、知ったことがある。それからお遣いさまがおっしゃったことの端々で感じたこととか。それとね、アイリス嬢の未来視の数々と符号することがある。それでわたしは、わたしの暮らすこの世界を守りたいと思っている」
ロサをみつめる。同じ気持ちか心の中で問いかける。
「私は信じたわけではない。確かに赤い髪の子のことは当たっていたけどね。でも可能性があることだとは認識し、そうなってしまっては困るから、心配事の芽は摘み取るつもりでいるよ」
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