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13章 いざ尋常に勝負
第558話 生徒会からの聴取
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ビルダは厳重注意となり、保護者が呼び出された。
保護者には今回の魔法戦の経緯を説明したようだ。
授業内の戦いで負傷したことが発端だと告げた。
そして、制裁だとD組に暴力を振るい、それを咎められればA組がD組に負けるわけはないといい、自分が大将だったら負けていなかったと納得できない様子。ビルダには今後D組に絡んだりしないという約束で、教師が見守る中、ビルダが指名したD組生徒と個人戦をしたが、彼はそれに負けても認められず牙を向いた。今回は厳重注意だけど、もしまた破ることがあれば……。
騎士の遠征というものがある。言葉通り、戦いを想定して遠征して訓練することだ。もちろん心配事があり、本当に調べにいったりなんだりもある。
訓練の場合、騎士見習いをその過酷さを体験させるために連れて行くことがある。もしまた約束を破るようなことがあれば、その騎士でも嫌がる遠征に加えると宣告されたらしい。
ビルダのバンナ家は伯爵家だった。父さまの元に、詫びの何かが送られてきたそうだ。
ビルダとの戦いは先生が見守る中のことだったが、その前の団子状の戦いは違う。ただの喧嘩だ。生徒会の知ることとなり、わたしたちは全員呼び出され、一人ずつ事情を聞かれることになった。
わたしを聴取するのはロサだという。メロディー嬢がいなくなってから初めて会うので、わたしは緊張した。
「どうした? 座ってくれ」
今まで入ったことのない、生徒会の一室に通された。
兄さまだけでなく、いつもの3年生のメンバーもいなくて、知らない生徒会の人に案内される。
部屋の中にいたのはロサだけだ。
もふさまを抱えて一緒に入る。
ドアは閉めなくていいと言われた。開けっぱなしにするそうだ。
けれど部屋の中に盗聴防止の魔具をつけているので、人に話を聞かれることはないと言う。
「本当にどうした? 緊張しているのか?」
わたしは首を横に振った。
「怪我が治ってないのか?」
「いえ、治してもらったから大丈夫……です」
「リディア嬢の元気がないと、調子が狂うな」
そう言ってから、淡々と喧嘩のあらましを促され、話していった。
全部聞き終わると、ため息を落とす。
「バンナ伯も、頭の痛いことだろう」
ビルダのお父さんが頭を痛める? いや、ビルダの考えは親が話していることを聞いて育ったからだと思うんだよね。
「でも、リディア嬢」
ロサに呼びかけられる。
「学園内ではなりを潜めるが、多くの貴族はビルダ・バンナのような考えをするのが現実だ」
確かに……。
「バンナ伯子息は隠そうとする性格ではないが、その一緒に行動していたA組の生徒の方が気になる。学園では何もしなくても、D組の生徒や、庇った君を逆恨みしているかもしれない」
もふさまがわたしを見上げる。
「生徒会でも注意するが、君も気をつけるんだよ。それから何かあったときは、自分で乗り込んでいくのではなく、もっと人を頼るんだ。君が弱いとは思っていないけれど、何かあったらどうする? まぁ、そうやって駆け出して行ってしまうのが君なんだろうけどね」
そう言って少し淋しげな顔をする。
なんかロサが、急に大人びた気がする。
「学園を休まれていたって聞きました……」
察しのいいロサはそれで、わたしの言えずにいることがわかったみたいだ。
視線を落とし、それからわたしを見て紫色の瞳を和ませる。
「……ああ。少し体調を崩してしまってね。……もう大丈夫だ」
彼女は第一王子の婚約者。婚約破棄と、国外追放。そのことでロサが揺れるのは側から見たらおかしな話。だからロサは口を閉ざすのだろう。
「商会の裁判で勝訴したようだね。あの時、馬車が襲撃された時の資料を見たよ。無事で本当によかった」
襲撃されたすぐ後にロサに会って、あの怖かったことを話した。その時と全く同じに、無事でよかったと思っているのが伝わってくる。
ペネロペとメロディー嬢が懇意だったことにも、彼女が国外追放になったことも触れない。けれどそれを踏まえたことで、自分の気持ちの向きを伝える。
……ロサはこれまでと変わらず、わたしたちシュタイン家と付き合いを続けてくれるようだ。
きっとこうして言葉を隠していくことが増えていく……。それが大人になっていくってことなのかもしれない。言葉に出すと、どこかで誰かが傷ついてしまうことがあるから。
もしメロディー嬢のことを話せば、一雫はわたしへの恨み言があり、わたしを傷つけるだろうから。誰も傷つけない会話を選んでいるんだ。
背負っているものがある人は、早く大人にならざるを得ないんだね。
もう、ざっくばらんに思いを言えたりしないんだ。
少し哀しく思えたが、道は先にしか続かない。関係が変わっても、その中で居心地のいい着地点を探ればいい。わたしは軽く目を閉じる。
「流れに流れていた、赤い髪の少女の話をしたいんですが、今、よろしいでしょうか?」
お茶会でロサに真相を話すことになっていた。それが胃洗浄まで発展して、その後はわたしが病み、その後ペネロペ裁判があって……と話す機会を先延ばしにしてきた。
今、ふたりだし、盗聴防止の魔具もあるはずだから、ちょうどいいと思えた。
「そうだったね。……君さえ良ければ」
わたしは頷いて、あの時のことを話し始めた。
保護者には今回の魔法戦の経緯を説明したようだ。
授業内の戦いで負傷したことが発端だと告げた。
そして、制裁だとD組に暴力を振るい、それを咎められればA組がD組に負けるわけはないといい、自分が大将だったら負けていなかったと納得できない様子。ビルダには今後D組に絡んだりしないという約束で、教師が見守る中、ビルダが指名したD組生徒と個人戦をしたが、彼はそれに負けても認められず牙を向いた。今回は厳重注意だけど、もしまた破ることがあれば……。
騎士の遠征というものがある。言葉通り、戦いを想定して遠征して訓練することだ。もちろん心配事があり、本当に調べにいったりなんだりもある。
訓練の場合、騎士見習いをその過酷さを体験させるために連れて行くことがある。もしまた約束を破るようなことがあれば、その騎士でも嫌がる遠征に加えると宣告されたらしい。
ビルダのバンナ家は伯爵家だった。父さまの元に、詫びの何かが送られてきたそうだ。
ビルダとの戦いは先生が見守る中のことだったが、その前の団子状の戦いは違う。ただの喧嘩だ。生徒会の知ることとなり、わたしたちは全員呼び出され、一人ずつ事情を聞かれることになった。
わたしを聴取するのはロサだという。メロディー嬢がいなくなってから初めて会うので、わたしは緊張した。
「どうした? 座ってくれ」
今まで入ったことのない、生徒会の一室に通された。
兄さまだけでなく、いつもの3年生のメンバーもいなくて、知らない生徒会の人に案内される。
部屋の中にいたのはロサだけだ。
もふさまを抱えて一緒に入る。
ドアは閉めなくていいと言われた。開けっぱなしにするそうだ。
けれど部屋の中に盗聴防止の魔具をつけているので、人に話を聞かれることはないと言う。
「本当にどうした? 緊張しているのか?」
わたしは首を横に振った。
「怪我が治ってないのか?」
「いえ、治してもらったから大丈夫……です」
「リディア嬢の元気がないと、調子が狂うな」
そう言ってから、淡々と喧嘩のあらましを促され、話していった。
全部聞き終わると、ため息を落とす。
「バンナ伯も、頭の痛いことだろう」
ビルダのお父さんが頭を痛める? いや、ビルダの考えは親が話していることを聞いて育ったからだと思うんだよね。
「でも、リディア嬢」
ロサに呼びかけられる。
「学園内ではなりを潜めるが、多くの貴族はビルダ・バンナのような考えをするのが現実だ」
確かに……。
「バンナ伯子息は隠そうとする性格ではないが、その一緒に行動していたA組の生徒の方が気になる。学園では何もしなくても、D組の生徒や、庇った君を逆恨みしているかもしれない」
もふさまがわたしを見上げる。
「生徒会でも注意するが、君も気をつけるんだよ。それから何かあったときは、自分で乗り込んでいくのではなく、もっと人を頼るんだ。君が弱いとは思っていないけれど、何かあったらどうする? まぁ、そうやって駆け出して行ってしまうのが君なんだろうけどね」
そう言って少し淋しげな顔をする。
なんかロサが、急に大人びた気がする。
「学園を休まれていたって聞きました……」
察しのいいロサはそれで、わたしの言えずにいることがわかったみたいだ。
視線を落とし、それからわたしを見て紫色の瞳を和ませる。
「……ああ。少し体調を崩してしまってね。……もう大丈夫だ」
彼女は第一王子の婚約者。婚約破棄と、国外追放。そのことでロサが揺れるのは側から見たらおかしな話。だからロサは口を閉ざすのだろう。
「商会の裁判で勝訴したようだね。あの時、馬車が襲撃された時の資料を見たよ。無事で本当によかった」
襲撃されたすぐ後にロサに会って、あの怖かったことを話した。その時と全く同じに、無事でよかったと思っているのが伝わってくる。
ペネロペとメロディー嬢が懇意だったことにも、彼女が国外追放になったことも触れない。けれどそれを踏まえたことで、自分の気持ちの向きを伝える。
……ロサはこれまでと変わらず、わたしたちシュタイン家と付き合いを続けてくれるようだ。
きっとこうして言葉を隠していくことが増えていく……。それが大人になっていくってことなのかもしれない。言葉に出すと、どこかで誰かが傷ついてしまうことがあるから。
もしメロディー嬢のことを話せば、一雫はわたしへの恨み言があり、わたしを傷つけるだろうから。誰も傷つけない会話を選んでいるんだ。
背負っているものがある人は、早く大人にならざるを得ないんだね。
もう、ざっくばらんに思いを言えたりしないんだ。
少し哀しく思えたが、道は先にしか続かない。関係が変わっても、その中で居心地のいい着地点を探ればいい。わたしは軽く目を閉じる。
「流れに流れていた、赤い髪の少女の話をしたいんですが、今、よろしいでしょうか?」
お茶会でロサに真相を話すことになっていた。それが胃洗浄まで発展して、その後はわたしが病み、その後ペネロペ裁判があって……と話す機会を先延ばしにしてきた。
今、ふたりだし、盗聴防止の魔具もあるはずだから、ちょうどいいと思えた。
「そうだったね。……君さえ良ければ」
わたしは頷いて、あの時のことを話し始めた。
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